女武蔵の五輪書   作:新川翔

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火の巻 三日目

「大丈夫?怪我してるでしょ」

 

彼女は隠したつもりの俺の怪我を見抜き、指摘した。

 

「あ、はい。大丈夫ですよ。ちょっと魔術師同士の抗争があっただけです。すぐに魔術が効いて治ります」

 

「そう、ならいいけど」

 

彼女は俺の患部を一瞥してから、俺の家の冷蔵庫から拝借したお茶を取り出した。

 

「そういえば、今って西暦何年?」

 

「2015年ですよ」

 

「ふーん、それじゃあさ。未来のこと知りたい?」

 

「しりたいですッッ!早くッ!」

 

俺は身を乗り出すと、従者に組み伏された。

 

「まだ傷が治っていないんですから、安静にしてください。最近、彼女の話に聞き入りすぎです」

 

「えへへ、それほど面白かった?私の話」

 

宮本武蔵は頰をかきながら照れていた。

 

「いや、漂流者の体験なんて面白すぎるし滅多に聞けないぞ。ここは是非聞いておかないと」

 

「私の話って面白い?本当?うれしーなぁ!」

 

彼女は頰をかく速度を上げた。

その速度は頰が赤くなるほどだった。

かきすぎて、煙が出ていたようにも見えた。

 

「それじゃあ、話の続きです!私は橙子さんに会った後も、沢山の世界を旅しました。アメリカに飛んでガンマンとやりあったこともあるのです」

 

 

 

 

私は、荒野を降り立った。

あたりには水がなく、茶色の岩と砂が広がっている。

飲み水はある程度準備してあるが、無限ではない。まずは水源を見つけよう。

そう思って適当に歩き始めた。

しばらくすると、近く足跡が沢山ある道を見つけた。

人の往来が多いということは、この先に人が集まる場所があるかもしれない。

私は道に沿って歩くことにした。

 

 

前方から、馬に乗ったテンガロンハットを被った二人の男たちが見えた。

彼らは私を見つけると、馬を走らせ、短銃を構えてこちらに走ってきた。

 

(警戒されてるなぁ)

 

私は両手を上げて敵意がないことを伝えようとした。

彼らが叫んでいる言葉は、どうやら英語らしい。

英語圏には何回か飛んだことはあるので、なんとなく、言わんとすることは理解できた。

 

つまり、『動くな』ということだろう。

ドンムーヴとか言ってる気がするし。

 

すると、一発銃弾が私の足元に撃ち込まれた。

『動くな』とは、『不審な行動を見せるな』ということではなく、『撃ちにくいから動くな』ということらしい。

 

一発撃ったということは、喧嘩を売られたとも同然だ。

 

私は剣を抜いて、取り敢えず、投げた。

剣は弧を描いて、私を撃った男の方へと飛んでいく。

それを奴は馬上で器用に避けて私への射撃を続ける。

 

対して、もう一人の男は私を撃とうとしない。

どうやら一対一がフェアだとか思っているタイプのようだ。

ならば私は、もう1人は警戒せずに、あの出会い頭に銃を撃つ失礼な奴を倒せばいい。

 

私は標準が銃の私に定まる前に走り出した。

早く間合いを詰めなければ負けると思った私は、銃弾が何発も撃たれる前に、刀を敵の首元にかけた。

 

そうすると、馬に乗っていた男は驚くと共に両手を上げて降参した。

どうやら、私の獲物が近接の武器であったことに油断していたらしい。

 

「お前、まさか、日本人か?」

 

すると、さっきまで無干渉を決め込んでいた男が、私に日本語で話しかけてきた。

 

「に、日本語!?」

 

そこには、服装は欧米風のそれなのに、顔は明らかに東洋風の男がいた。

 

「いや、なぜ日本人がここにいんだよ!?」

 

「いや、なんで日本人がここでガンマンやっているんですか!?」

 

彼の名はジョン・マンと言って、一人でこの地、アメリカ連合国という国に来たらしい。

ジョン・マンはジョン万次郎と言われている人の渾名だ。

 

それにしても、この人は何をやっているのだろう。

 

「連合国…?合衆国じゃなくて?」

 

「いや、合衆国とはなんだ?」

 

どうやらこの世界線では、アメリカは連合国となっているらしい。

 

「いえいえ、なんでもありません。ははは」

 

「そうか…。それで、名前は?」

 

「宮本武蔵です、流浪の用心棒をしてます」

 

「宮本武蔵!?お前があの!?」

 

ジョンさんは、驚いて口をぽかんと開けていた。

この反応だと、この世界の宮本武蔵も男であるらしい。

今まで、別の世界で会ってきた日本人に宮本武蔵のことについて訪ねたが、全て男だったことを考えると、女武蔵という存在は異端なのかもしれない。

 

「はは、同姓同名なだけです。ほら、宮本武蔵を目指して、みたいな」

 

「そうか。ん?どうしたジョニー」

 

ジョンさんは、隣のアメリカ人に話しかけられて、英語で会話し始めた。

きっと、私は怪しい者ではないと説明してくれている筈だ。

ジョニーという人の表情も堅いものから緩くなっている。

 

「宮本武蔵、まずは謝ろう。俺の仲間が粗相しちまった」

 

「ええ、大丈夫です。お詫びとして食料を頂ければ、許します」

 

「そうか、じゃあこれを」

 

彼は懐から干し肉を手渡した。

 

「それじゃあ、これで、今度は出会い頭に銃を撃たないでって言っておいてください」

 

「分かったが……あ!待ってくれ宮本武蔵。取引をしないか?」

 

「はい?」

 

彼は急に思い出したように私を呼び止めた。

 

「お前は流浪だろ。一時的に住む場所に困っているのなら、私が場所を提供するぜ。その代わりに協力してもらいたいことがあるからさ」

 

確かに、町に拠点を置くことができれば、食料も水の確保も簡単にできる。

これは私にかなりの利があった。

 

「分かりました!その取引、お受けしましょう!それで、協力することとはなんでしょう?」

 

「最近、ここテキサスでは、夜になるとグールが発生するようになってな。それの原因の調査と首謀者の排除を手伝って欲しい」

 

私はそれに了承して、彼に近くの町の空き家まで案内をさせてもらった。

空き家は随分と古い場所であったが、住めないほどではない。

 

「汚くてすまない。ここしかなかったんだ。俺たちは近くの酒場で飲んでいるから、何かあれば呼んでくれ」

 

ジョンさんは、ジョニーと一緒に酒場に向かったようだ。どうやら、夜まで飲むらしい。

あの人、アメリカに染まりすぎじゃない?

いや、私のアメリカ観がおかしいのかな?

 

私は椅子の誇りを払って座り、深く息を吐いた。

 

「それにしても、この歴史の宮本武蔵も、男なのか」

 

橙子さんは歴史そのものが歪められている可能性だってあると言っていたし、本当に私以外の宮本武蔵が男であると決まった訳ではない。

でも、疎外感は否めなかった。

 

「ま、いいか」

 

しかし、男だとか女だとかはどうでもいい。

私は剣を極めることを望んで、あとちょっと遊ぶだけだ。

 

「さてと…私の今後はどうしようかな?」

 

私の剣は、まだあのクソ親父には届かない。

あれだけ鍛錬と実践と死線を超えても、一歩も及ばない。精々、あの蹴りをもう一度浴びさせられるだけだ。

 

今までの経験じゃ足りない。今までの敵じゃ足りない。今までの世界じゃ足りない。

あの無二とないクソ親父に勝てるはずもない。

 

そういえば、並行世界の私って『二天一流』の開祖だということを思い出した。

あの無二に対して、二天と名付けたのは最高の皮肉だ。

 

「よし、パクるか」

 

たった今、私の中で、自分の流派を決めた。

 

流派も決まったので、暫定だとしても、わたしの目指す先を決めねばならない。

私の目標は、あのクソ親父への意趣返しだ。

無二の先、それは、まさしく零だ。

 

自分の話で胡散臭いが信じるしかない。たった一つの先は零しかない。

 

ふと、外を見ると日が沈んでいた。

この町の教会らしきところからも鐘の音が聞こえている。

 

そんな考え込んだのかと、自分でも驚いて空き家の外に出たると、黒く長い袋を肩にかけたジョンさんが待っていた。

 

「武蔵、丁度いいな。これからグールが出る町に向かう。ついて来い」

 

私たちは馬車に乗ってグールが出現するという隣町に向かった。

 

「まずい!武蔵!今すぐ出ろ!」

 

道中、馬車で揺られていると、ジョンさんの声が聞こえた。

 

私はすぐに馬車を飛び降りて松明をつけて、周りを伺う。

同行していた他の人達の銃声や悲鳴から推察するに、グールが襲ってきたようだ。

 

私の方にも、グールが大勢で生者を噛みちぎろうと迫っている。

 

私は大軍を切りながら、ジョンさんが戦っているところを目視で確認した。

 

「武蔵!生きていたか!」

 

「ジョンさん!どういうことですか!グールは町にいるって話でしたよね!」

 

「ああ、俺はそう聞いていた!だが今夜から道中にも湧くようになったらしい!悪い冗談だよ!」

 

彼は馬上で銃を鳴らしながら、どこかに退路がないか探していた。

 

「そういえば、ジョニーさんは?」

 

「あ?ジョニーか?奴は別の仕事だ。クソ!」

 

私は死体から銀の弾が装填された銃を拾い、飼い主を失って彷徨う馬に跨って走らせた。

 

「私が道を拓きます!ジョンさん、行くよ!」

 

「頼んだ武蔵!」

 

私たちは剣を振り回し、銃を暴れ撃って、やっとの事でこの危険地帯を抜けることができた。

 

「ジョンさん、今から私たちがいた町に戻れますか?」

 

「難しいな。きっと道中で奴らに会う」

 

私は拾った馬を撫でながら、この事態の解決策を考える。

 

まず、私が旅してきた世界の法則を適用するなら、グールは死徒になりかけの動く死体、それが大量発生しているということは、死徒もしくは人間を使徒へと変える手段を持つ者がいる。

 

しかし、総大将を倒せばなんとかなる、とは思えなかった。

もう変わってしまった者を元へ返す手段を私は持たない。

 

だが、総大将がいたら排除すべきだ。

 

「ジョンさん、どうしますか?私は総大将を探して倒しますけど」

 

私は、グールになった彼らの魂を沈めることは出来ないが、せめて請け負った仕事は果たそうと思った。

 

「乗りかかった舟だ。行くぜ」

 

「それじゃあ、道案内をお願いできますか?」

 

「ああ、任せろ。大学で地理関係は学んでる」

 

私はジョンさんの後について行って、今日たどり着く予定だった街に着いた。

 

「これは、ひどいわね」

 

息を潜めて町の見ていたが、町中にグールが徘徊しているのを見た。

私の刀には、彼らの汚れてしまった魂を祓う力はない。

でも、仕事は果たさなくてはならない。まずはあの雑魚共を切り落としながら、奴の拠点をしらみつぶしに探すしかない。

 

「私は行くわ。ジョンさんは今すぐ振り返って街に帰って神父さんとかに相談しなさい」

 

「おい、武蔵。何言っているんだ?俺も行くぞ。今帰ったら笑い者だぞ」

 

「そうね。でも守ることは出来ないから、背中は開くわよ」

 

「結構!」

 

私は近くにある家に飛び込んで、グールを全員叩き切った。

彼らは苦しそうな声を上げて、死ぬことも出来ずに苦しんでいる。

 

私は彼らの声に構うことなく、別の家に移った。

 

ジョンさんの銃声で他のグールをおびき寄せているので、私は暗殺の形でグールを切りまくった。

 

銃声が聞こえなくなる頃にはその町にいるグールは全て切り伏せた。

 

「ジョンさん、親玉はいそうですか?」

 

「いや、見かけなかった。そもそも、この町に親玉がいるのか?」

 

「さぁ、分かんないけど」

 

私たちが話していると、グールが教会の方から湧いて、のそりのそりと歩いているのを見かけた。

 

「教会が怪しそうじゃない?」

 

「確かに」

 

私はグールたちを切りながら、教会に向かって走った。

 

中を見ると、グールたちは地下に続く階段から出てきているようだった。

私はそこに何があると予感し、躊躇なく階段を下った。

 

地下には水路らしきものが広がっており、まるで迷路のようだった。

 

「取り敢えず、グールが出てる所を潰しますか」

 

私は明らかに、守るように配置された大きな三匹のグールを見て、その先が重要であると確信した。どうやら、ジョンさんは後ろの方で手こずっているらしい。

 

グール共を倒して奥に進むと、私は人間たちをグールに変える工場を見つけた。

肉塊に囚われた人たちが、肉が腐らされ、眼球がこぼれ落ちて、肌色が黒く変色している。

 

私はこの凄惨な現場に怒りを覚えながらさらに奥へ進んだ。

 

そして奥には、元凶と思われる人物が、私を待ち構えていた。

 

「えっと、死徒かしら?それとも魔術師?」

 

「その、両方だ」

 

「うわ、最悪。私が戦ってきた中で非道な奴はみんな、人外か魔術師だったけど、それを合体させちゃっているのね」

 

「私の計画を止める気か」

 

「ええ、仕事ですから」

 

私と奴は同時に飛び出した。

爪と刀が打ち合って、火花が散る。

 

奴は怪力で強引にねじ伏せるような戦いをしていた。

だから私は、迫る爪を丁寧に受け流して、地道に攻撃を当てればいい。

だが、奴の膂力はあの時の鬼化けした魔術師よりも上で、受け流すのも一苦労だった。

このままでは、体力がほぼ無尽蔵な彼に押し負けてしまう。

 

隙さえあれば、帯に差し込んでいる銃を撃って、効果があるかどうか試したい所だが、そんな暇はない。

 

今一刀になったら奴の攻撃を捌ききれない。

 

そこに一つの要素が、この場所に到着した。

 

「武蔵!大丈夫か!こんな気味悪い場所なんてとっとと抜けたいんだがな」

 

ジョンさんが、銃声と共にこの場所に到着した。

 

不意打ちの弾丸に、奴は足を撃ち抜かれ、バランスを崩した。

 

「ツッッ、………………」

 

その隙を私は逃さずに奴の右腕を切り捨てた。

 

どうやら銀の弾丸には効果があるようで、あの弾丸を食らった瞬間、奴の顔は完全に引きつっていた。

 

何というか、死徒には感情がないものだと今まで踏んでいたが、どうやら、まだ感情が残っているようだ。

 

「よっしゃ、洗礼された銀の弾丸は効くようだな。奴め、膝擦りむいた小僧みたいな反応してたぜ!」

 

奴は一度私と距離をとって、打たれた膝の回復に専念しようとした。

だが、そうはさせない。私は距離など離す暇も与えずに、奴に切りかかった。

 

私はさらに左腕を落として、勝負が着実に勝ちへ転がっていることを確信した。

 

さらに首を刎ね、頭に銃弾を撃とうとした時、死徒の口が歪んだ。

 

私はすぐに体勢を変えて、距離を取ることになった。

 

「ジョンさん、私に当てても際構い無しです。奴の隙があったらバンバン撃ってください!」

 

「おいおい、そんなヤバいのか、あのバケモン」

 

ジョンさんが銃を構えながら焦り始める。

 

「ヤバイもヤバイ。こいつ、私が戦ってきた中で一番強いから!」

 

死徒の腕は再生して、足の傷跡もゆっくりではあるが埋まっている。

図体は大して変わっていないが、さっきまでの奴とは雰囲気が違う。

 

「いくぞ、化け物、この宮本武蔵が死ぬまで地獄で付き合ってやる!」

 

直後、私は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

誤魔化せる力量差じゃない。

今まで戦ってきた剣客とは違う。生物としての格の違いが、今の一瞬で思い知らされた。

こんな攻撃を防御せずに食らったらひとたまりもない。

 

「クソッ、武蔵!!」

 

彼が引き金を引いた瞬間、奴も動き出した。

地面にクレーターを作ってジョンさんの方へ飛び出した。

 

私はそうはさせまいと剣を投げたが弾かれた。

 

奴はまず、自分の弱点をつける者を潰す気だ。

つまり、奴はまだ洗礼された銀の弾が効くということになる。

 

私は一直線に奴へ駆けて刀を振り下ろす。

彼は私が『ジョンさんをここで失っては勝てなくなる』と考えていると思っているだろう。

そこに隙がある。

 

奴は私の刀を掴み、どこかへ振り回そうとした。

私は掴まれた刀を離して何処かに投げさせ、拳銃を構えた。銃の心得はないが、この間合いなら何発でも当てられる。

 

引き金を何度も引き全弾を奴に命中させた。

 

奴の動きは完全に鈍り、鋭い爪は消えていって、消滅までの一歩を歩める筈だった。

 

油断していた私の頰に拳が飛ぶ。

 

六つの弾丸を食らっても奴は生を繋ぎとめていた。

 

私は何とか踏み止まって、奴の顔に殴り返した。

しかし、このまま殴り合いという訳にもいかない。

 

腕力はあちらの方が圧倒的に強い。あと二度も同じ拳を食らったら、私の頭蓋骨が完全に破壊される。

 

かといって、今から剣を抜ける余裕もない。そんなことをしていたら、その隙に殴り殺される。

 

「武蔵!」

 

ジョンさんが何かを投げてからこちらを呼んだ。

彼はきっと、何か私が優位になるものを投げたはずだ。

それが此処に届くまで、あと一発の拳が私に飛んでいる。

私は持っていた拳銃を鈍器として、奴の拳に叩きつけた。

そして力負けして手が離れ、拳銃は形が歪に曲がりながら、どこかへ飛んでいく。

 

ジョンさんが投げたのは鞘から抜いた刀だった。それを確認すると、刀を掴んで奴の腕をもう一度落とした。

 

「それはジャパンからの輸入品で、『水』を司るとされている刀だ!使え!」

 

「オーケー、ありがとう。ジョンさん。これで、切り刻める!」

 

しかし、私が切ろうとした瞬間、奴は後ろに飛んで切られることを回避した。

この隙を私が逃してしまった理由はただ一つ。

 

この死徒と私の間が、大きな肉壁によって阻まれたからだ。

 

奴はグロテスクな肉の壁で自身を囲んでいた。

 

「ジョンさん、試しにこれ撃ってみて」

 

「おう」

 

打ち出された銀の弾は、壁にのめり込んで、そのまま飲まれてしまった。

 

どうやら、弱点である銀の弾丸さえも傷もなく飲み込んでしまう壁のようだ。

奴はこのまま泣き寝入りを決め込むつもりだろうか。

 

私は投げた刀たちを拾って壁の前に立った。

 

「ジョンさん、私がこの壁を壊すから、その間に奴にその弾丸で頭撃ち抜いてもらえます?」

 

「ああ、俺の腕ならケツの穴だろうが、眉間だろうが撃ち抜いてやるが、武蔵はこの壁を破れるのか?」

 

「ええ、私の閃きは結構当たるのよ。いいから見てて、そして必ず撃ち抜いてよ」

 

私は刀を鞘に入れ、集中する。

 

━━━南無、天満大自在天神。

 

仁王が浮かぶほどの剣圧を、奴とそれを守る壁にぶつける。

 

「仁王倶利伽羅、小天象」

 

剣を抜いて、たった一つの攻略策を繰り出す。

 

「ゆくぞ、━━━━剣豪抜刀」

 

「━━━━━━━伊舎那、大天象!!」

 

渾身の一撃で、私は肉壁を、飲み込ませる間もなく断ち切った。

 

そして、中から執念だけで身を再生させようとする死徒が露わになった。

 

「ジョンさん!!」

 

「言われずとも!」

 

彼は魔術師の頭を撃ち抜いて、完全に殺した。

奴を囲んでいた壁の残骸が崩れ落ち、奴自身も消滅した。

 

「かっっっっっっっっっっった〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 

私は勝てたことが嬉しくて、思いっきり叫んだ。

一気に力が抜けて、その場にストンと座る

 

「おい、武蔵。喜んでいるところ悪いんだが…」

 

ジョンさんが気まずそうに私の肩を叩く。

 

「どうしたんですか?ジョンさん」

 

「ここ、崩れるみたいだ」

 

「嘘ぉ」

 

私達は急いで今にも崩れそうなほど軋む地下水路を抜け出した。

町から抜け出した頃、ジョニーさんが人を連れて迎えにきてくれていた。

 

ジョンさんとジョニーさんはハイタッチしたりして、英語で無事であることを説明してくれているようだ。

 

私は彼らにつられて、元いた町に帰ることができた。

 

 

 

そして、その日は、酒屋で飲み明かすことになった。

ジョンさんによると、飲み放題だそうなので、わざと高価そうな酒を飲んでやった。

私は酔潰れる前にジョンさんに聞きたいことが二つあったので、彼の席の横に座った。

この相談の内、二つ目は完全に酒の勢いであったことを覚えている。

 

「ジョンさん、この刀は?」

 

「え?水を司る刀か?それはやるよ。お前は取引以上の働きをしてくれたからな」

 

「ありがとうございます。それと、もう一つ。私の話を聞いて頂けませんか?」

 

「ん?どうした?」

 

「私って、別世界の宮本武蔵なんですよ…」

 

「ほう。え?なるほど」

 

彼は半分分かっていて半分分かっていなさそうな顔だった。

だが、私は彼の理解などに構っていなかった。

 

「他の世界の宮本武蔵はみんな男なんです。いや、男が良い、なんて話じゃないんですけど、私だけ、他の宮本武蔵と違うんです。私は世界を沢山超えて、その事実を突きつけられました。……どうなんでしょう。私は宮本武蔵として間違っていると思いますか?」

 

「すまん、お前の質問にはしっかり答えるんだが、まず、他の世界のジョン万次郎について知っているか?」

 

「まぁ、話くらいなら聞いてます。真面目で前向きだった。とか、勤勉だったとか」

 

「じゃあ、アメリカにずっと居たいと駄々こねてテンガロンハットを放さないジョン万次郎はいるか?」

 

「私が聞いた中では、いないです」

 

「そうか。でも、俺はそんな事実を知っても、自分はジョン・マンつまりジョン万次郎だと言い切れるぜ。どうしてかって?俺がこの世界のジョン万次郎そのものだからだ。他の世界線になんてビビることはねぇ。そもそも、その他の世界線のジョン万次郎の性格が真面目なんてどこから聞いた?他人から見た記録だろ。その歴史が違っている可能性もある」

 

彼は酒のせいか、大きく身振り手振りをしながら熱弁していた。

 

「すまん、これ以上広げたら、朝まで語っちまう。結論だけ言おう。お前が宮本武蔵そのものなら、宮本武蔵と恥じることなく名乗れ!」

 

「なるほど…」

 

歴史が違う可能性。

これは橙子さんも言っていた。

 

確かに私は、他の宮本武蔵に翻弄されていた。

宮本武蔵ならこうあるべきだ。宮本武蔵ならこれほどの強さのはずだ。

そんなプレッシャーが、他の世界の宮本武蔵を知るほどに重くなっていた。

 

ただ、説得しやすいという便宜上で使っていた『ただの同姓同名』の文句が、私は本当の宮本武蔵ではないと逃げる為に使っているようになったくらいに。

 

「それじゃあ、俺はあっちの席に行ってくる」

 

ジョンさんはジョッキを持ちながら、英語で大きな声を出して、他の席に向かっていった。

 

私は今でも酔っていたが、さらに飲みたい気分になった。

もう、私はどうすればいいのか分からなかったからだ。

今まで考えることを放棄してきたが、いざ考えるとなると、やはり辛いものだった。

 

「マスター!!それ!!」

 

(あ!!日本語通じないんだった!!)

 

私が焦っていると、通りかかった人が私の欲しかったお酒を頼んでくれた。

 

「隣いいですか?」

 

巫女服を着た女性が、私の隣に座った。

 

「いいですよ。全然」

 

「ありがとうございます。同じ女の人がいて良かったです」

 

彼女の佇まいにはどこか暖かさがあった。

 

「えっと、貴方は?」

 

「私はあなたと同じ流浪の者です。宮本武蔵さん」

 

「へー、地変だったでしょう。マジで」

 

「はは、確かにそうですね。マジで大変でした」

 

彼女の放つ雰囲気はとても柔らかいもので、このむさ苦しい男が集まる酒場でも、この場所だけは、自分を曝け出せて、とても話しやすかった。

 

「私は聖堂教会と協力して、彼らに洗礼された銀の弾丸を支給したんです」

 

「へー、だからあんなに沢山の弾があったんですね。でも、あの…教えとか違いません?」

 

「そこは目標が同じだったからですね。彼らもあのグール生産工場を止めたいと思っていたので、簡単に手を組めました」

 

「それにしても、ここに来て巫女服ということは、あなたも日本人ですよね!」

 

私は確認するように聞いた。

 

「はい。勿論ですよ」

 

私と彼女の話は、中々に盛り上がってしまい。

一刻も話せば、親友のように打ち解けてしまった。

 

そして、私は酒のせいもあってか、彼女に今胸中に抱えている問題を、いつの間にか打ち明けていた。

 

「なるほど、貴方は自分から神隠しに遭う体質みたいですね。そして、他の世界の自分を見て、自分が何なのか分からななってきたんですね。分かります」

 

「分かるのぉぉぉぉ…。ほんとさぁ、観音様には感謝しているけど、そこんところどうにかして欲しいわよね〜」

 

「私は誇りを持てばいいんだと思いますよ。私はこの世界代表の宮本武蔵だって」

 

「誇り、ですか。ゴミじゃない方の」

 

「ゴミじゃないですよ」

 

誇りか、と私は今までの自分の行動を思い出した。

しかし、誇りになるようなことは思い出せなかった。

私は誰かと取引してばっかりだった。

人に感謝されることはあっても、自身の正義感から働いたことはない。

 

「私、そんな誇れることしていませんよ」

 

「ネガティブになっちゃダメですよ。人は良い事をしたから誇りを持つのではなくて、自分のやったことが満足できたから誇りを持つんです。貴方は自分の行動に満足してますか?」

 

「満足……してます」

 

ああ、どんな汚い人生と罵られようとも、私はこの生き方に満足している。

 

「なら結構。貴方には誇れるものがあるんですから。それを誇りなさい」

 

そうだ。自分の人生は素晴らしい物だと胸を張って言えずに、究極の一に勝てる道理などない。

 

「ありがとうございます。巫女さん!参考にします」

 

「どうも。ストレンジャーの貴方の一助になれて、私も嬉しいです」

 

きっと、他の歴史の偉人たちもそう言うに違いない。

他の世界なんて、気にする必要はないのだ。

 

私は憎っくき新免無二斎を親に持つ宮本武蔵だ。

名乗る過程が適当だったとしても、正真正銘の宮本武蔵だ。

 

さて、宮本武蔵がゲシュタルト崩壊する前に、決意しよう。

私は、宮本武蔵だ。

 

そうしてその日は飲み明かし、私はこの町を出た。

 

 

 

 

私はこの日、ようやく自らを誇りを持って『新免武蔵守藤原玄信』だと、『宮本武蔵』だと名乗れるようになったのです。

 

 

 

 

「長くなっちゃったわね。今日はここまででいい?」

 

「大丈夫ですよ」

 

一度時計を見て遅くなっていることに驚いた。

俺はどうやら、彼女の話にかなり聴きこんでしまっているらしい。

 

「じゃあ、私が出会ったクソ親父に迫る実力者の話は明日にしましょう。さらに私がお天道様のようだって言われた意味を理解するお話付きです」

 

「分かりました。それじゃあ、また」

 

「ええ、また明日、この時間に」




アメリカの料理ってとにかく量が多いんですよね。
それで、全然食べきれなかった思い出。

そういえば、皆さんは水着可愛すぎ武蔵を所持していらっしゃるでしょうか。
アメリカン水着ガンソード武蔵は私の一番大好きな再臨です。
しかし天女水着大剣倶利伽羅武蔵も大好きです。
さらに競泳水着スポーツチャンバラ武蔵も大好きです。

ついでを言うと、星4礼装ハイビスカス水着右下りゅーたん武蔵も大好きです。
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