どうして続いたんですか?(電話猫)
※ミュウカスは言語機能をアップデートしたので違う語録も使えるようになりました。
シルフカンパニーがロケット団に占拠された──という報せを聞かされたのは、グレンジムで名前がカツラなのにハゲてるおっさんから7個目のバッジを貰った後の事だった。
なんだかんだで長く因縁が続き、あの日初めて森で遭遇したロケット団のおっさんをギルガルドでしばき倒して人質として利用し侵入。障害を排除しながら最上階に到達したとき、そこで見たのは気絶したシルフカンパニーの社長と──
「──この私の前に立ち塞がるのが、こんな子供だとはな」
「……あんたがサカキか」
「いかにも」
『おいやべえよやべえよ……物凄い衝撃、朝飯食ったから……』
スーツを着こなした、さながらマフィアその者のおじさんだった。服の中で肌が粟立つ感覚からわかるように、こいつは間違いなく強い。
なにせコートを鷲掴んで後ろに隠れるミユウが、明らかに怯えていたのだ。
「ふ、ふふ。幼児連れの子供に負けるとは、ロケット団も名折れだな」
「じゃあとっとと解散して、お縄につけよ。どれだけの人間が迷惑したと思ってる。どれだけのポケモンが傷付いたと思ってる」
「さて、な。逆に聞かせてもらうが、お前は倒した野生のポケモンに対してこう思うのか? 『痛め付けられて可哀想だ』などと」
「よしぶっ飛ばす」
「やってみろ」
ルールなんて知ったことじゃない非公式の野良試合だ、ルカリオを出してインファイトを直接本人に叩き込む。手足へし折って二度と社会復帰出来ねぇようにしてや──────
そこまで考えた私の視界に映ったサカキの投げたボールは、
ぞわりと背筋を冷たいものが駆け抜け、ほぼ無意識に、反射的にレベルボールではなく左手首のヘビーボールを起動する。
「──キングシールドォォ!!!」
左手に掴んで右手を添えて構えたギルガルドにそう指示し、ぐっと足に力を入れた刹那。
──鐘を突いたような轟音と骨に響く衝撃が全身を駆け抜けた。
「ぉ、ごぉっ……!?」
「──エスパータイプの技は鋼タイプに半減させられる。いい判断だ」
『男なら、背負わにゃいかんときはどない辛くても背負わにゃいかんぞ!』
私は女だ。
そう突っ込もうとして開いた口からは呻き声しか出ない。本来なら大抵の攻撃は無効化出来る鉄壁の防御を容易く突破されたのだ。
通常のポケモンではそんな事は出来ない。視界を遮るギルガルドを下ろし、正体を見て、私とミユウは同時に驚愕した。
「驚いたかな?」
「──冗談だろ」
『うっそだろお前!?』
右手にはエネルギーを圧縮して形成した槍のような長さのスプーン。その体は紫とくすんだ白で彩られ、まるで生物のようには見えない生き物という矛盾した姿。
それはあまりにも──ミュウに雰囲気が酷似していたのだ。
「……ミュウ……?」
「いいや、違う。厳密にはミュウのまつげを元に造り出された──人工生命体だ。
名をミュウツー。そこの少女の子供と言っても過言ではない」
突然の問題発言に、私はサカキとミユウを交互に見た。場合によっては事案だぞ。
『ファッ!?』
「……なに言ってやがる」
「この私が、お前のようなトレーナーが意味もなく戦えない子供を連れている理由を考えない愚かな人間だと思うか? とっくに正体は知っていたとも。これのお陰でね」
サカキが懐から出したのは、シルフスコープ。見えないものを見えるようにする特殊な機械だ。──なるほど、『へんしん』した相手の正体も見破れるのか。それは考えていなかった。
「私は驚いた。そして納得もした。幻のポケモンであるミュウがなぜ人間に連れ添っているのかを。レンゲ──お前は間違いなくこの私と同等かそれ以上の強さを持つトレーナーだ。しかし私と違いポケモンを思いやる慈愛もある」
「そうかい」
「だからこそ、惜しいと思った。ポケモンを道具だと割り切って冷徹に接することが出来るなら、お前は私をも越えられただろうに」
「既に勝ってる前提で話を進めるなよ。
途中で回復マシン使ったからうちのメンツは全員無傷だぞ。それに──いや、これはいい」
「ふっ、ミュウも数に入れているのかね?」
「んなわけねーだろ、こいつは守る対象だ。そもそも戦力として期待なんかしてねぇよ」
『この野郎醤油瓶……!』
「うるせぇから下がってろ」
『やだ怖い……やめてください……』
ちょっと突っ掛かる癖にすぐ言い負けるのはなんなんだよ。それは兎も角、シールドフォルムのギルガルドを左手に、右手の指四本に縮めたクイックボールとレベルボール、フレンドボールをそれぞれ挟んで持つ。
「ミユウ、背中に乗れ。テレパシーで私の思考を受信できるようにしとけよ」
『かしこまり!』
指を曲げて手のひらで開閉スイッチを押し、サイズが戻った3つのボールを放る。
中から飛び出したテッカニン・ルカリオ・フライゴンに並び、ミユウを背負ってギルガルドの剣を抜いて並び立つ。
「ミユウをアンテナにして全員にテレパシーで指示を出す。相手はロケット団のリーダーだ、殺すつもりでやるぞッ!!」
「くくっ──かかってこい、挑戦者よ」
ルカリオのはどうだん、フライゴンのりゅうのいぶき、ギルガルドのシャドーボールが同時に放たれ、それを合図にテッカニンが加速の為に部屋の隅に向かう。当然のように無傷のミュウツーを見て、私の頬を冷や汗が流れた。
──頭上で回転させたスプーンが、回る過程で先端をナイフに変える。
凄まじい勢いで伸びてきた切っ先を盾で斜めに受け止め、軌道を逸らしてお返しとばかりにかげうちを放つ。長さを戻したナイフをスプーンに変え、左手を掲げてフラッシュを焚く。
影を消されて威力の削げ落ちたかげうちは途中で消え、死角から落ちてきたフライゴンのドラゴンダイブを即座に三重に貼ったリフレクターで迎え撃った。
そして横合いから伸びたルカリオのかわらわりがリフレクターを粉砕し、文字通り竜のオーラを纏ったフライゴンがミュウツーに直撃する。
「甘いな」
「っ──!!」
離れろ──そう指示した瞬間、フライゴンが居た場所を冷凍ビームが貫く。
部屋の一角に当たり凍らせたそれは室内の温度を幾らか下げる。
自身の頭の上を飛んだフライゴンをサイコキネシスで床に叩き付け、ゴルフのスイングのように振り抜いたスプーンで高層ビル最上階の強化ガラスに叩き付けた。
先端をフォークに切り替え刺し貫こうとするミュウツーの持つそれの半ばにテッカニンのれんぞくぎりが打ち込まれ、腕ごと跳ね上がった事で発生した一瞬の隙にルカリオのはっけいとギルガルドのつじぎりを捩じ込む。
「────ッチィ!」
──が、ミュウツーはナイフに切り替え逆の先端でルカリオの肘を弾き、刃先でギルガルドを受け止めるという技を披露して見せた。
そのまま自身を軸に一回転してその場の全員を吹き飛ばす。
ミユウを背にしたレンゲは背中を気にしてギルガルドを床に突き刺しブレーキを掛けて、口の中に溜まった唾液と血の塊を吐き捨てる。
『おっ大丈夫か?』
「問題ねぇよ」
『何回目の防御だよ攻撃にも限度あり。しかしそのスタミナ
「
下がりつつルカリオがばら蒔くいのちのしずくを受け止めて体力を回復させながらそうぼやく。ミュウツーとの攻防でわかったことは、その実力は幻のポケモンをベースにしているだけあって伝説のポケモンクラス。
攻守どちらも優秀で、スプーンの形状をフォークやナイフに切り替える事も出来る。しかもリフレクターやひかりのかべを当然の権利かのように何重にも貼り出せると来たものだ。
恐らくこの場で唯一決定打を与えられるのは、高速移動の合間につるぎのまいを挟み素早さ・攻撃の両方が最大限に上昇しているテッカニンのシザークロスだろう。
──いや無理だろ。
そうレンゲは思考を纏めて、ミユウと送受信しているが故の頭痛を我慢する。
たった一発当てられさえすればいい。そこまで考えて、一旦切り替える。兎に角今はミュウツーと千日手を続けるしかない。
「休憩は終わりかね」
「律儀に待ってて、余裕のつもりか?」
「余裕……ふ、それはこちらのセリフだとも」
「あぁ? ──ぶぇ」
ギルガルドを杖の代わりにして、立ち上がろうとしたレンゲの鼻と口から多量の血液が流れ落ちた。立とうとして力を入れた足は崩れ、膝を突いて頭を垂れる。
「ぇ、ぅ、おぇ」
「コートが分厚く頑丈だからか致命傷には届かなかったが、よく見てみろ」
『アカン死ぬぅ! 患者が死ぬねんこんなぐらいじゃ!』
下がった視線の先でコートのボタンが壊れて勝手に開かれる。無地のTシャツの中の脇腹辺りの柔肌が、濃い青紫に変色していた。
「ほんの一瞬、掠る程度でも、ミュウツー程の力があるポケモンの攻撃を生身で受ければそうもなる。侮ったな、自身の頑丈さを」
指示が出来ない。そもそも、呼吸が出来ない。視界の端で何度も強化ガラスに叩き付けられるフライゴンを見る。ガラスに亀裂が走り、広がり──最高出力のサイコキネシスにより窓の外に叩き出されて落下した。
「まず一匹」
「ふ、らイ、ゴん……」
慌ててルカリオが集中的に与えてきたいのちのしずくが痛みを和らげ、呼吸を可能にする。ボーンラッシュでスプーンを捌きつつのそれを見て、レンゲは策を思い付き小声で言う。
「ミユウ、奴は喋れない。テレパシーでサカキに聞こえないよう直接ちょうはつしろ」
『えっそれは……』
「やれ」
『しょうがねぇなぁ……』
フライゴンが退場した際の割れたガラスを見て、手に持ったギルガルドを一瞥する。
再度立ち上がるレンゲの背に掴まるミユウは、テレパシーを使いミュウツーに話し掛けた。
『おいキムラぁ、お前さっき俺が着替えてたときちらちら見てただろ』
『──』
『情けない格好恥ずかしくないの? こんなんじゃ商品になんないよー』
『────』
『おし、じゃあぶちこんでやるぜ。ほいじゃケツ出せぇ!』
『──────』
ピタリと、ミュウツーは不自然なくらい唐突に動きを止めた。視界にも収めずルカリオをふぶきで吹き飛ばすと、一度も動かなかった体を動かしてレンゲに向かって浮遊してきた。
「なに、どうしたミュウツー……いや、ミュウにちょうはつさせたのか……!」
「私たちを倒してみろよ、出来るもんならな!」
指を一本立てて、高速で動くテッカニンだけに伝わる合図を飛ばし、レベルボールで凍り付いているルカリオを収納する。
そしてミュウツーに追われながら────窓から飛び降りた。ギルガルドを足元に置いて、落下しながらサーフボードのように窓ガラスに押し付ける。見上げてミュウツーを視界に収めながら、レンゲはミユウに叫ぶように伝えた。
『うわー! 落としたー! ゲームのカード落としちゃった! マアアアアア!』
「戦力に数えてないっつったのは嘘だ! 二秒時間を稼げれば良い! 上に向けて高火力の技を出せるだけ出してくれ!」
『うおっ急にすげえ頼り方……死ぬのかな? クソっ……技を使う度に失うエネルギー……吸い付くされる……俺が俺でなくなる……!』
「お前最近変な電波受信してねぇか!?」
『やかましい! ママ! ここだよ正念場は!
ケツが重力加速度に逆らえず落ちてきているぞ!』
「誰がママだ……それと合図したら真下にリフレクターとひかりのかべを重ねて貼ってくれ、流石に地面に激突したら死ぬからな」
ガリガリとガラスを削りながら、ギルガルドの持ち手を掴んで斜めに立てる。かなりの速度で落下しているレンゲに必死に掴まるミユウは、真上にハイドロポンプを撃ってからだいもんじを撃ち込み、瞬間的に水蒸気爆発を引き起こした。
水蒸気による白い爆風は、ほんの一瞬、一秒にも満たない隙を作り出す。
レンゲたちを追って落下するミュウツーがスプーンを振って爆風を掻き消し────眼前にテッカニンが迫ってきているのをようやく視認した。
『────!!』
「やれ、テッカニン」
『開錠パスワードはぁぁぁぁ!! ご・く・ろ・う・さぁぁぁぁぁぁん!!』
リフレクターを壁にするよりも速く懐に潜り込んだテッカニンのシザークロスが、ミュウツーの胸にバツ印を刻み込んだ。
「──今だっ!」
そして、地面にぶつかる直前で貼られた半透明の壁が、レンゲたちを弾いてシルフカンパニー前の噴水に落下させる。
ギルガルドを盾にしたお陰で、粉砕された噴水の瓦礫で体を痛める事は無かったが、レンゲは全身の流血を水で流しながら完全に意識を失う。
『──!』
遅れて着地し、ようやく膝を突いたミュウツーが、レンゲにとどめを刺そうとしてスプーンをナイフに変えて柄を伸ばし──庇うように立ち塞がったミユウの首元で停止した。
『────』
ミユウは何も言わない。しかし、首にナイフを当てられても尚、退こうとはしなかった。ミュウツーは自身を見るミユウの瞳を見て、伸ばしたナイフを手元に戻すとじこさいせいして体力を元通りに回復させる。
──攻守回復どれもが最上級。
どちらにせよ、どう戦っても、レンゲたちの負けだったのだ。エレベーターで直接下に降りてきたのだろうサカキが入口から現れ、惨状を目にしてから愉快そうに笑う。
「とても10歳の小娘とは思えん胆力と判断力。惜しいな、実に惜しい。ここで死なせるにはあまりにも惜しいが、仕方がない」
手元で紫色のボール──マスターボールを玩びながら、ミュウツーに指示を出す。
「レンゲを殺せ、ミュウは捕獲してお前を強化する実験材料にでもしよう」
『────』
「どうした、何をためらっている」
壊れた噴水の水を被りながらも下がろうとしないミユウと、その後ろで倒れて全身を鉄錆び臭い赤で染めているレンゲを見る。ミュウツーはそっとまぶたを閉じて────そして開き、振り返り様にナイフを振り抜きサカキの手元を打った。
「な、に──ッ!?」
咄嗟に下がって怪我はしなかったが、手元からこぼれ落ちたマスターボールは真っ二つになっていた。サイコキネシスで圧縮するように念入りに破壊すると、どこかスッとした顔色でミュウツーはサカキとミユウの間に立つ。
『──オレは、この二人を尊敬しよう』
「……ふ、そうか。ならば好きにしろ」
『逃がすと思うか──!!』
「いいや、お前は逃がすさ」
なに? と言ったミュウツーは、じくじくと蝕むような胸の痛みに膝をつく。
テッカニンのシザークロスは虫タイプで、エスパータイプのミュウツーには大層効き目がある。つるぎのまいで最大まで威力が上がった渾身のシザークロスは、体力を回復しても尚、体の芯に痛みを残していた。
「もしもそいつが生きていたらこう伝えろ、『8つ目のバッジを取りに来い』とな」
腰のボールホルダーから
『──だそうだ。この
エネルギーの圧縮体であるスプーンを霧散させ、その身を浮かせる。ミユウとレンゲを見下ろして、音も無く真横を飛ぶテッカニンに言った。
『良き刃であった。この痛み、この傷痕。死する時まで我が身に刻む』
わざと回復力を弱めて残した胸の傷痕を撫でると、ミュウツーは不可視のバリアで自身を囲んで光の屈折をコントロールし姿を消す。
『……クゥーン』
明らかに嫌われているミユウは、噴水の中からレンゲを引っ張り出して芝生に横たわらせる。呼吸は浅く、心音も弱い。
ルカリオがいのちのしずくを出せない状態で、病院に運び込む時間もない。
『生きろ、強く生きろ! ニャオー!』
両手に力を込めて、ミユウは必死にいやしのはどうを流し込む。しかし土壇場の出力の弱いそれは、肌に浸透してから臓器に届くまでに効力を失う。
肩で息をするミユウが、意を決したようにレンゲの口を開かせる。
『……お前のことが好きだったんだよ』
口を口で塞ぎ、直接内側にはどうを流し込む。一瞬ビクリと体を跳ねさせたレンゲは、光が収まると呼吸を安定させて穏やかな寝息を立てた。
ロケット団に閉鎖されていたシルフカンパニー周辺にようやく人が集まり始めた辺りで、疲れきったミユウはレンゲの腹を枕に眠るように気を失う。
唯一ほぼ無傷のテッカニンだけが、事の顛末の全てを見ている。
強烈なふぶきで凍結したルカリオは暫く関節が動かせなくなり、強化ガラスに叩き付けられたあと受け身も取れずに地面に落ちたフライゴンは羽と体のあちこちが折れていた。
ギルガルドはガラスを削りながら落下したせいで刃こぼれし、当のトレーナーのレンゲは、丸々一ヶ月を療養に費やすことになった。
──それで終われば良かったのだが、二週間目辺りでレンゲが病室から抜け出した事をナースが知り、この事でひと悶着起きるのは別の話。
・ミュウツー
この作品における全面的な被害者。イカれたポケモンのまつ毛をイカれた科学者が利用して造り出した悲惨な生命体。
誰が生んでくれと頼んだ…………マジで……。
尚、自分に食らいつくレンゲに興味を持った模様。ふん、おもしれー女(似たもの親子)
・ギルガルド(サーフボードのすがた)
トレーナー本人であるレンゲの剣にして盾。たまに自分だけで動いたりもする(本来の役割)
実はヒトツキの時からの付き合いで、その頃から既にレンゲ専用装備として使われていた。
・いやしのはどう
ミュウが使えるかはわからんが、ミュウツー(配布版)が使えるならオリジナルも使えるでしょ。
大胆な告白は女の子の特権。よって四章は純愛。