「ところで、そちらのお嬢さんは?」
「わ、私はアイリといいます。さっき、草むらから飛び出してきたキリキザンさんに襲われて…」
「あぁ、ごめんね。…もっとポケモンたちの管理をしっかりしなくちゃな…」
俺はふと気になっていたことをアイリに訊く。
「あのさ…なんでまた、こんな田舎町に?この町、博士の研究所くらいしかないけど…」
アイリは答える。
「『しっこくのいし』……って、ご存じですか?このメン地方に存在している、と言われている石なのですが」
しっこくのいし…?
と、博士がそれに乗っかる。
「しっこくのいし……ひょっとして、メン神話に登場するあの石かい?…ちょっと待ってて」
博士はそう言うと、研究所の奥に引っ込んだ。
メン神話…?
博士は少しして、色々な資料を持って戻ってきた。
「おまたせ。これだよね?『心読ミシ者、漆黒ノ石落トス。心護リシ者、黒キ腕輪授ケル』……この、漆黒の石が、どうかしたの?」
アイリが答える。
「はい。私はその石を探しています。理由は…私のヒトツキさんです」
アイリはそう言うと、とある本を鞄から取り出した。
「この本によると、私のヒトツキさんは特殊な個体で、進化するのに『しっこくのいし』が必要になるみたいです」
博士は驚く。
「進化に漆黒の石が必要…!?……それは興味深いね。ちょっと調べさせてもらってもいいかな?すぐ終わるし、ポケモンには絶対に危害を加えないからさ」
「え、あ、いいですけど…」
「ありがとう!ちょっと待っててね」
博士は再び、研究所の奥に引っ込んだ。
不意にアイリが言う。
「…ありがとう、ございました」
「え?」
「私、仮にもポケモントレーナーなのに…ヒトツキさんを守れなかった…こんなんじゃダメダメなんです…」
「…俺も、ヒノアラシを守れなかったけど…」
「違うんです。あー、えーと…お名前、聞いてませんでした…いいですか?」
「名前?レン。…それで?なにが違うの?」
「レンさんですね。……レンさんとヒノアラシさんは、こう…いきいきとしていたんです。二人で、心を通わせていたんです。…それが、私はポケモンさんを相手にすると、なにもできなくなってしまうんです。足がすくんでしまいます。…怖いのです。自分のポケモンさんが傷ついてしまうことと、相手のポケモンさんを傷つけてしまうことが」
「…なるほど」
アイリは続ける。
「あの…本当にわがままで自分勝手なことはわかっています。でも、お願いします。…レンさんの冒険について行ってもいいですか?私は、ヒトツキさんと二人きりだと、上手くいかないんです。さっきのことだって、レンさんやルドルフさんがいなかったらどうなっていたことか…」
…えーと。
「まあ別にいいんだけど…」
実は、「別にいい」どころか、すごく嬉しい。かわいいし。やったぜ。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「お話は終わったかな?」
急に博士が戻ってきた。
「わっ…びっくりしました」
「ごめんね。…大きなお世話だと思うけどね、アイリちゃん。ポケモンはいつでも僕たちの見方なんだ。もちろん、ポケモンを守れるトレーナーは素晴らしい。でも、それだけじゃない。レンくんについて行って、いろんな世界を見てみるといいよ」
「…ありがとう、ございます」
「レンくん、女の子は守らなきゃダメだよ?」
「わ、わかってますって」
なんか恥ずかしい。
博士は軽く笑ってから、アイリに言う。
「ヒトツキのことなんだけど、まだデータの分析にだいぶ時間がかかりそう。うちのコンピューターが古いっていうのもあるんだけど、なんか…データが複雑で乱雑なんだ。…スマホロトムは持ってる?」
「はい、15歳以上の男女には無料でもらえるんですよね…」
「そうだね。まあメン地方も少子化が進んできたからなあ……。あっ、そうそう。それで、ヒトツキについてデータ解析が済んだら、アイリちゃんのスマホロトムにデータを送信するね。多分…数日はかかるんじゃないかなあ」
「わかりました」
「そうだ、ポケモンを返すね。幸か不幸か、キリキザンが強すぎて、目立った外傷はないみたい。衝撃で気絶しちゃっただけだと思うよ」
博士はポケモンを返してくれた。
俺はふと気になったことを訊いてみる。
「博士、あのルドルフっていう人はどこに向かったんですか?」
「ルドルフくん?あぁ、君と同じく、ポケモンリーグに挑戦するためにジムチャレンジだよ。ここから一番近い、ナンドシティに向かったんじゃないかな。君もこの後向かうでしょ?」
「そうですね」
「アイリちゃんもついて行くんでしょ?」
「はい」
「青春だねえ…」