悪役令嬢がフラグ回収に勤しむなら、自分も参加していいよね?   作:ジーザス

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義弟ができたらから2人で溺愛しようということになった

帰宅後、自室のベランダで落ち込んでいるカタリナを発見した。背中から「どよ~ん」という文字が見えるほどに暗い様子である。

 

「相当参ってるようだな」

「…やってしまったからよ」

「何を?」

「婚約をまた承諾しちゃったの!」

 

おう、フラグ回収に勤しんでいる本人がフラグを立てたということらしい。笑ってもいいがここで笑うのも違う気がする。それに結構病んでるようにも見えたのがやめた理由でもある。

 

「魔力との対話のために畑耕してて、その時にジオルド王子が来たの」

「連絡してくれればいいものを」

「今の時代に電話なんて便利なものはないもの」

「現実世界がどれだけ便利だったかしみじみ思うよ」

 

この世界には電気の概念があっても電話というものは考えつかないらしい。考案してもいいがこの歳でそんなことを言えば、どうなるかわかったもんじゃない。ある程度歳を取ってから、些細な発想として世に送り出すのがいいだろう。

 

それまでに誰かが発明してくれてもいいのだけれど。

 

「カルナ・カタリナ、少しいいかな?」

 

振り返ると、父と幼いながらも微かな色気を放っている金髪の少年が立っていた。その少年を見てカタリナの表情が強ばった。第2破滅フラグの到来に衝撃を受けたようだ。

 

「今日から2人の義弟になるキースだ」

「よ、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくキース。俺はカルナ、義弟ができて嬉しいよ」

「…カタリナですよろしくお願いします」

 

堅いわぁ。そこまで堅くならなくてもいいというのに。まあフラグ回収する立場だから、俺みたいに楽観視できないのだろう。

 

「そろそろ夕食の時間だから兄妹の話もそこそこに。遅れないように時間通りには来るんだよ。さあキース、使用人たちにも挨拶しに行くよ」

「「「はい」」」

 

一礼して去っていくキースを見送り、見えないことをいいことに頭を抱え始めたカタリナに声をかける。

 

「落ち込む必要はないんじゃないか?」

「他人事みたいに言わないで!どうしよう~」

「ここに引き取られても、虐められてその孤独を埋めるために数多の女性と遊ぶんだろう?だが虐めるのはゲーム内のカタリナであってお前じゃない。お前が虐めなければいいだけの話だろ?」

「…つまり一杯構ってあげれば孤独にはならないと?」

「あわよくば俺たちを溺愛するように洗脳しようか」

 

5年経ってそれでも無邪気にひっついてくれるのを想像したら、それなりに興奮するぜ。

 

「あくどいわね」

「フラグ回収のための必要な犠牲だ。…どうあれ俺はあいつを虐めることはできないよ。母親がそういうところ出身だし、この8年間を虐められながら過ごしたキースの心は計り知れない。俺にできるのはあいつを理解してやることじゃなくて、あいつの安心して暮らせる居場所を与えてやることだけだ」

「ふーん、優しいのね」

「どうだろうな。もしかしたら今の行動は、自分のためにあいつを利用する為なのかもしれないから」

 

俺が守ってあげたいと思うのはエゴに等しい。自分勝手で単なる正義感故の行動だ。弱い存在を守ることで優越感に浸り、英雄またはヒーロー気取りをする存在はいくらでもいる。

 

やってはいけないことをしたかもしれない人間を、必要以上に叩くネット民がその証拠だ。自分は正しく相手が間違っていると思い込む。その言葉通り相手が悪いのかもしれない。だが逆にそれが巻き込まれたことで発覚していたならば、それは悪事ということになるのだろうか。

 

今の俺の感情は、暴力を振るわれて傷ついたキースを癒してあげたいという純粋な慈愛だと思っている。傷ついた誰かを慰めてあげたい。少しでも楽にしてあげたいという想いは本物だと思っている。だがそれが彼の重荷になるかもしれないと思うと、手を差し伸べることは本当に正しいやり方なのかと疑問に思ってしまう。

 

救いの手を差し伸べることが助けになるなるならば、俺は喜んで手を差し伸べる。でもそれが逆に相手を傷つけてしまうことになるのならば、潔く退いて後方から傍観するだけに留めよう。結局は結末が全くわからないのだから、今深く考えても答えはきっと出ない。

 

洞察力がある人間ならば、このことを瞬時に把握して答えを導けるかもしれない。生憎と俺はその才能に恵まれていない。後手に回るようだが、その場その場で言動を変えていかなければならないようだ。

 

「もしその言葉通りだったとしても、キースが救われることに変わりないと思うけど」

「だったらいいんだけどな。明日からはキース甘やかし作戦を始めるとしようか」

「元からそのつもりよ。じゃあ夕食の席に向かいましょうか」

 

スキップと鼻歌の合わせ技で楽しげに向かう後ろ姿を見て、我ながら前向きな人だなと微笑ましくなってしまう。その背中から遅れないように、俺は足を食堂へと向けた。

 

 

 

カタリナが口ずさんでいたのが「赤鼻のトナカイ」だということは、口にしなくてもいいことだ。

 

 

 

 

 

翌日。

 

「確保ぉぉ!」

「ええぇぇぇ!」

 

朝食後、廊下を1人で歩いていたキースは突然、何者かに背後から布袋を被せられ視界を奪われた。声で判断したくとも何かで変声されているらしく、誰であるか指摘することができない。屋敷に来て1日しかいないのだから、使用人の名前と声に顔を覚えられるはずもなかった。

 

それにこの8年間の境遇がその理解を更に遠ざけていた。人と関わることを極力避けてきたキースにとって、他人はあまり相容れたくないものだ。また過去のようなことが起こるかもしれないと恐れ、言葉を交わすことも顔を見ることもしない。

 

だからいきなり襲撃されても、助けを呼ぶこともままならないのだ。

 

「だ、誰ですか!?離してください!」

「問答無用!」

「ひいやぁぁぁぁぁ!」

 

袋に放り込まれたキースの叫びは外部に漏れることなく、重さを感じさせない動きをする人影に強制連行されていった。

 

「今、キースの声がしたのだけれど」

「私も聞こえた気はするよ。気のせいだったかな?」

 

タイミングがもう少し遅ければ、キースは拉致されることなく、無事に救出されていたことだろう。それと同時に実行犯の素性も明らかにされたはず。幸か不幸か(実行犯にとっては幸運、キースにとっては不幸)キースは発見されることなく、両親の気のせいということで事件は闇に葬られた。

 

 

 

「今日も野菜が元気にしてるわ」

 

桑で畑を耕して汗を拭う。汗を流す気持ちよさはこういうことを言うらしい。

 

こっちの世界(・・・・・・)に来てから9年、記憶を取り戻して数ヶ月。私は毎日をそれなりに楽しく過ごしている。異世界転生した現実世界人の私にとって貴族社会は、礼儀作法に淑女としてのたしなみなどを叩き込まれるから窮屈で適わない。

 

前世がアニメ・ゲーム・漫画オタクだったのもあって、こういう世界観はかなり遠い場所にあると思ってた。いざ自分がその世界で生きてみると、外からではわからないことも知れるという喜びを知ることができた。経験してみないと好き嫌いの理由にはならないということも知った。

 

現実世界ではアニメ・ゲーム・漫画オタクは嫌われる傾向にあった。理由としては「暗い、根暗、キモい、犯罪者」というものだ。あながち間違ってないとは私も思う。現実で楽しいことがなく、コミュニケーションが苦手な人が話し相手を求めて二次元に頼るのは可笑しな事じゃない。

 

夢中になれるものが偶然二次元だっただけであって、現実世界から逃げる目的で探したわけでもない。割合的にはそういった人間もいたと思うけど。でもそれだけの理由で差別される意味がわからない。好きなものに熱中することの何が悪いのか。

 

二次元に理解を示さないのは別に構わない。けど二次元が好きだって事だけで嘲笑されることには納得できない。貴方たちが現実世界の何かに熱中するのと同じ事。スポーツを続けるのはその競技が好きだから。音楽を聴くのは

音楽が好きだから。

 

これと何が違うのか私にはわからない。

 

まあこれだけ前世の愚痴を言ってしまうのは、ニュースで「犯人は何々の熱狂的ファンだったようです」とかどうでもいい情報を流すマスコミが腹立たしかったからだと思う。わざわざその情報を発信する意図がわからなかった。

 

でもこうしてかつてプレイした乙女ゲーム〈FORTUNE・LOVER〉の世界で、もう一度生きることができるのは楽しいと感じる。…悪役令嬢でなければ、フラグ回収という面倒なことをしなくてもすむはずなのに。8年間、私として覚醒してからは数ヶ月だけど気になることは少なからずある。

 

まず主人公の適役として登場する私ことカタリナ・クラエスの人間性について。両親があんなに微笑ましい方々なのに、何故本来のカタリナ・クラエスはあんな性格に育ってしまったのだろうと思う。もしかしたら父があれだけ甘々だったのが災いしてるのかしら。

 

それともキースを愛人との隠し子と思い込んで、家を出ていった母に付いていったからなのかしら。その世界の話はあまり知らないけど、もしかしたらその日を境にして、本来のカタリナ・クラエスという悪役令嬢が誕生したのかも。

 

今は私がいるからそうならないけど。ハッピーエンドで国外追放、バットエンドで二度目の死なんて経験したくないし。そのためのフラグ回収に勤しんでいるのだけどね。私1人だったらもう少し簡単だったのかもだけど、よもや双子の兄という本来は存在しない設定(・・・・・・・・・)が登場するとはね。

 

かといって責めるつもりはないわ。兄だって転生者なのだしまったくこの世界の知識をもってないみたいだし。それもそうよね。何しろこの世界の基は〈FORTUNE・LOVER〉という乙女ゲームなのだから。人気のゲームだから男性がやっていても可笑しくはないのだけど。

 

やってくれていれば回収も楽になったのに。でも今それを言うのはお門違いというものよ。やってないことが彼の責任になるはずもないし、彼が手伝ってくれるなら私の労力も少しは減るしね。

 

「お届け物だカタリナ」

「え?」

 

空を仰いでいたカタリナに届く美声。聞こえた方に振り返ると、そこにはうねうねと波打っている布袋を担いだカルナが立っていた。

 

「肩のそれは一体…」

「キースだよ。ほれ」

 

地面に担いでいた布袋を下ろして紐を解くと、中からキョトンとした表情のキースが入っていた。

 

「さすがお兄様です」

「これくらいわけないさ」

 

仲睦まじく話す2人を見て、キースが声を出す。

 

「ここは一体…」

「ここは私の畑よ」

「カタリナ様の畑?」

「堅苦しいなぁ。私たちは家族なの呼び方は適切にね」

 

この場合の適切な呼び方とは、兄・姉・弟としてのことだ。キースにとっては未だ不慣れな呼び方だが、2人からすれば当然のことだと思っている。

 

「失礼では?」

「私は『姉さん』って呼ばれるのが夢だったの!」

「俺も『兄さん』でいいよ」

「…はい、兄さん・姉さん」

 

困惑した状態でお願いした言葉で呼んでくれた。それだけで2人は嬉しそうに笑みを浮かべる。それは純粋な喜びの笑みであって、作戦によって呼ばせたという危ない理由ではなかった。もちろん目的のためでもあったが、何より2人の呼んでもらいたい呼び方をしてくれたことの方が大きかった。

 

「ここでは一体何を?」

「私が野菜を育ててるの!自慢だけどとっても美味しいのよ!」

「本来の目的は〈魔力との対話〉だけどね。《土》の魔力を持つカタリナがその延長戦で始めたのが農園ってわけだよ」

「余計なこと言わないでよ!」

「事実だろうが」

 

夫婦喧嘩に似た口論にキースが少しだけ微笑む。

 

「お気に入りの場所に連れて行ってあげる!」

 

するとカタリナがキースの腕を掴んで走り出した。カタリナ家の庭は膨大な敷地面積を誇るため、子供が遊ぶにはもってこいの遊び場である。9歳の子供でも飽きることなく毎日遊べる空間は、あまり存在しないと思われる。そんな場所を駆け回るカタリナを見てカルナも頬を緩ませている。

 

カタリナに引っ張られる形で走るキースは、その手の暖かみを安らぎに近い何かに感じていた。これまで疎まれることしかなかった自分を、避けるでもなく虐めるでもない。温かく迎えてくれるカタリナに少しずつ心を開き始めていた。

 

「ここが目的地よ」

「これは草原?」

 

目の前に現れた巨大な草原を眼にしてキースが驚愕する。何処までも広がっているようなその広大さに目を奪われていた。この広場はカタリナ家が好意で一般に開いている私有地である。広大さ故に多くの家族連れが訪れても余裕があるほどで、いつでも好きなように使うことができる。もちろん常識の範囲内での話。

 

「我が家が代々受け継いでいる広場。みんなが楽しんで笑顔になってほしいという思いで一般にも公開してるの」

「これを当主が…」

 

カタリナとカルナの父の寛大さを改めて知ったキースが広場に見とれる。何の変哲もない単なる広場だが、装飾などが一際されていない景観保持のための草刈りだけをする自然なままの場所。それがカタリナ家の内側を現しているようにも見えた。

 

「ここに来ると嫌なこと全部吹っ飛んじゃうの。自分が抱え込んでる悩みがちっぽけなことに思えてきて、でもそれが逆に自分を強くしてくれるきっかけになったりするの」

「カタリナ姉さんにも悩みが?」

「悩みがない人間なんていないわ。悩んで苦しんでそのことを繰り返さないために人は努力するの。魔力だって剣だって作法だって、結局は反復して覚えるもの。最初からできる人間なんて存在しないしいては駄目。失敗から学んで人は成長していくの」

 

真っ直ぐな瞳で言われてはキースも反論できない。今の言葉が少なからず自分を励まし支えてくれている言葉だと、幼いながらもある程度は理解していた。いや、この場合は過去の境遇があったから理解できたと言えるだろう。

 

周囲の眼を気にして生きてきたことで、その場の空気や人の纏っている雰囲気、浮かべる表情からその人物がどんなことを考えているのか察することができる。もちろん限度はあって、ある程度という注釈付きだ。

 

「それにここにきたら〈魔力の源と対話〉できるからなの」

「〈魔力との対話〉…」

「畑を耕せば対話できるけど、また違った角度から感じてみるのもいいのよ。ほら、こうして手を広げるだけでも感じられる」

 

それを真似てキースも両手を広げる。

 

髪を軽くゆらす程度のそよ風。胸に吸い込んだ瞬間に感じる木々のあおい香り。他人に心を開こうとしなかった扉をその2つが開けていく。痛みを感じることもなく、むしろ自分もそう望んでいるかのように錯覚する。

 

「そういえばキースの魔力も《土》なのよね?見せてよ」

「え、でも…」

「同じ魔力を持つ人がいないから見てみたかったの。ね?」

「…少しだけなら」

 

さっきまで明るかったキースの表情が陰る。だがそのことにカタリナは気付いていない。興奮している人間は極端に視野が狭まり、判断力も著しく低下する傾向にある。だから今のカタリナが、そのことに気付けなかったのも仕方なかった。

 

「いくよ」

 

カタリナが作った小さな土人形にキースが魔力を込める。すると土人形が細かな仕草でダンスを披露し、その動きの可愛らしさにカタリナもカルナも感嘆の息を漏らした。

 

「僕が魔力を込めると、思い通りに動かすことができるんだ」

「特性としては《動》といったところかな」

「《動》?」

「簡単に言うと、ものを《動かす》特徴のことだよ。カタリナは土を盛り上げるから《移動》とかそんな感じなのかも」

 

カルナが説明している横で、カタリナの眼に悪い光が浮かんだのが見えた。カタリナの眼に光が宿るときはいつも決まってあくどい考えを思いついたときだ。普段からかなり方向性のずれた行動をするので、カルナにとっては日常茶飯事だからそこまで気にしていないが。

 

「もっと大きくできるんでしょう?やってみせてよ!」

「えっと…」

「俺にも見せてくれないか?キースの魔力がどれくらいなのか知りたいし」

 

不安そうにカルナを見るキースにカルナも頼み込む。兄弟として魔力の強さを知っておくのはとても重要なことだ。これからの練習や戦闘するならば、相手の実力を知っているべきだからだ。

 

「わかりました」

 

少しばかり時間をかけて作った巨大な土人形にキースが魔力を込める。すると先程のようにダンスを始めた。だがその巨体の影響で足が地面を踏みしめる度に、地鳴りと振動が広大な広場に拡散していく。

 

「これよこれ!これこそが魔法よ!」

「こいつはでっかいな…。俺より魔力上はじゃないのか?」

 

カルナが少しばかり驚きと感嘆の入り交じった感想を述べていると、カタリナが瞳を輝かせながら走り出した。

 

「近付いちゃ駄目だ姉さん!」

「え?」

 

カタリナが何かを感じて上を見る。そこには土人形の腕がまさに振り下ろされるところだった。

 

「カタリナ!」

 

その瞬間、突風が土人形の巨体を吹き飛ばした。吹き飛んだと言っても後ろ向きに倒れ込んだだけだ。

 

「大丈夫かカタリナ?」

「お兄様、大丈夫です」

 

駆けよってカタリナを抱き上げるカルナが心配そうに覗き込む。返事を聞いたカルナがほっと息を吐きだした瞬間、背後で走り出す音が聞こえた。2人が振り返ると背中を向けているキースがいた。

 

「「キース!」」

 

2人が叫ぶがキースは足を止めずに森を走り向けていった。その様子を見送ることしかできない2人は、自分たちが何をしたのか少なからず悟った。魔力を見せてほしいと言ったときに、キースが少しだけ暗い表情をした理由を。

 

こうなるかもしれないということがわかっていたから、キースはすぐに頷かなかったのだと。兄・姉としての立場によるお願いに逆らえなかったのだと。余計に傷つけてしまったことを2人は深く後悔した。

 

重い足取りで家に向かう2人の背後で、魔力の供給が途切れた土人形がぼろぼろと崩れていく。その様子は2人の心を現しているようだった。

 

 

 

玄関を開けて家に入ると、使用人たちに食堂へ行くよう言われた。夕食の時間にはまだ早いと思ったけど、俺たちは手を洗ってから大人しく向かった。食堂では穏やかでありながら心配している様子の両親が、こちらを見ながら座っていた。

 

「お帰り2人とも。少しだけ時間を貰えないかな?」

「「はい」」

 

椅子に座って身体ごと顔を両親に向ける。

 

「話は聞いたよ。2人とも怪我はないんだね?」

「はい、お父様」

「かすり傷一つありません」

 

無事を聞いて頷いてから父は話し始めた。

 

「キースのことを詳しく話しておくよ。あの子は強い魔力を持っているけれどまだ使いこなせていないんだ。そのことはカルナもわかっているね?」

「もちろんです」

「だからむやみに魔力を使わないと約束していたんだよ。キースはここに来る前、魔力を暴走させて兄弟に怪我をさせてしまったことがあった。どういった経緯で魔力が暴走したかはわからない。でも怪我を負わせてしまったことをキースはとても悔やんでいた」

 

魔力の暴走は突如起こるものではない。感情の高ぶりから発生することが6割を占めている。特にまだ魔力の素養が十分ではない幼子なら、悲しくて涙を流す・何かをされて怒るといったちょっとしたことでも暴走に繋がることが多い。

 

それにキースの場合は、当主と娼婦の間に生まれたことで忌み嫌われてきた。兄たちに執拗ないじめを受けてきたのは想像に難くない。それがついに爆発して魔力の暴走に繋がったと考えるのが妥当だろう。

 

いじめを繰り返していたキースの兄たちが怪我をしたとしても同情はしない。当然の報いというものだ。怪我の賠償と謝罪を要求してきたところで、俺は何があってもキースの味方になろう。英雄気取りだと言われても守る。兄としても人としてキースを守りたいんだ。

 

「あの子は自分の魔力の恐ろしさを一番理解している。だから魔力を使ったと聞いてとても驚いた。『怪我をしてないけど、危険な目に遭わせてしまった。どんな罰でも受けます』とキースは言っていたよ」

「私のせいよ!私が無理を言って使わせたのに」

「私も同じです。どうしようか悩んでいたキースに見たいと言った自分にこそ罰があります」

 

俺たちは2人で視線を交わす。視線だけで何をしたいかを察し合った俺たちは、椅子から飛び降りて一目散に走り出した

 

「カルナ!」

「カタリナ!」

 

両親の静止を無視してキースの元へと走った。謝らなければ気が済まない。誰が悪いかなんてわかりきっている。俺たちがキースの表情から読み取っていれば、こんなことにはならなかった。すべては俺たち2人の責任だ。

 

「居場所はわかってるんでしょうね!?」

「もちろんだ。キースにとっての一番の安全地帯は…」

「「自室!」」

 

答えが俺たちは一致したことで、本当に双子なんだなと心底理解した。階段を駆け上り、キースの自室へと向かうとそこには使用人が1人扉を見つめながら立っていた。

 

「カルナ様・カタリナ様?」

「「キースは!?」」

「…合い鍵を持ったまま閉じこもってしまいました」

 

合い鍵は緊急用に置かれているものだ。それを持って入られたら本人が内側から開けるか物理的に開ける方法はない。

 

「キース開けて!私よカタリナよ!」

「…すいません。それはできないんです」

「どうして…」

「僕は姉さんと兄さんの側にいる資格なんてない。こうしていれば誰も傷つくことはないんです」

 

自分自身が作りだした自責の念という名の殻に閉じこもりかけている。ここで今完全に蓋を閉めてしまったらゲームと同じ展開になる。カタリナのためだけじゃない。キースにとっても今は救いの手が必要なんだ。

 

「カタリナ、俺が話をしよう」

「お兄様…」

 

今の呼び方は素の呼び方だろうな。転生者としての兄ではなく家族としての兄の呼び方だ。そう呼ばれてしまってはどうやったってキースを立ち直さなければならない。

 

「キース、聞こえるか?俺だカルナだ」

「…」

「聞こえてるならそれでいい。カタリナはお前に言ったな『人は失敗から学んで生きていく』と。人を傷つけたならこれから人傷つけなければいい。人を傷つけた辛さを知っているなら、もう二度と人を傷つけようとしないはずだ。『悩んで苦しんでそのことを繰り返さないために人は努力する』ともカタリナは言った。人を傷つけたことを知った人間はきっと優しい人間になれる。お前はとても優しい人間だ。父上に魔力を使わないと約束したから俺たちの頼みを聞いて迷った。それは自分の魔力の危険性を知っていたからできたことだ。何故危険性を理解していたのか。それは一度魔力で兄たちに怪我を負わせたからだ。怪我をさせたくないから迷った。それこそがお前の優しさじゃないか」

「…それでも僕はここからでません」

 

プチン!

 

今俺の頭の中で何かがキレる音がした。隣のカタリナがアンにひっついて俺を避けているようにも見える。いや、それは賢明な判断だ。今から俺は暴走するからな。

 

「あっっっっったまきたぁぁぁぁ!キース、今すぐ扉から離れろ!」

「え、え、え、え、え?」

「扉の直線上じゃなくて横にいろ。いいな!?」

 

イライラを魔力に込めてぶっ放してやる!

 

「ももももしかしてお兄様!?」

「お気を確かにカルナ様!」

「じゃかあしいわぁぁ!」

 

右手に込めた魔力を思いっきり扉に向けて発射してやった。

 

ドッカぁぁぁぁぁぁぁン!

 

という近所迷惑極まりない大音響をまき散らして、扉を内側へと吹き飛ばした。木くずによる煙を踏み越えて、腰を抜かしている僕の前に兄さんが立つ。

 

「ようキース、暗い場所より明るい場所の方が気持ちいいだろ?」

 

普段見せてくれる笑みとは違って今の兄さんの笑顔はとてもカッコいい。いつもは家族としての優しい笑みだけど、今は兄としての威厳が凄く伝わってくる。

 

「兄さん…」

「辛いことも悲しいことも分け合えば1/4、喜びと楽しみを共有すれば4倍。みんなで苦難を乗り越える。それが家族という存在だ。だからもう一度言うよキース。俺と兄弟になってくれ」

「はい、兄さん!」

 

兄さんの言葉と笑顔は、みんなを平等に照らしてくれる眩しいぐらいに輝く太陽と同じだった。

 

「カルナ、ちょっといいかな?」

 

音を聞き付けて義父様が訪れて兄さんに声をかけた。

 

「ひっ、父上!?」

「これからのことも考えて、少しばかり物の値段について話をしたいからこっちにおいで」

「は、はい…」

 

さっきまでの輝きが嘘のように消えた。笑顔で怒っている義父様に連行される形で、僕の前からいなくなっていった。その背中を見送っていると姉さんが抱きついてきた。

 

「姉さん?」

「ごめんなさいキース!私が無理なお願いをしてキースを傷つけた」

「ううん。姉さんの言葉は僕に届いたよ。だからもう謝らないで」

「うん!これからもよろしくねキース!」

「僕の方こそよろしくお願いします」

 

笑顔の姉さんに僕は返事を返す。とても家族思いな2人の兄と姉に囲まれた僕は、とても幸せだとこの日に知った。

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