女武蔵の五輪書   作:新川翔

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最終話は文字少なめです…申し訳ない……


空の巻 五日目

「……待ってください」

 

彼女の話を最後まで聞いた俺は苦笑した。

世界はここまでも残酷だと思い知った。

 

「つまり、貴方は役割を果たしたから捨てられるってことですか?」

 

「多分ね。その場所の詳細は分からないけれど、切るべきものを全て切り、行くことのできる世界を失くした私は、どこかに放り込まれるのでしょう」

 

消えかける彼女の足元を見て、彼女の消滅がただのサーヴァント消滅ではなく、もっと恐ろしいものであると実感した。

 

「逃げたくならないんですか?どうにかしようと思わないんですか?」

 

俺は彼女に問いただした。

つまり彼女はこの五日間、転移に対する対策を何もせずに悠々と自分の過去を話していたということだ。

彼女はどうしてそこまで落ち着いていられるのだろうか。

 

「う〜ん。こればっかりはしょうがないからね。どうやら私がこうなっちゃうのも、世界の意思みたいなものらしいし」

 

それで、その処置を受け入れるということか。

 

「そんな…」

 

「ああ、これって『生きるの飽きた〜』とかそういう諦観的な理由じゃないわよ。不可逆な事態だから受け入れるしかないってこと。だから出来るだけ悔いがないように過ごしてきたわ。私は私が轍を残した全ての世界で悔いのないよう努めてきました。おかげで心残りは後一つだけです」

 

彼女は言葉を失う俺を見て言葉を訂正した。

もしも、抗えない事態になったら、それを認めなければその不可逆に雁字搦めになって身動きを取ることができなくなるということだろうか。

 

「本来、この世界にも来るはずがないんだけどね。ほら、私が漂流(ドリフト)をする時って、星みたいな光が見えるって言ったじゃない。あれって私が行ける世界の数を表しているみたいで、別の世界に行く度に数が少なくなっていったの。そしてあのオリュンポスが最後の世界、そう思ってた」

 

「だけどこの世界が最後だった、という訳ですね。……それでその、もう一つの心残りってなんですか?」

 

「心残りね…」

 

彼女は窓から都会の光に負けず輝く一等星が雲で隠されていく様子を見た。

 

「あの子、そしてあの子のサーヴァントのこれからを見たいなって。うん、これ完全にわがままなんだけどね」

 

「そうですか。たしかにわがままですね」

 

彼女の姿はみるみる消えていく。

 

「最後に、誰かに記憶を預けられて良かったです。それじゃあ……」

 

別れを言おうとした彼女はぽかんと口を開けた。

そして、少しづつ青ざめていく。

 

「私、君の名前聞いてない!」

 

「そういえば、そうだった!」

 

「馬鹿ですか、貴方達」

 

俺の従者が半ば呆れていた。

 

「あ、俺の名前は平田武揚です」

 

「うん。いい名前じゃない。それじゃあ、君に私の記憶を預けます!こんな女の宮本武蔵がいたと、覚えておいてください」

 

「はい。それで、あの…言いずらいことなんですけど」

 

俺はこの五日間言いそびれていたことがあった。

 

「何?この際だから、言って早く!」

 

「この世界の歴史に、宮本武蔵なんて人は、記録に残っていないんですよね」

 

「へー……嘘でしょ!?ここ、日本よね!?」

 

「はい、日本です」

 

「うん。まぁ、中にはそんな世界線はあるわよね……え?」

 

女武蔵は信じられないと言わんばかりの驚いた表情をした。

 

「どうしたんですか?」

 

「いやいや、何でもないわ。今度こそ、じゃあね!」

 

「はい、お元気で、宮本武蔵さん」

 

彼女は輝かしい笑顔を浮かべて、うっすらと消滅した。

 

 

 

「アサシン、話があるんだけど、ちょっといい?」

 

「何でしょうか、マスター」

 

取り残された俺たちは、作戦会議に戻った。

 

「この聖杯戦争、俺たちは運良く生き残ってきた。明日くらいには決着がつくだろう」

 

「確かに、明日に残り全ての勢力が激突すると思われます。それで?」

 

「奥の手を使って、この戦争に勝って、彼女のわがままを叶えよう」

 

「マスター、それは…」

 

アサシンは口をつぐむ。

確かにあの奥の手はいずれ来る結末を早めることになる。

 

「覚悟の上だ。手段の見て見ぬふりはできない」

 

「どうしてマスターは彼女にそこまで執着するのです。元々、彼女の話を聞いて消滅まで待ったのは、彼女の霊基を活用するためでしょう」

 

「ああ、そのつもりだった。でも話を聞いていたら気持ちが変わった。そもそも、彼女の話を聞く限り、消滅とは言っても霊基が弱まる訳じゃないからな。利用はできないよ」

 

「しかし、アレはマスターの一族をここまで陥れた厄災なんですよ」

 

「でもいつか俺はアレを手にしていたと思う。時期が早まっただけだよ」

 

「何故わがままを叶える気になったか、理由を聞いてもいいですか?」

 

彼女は真剣に、こちらを見据えた。

その手には暗殺用の短刀が握られている。

本当に殺すつもりはないだろうが、彼女のその態度は、真摯に答えろというメッセージだろう。

 

「ああ。結論を言うと、彼女は俺を救ってくれたんだ。それの恩返しがしたい」

 

「というと?」

 

「彼女は自分の運命を悟っていながら、この五日間、自然体で快活に笑って彼女の旅路を語ってくれた。俺って許可がないと部屋に入れないほどネガティブだからさ、どうしても破滅的な未来を怖がって、その事で頭が一杯になるんだけど、彼女は結末さえも受け入れて、『なら道中を楽しもう』って姿勢だったんだ。本当に、憧れた。だから俺も破滅を恐れず受け入れて、ついでに彼女へ恩を返そうと思ったんだ」

 

アサシンは俺の話を聞くとゆっくりと頷いてくれた。

 

「マスターがそこまで言うなら、私は止めません。私は貴方のサーヴァントですし」

 

俺たちは地下の工房へ移った。

そこには、呪いと霊を集める細工の正体がある。

魔剣、ティルフィング。

黄金で彩られたこの剣は、持ち主に抜いた本人に必ず勝利を与え、三つの願いを叶える代わりに、滅びを与える剣だ。

平田家の一族はこれに運命を翻弄されながらも、これを利用して霊や呪いを集め、魔術の道具としていた。

 

「しかしマスター、彼女を幽閉したのが世界の意思ならば、道理を変えようとすれば、カウンターによって阻止されるかと」

 

「確かに、カウンターにやられる可能性はある。でも、抜け道がない訳じゃない。そもそもアレらに見つからないようにすれば、バレないよ」

 

「それも、相当に難しいと思いますが」

 

「少しだけ彼女に報告に参上するくらいはできると思う」

 

俺は黄金の剣を手に取った。

所有権は俺に移され、不可避の呪いが体を侵食する。

 

もう、逃げることはできない。

 

 

 

 

 

 

 

1人の娘を見送った母がいた。

彼女は特異な体質であり、生きること自体に困難を極めた。

 

それは彼女の子ども自身にも遺伝し、その子供は父から虐待を受けることとなった。

彼女はそのことを酷く悲しんだ。

贖罪のためにも、彼女はその子供を心より愛した。

夫の手前では可愛がることができなかったが、できる範囲の愛は注いだ。

 

そして、ある日、娘が旅立ちを決意した。

 

彼女の時もそうだった。彼女の悲しい人生の始まりは、自発的な旅だった。

これから彼女が同じ道を辿らないように、彼女は最後にまじないを二つかけた。

それは、彼女の娘が、応援してくれた故郷の人々の顔を忘れるようにするものだった。

 

彼女が旅立ち、熾烈な道程の中で、出発する時の期待を向けられた顔が足枷になった。あの顔が、私の中に居座って、『いつになったら目標を達成するのか』と言っていた。

娘にその足枷を外すために、顔は思い出せないくらい忘却させるのまじないをかけた。

 

そして、もう一つは、最後に彼女のいた場所に戻るまじないだ。

これは彼女自身の眼を使ったオリジナルの魔術であり、試したことがないため、成功するかどうか分からなかったが、最後の最後は故郷に帰ってきて欲しいというか願いがあった。

 

娘を見送って、屋敷に戻ろうとすると、数人の武士たち足音が聞こえた。

 

「彼女はどこにいますか!?」

 

彼女の出発したと思われる方向へ指をさした。

 

「ありがとうございます。では」

 

足音が次第に遠くなる。

私は再び屋敷に足を進めると、あの予感がした。

別世界飛ぶ穴が開く予感だった。

 

まさか、娘もう飛んでしまうのかと思ったが、そうではない。

このお迎えはきっと自身の物だと直感で感じ取った。

あとは人目を盗み、放浪していた時の格好になって、世界を飛んだ。

 

降り立ったのは荒野だった。

辺りにはグールが蔓延っていて、異臭が漂っている。

その場をなんとか乗り切って、聖堂教会との協力をこじつけ、事件の解決の協力をした。

 

その聖堂教会の友人に誘われ酒場に行くと、むさ苦しい空間の中で、太陽のような子を見つけた。

 

思わず近づき、抱きしめたくなる。しかし、それは必死に耐える。

彼女は私の顔を思い出せないようになっている。

突然人に抱きついたら不審者と疑われてしまう。

魔術で声色を変え、彼女の記憶を刺激しないようにしようと心に決め、彼女のいる席へ向かった。

 

「マスター!!それ!!」

 

彼女は酒を指差してマスターを読んでいたが、呂律が良くなく、うめき声と勘違いされているようだった。

私は彼女の代わりに彼女が指差した酒を注文して彼女に尋ねた。

 

「隣いいですか?」




武蔵ちゃんがピックアップされてます。
是非!よろしくお願いします!

それと、評価やコメントを頂けたら喜びます!

武蔵ちゃんの世界線って、宮本武蔵という名の剣豪は歴史に残っていないそうです。
彼女は『日本有数の剣豪』として扱われていないそうです。
(マテより)
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