女武蔵の五輪書   作:新川翔

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この記憶を何処かに預けられたらいいんだけど、それもまた難しかろうし。

このセリフが本作の執筆動機です。


地の巻 一日目

扉から光が漏れていた。

俺は扉をゆっくりと開けて部屋にいる客人の様子を伺う。

 

「眠れないんですか?不自由なことがあったら承りますよ」

 

「い、いや。なんでもない。なんでもないです。不自由なんて一切ありません。むしろ居心地はいいです。ただ…」

 

宮本武蔵だと名乗る彼女は、バツが悪そうに暗い目で口を尖らせていた。

 

「格好悪いなぁ。と思っていたのです。折角ケリをつけたのに、こんな状態で彷徨っていることが」

 

「…そうですか」

 

俺は先程、道端で、血まみれで消えそうな彼女を見つけた。側にいる従者と共に彼女を家に運んだで傷を癒したが、彼女の姿は今もなお、徐々にだが消えかけていた。

きっと、あと五日間で傷の有無に関わらず完全に消滅する。

 

「何かあったら言ってください」

 

「そうね。ありがとう」

 

俺が部屋から出ると、暗闇から俺の従者である髪を結んだスーツ姿の女性がのそりと姿を現した。

 

「あのサーヴァントの容態はどうですか」

 

「もってあと五日だ。俺と家の力を全部つぎ込んだけど、これが限界だ」

 

俺の技術を用いても、あの消滅を阻止することは、不可能だった。

 

「…お言葉ですが、質問が」

 

「ん?どうした?」

 

「どうして彼女にここまでのご執心を?サーヴァントとはいえ、消えかけた霊だったのですよね?」

 

「ああ、それはね…」

 

「ちょっと、いい?」

 

言いかけると、扉が開いて彼女が手招きしていた。

 

「どうしました?」

 

「お願いがあってさ。入ってもらっていい?そこのスーツの貴方も」

 

「分かりました」

 

俺たちは彼女に促されるまま部屋に入り、正座した彼女の前に思わずこちらも正座した。

 

「う〜ん、なんか緊張する〜。やっぱこんな畏まって頼むタチじゃないしなぁ」

 

彼女は照れ臭そうに笑って頰をかいた。

 

「それで、お願いとは?自分が出来るなら何でもしますよ」

 

俺が尋ねると、彼女はスイッチを切り替えたのか、表情を真剣なものに変えて、あぐらに座り直した。

 

「聞いて欲しいのです。私こと女武蔵の生き様を」

 

「まぁ、話を聞くくらいなら全然構いませんよ」

 

(何を言っているのですか!?)

 

俺が女武蔵と名乗る人の依頼を受けると、俺の従者が念話を通して反対した。

 

(今の貴方の置かれた状況を鑑みて下さい!そんなことをしている暇はもう)

 

(ごめん。ちょっと主人の我儘を聞いてくれるか?)

 

(……しょうがないですね。分かりました)

 

(ありがとう)

 

「あの〜、大丈夫?」

 

俺たちが念話で会話していると、女武蔵が何も喋らなくなったこちらを心配してか、俺の目の前で手を振ってみせた。

 

「ああ、大丈夫です。それじゃあ、どうぞ」

 

「おーけー、それじゃあ、よろしくね」

 

 

 

 

私は物心ついた頃から、いや多分ずっと前から虐待を受けていました。

私の父は新免無二斎という剣豪。あのクソ親父は私が女だから、そしてこの目が宝の持ち腐れだからだとかで私を随分嫌っていたのです。

時代が時代、女子(おなご)が剣を握るのは如何なものかとされる時代に剣豪の家に生まれたのだから、当然といえば当然なのでしょう。

でも、私はそれがとても悔しかった。今考えると、私が剣を極めようとした最初の動機は親父殿への復讐って部分も多かったのかな。

それから私は何年か剣の鍛錬を積んだ後、剣を握ってクソ親父に挑みました。

 

 

 

 

 

「クソ親父ッ!覚悟ッ!」

 

蟋蟀(コオロギ)がうるさくなく頃、私はある日の夜、齢十にして実の親を切る決意をして、食事中の親父に刀を抜いて飛びかかった。

しかし憎っくき奴は一切動じずの私を柱に叩きつけて、更に気持ち悪いものを見るような目で見下した上で、何事もなかったかのように食事を再開した。

 

(クソ…)

 

悔しさに耐えかねた私はすぐに刀を拾って部屋を飛び出して、屋敷の前にある自分で建てた小屋まで撤退した。屋敷で部屋が充てがわれなかった私は、そこで暮らすしかなかった。

 

 

「傷は如何ですか!姫さま!」

 

「うん、助けて」

 

しかし、屋敷の中でも、私を助けようとしてくれた人達がいた。

私が親父に叩きつけられた時は、ある奉公人の人が薬草を入れた籠を持って来てくれた。

他に来たのは、母上、奉公人の人達、村の人達、時々親父の部下。もしかしたら、私が住んでいた宮本村で親父以外の全ての人が私の影の味方だったかもしれない。

 

「取り敢えず、安静にしてください。これは傷によく効く薬草でございます。染みますが辛抱してくだされ」

 

彼女はそう言って幹部に薬草を塗り込んだ。滲むように染みていく痛みに私は何度か悶えた。

 

「…くっ、あ゛っ」

 

私は痛みに耐えながら悔しさを噛み締める。二年も鍛錬を積んだのに、奴の動きが見えなかった。だが、まだ負けたわけじゃない。あいつは『勝った』のかの字も言っていない。だから、勝負は決まってないのだから、この後勝てば良い。

 

私はそう切り替えて、親父への悔しさを燃やしながら、眠りについた。

 

次の日から、私はまた鍛錬を始めた。

助けに来てくれる人達に頼んで、書を持ち込んで貰ったり、稽古をつけてもらった。私はやっぱり女子なので、腕力は褒められたものではなかったが、この目のお陰で食らいつくことができた。

訓練をしていく度にこの力は洗練されるようになったようで、十二になる頃には、親父殿の部下と互角に戦えるようになった。

 

「やはり、姫様はやりますなぁ、遂に私も追いつかれてしまった」

 

「いや〜それほどでもなくなくなくないです!」

 

ある日、私は昼餉の休憩中に、親父の部下の一人に褒められた。『女子なのにも関わらず』という言葉が付いていなかったことに深く感動した私は、かなり照れていた。

 

「それでどうでしょう、この腕ならあのクソ親父に一矢報いられると思いますか?」

 

「それは……お言葉ながら、難しいでしょうな。あの方は家内にいる誰よりも圧倒的に上手でございます。正直、我々が束になっても蹂躙されるだけでしょう」

 

「うわ、物の怪じゃん」

 

「ええ、正に無二様は剣に取り憑かれた物の怪と言えるでしょう」

 

私はなるほどと納得しつつも、彼の言動に引いた。

 

「えっと、貴方の主人ってクソ親父ですよね?」

 

「そうですが?」

 

(クソ親父って敬われてないんだなぁ)

 

「あ、はい。そうなんですね。あはは〜」

 

剣だけに専心している主君はそう褒められたものではないのかもしれない。話を聞く限り、悪政という評判は聞かないが、良い政治をしているという話も聞かない。あの親父は政治家的には美点も欠点もない。それは彼らのとっては支えがいのない主君なのだろうか。

 

「そう言えば、どうしてみんなは私を鍛えてくれるんですか?」

 

私はクソ親父の話題を有耶無耶しながら、話題を変えるために前から疑問に思ったことを尋ねた。

すると彼は一度顎に手を置いて考えを一巡させてから答えた。

 

「それは、きっと皆が姫様に殿を超えて欲しいからでしょうな」

 

「えっと…どうしてでしょうか。私は二年前に完全に伏せられたのですが、今でも勝てる気がしないのですが」

 

「確かに。ただあの時の、二年前の姫様の動きは、素人臭くおぼつかなかったが、素晴らしかった」

 

「えっと、褒めてます?それとも貶してます?」

 

「勿論、褒めております。我々、家臣一同はあの動きを見たときに、もしかしたら姫様は無二様を倒せるのではないか。そう予感したのでございます」

 

「予感とは言っても、それは、確信とかじゃなくて半ば願望でしょう?」

 

「はは、そうですな。絶対に無二様を超えるだろうとは、思えませんでした。しかし」

 

親父の部下は笑いながら握り飯を側において、私に向き直った。

 

「アレを超えられる可能性があるのは、貴方しかいらっしゃらないのです。どうかお願いでございます。無二様を超えて頂きたい」

 

「い、いや。畏まらなくていいから。というか、なんでそんなに私に期待をかけるのですか!?」

 

「正直、あの、のっぺらぼうのように表情を変えない無二様が動揺しきっているところを見たいのです」

 

「うわ〜、正直だな〜!」

 

「さて、丁度良い頃合いです。そろそろ稽古を再開しましょう!姫様!」

 

「ええ!」

 

私はその日、刀を両手に持つ戦い方を披露した。

 

 

 

 

そんな風に、お天道様が顔を出している時は稽古、出していない時は読書。

この時代の普通だったらどこかの家に嫁ぐ頃合いなのかもしれなかったけれど、私はそんなの御構い無しに自分のことするべき没頭していました。

そして、一年の時が過ぎた頃、私の剣の腕は全ての親父の部下を超えるほどのものになっていたのです。

私は齢十三にして、またクソ親父に挑むことを決意しました。

私の二刀使う戦い方がどこまで届くか気になったからです。

 

 

 

 

 

二つ刀を携えて三年ぶりに屋敷の門の前に立つ。時間は夜餉時。

あいつが料理を口にした瞬間に、奴に飛びかかる。頭の中での予想は済ませた。

漏らされるとは思っていないが、屋敷の関係者には誰にも言っていない。わたしが一人で考えた作戦だ。

 

「さて、行きますか」

 

上から物音立てずに忍び込んで、林に身を隠し、様子を伺う。

息を潜めて、目を凝らす。

限りなく削った究極の一手を掴み取る。

その為に、私はここまでの時間を費やしてきた。

せめて、奴に刀傷一つつけてやる。

一刻もしない内に、クソ親父の前に食事が運ばれると、奴は絡繰のような無表情で箸を取って、米を口に運ぼうとした。

 

(━━━今だ!!)

 

好機とみた瞬間に、林から飛び出して、一直線に走った。

何よりも早く、速く、疾く。

新免無二斎に向かって走った。

剣を抜いて、奴の喉元へ剣先を向ける。

 

「新免無二斎!勝負!」

 

クソ親父はすぐに刀を手に取って私の初撃を防いだ。

油断は禁物だ。奴は直ぐに反撃に移る。

もう、昔の私じゃないと目を凝らす。

今の私は奴の動きを辛うじて捉えることができた。

私の剣技は、これからが本番だ。

相手の剣戟を捌き、奴に究極の一撃をかましてやる。

 

まず一つ、奴の反撃を受け止めた。

奴は一刀。私は二刀。一つ受け流せば、私の空いた一刀で首を取ることができる。

 

しかし、次の瞬間には、私の手には刀が一本しかなかった。

 

「なっ…………」

 

私の初撃の刀は私が見えぬ速さで弾き飛ばされて、部屋の襖に刺さっていた。

しかし、それを取りに行くわけにもいかない。もし一度でも背中を見せたら、目の前のこいつは私を躊躇なく殺す。

 

残る一刀で私は反撃を続ける刀を受けて、空いた手で腕を抑え、足で奴の顔を横に蹴った。

 

確実に足は奴を捉えて、新免無二斎の頰に血を流させた。

だが、まだ止まらない。

奴は傷など意に介さずに私の腕を掴んで、飛ばされた刀が無い方向へ私を投げ飛ばした。

 

飛ばされながらも、奴には目を逸らさぬように見つめながら、次の手を考える。

 

まず、奴は吹き飛ばされた私に追い打ちを仕掛けてくるに違いない。

突きにしろ、撫で斬りにしろ、それを躱せなくては話にならない。

 

飛ばされる私よりも早く迫るクソ親父を見ながら、互いの刀をぶつけるように振りかぶった。

私と奴では腕力に差がありすぎる。もし、互いの刀をぶつければ、私はまた宙を舞うこととなるだろう。

だが、それでいい。

私が飛ぶ先に刀が有れば、また私は刀の数における有利を得る。

確かに、両手で振りかぶって力負けする相手の攻撃を、片手の刀で対応することなどは出来ない。

 

でも、これを陽動で使えれば上出来だ。

 

私は刺さる刀を引き抜いて、奴に思いっきり投げた。

それと同時に私の身も奴に向かって飛び出した。

 

これならどうだ。と飛び込みながら様子を伺う。

 

奴は相変わらずに奴は顔を歪めず、投げられた刀を天井に弾き飛ばした。

それでも構わず、私はさらに速度を上げて、奴に迫った。

奴は天井に剣先を向けている。

なら、私を上段から切るのが道理だ。

あの血の気がないクソ親父が『一旦構え戻して別の方向から切る』なんていう無駄な行動をするはずがない。

 

予測通りに奴は上段から刀を振り下ろした。

 

そこで私は足を止め、頰を掠めるくらいの場所で斬撃を避け、降ろされた奴の刀を踏み、畳に深々と突き刺させた。

 

流石の奴でも、深く刺さった刀を簡単には抜けまい。

 

私は躊躇わずに奴の眉間に刀を突き立てた。

しかし、刀が奴の脳を貫くことはなく、また吹き飛ばされた。

クソ親父はすぐに刀から手を離して私の腹に一発かました。

 

「クハッ…」

 

口から血が溢れて、意識が薄くなる。

不味い。このままでは殺される。

 

「曲者か!?」

 

ここで、親父の部下達が駆け寄る足音と、主人を気遣う大声が聞こえた。

この声に気を取られた無二斎を見逃さなかった私は、意識を叩き起こして足を引きずりながら屋敷を抜け出した。

 

「クソぉ、まだダメかぁ」

 

私は帰り道に朧気になる視界をどうにか正しながら愚痴をこぼした。

これでも奴に刀は届かなかった。

 

私は血反吐を吐きながら、自分の動きを考え直した。

 

きっとあのクソ親父にとって、私の不意打ちは見え見えだったのだろう。

こちらとしては殺気を殺していたつもりだが、まだまだ殺しきれていないらしい。

 

そして、私の技量についてだが、差はまだまだ埋まっていないように思えた。

蹴りを浴びせられたのは、確実にまぐれだった。

私の立てた作戦は全て圧倒的な技と力と経験で伏せられた。

 

「どうしようかなぁ。勝てる未来が浮かばない」

 

私はため息をついた。

アレがもし本気を出していないとすれば、絶望しかない。

まるで、奴は来るものを圧倒する山嵐のような戦いぶりだった。

 

少しすると、背後からお人数の足音が聞こえた。

 

「姫様がいたぞ!!」

「大丈夫ですか、姫様!!」

 

親父殿の部下が追いついたようだった。

 

「う〜ん。ごめんなさいね。勝てなかった」

 

家臣の人たちが集まって私を囲んだ時に、私は彼らに謝罪した。

 

「いえいえ、滅相もございません。あなたは殿のお顔に一つ蹴りを入れた。それだけで我々はこの上なく嬉しいです」

 

「はは、本当に、この家は忠臣に恵まれないわね」

 

私は私自身が生まれた家のおかしさに笑いながら、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

ええ、あの時の私とクソ親父との差は歴然としていました。

今?勿論、私の方が上です。私は奴の行けなかったの先に至ったのだから。

この技量で殺し合えばどうなるかな〜?

ん。今はそんなこと考えてる場合じゃありませんでした。

それでは続きと洒落込みましょう。

私はあのクソ親父に負けた後も、その小屋周辺で一年間、稽古と学問に励みました。

 

 

 

 

「ふぅ、ふぅ、ふぅ」

 

疲れた。

私は水分を補給しながら、限界を感じていた。

 

「このままじゃダメなのかなぁ」

 

ここにいては、いつまでもクソ親父に勝てない気がした。

 

「となると……旅かなぁ」

 

私はいつも稽古をする山から村、その先の地平線を見渡した。

あの先にはあのクソ親父程の達人が沢山いる、とは言わずとも、私より強い人々は沢山いるはずだ。強者としのぎを削れば、私はもっと高みを目指せるはずだ。

 

「よし、決めた!」

 

私は急いで山を降りて、偶々小屋に来ていた母上に旅をする旨の話をした。

しかし彼女は、私の話を聞いてもさほど驚かなかった。

 

「いつかそうすると思っていましたよ。ここではもう限界なのね」

 

私の母親はやっとこの言葉が来たか、とでも言うような表情で続けた。

 

「…そろそろ頃合いか」

 

「……?」

 

「貴方に話しておくことがあります。旅に出る前に聞きなさい」

 

母上は今までにないほど神妙な顔をして私に語った。

 

「まず、あなたのその目は、私の由来なの。だから…その…迷惑をかけていたらごめんなさい」

 

「いえいえ、迷惑なんてないですよ!むしろ感謝しています!この目がなかったら、私は今頃この世にいなかったです」

 

「そう…迷惑じゃないなら…って、本当!?私は超迷惑だったんだけど!」

 

「えっ!それほど迷惑ですかねぇ?」

 

「………あぁ、そうか。まだね」

 

彼女は含みのあるような様子で俯いたが、すぐに顔を上げた。

 

「いや、なんでもないわ。気にしてないなら。でも、これから続く旅はきっと苦難の連続のはず、どんなことがあっても、止まることなく挫けないように。挫けたら終わりよ」

 

彼女は私の肩を叩いて、元気づけるように言った。

 

「あ!あと、旅に出るのは、もう数日後にしなさい。屋敷と村のみんなが交代で挨拶するから」

 

そして、彼女はこう付け加えてから小屋を急ぎ足で出て行った。

 

次の日、毎日私に食べ物をくれた村の人たちがこぞって集まってきた。

ある人からは乾飯を、ある人からは竹の水飲みを、またある人からは赤い傘を頂いた。

何故私にくれたのかと聞くと全員

 

「姫様は宮本村に住む我々にとってはお天道様なのです」

 

と言った。

 

次の日、毎日私に書を持ち込んできてくれた奉公人の人たちが交代で来た。

ある人からはお召し物を、ある人からは珍しい異国の書を、ある人からは髪飾りを頂いた。

何故私にくれたのかと聞くと全員

 

「姫様には頑張って欲しいのです」

 

と言った。

 

次の日、毎日私に稽古をつけてくれたクソ親父の家臣の人たちが交代で来た。

ある人からは草鞋の替えを、ある人からは刀を、ある人からは兵法書を頂いた。

何故私にくれたのかと聞くと全員

 

「姫様には無二様を超えて欲しいのです」

 

と言った。

 

次の日、私の母親が、来た。

私は、彼らが言った『私に物をくれる動機』について話した。

 

「ある意味、貴方は周りの人から見て希望だったのよ。うん、そんな大層な性格じゃないのは分かってる。でも、困難な課題に一所懸命刃向かう弱者は応援したく見えるのよ」

 

「成る程」

 

「うん、そういうこと。みんなが貴方を応援しているんだから、頑張ってね」

 

「はい!あのクソ親父を超えて帰ってきます!」

 

私はみんながくれた物を詰めて、着けて、私は戸に手をかけた。

 

「その心意気良し!それじゃあ、最後に旅の安全を願って、寂しくならないためのおまじないをしましょう」

 

「━━━━━━━━━」

 

私の母親は何か呪文を唱えたが、私には聞き取ることのできない言葉だった。

 

「はい、これで大丈夫!いってらっしゃい!」

 

彼女は一度私に抱きついてから、頭を軽く撫でて力強く戸の外へ押し出した。

抱きしめられた時、私の心は溶けそうなくらい暖かくなった。

 

「……えっと今のは」

 

「ああ、ハグっていうの。南蛮から伝わってきた親愛を伝える時の所作で……って、うん。慌ててちゃみっともないや」

 

体は離れたはずなのに私の中で、温もりが残っている。

私にとってそれは涙が出るほど嬉しかった。

母も涙を流して俯いている。

 

「………ありがとうございました!!!!いってきます!!!!」

 

「ええ、いってらっしゃい」

 

彼女の笑顔は、涙でよく見えなかったが、まるで観音様のような笑顔だった気がする。

私は今まで住んでいた小屋を後にして、道沿いに歩き始めた。

しばらく歩くと、後ろから数人の武士が私の名前を呼んで走ってきた。

 

「お待ちください!」

 

「どうしたの?平田さん」

 

彼は親父殿の知り合いの一人だった。幼少期に数回会った人だが、いい人だったことを記憶している。

 

「これを、貴方に。貴方の母上から旅に出てくるという旨を聞き、飛んで参りました」

 

「えっと、これは」

 

「我が家家宝の、『火』を司るとされる名刀です。どうかこれを」

 

「ええ!いいんですか!?これ、家宝なんでしょう!?」

 

私には、否応なく家臣の家の家宝が手渡された。

手にはずっしりと家宝の重みが伝わっている。

 

「構いません!持って行ってくだされ」

 

「でも……」

 

「あ、無二様」

 

「本当!?逃げなきゃ!」

 

私はこの時、本当にクソ親父が来たと思って全速力で走った。

今思えば、あれは私の背中を押すための嘘だったのだろう。

 

 

 

 

こんな感じで私の長い長い旅は始まったのです。

ああ、そう武蔵国にいた時に、こんなことがありました。

 

 

 

 

 

森の中を歩いていると、落ち武者のような格好をした長身の大男が横から現れた。

きっと私を女だからとかいう理由で見下しているのだろう。目から下卑た視線から奴の心の内が伺えた。

 

「我こそは佐々木小次郎。名の知れぬ剣士よ。命が惜しくなければここに持っているものを全て置いて行くのだな」

 

「何を。貴様のような醜男にくれるような物は持っていない!我が名は━━━━」

 

ここで私は言葉が詰まった。

クソ親父のつけた名前を名乗るのが嫌だったからだ。

 

「我が名は宮本武蔵!逆に貴様の身ぐるみ剥がしてやる!」

 

こういう傲慢そうな奴は高が知れているので、灸を据えてやりました。

 

 

 

 

まさか、佐々木小次郎が別の世界ではあんな存在であることは、私は知る由もなかったのです。

 

 

 

 

「さて、キリもいいところですし、今日はここまでにしますか」

 

彼女はうんと腕を伸ばしながら、終わりを告げた。

 

「えっと、まだ話は途中ですよね?」

 

俺は拍子抜けして、素っ頓狂な顔をしてしまった。

 

「ええ、途中よ。でも、そちらにも色々事情があって、それほど遅くまでは起きられないんでしょう。そこのお姉さんが目で言ってた」

 

「……すいません。うちの━━」

 

「いやいや、大丈夫だって。私が消えるまで、今日を入れた五日間で、きっちり語り終えますから」

 

俺は彼女が自身の消滅期限を正確に把握できていることに驚いた。

どうして彼女は死期を悟っていながら、こうも自然体に過ごしているのだろう。

 

「そんな暗い顔しないの。私の記憶を渡せる程の猶予をくれた君には感謝してるんだから」

 

彼女は心から笑っていた。

 

「それじゃあ、また明日。いつ頃が都合が良いですか?」

 

「う〜ん、またこの時間でいいかな。明日は君の家の店のうどんを食べてみたいし」

 

「分かりました。では、また明日、この時間に」

 

 

 

 




サブタイトルと彼女が手に入れる刀に関連性はありません。

消滅まであと4日

評価と感想を頂けたら喜びます。

うどんといえば、
ハワイの水着イベで武蔵ちゃんがココナッツうどんを634杯食べたらしいです。
なので自分も食べてみました(クック○ットのレシピ)
相当に、個性的な、味でした!

ついでに言うと、ココナッツジュースは美味しいです!

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