2016年4月6日 午後5時21分(日本標準時) アメリカ合衆国ワシントンD.C.
世界を支配するためには3つの力が必要だと言われている。
暴力。
財力。
権力。
この3つの力を持つ人間こそが世界の支配者に相応しい。
そして、この3つの力を全て高水準で保持する人間こそが、世界最強国家アメリカ合衆国の大統領である。
「……すいません、大統領。もう一回言っていただいてもよろしいですかねぇ?いやさぁ、聞き間違いだと思うんですわ。まさか、世界最強国家たるアメリカ合衆国の大統領が、そんな馬鹿げたこと、言いませんよねぇ?」
「ふっ、何度も言わせるな、テンペスト。
アメリカ合衆国第47代大統領、ジョージ・F・C・K・カルナヴァルは世界最大最強の
とても物騒な話を。
「……大統領、俺たちは所詮
「十分な報酬は提示しているだろう?前払いで5億ドル、後払いで10億ドル。振り込みが不安だというのならキャッシュで払おうじゃないか。あるいは貴金属、宝石の類で払ってもいい」
「大統領。分かってるでしょアンタ。……コイツは金の問題じゃあ、ない」
「ほぉ、では何の問題だ?この俺の、世界最強国家たるアメリカ合衆国の大統領たるこの俺の依頼を、一
「脅しですかい……?」
そもそも今、たかが世界最大最強の
それでもニコライが今ホワイトハウスにいるのは、カルナヴァルが秘密裏に招いたからだ。
カルナヴァルはそれだけニコライを信用しているし、ニコライにできるだけ誠意ある対応をしたいと考えていた。
「脅し?お前、何か勘違いしているようだな?……俺は世界最強国家たるアメリカ合衆国の大統領で、お前は世界最大最強の
「そいつは物騒な話だ。……大統領としては、ね」
つまり、一個人としては罰することができる、と言っているのだ。
そして言うまでもなく、アメリカ合衆国大統領であるカルナヴァルが一個人として動かせる暴力、財力、権力はニコライを圧倒する。
ニコライの経営する会社をも圧倒する。
「……分からないか、テンペスト。俺はお前を勝者の側に入れてやる、と言ってるんだ」
「……大統領。アンタ、自分が何を言ってるか分かったんですかい?俺は、アンタが気を違ったとしか思えねぇんですよ」
「テンペスト」
「そりゃ、俺たちは
「テンペスト」
「だが、アンタの企てる『
「テンペスト!」
「大統領、俺は……どうしても、どうしてもそいつを許容できない」
「――――――」
「大統領。大統領は家族を愛していますかい?」
「当然だ。1度どん底まで堕ちた俺を、妻は変わらず愛してくれたからな」
「俺も、家族のことを愛してるんでぇ。……俺は確かに人殺しで、どうしようもねぇ悪党だが、戦争を起こす側には回りたくねぇですよ。……そこまでは堕ちたくねぇんですよ」
「…………………………………」
戦争を止めるために暴力を振るうことを正義だというつもりはない。そもそも、人を殺している時点で正義を語るなんて滑稽極まりないのだから。
だが、そんなニコライにも譲れない一線というのは存在する。
ニコライは昔も今も確かに、世界に溢れる悲劇を少なくするために暴力を揮っているつもりだ。
例えそれが、独りよがりの勘違いだったとしても。
「テンペスト、軍時代、お前には多大な世話になった。俺は今だってお前に対する感謝を忘れたことはない。俺が大統領になれたのも、テンペスト、お前の支持があってこそだ」
「……………ジョージ」
「もう1度だけ言うぞ、テンペスト。
「……………………」
「社員も、家族も、何だったらお前の知り合い全てを勝者の側に入れてやってもいい。――――――俺の手を取れ、テンペスト・G・ニコライ!」
そう言って、アメリカ合衆国第47代大統領、ジョージ・F・C・K・カルナヴァルは頭を下げて右手を前に出した。
一国の
だから、それを察したうえで、それでも。
それでも。
「ジョージ、お前の評価は素直に嬉しいと思う。……だが、俺は家族を裏切れない。娘は、……笑えることにな、俺を、俺のことをまだ『
「……………………テンペスト」
「ジョージ。お前の言っていることも分かる。頭のいいお前のことだ。きっと、お前は正しいことを言っているんだろう。……だが、俺は、家族を裏切れない」
「………………………………」
「すまない、ジョージ」
「そうか、……そうか…………………」
ニコライはカルナヴァルの手を取らなかった。
否、取れなかった、というべきだろう。
生来からの正義感がニコライにそれをさせなかった。
だから、ニコライの人生はここで終わりだった。
カルナヴァルが顔を上げる。
カルナヴァルは酷く残念そうな表情をしていた。
「テンペスト、実を言うとな……、何となく、お前はそう言うんじゃないかと思っていた」
「本当にすまない、……ジョージ」
「
「何?」
「
瞬間、ニコライは自分の身体の自由が利かなくなったことを自覚した。
(……は?……何だ、これは!?)
身体がピクリとも動かない。心臓は動いているし、呼吸は問題なくできる。血液も回っているし、思考することはできる。生命維持活動に必要な全ての行為は問題なく続行されている。だが、それ以外の活動が全くできない。
四肢を動かせない。口を開けない。筋肉に力を込めることも、瞬きをすることもできない。
何だ、これは?
これはいったい、どういうことだ!?
「
鼠?鼠だと?
確かに、触った。
大統領でペットで逃げ出したから捕まえてくれとメイドに言われ、ここに来る前に捕獲してメイドに渡した。
だが、だから何だ?それが何だというのだ?
「あれは日本の
二の句を告げなかった。
(な、ん……!?)
ニコライはそんな兵器が開発されたとは噂レベルでも聞いたことがなかった。世界最大最強の
「だから残念だよ、テンペスト。お前を支配しなくてはならないとはな」
身体が動かない。
鼓膜を破ってカルナヴァルの声を聞かないようにすることも、拳でカルナヴァルを黙らせることもできない。
つまり、詰みだった。
この場に、カルナヴァルのホームグラウンドに来た時点でニコライの敗北は決まっていた。
「そのまま眠れ、もう、お前と会うことはないだろう」
そして、ニコライの意識は落ちた。
ニコライが目を覚ますことは、もう2度となかった。
2016年4月6日 午後5時30分(日本標準時) 横須賀港より南南西80キロメートル付近 航洋直接教育艦『時津風』艦橋にて
陽炎型航洋直接教育艦『時津風』航洋艦長にして秘密結社『ワダツミ』革命派首魁、
「それじゃあ、『オケアノス計画』を始めましょう、……ふぅ」
今話のサブタイトル元ネタ解説!
枯野瑛による日本のライトノベル、『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』のアニメ版第5話サブタイトル。
さてさて、これで『プロローグ-症-』は終わりです。次話にいつも通り『
『プロローグ-顛-』はガントリーキャッチャー編です。『いんたーばるっ』の第1巻を読了しておくことを勧めます。
感想、高評価、ここ好きをいただけますと大変やる気が湧いてきます!よろしくお願いいたします!!!
表紙絵の感想は?
-
素晴らしい!
-
特にない。