更新は遅いですが、どうかこれからもロドス劇場をよろしくお願い致します。
そしてその記念すべき100話は、あの二人の因縁に関する内容です。
それでは本編どうぞ!
その日、エンカクの機嫌は最悪であった。理由は自分に課せられた仕事が敵の狙撃部隊を奇襲して壊滅させることというもので、強者を求めている彼からしたら奇襲というのがそもそも気に食わない上、狙撃手が相手では自身が望むような近距離での殺し合いが出来ないため、イラついていた。
今回はハズレ、だと彼は思いながら戦場に向かい、そしてそれは狙撃部隊にいた1人のループスの少年と対峙した際その考えは覆させられた。
「まさか、俺とやり合えるやつがいるとはな…」
エンカクは目の前で短刀を二刀流で逆手で構えながら、こちらの様子をじっと見ているループスの少年を見て笑みを浮かべる。
そもそも、エンカク達の部隊の奇襲はこのループスによって失敗に終わり、狙撃手も殿を務めた目の前のループスの立ち回りか上手かったせいで殆ど逃げられてしまい、作戦失敗ということで撤退が決まっていた。
しかし、エンカクはそれを無視。そして彼が傭兵ということもあって部隊のものたちは彼を置いて撤退し、ここに残っているのはエンカクとループスの少年の2人だけであった。
「……っ!」
睨み合いの末、先に動きだしたのはエンカクであった。彼は右手に持っている刀で目の前の少年に斬り掛かる。対して少年はそれを紙一重の動きで躱し、続けて飛んできたエンカクの大刀の一閃を横に跳んで躱し、その大刀が地面にあたった瞬間にそれを踏みつけてエンカクの首元に短刀を振りかぶるも、それをエンカクは大刀から手を離して体を後ろに逸らすことで回避。すぐに体勢を立て直して、左手の刀を突き出す。
「くっ……」
ループスの少年はそれを短刀を交差させることで防いだものの、大刀の上という足場の悪さ、そしてエンカクの放った突きが強力なものであったことから体勢を崩してしまい、地面の上を転がる。
そして、その隙を逃すほどエンカクは甘くはなく、すぐに大刀を手に取って左手に大刀、右手に刀の二刀流で一気に攻めたてる。
「はあっ!」
「っ!」
しかし、エンカクの怒涛の攻めに対してループスの少年は冷静に斬撃を見極めて躱したり、躱しきれないものは短刀を上手く使って受け流し反撃の機会を伺い、そして──
「しっ!」
「チッ!」
いつまでもヤマトの守りを崩せないことに無意識に焦ったエンカクが放った大ぶりの攻撃の隙を付いて、ループスの少年はエンカクの首元に短刀を突き出し、そしてエンカクはそれをギリギリで避けたものの、頬に刃がかすりそこから血が流れ出た。
(予想以上に守りが硬ぇ上に俺に傷をつけるだけじゃなく、攻めてるはずのこっちが追い詰められているように思えるほどの圧……なるほど)
──今回は大当たりだな。
大刀を振り回して無理やり距離をとったエンカクは、頬の血を舌で舐めとると笑みを浮かべる。
これまで、彼は多くの強者と戦いそして勝ってきた。無論、その殆どが自身の命が無くなってもおかしくないものであったが、目の前のループスとのやり取りはこれまで以上に命の危機を感じた。つまりは、この少年は今まであってきた猛者の中で1番。
「ふっ、良いじゃねえか……戦いってのは、これくらい切羽詰まってねえと楽しくねぇ……行くぞ!」
これまでにない高揚感で気分が最高潮までに達したエンカクが、再度ループスの少年に攻撃を仕掛けようとした時だった。
「時間切れだ」
「はっ……ぐわっ!?」
少年が何かを呟いた直後に、突然閃光が走りそれをモロに食らったエンカクは目がくらみ立ち止まる。
「俺の目的は果たした……(正直体力残ってないから)撤退させてもらう」
「なっ、てめえ!待ちやがれ!!」
ループスの少年と思しき声にエンカクは憤りながら、何とか回復した目で辺りを見回そうとすると、煙が彼の視界をおおっており、それでエンカクはあのループスの少年は最初からこのつもりだったのだと察した。
「……ちっ、最悪だ。……だが、お前の雰囲気と顔は覚えた。次に会った時は絶対に殺してやる」
エンカクは既に少年の気配が無いことに気がつくと、舌打ちをしながら彼との再戦を心の底で望むのだった。
****
あの戦いから数年が経ち、エンカクは多くの戦場を渡り歩いて多くの兵士や傭兵達を相手に戦い、そして勝利を収めてきた。しかし、最近では手応えがある相手と戦うことが全くなく、彼は退屈していた。
そんなある日、エンカクがとある戦いの場に傭兵として雇われ迫り来る敵を一刀のもとに切り捨てていっている時であった。首に刃を添えられているような、悪寒に襲われたのは。
「っ!?」
自身の本能が命ずるままエンカクは後ろに大きく下がると、その直後彼が先程までいた位置に黒い影が飛び込み、そしてエンカクはその飛び込んできた影…ループスの顔を見て驚きの表情を浮かべ、そして笑みを浮かべる。
狙撃用のボウガンと短刀は持っておらず、代わりに腰に少し短めの剣を差し、剣と剣を組み合わせた奇妙な大剣を両手で構えているが、顔と纏う雰囲気からしてエンカクは数年前に自分相手に逃げ切ったあの時のループスだと確信した。
「まさか、お前に会えるとはな……あの時の借り、返させてもらおうか!」
「っ!」
挨拶がわりと言わんばかりに振り下ろされたエンカクの大刀をループスの少年は大剣で受け止め、それを力任せに振るって押しとばす。
そして押し返されたエンカクは驚きの表情を浮かべる。それもそのはず、ループスの少年のパワーが少しだけ油断していたとはいえ、サルガズである自分を押し返すほどあったのだ。あの時よりは確実に実力が上がっているだろうと予想していたとはいえ、ここまでパワーが付いているとは思っていなかったため、エンカクはループスの少年への警戒を高める。
「はっ!」
ループスの少年は大剣を両手で持ってエンカクへ接近し、エンカクはそれを迎え撃つように大刀を構え振り下ろす。金属と金属がぶつかり合う甲高い音が戦場に響きわたる。
2人は互いに時にはフェイントを、時には受け流してカウンターと己の持てる技術全てを使って相手にぶつけるも、どれも決定打には至らず、かすり傷が増えていくだけのみ。
それでも、2人はほんの少しの気の迷いや集中が掛ければ確実に死に繋がることを肌で感じとっていた。
「はあっ!」
「ふっ!」
互いの全力の攻撃が再度ぶつかり合い、そのまま鍔迫り合いにもつれ込むが、ここでエンカクは目の前の少年が距離をとる前に上から彼を抑え込むように力を入れた。
「っ!?」
ループスの少年が息を呑む音がエンカクの耳に入る。確かに瞬発的な全力の斬撃の打ち合いではほぼ互角であった。しかし、鍔迫り合いのように持続的に力を使うような状況では、体格の関係でエンカクが上から抑え込むように力を入れることが出来る。同時にそれは、腕力だけではなく自身の体重もかけられることにつながり。
「ぐっ……!」
僅かではあるが、徐々にループスの少年は押し負け始めており、初めて彼の顔に苦悶の表情が浮かび始める。このままであれば、確実にエンカクの大刀がループスの少年の頭に入り、彼は絶命するだろう。
──終わりだな。
エンカクは自身の勝利を確信し、同時にこんな呆気ない終わりに肩透かしをくらった気分になり気落ちするも、早く決着を付けようと更に体重をかけようとしたところで。
「はあっ!!」
「ぐっ…!?」
直後、エンカクの全身に衝撃ととてつもない
風圧のせいで閉じてしまった視界を開けば、ループスの少年から数メートルほど離れており、その少年は肩で大きく動かして息を吐いている姿が入った。
(何が起こった?あの状況から、俺を押し返したのか?)
エンカクは状況を確認するためにそこまで思考を働かせたところで、すぐにその考えを否定する。
あの状態から押し返すのは目の前のループスの少年の力では無理なはずで、事実あの時あの少年は
無論、あれがエンカクを騙すための演技であったという可能性もあることにはあるが、エンカクの経験上あれが演技にはとても見えず、もしあれが本当に演技なのだとしたらあの少年の演技力は、賞賛していいレベルものだ。最も、エンカクはこの可能性は全く入れてないのだが。
(まさかアーツか?……いや、それならまだ分かるが出し惜しみしていた理由はなんだ……待てよ、やつのアーツに何かしらの代償があるとしたら?)
エンカクはその思考に至ったところで、この説は当たっている可能性があるのでは無いかと考えた。もし、この考えが当たっていればあのループスの少年が苦悶の表情をうかべたのも、アーツを使うのが苦渋の決断だったからということで納得が行く。
(だが、やつのアーツ能力はなんだ?身体能力を上げるだけの能力なら確かに俺を吹っ飛ばした理由は着くが、あの風圧に関しては説明がつかねぇ)
それでもエンカクの中で納得しきれていないのは、距離を離された時に感じたあの凄まじい風圧。ただ単に押し返されただけで、自身の前方からあそこまでの風圧を感じるのはおかしい。風を操るアーツならば、まだ分かるものの、エンカクはこれまでの人生でそのようなアーツがあることを聞いたことがないため、その考えは除外していた。
(……あれこれ考えたところで意味ねえな、判断するための材料が無さすぎる。とりあえず、身体能力の強化は頭に入れておいたほうがいいだろうな)
エンカクはそう結論づけると、改めて目の前の少年を見やる。ある程度息を整えられたのか、肩で息をしている様子はなく寧ろ鋭さが増している。
少年は腰に差していた剣を抜くと、それを右手に持っている剣に組み込むと勢いよく回して肩に担ぐ様に構える。
(なるほど……次のぶつかり合いで終わらせるつもりか)
少年が放つ気迫と自身の経験でエンカクはそう判断する。合理的に考えるのであれば、自身はあの少年の一撃にカウンターをいれる流れで行くのが1番だろう。これならば、仮に少年のあの気迫が演技だとしても隙を晒すことはない。
だが、エンカクの中でその選択肢は最初からなかった。何故か?それはごく単純なものであり、ただ目の前のループスの少年を自身の力で確実に倒しきるという理由からだった。
もしかしたら、自分がこのように考え実際に行動に移させることがあの少年の狙いかもしれない。
(それがどうした?それこそ、そんな小細工で俺が倒せないことをあいつに思い知らせてやればいい)
エンカクは方針を決めると、意識を集中させ自身のアーツを発動させる。その直後、一瞬のタイムラグも無しに彼の持つ大刀と刀に炎が包み込んだ。
「………なるほど、炎のアーツか」
「……久しぶりに聞いたな、お前の声」
「殺し合いで、長く喋るヤツはいない」
「確かに、その通りだ」
それが、2人が初めてした会話らしい会話であり、それもすぐに途絶えた。
「「………っ!」」
そしてしばらくの睨み合いの末、2人は同時に駆け出し──
「天災だあぁぁぁぁ!!」
「「っ!?」」
突如、戦場に響いた声…正確にはその声が発した言葉と空から響いた轟音を聞いた2人は思わず立ち止まり、そして周りで戦っていた者たちも反射的に空を見上げる。
すると、そこには──
「う、うそだろ……」
空から無数の黒い塊のようなものが見え、そしてその直後その塊のようなものが数えるのすら馬鹿らしくなるほど骸が転がっている戦場に降り注ぐ。
「うわあああ!し、死にたくがっ」
「く、くそったれ!こんなんぶっこぎゃ」
「予報と違うじゃない!なんで、こんな…!」
「……ちっ、興醒めだ。こんな中やり合っても、楽しくねえ」
「……」
「ふんっ、だんまりか……まあいい。また今度、会えるのを楽しみしてるぜ」
周りが悲鳴をあげながら、降り注ぐ黒い塊を避け、そして避けきれずもの言わぬ肉塊になっていく中、その塊を息をするように弾きながらエンカクが言った内容を聞いた少年のループスは、一瞬だけ顔を顰めるも、次の瞬間には背を向けてエンカクから遠ざかっていた。
「……さて、今は如何にこの天災を乗りきるかだな。こういう、スリルもたまには悪くない、なっ!」
エンカクは離れていくループスの少年を見届けると、自分に降ってきた一際大きい塊を、まるで決着をつけれなかった鬱憤を晴らすかのように自身の最大出力のアーツを使って両断したのだった。
後にエンカクとループスの少年──ヤマトの両名はとある場所で再開し、時には訓練所で戦いあったり、時には戦場で背中を預け合うことになるのだが、この時の2人はそんなことになるとは全く思いもしなかったのだった。
エンカクのアーツを炎にしたのは、第2昇進のイラストで炎っぽいの纏ってるからという雑な理由です。
解説コーナー
1戦目:体格差、装備の差もあってヤマトの方は神経を研ぎ澄ませて常に先を考えながら行動していた+エンカクの攻撃がすごい重かったため、体力の消費が激しく終わらせるつもりで放ったカウンターが決まらなかったので元々考えていた撤退を決意。フラッシュバンで目が眩んでる内に仕留めるのも考えてはいたが、失敗した時のリスクを考えて逃げる方を優先した。実質エンカクの勝ち。
2戦目:体格差はあるものの、筋力を含めた身体能力が上がっていたためアーツで身体能力を強化すれば、体格差による体重の押し込みがなければ力勝負は互角。技術面もほぼ互角で、最後の互いの全力のぶつかり合い次第で決着はつきそうだったが、天災のせいで引き分けに。エンカクとしては楽しかったが、不燃焼気味。
ヤマト:謎の傭兵少年ループスとして登場。ここでヤマトのアーツが強化と放出の2つであることが判明。なお、放出の方は所謂アーツの斬撃などにも応用されており、こういった形の放出ならそんなデメリットはないものの、体から直接放出するような形は体力をかなり使うとのこと。今回の話で、2戦目の時にエンカクが吹っ飛ばされたのはこの体から直接アーツを衝撃波のように放出を食らったから。威力を抑えたのは、仕留めきれなかった時のリスクを考えてのことだったとか。
因みに、顔を顰めたのはヤマトの直感が「面倒なことになる」と反応していたから。
エンカク:原作の設定では、戦いの勝利が目標ではなく、あくまで殺し合いの過程と生死の間を彷徨うスリルを楽しんでいるとあるが、ヤマトが相手の時だけはそれに加えて、勝利を望んでいる感じ。多分、この小説でキャラ崩壊がやばい白黒ループスと同じレベルで厄介な感じに。
しかも、どの√でも1回戦うと気に入られてしまうという……。ヤマトは泣いていい。
とあるサルカズの女傭兵:なんか知り合いが勝手に自分のモノをキズものにしようとしてた件について
感想や批評、リクエストお待ちしております。
P.S.うちのロドスにも遂にスズランがきて明るくなりました。なにかに目覚めそう……