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それでは、大丈夫な方のみ先をお読み下さい。
──心から愛していた。私が悩みに悩んで告げた秘密を「そんなのなんの問題もないですよ」と言って、私を優しく抱きしめて受け入れてくれたあいつとの日々は、本当にかけがえのないものであった。
──だからこそ。
「……まさか、お前が立ちはだかるとはな」
「……隊長」
──ヤマト、お前には会いたくなかった。
******
「……ホシグマと一緒だと思ってたんだがな」
自分の口から出た声は、いっそ清々しい程震えていた。
予想外だった、と言えば嘘にはなる。心のどこかで来るだろうとは思っていた。しかし、来るとしてもあいつのポジションを考えれば何処か狙撃ポイントで待機しているか、もしくはホシグマやスワイヤーと一緒だろうと決めつけていた。
最初は私を油断させるために敢えて1人だけ姿を見せた、とも考えたが周りから気配は感じないため、その線は薄いだろう。
「……隊長、貴女は今指名手配されています。手錠をかけたくないので今すぐ近衛局に戻ってください」
「……色々と聞きたいことはあるが、つれないな、少しは会話を楽しもうという気は無いのか?」
普段とは違い、コートの前を閉めているヤマトがこちらを見下ろす形であるのに加え、顔を俯かせているせいでどんな顔をしているのかは見えない。しかし、声と体が震えていることから少なくとも正の感情が籠った表情は浮かべてないだろう。
だが、突破しやすいという点においてはヤマト1人だけで良かった。正直、ホシグマとスワイヤーでは話し合いでの解決を望んだとしても、時間がかかって強行突破、もしくは最初から戦うことになることを考えれば、失礼な言い方になるが物分りのいいヤマトが相手なら事情を説明してくれればどいてくれる──
「はぐらかさないでください」
「っ」
珍しく、怒気が籠った声だった。
そのせいで思わず思考が止まってしまい、その隙を逃さないとばかりにヤマトはさらに言葉を続ける。
「ウェイ長官と、貴方の会話をたまたま聞いてしまいました……貴方が怒る理由も、近衛局に失望した理由も、全部とは言いませんが分かります……俺も、失望しましたから」
「…………」
近衛局の連中の中でもスラムに気を使ってくれていた数少ない、そして心優しい彼にあの会話を聞かれてしまっていたことに絶句する。深く考えなくても、ヤマトが近衛局に失望してしまうのは当然のことだ。
「そして、貴方にとっては大事な、それこそ自分が感染者であることをあの場でばらして飛び出す必要があるぐらいの理由があって、そのために龍門を抜ける、というのも分かりました」
冷静な口調でヤマトが続けて告げた内容に、自分から多くを説明する必要がないことが分かり、ヤマトの事だから後はしっかりと細かい点を補足すれば、恐らく自分を見逃してくれるはずだと、内心安堵した。
「──でも、ここから先は行かせません」
「……は?」
直後に、放たれた言葉が信じられず固まる。
今、ヤマトはなんて言った?
「……ヤマト、もう1回言ってくれるか?」
「ここから先は行かせません、と言いました……龍門には貴方が必要なんです……だから、行かせません」
「……悪いが、そういう訳にもいかない。私には、『彼女』を止めなければ──」
「なら!!」
私の言葉を遮るように大声を出し、ずっと俯かせていた顔を上げたヤマトは──
「どうして、俺の事を頼ってくれないんですか!?」
泣いていた。顔を歪ませ、目から流れる涙は逆光のせいで光っていて、何故かそれが何処か綺麗に見える。
「それは──」
「近衛局が介入している、という事実を作らせないため、貴女が言う約束がとても重要なものであること、それに俺が弱いから頼りにならないからってのは分かる……分かるけど!それでも、頼って欲しかった……!」
「そんなことない!お前が、一緒に来てくれるなら正直心強い!」
「じゃあ、なんで、1人で背負っていこうとするんだよ!?」
「…………」
正直な話、ヤマトがもし私と一緒に乗り込んだとしても足手まといになる可能性はほぼない。というより、ホシグマやスワイヤーを始めに他の局員たちと比べた場合でも、最優とも言える。
それもそうだ、ヤマトの狙撃の腕は私が知る中でもトップクラスなだけではなく、狙撃手でありながら中距離ではカスタマイズしたハンドガンによる高機動戦闘、近距離では刀とハンドガンを使った敵を翻弄するような戦いを得意とするだけではなく、一対多も相手がそれこそホシグマ以上の実力を持った集団でなければ難なくこなせられる程の実力を持っている。
それを踏まえれば、後方からの支援を得られるだけではなく、場合によっては前に出れるというオールラウンダーなヤマトほど心強いことは味方はいない。
だが……
「……逆に聞くが、お前は私の死角から攻撃が来た時、あるいはそれを私が防げないというのに加えて、お前の射撃ではそれを防げないと判断した時、どうする?」
「そんなの、助けるに決まってるだろ!」
「……正確に言えば、それは
「…………」
「……沈黙は肯定と受け取るぞ」
だから頼めないんだ。ヤマトは、誰かのためなら自分の命をまるでゴミをゴミ箱に捨てるような勢いで捨てるような行動をする。事実、私と付き合うきっかけになったあの時だって、なんの躊躇もなく飛び込んで私の代わりに怪我を負い、付き合ってからも狙撃手という立場なのにも関わらず誰かを庇って怪我をよくしていた。
もし、それがタルラとの戦いで起きたら?アーミヤたちの話が確かならば、あいつの一撃全てが致命傷になるレベル。そして、その一撃からヤマトが私を庇ったら?
「確かに、今回の件は私の個人的な事情があるのも事実だ。だが、それ抜きでも、私のせいでお前が死ぬなんて耐えられない……だから、頼れないんだ」
「……どうしても、一人で行くと?」
「…………」
「……そっか。それなら──」
──殺してでも止める。
「っ!?」
反応できたのは奇跡的だった。一瞬だけ感じた悪寒を感じ、気がついたら姿勢を低くして刀の柄に手をかけるヤマトの姿が目に入り、全力で後ろに下がってからほんの一瞬だけ遅れて、銀色の光が目の前を横切った。
「……流石だね、今ので完全に仕留めるつもりだったんだけど」
「や、ヤマト……?」
「……これが最後の警告。本当に行くというなら、俺は貴女を討ってでも止める」
本気の目だった。いつも、私のことを陽だまりのように暖かく見てくれる優しい目ではなく、刃物を連想させるような殺気がこもった目であり、彼が本気だということが嫌でも伝わってくる。
「ヤマト、頼むからそこをどいてくれ……お前を傷つけたくない……」
「……それが答え?」
「頼む!!お前に剣を向けたくないんだ…!」
「…っ、このわからず屋!!」
一瞬だけ、ヤマトが息を呑むような音が聞こえたが返ってきた言葉は私が望むものではなく、同時に彼の刀による大上段からの振り下ろしも襲いかかり、反射的に自分の刀を抜きそれを防ぎ鍔迫り合いの状態へとなる。
「くっ……!」
訓練の時より、何倍も重い剣圧。それが、今までヤマトが模擬戦のときどれだけセーブしていたのかというのと、そして本気で私を殺す気でいるという向き合いたくない現実を実感させられる。
「っ、本気なんだな…」
「……チーちゃんのことなんだ、本気になるに決まってるで、しょっ!」
「ぐっ…!?」
ヤマトに押されて距離を強引に離された、つまり初めて力勝負で負けたことに驚愕していると、それを逃がさないとばかりに追撃が飛んでくるが、刀で何とか受け止める。
まさか、ここまでヤマトが強いとは思ってもみなかった。模擬戦では確かにそれなりに粘りはするものの、力勝負でも、スピードでも、技術でも私が全て勝っていたが、今はあの時よりも数段も上の相手だと認識を改めなければ確実に殺られる。
理想的な倒し方としては、ヤマトの刀を破壊もしくはあいつの手から外すこと。銃を抜かれる可能性も無くはないが、あいつの早撃ちより私の剣の方が早いからそこは考えなくていい。
だが、今のヤマト相手ではその手加減にも等しいやり方で倒すのはほぼ無理だろう。かといって赤霄を使えばヤマトは間違いなく死ぬ。
……仕方ない、ヤマトには悪いが少しだけ痛い目にあってもらうしかない。
「はあっ!」
「ぐっ!?」
ヤマトの刀を弾くように自身の剣を動かし、彼の胴体に蹴りを入れながら後ろに下がる。蹴られた箇所を抑えながら
「せあっ!」
「ちっ!」
再度接近してヤマトに斬り掛かるも、その全ての攻撃が躱されるか防がれる。私とたくさん模擬戦をしたからか、剣筋が読めているからだろう。このままでは、ただ私の体力が消耗するだけだろうが今はこれでいい。
狙いはこちらがあえて作った僅かな隙を、ヤマトが狙って攻撃してくること。そしてそれを利用してこちらの全力の攻撃を防がせて体勢を崩させた所で一気に抑える。これが上手く行けば…!
そしてその時は来た。
「っ!」
一瞬だけ敢えて作った連撃の合間の隙。そして先程まで防戦一方だったヤマトが逃すはずもなく、私の胴に横から斬撃を加えようとしたのを、赤霄の鞘で弾き全力の突きをヤマトに放ち。
──ズブリ
「え……?」
手に伝わるのは、肉を鉄で刺したような感触。その直後にナニかが私が持つ剣から離れる感触がし、前を見ると。
「ごふっ」
地面に刀を刺して膝をつき口から血を吐いているヤマトの姿。
「ヤマト!!」
剣をその場に捨て急いで駆け寄る。何故だ、何故防がなかった?あの時のヤマトの実力、いや普段の模擬戦での状態でもあの攻撃は反応できたはずだ。
「脱がすぞ!」
「あ、まっ……」
どちらにせよ、血を止めなければならない。
コートを脱がそうとヤマトのコートに手をかけた瞬間、弱々しくも慌てた様子で私を止めようとした彼に目もくれず、脱がして私の目に入ったのは、私の剣が刺さってしまった所とは
その瞬間、私は何故ヤマトがあの攻撃を防げなかったのか理解したと同時に、怒りが湧いた。
「この、大馬鹿者!!何故怪我をした状態で剣を向けた!?」
あの時、ヤマトが反応できなかったのは私が直前に胴体に蹴りを入れたせいで傷が開いた又は悪化し、そのせいで体の動きが鈍りあの攻撃が防げなかったのだろう。
傷は思ったよりも深く、応急処置では気休めにしかならず早く本格的な治療を受けさせねばならないといけない。
「クソっ、待ってろ!すぐに助けを……!」
「俺のことは、いいから先に、行って」
ヤマトの無線を使って助けを呼ぼうとした時、彼は私の手を取り首を振って先に行くように促した。
「何を馬鹿なこと!今のお前を放って…!」
「だから、先に行ってくれないと、助け呼べないんだって……チーちゃん、指名手配されてるの忘れたの…?」
「忘れてないさ!だが…!」
「だったら」
ヤマトは私の言葉を遮るように言葉を紡ぎ、そして1回息を吸ってから。
「チーちゃん……いや、チェン・フェイゼ。貴女が自分で決めた選択を最優先で取るべきだ」
「……っ」
射抜くような視線を向けられ、暫く私とヤマトは互いの目を見つめ合い、そして私は震える手を抑えながら先程反射的に投げ捨てた剣を拾い上げ、龍門の出口へ足を進める。
「……ヤマト、頼みたいことがある」
そして、刀から手を離して地面に座っているヤマトに──。
*****
「……というわけで、なるべく早く来て下さると助かります」
そう言って無線を切った俺はため息を吐く。
結局、チーちゃんを止めることは出来なかった。何とか心を殺して、本当に殺す気で挑んだけど、やっぱり俺程度の実力じゃ適わなかった……いや、本当にあの人を殺す気なら銃も使って中近距離の戦闘を行って自分のペースに引き込むべきだった。
けど、出来なかった。刀にはアーツを刃を潰すような形で薄く纏わしていたし、銃も抜けなかった。
前提として、中途半端な覚悟なんかで覚悟を固めた人を倒せるわけが無い。当たり前のことだ。
「……この様子だと、どうやらチェンは止められなかったようだな」
「……ホシグマさん」
「全く、まさか背後から鞘でぶん殴って私を気絶させるとはな……正直裏切られた気分だったぞ」
「ゔっ、すみません……」
後頭部を擦りながら呆れた様子で言ってくるホシグマさんの視線から、目を逸らす。正直、あれに関してはああするしかなかったし……。
「……まあ、お前でも止められなかったならば、恐らく誰もチェンのことは止められなかったさ。お前のせいじゃない」
「…………」
本当にそうだろうか。もしあの時立っていたのが俺ではなく、ホシグマさんであればちゃんと止められたのではないか、そう思えてならない。
「……ヤマト、ここには私しかいないんだ。好きなだけ泣いていい」
「………泣いていい、権利なんてないで、すよ」
滲む視界の中、俺は胸がぽっかりと空いた鋭い痛みを無視しながらあの人が通って行った道をぼんやりと見つめた。
解説及び補足(という名の言い訳)
Q.なんでホシグマの姐御いないん?
A.ヤマトが途中で合流して、その向かう道中後ろからガツンと鞘で殴って気絶させられてました。
Q.なんでストーリーの方とは違う掛け合いなん?
A.2つ理由がありまして、1つは恋人として過ごしたヤマトならチェンにそういう話をさせないようなことを言いそうだから、もう1つはただ単にその会話をヤマトverに変えられるほどの脳みそがなかったからです()
Q.なんで怪我してるのにヤマトあそこまで動けたん?
A.アーツと気合と根性と愛です。
Q.結局ヤマト何したかったん?
A.チェンを止めたかっただけです。最終的には、彼女の覚悟を尊重して見逃す体にはなりましたが。
ヤマト(龍門チェン√):やってることがメンヘラのそれというやべーやつ。最も、殺す気で剣を向けたものの、本当に殺す気はなく銃を使わなかったり、刀に薄くアーツを纏わして当たっても切り裂かないように配慮していた。絶賛、失恋中。
チェン:恋人であるヤマトと対峙したせいで少し揺らぐも、最終的にその本人から励ましの言葉をもらって覚悟を決めた。去り際、彼に龍門のことを頼み、チェルノボーグへと向かった。
ホシグマ:重要なポジションをかっさわられた姉御。本来ストーリーで知る内容は後日、別方面から聞くことになる。