果たして2人は彼女を打ち破ることは出来るのか?
──何が起こった?
チェンは状況を理解するため、何とか残っている意識でこうなるまでの過程を順番に思い返していた。
まず、メランサたちが応援として入ったおかげで押され気味だったチェンたちは武装集団を押し返した。ラップランドはドクターのが念の為にという指示の元例の物を取りに行き、ループスの少女はエンカクが乱入したのもあって、何とか勝てるだろうと考えている最中視界にヤマトがフロストリーフに抱きしめられて泣いているのが入った。
それで何とかなったのかと安堵した直後、気がついたら倒れていた。
(本当に何が…?思い出せ、絶対にこうなる原因なったことがあるはずだ…)
『意識があるものは応答してくれ!』
「く…ドクター、無事だったのか…?」
無線から入ったドクターの声にチェンが痺れて動けない体を何とか動かそうとした時だった。彼女はあることに気がついた。
──何故、体が痺れたような感覚を受けている?
(…確か、あの時一瞬だけ光ととてつもない轟音が発生した。そして、体が痺れている…ということはヤツのアーツは…あの時起こったのは…!)
「チェン、大丈夫か!?さっきへラグたちのところで──」
そして、その後ドクターに告げられた言葉を聞いてチェンは自身の予想が当たってしまったことに苦虫を潰したような表情を浮かべ、意識が途切れる前に状況を報告した。
*****
「フーちゃん!!」
「ヤマト!?何を…っ!?」
ヤマトが自身の本能が命ずるがままにフロストリーフを抱きしめながら横に転がりこみ、突然の行動にフロストリーフが声をあげようとして先程いた位置にループスの少女が太刀を突き刺しているのが目に入り、ヤマトが助けてくれたのだと把握した。
少女は地面に突き刺した太刀を引き抜くと、ぐるんと顔をフロストリーフとヤマトに向けると恐怖を感じさせるような冷たい声音を発した。
「あのさ…お前、何してんの?」
「は…」
「お兄ちゃんのヘルメット壊したのはまだいいよ。また、新しいのを作ればいいだけどだからさ。けど、何で泣いてるお兄ちゃんを抱きしめてるの?おかしいでしょ?ねえ、私はお兄ちゃんの【妹】で、お兄ちゃんは私の【お兄ちゃん】なんだよ?普通は私が泣いてるお兄ちゃんを抱きしめるはずでしょ?なのになんで、お前がやってんの?おかしいでしょ?おかしいでしょおかしいでしょおかしいでしょおかしいでしょおかしいでしょおかしいでしょおかしいでしょオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイ!!」
「これは…」
頭を掻きながら狂ったように同じ言葉を連呼する少女を見て、フロストリーフが恐怖の感情を抱き始めた時だった。
「死ね」
「っ!」
少女が太刀を振るったと同時にヤマトとフロストリーフが横に飛び退いたその直後、アーツの衝撃波が先程2人がいた地面を抉りながらとおりすぎた。地面の悲惨な状況を見たフロストリーフは、もし避けられていなかった場合のことを考え冷や汗を流している一方、ヤマトはホルスターから銃を抜き、背中にかけていた盾を左手で持ってフロストリーフを守るように立った。
「フーちゃん、ここは俺に任せてみんなをお願い!」
「何を言ってるんだ!?私も…!」
「この子のアーツの対処法は俺しか知らないし、それに…あの子の相手は俺がしなきゃダメなんだ…!」
ヤマトはあの少女は自分と同じ境遇で育ち、有り得たかもしれない自分の未来であると確信めいたものを抱いていた。そういったほぼ使命感とも言えるものとある感情がヤマトを突き動かしていた。
フロストリーフはヤマトを1人で戦わせることに不安を感じていたが、彼の言葉の通りにあの少女のアーツを対処できるのがヤマトしかいないのであれば自分は足でまといなるのは明白。
それならば、自分はやられてしまった仲間たちの救助に向かい、援護に行ける人数を増やしに行く方がこの場合は正解かもしれない。
だが──
「悪いが、それは無理な相談だ」
フロストリーフが戦斧を両手で持ちヤマトの横に並び立つと、ヤマトは慌てた様子で彼女を説得し始めた。
「話聞いてた!?あの子の相手は俺が適任だって…」
「関係ない。私は後悔しない方を選びたいから勝手に選んだだけだ、アホオオカミ。それに…」
フロストリーフの目はコソコソとサイレンスとガヴィルの方へ向かっている赤い影がいることを捉えていた。
ならばこちらがやるべき事はその存在を気づかれないように囮に徹すること。
フロストリーフが戦斧を構えたの見て、ヤマトは説得は不可能(そもそも口で勝ったことは無いのだが)と判断すると、【妹】を止めるための策を練り始める。
「フーちゃん。あの子のアーツは雷系統で、雷のアーツを飛ばしたりそれを武器に纏わせてきたら、その攻撃は絶対に防御しないで避けて。防御したらそのまま感電するから」
「わかった。他には?」
「あの場にいたへラグさんやあの子の味方たちを含めた全員を倒したってことは、恐らく広範囲に及ぶ攻撃の手段を持ってるはずだから挙動全てを観察しないとかわしきれないと思う。とりあえず、フーちゃんは距離をとってアーツであの子の動きを阻害する感じでお願い。前は俺がやるから」
「…武器は銃しかないのにか?」
「盾とブーツにナイフもあるし、あの子の動きは分かるから大丈夫」
「分かった…いくぞ!」
フロストリーフがそういうや否や、ヤマトは発砲しながらループスの少女と距離を詰め始めた。
*****
(この子はなんでそこまで家族という形にこだわるんだろう?)
少女の雷が纏った斬撃を表面を自身のアーツを纏わせた盾で受けながら、ヤマトは疑問を持ち始めた。
ヤマトは知識では血縁関係はともかく戸籍としてそうであるものが家族であるというのは知っていた。だからこそ、血も繋がってなければ戸籍としても家族ではない自分のことをなぜ兄と呼ぶのかが分からなかった。
「なぜ、お前は俺の事を兄と呼ぶ?」
「…っ、急にどうしたの?」
無意識に疑問が口に出ていたことにヤマトは少し戸惑うも、自身の勘が引き下がってはいけないと言っているような気がしたため、攻撃を捌きながら彼女の本心を聞き出すことにした。
「俺はお前のことを知らない…いや、正確には俺の上位互換ということぐらいしか聞いていないし、会ったこともなければ血縁関係もない筈だ。それなのに何故俺を兄と呼ぶ?」
「っ、そんなの関係ないでしょ!」
「ぐっ…!」
「そんなの知って何がしたいの!」
少女の琴線に触れてしまったのか、彼女は語気を荒げて太刀を力強くヤマトへ振り下ろしていき、その猛攻をヤマトは盾で受け止めながらも引かずに言葉を紡いでいく。
「今更…何で…!私がどんなに話しかけても全然聞いてくれなかったくせに!!」
「っ……」
「自分勝手すぎるよ!!」
「っ…!」
「ヤマト!」
フロストリーフは押され気味となったヤマトを援護のために、少女に氷結の衝撃波を放つが少女はそれを舌打ちをしながら太刀で斬り払った。その一瞬の間にヤマトは浮かぬ表情のままフロストリーフの隣へと移動した。
「すまないヤマト。中々援護するタイミングが掴めなかった」
「…あの子の立ち回り的に多分多対一の戦闘が得意だと思うから、気にしなくていいよ……」
「はあ…言いたいことがあるなら遠慮せず言え」
「…なんで分かったの?」
「流石にわかるさ…」
フロストリーフの早く言えとばかりの視線に、全然敵わないなとヤマトが内心思い苦笑いを浮かべ、すぐに表情を真剣なものへと切り替えた。
「俺とあの子だけで戦わせてくれないかな?」
「…理由を聞いても?」
「あの子の本心を聞いて受け止めて、俺の本心をあの子にぶつけたいんだ」
「何で、そうしようと思った?」
「…そうするべきだと思ったから」
「…お前な。根の理由がそんなので1人で戦わせるわけ──」
「戦わせてあげなよ」
彼の根本的な理由がかなり曖昧なものであることにフロストリーフが否定しようとした時、2人の背後から声が聞こえ振り返るとそこにはヤマトの合体剣を両手で持っているラップランドが立っていた。
「ラーちゃん!それって…」
「ヤマトが連れ去られた場所にバラバラに散らばってたこれを一つの剣に戻すの結構疲れたんだよ?仕組みは知ってたけど、実際に組み込もうとしたら上手くハマらなくてさ…ま、何とか出来たけどね」
「…それよりも、お前は何で戦わせてもいいと言った?ヤマトが負ける可能性だって…!」
「うん、それはボクだって思ってるし正直な話戦わせたくないよ」
「え」
フロストリーフの発言に対し、ヤマトが1人で戦うことを肯定してくれたラップランドの口から飛び出したのは、フロストリーフの発言とほぼ同じ内容であり、ヤマトが素で声を漏らした。
ラップランドはそこで「けど」と一旦切り。
「ボクはヤマトを信じるよ。ヤマトのそういう理由って大抵はよく当たるしね」
「ラーちゃん…」
ラップランドの真っ直ぐな発言がヤマトの心に響く中、フロストリーフは手を顎に当て考え込み、そして数秒後にはため息を吐いた。
「はあ…仕方ない。お前のやりたいようにやれ」
「…フーちゃん、ありがと「ただし!」?」
「…危ないと思ったらすぐに割り込むからな」
「…わかった。ありがとうフーちゃん」
ヤマトはフロストリーフに礼を告げ、ラップランドから合体剣を受け取り感触を確かめるように軽く左右に振るい、全く違和感がないこと確信してループスの少女の方へ足を進めようとして、一旦立ち止まった。
フロストリーフとラップランドが怪訝そうな視線を向ける中、ヤマトは振り返り──
「ありがとう2人とも。絶対に戻ってくるから」
そう一言だけ、約束事を取り付けるように告げてループスの少女の方へ足を動かした。
「…ああ、戻ってこいよ。必ずな」
****
「作戦会議は終わった?」
「…ああ」
「つれないね…まあ、あの女たちを連れてきてないってことはもしかしてお兄ちゃんが1人で私の相手をするってこと?」
「ああ、そうだ」
多少冷静になったであろうループスの少女は、冗談半分で言ったことをヤマトに即答で肯定されたことに予想外だったのか目をぱちくりさせた。
が、それも一瞬ですぐに冷徹な目をヤマトに向けた。
「……舐められたものだね。私、サシでお兄ちゃんに勝ったんだよ?」
「…ああ、確かに俺は1度負けた。だが、今度は負けない」
少女の突きつけた事実にヤマトは少し悔しそうに肯定したが、視線を少女の目に真っ直ぐぶつけながら宣言するように言い放った。
少女はそれを聞いて少し呆れたように息を吐き、だがそれも一瞬でその後には笑みを浮かべて太刀を構え、ヤマトもそれに合わせるかのように合体剣を両手で持ち正眼の構えをとる。
そして、2人は示し合わすかのように駆け出し互いの武器を振り下ろした。
妹ちゃんの実力、今回じゃ判明しませんでした…じ、次回こそ次回こそ分かるはずですから…(震え声)
次回「兄として」