レアスキルが欲しいので武器をノー装備で戦います。 作:ジム・ビム
「ハッ!」
自分が放った正拳突きはトレントの体を突き抜ける。
そのたった一発の正拳突きだけでHPゲージがカラになり、トレントは光の粒子となる。
「強すぎるな【樹木特攻】は・・・」
15レベルになる直前では10発ほど攻撃を与えなければ倒せなかったが、【樹木特攻】をはじめとした強力なスキルは恐ろしいほどに自分を強くしている。
おそらくゲーム開始初日でこれほどのダメージを叩きだすプレイヤーは自分だけだろう。
「ハァッ!」
木々の間からガサリという音とともに現れたトレントは、俺の撃ち放った【気功波】によってバラバラに砕けた。
この【気功術】というスキルは非常に自由度の高いスキルであった。
まず先ほど放った【気功波】、これは俺の思う技をそのまま放つという代物だった。
地を這わせるように撃てば【気功波】は地を這って進み、球体を思い描いて放てば球体となって放たれる。
さらには自分の回りから壁のように噴出させることもでき、腕を振り抜きながら使えば【気功波】は放射状となる。
【気功刃】もそうだ。
【拳法】によって手で保持することはできないが、手の甲から伸びるようにイメージするとその通りの形状となり、蹴りを放ちながら使えば足のつま先から【気功刃】が飛び出す。
おまけにそれなりの長さまで伸ばせるので、奇襲にも使える。
逆に【煉気功】は説明の通りの能力しか発揮しなかった。
まあMPをHPへ変換するような【煉気功】でアレンジするなど無理な話だ。
そして最後に【気功陣】、これも説明通りの能力だが、持続力が違った。
一回使用するだけで1時間は円状の防壁を張れ、オンオフも自在というちょっとしたセーフルームを作るのにうってつけの能力だった。
俺はこれらの能力を試した後、一旦ゲームを止めて休憩を挟んだ。
狩りに熱中しすぎて森の奥深くまでわけ入ってしまったから、いっそこのまま森の奥まで進んでみようと休憩しながらそう考えた。
一時間後、再びNWOへログインした。
そして暗くも明るくもない森の中、トレントを倒しながら奥へ奥へと進んで言った。
三十分ほど歩いただろうか、突然森が途切れてかなり広い広場へ出た。
そこには天にそびえるほど巨大な樹木が鎮座していた。
それを見あげながら興味本位で俺がその樹木の前まで行くと、突然その巨木が枝を大きふり被った。
と同時にその巨木にHPゲージが出現し、さらに広場を囲うように蔦が張り巡らされたのだ。
これはエリアボスとでも言うべきモンスターだったのだ。
『エルダ―トレント』と表示されたそのモンスターは、ふり被った枝を俺に叩きつけてきた。
もちろん素直に受けるつもりはないので、横へ跳躍してその枝の直撃を避けた。
だがその衝撃ではね飛ばされた石などの余波を受けてしまい、自身のHPの4割が吹き飛んでしまった。
「直撃を受けたら即死だな…」
頬を両側から叩き、気合いを入れ直してEトレントと向き合い、走りだす。
その巨体ゆえ、枝による足元への攻撃はほぼ不可能だ。
接近して有利を得るのだ。
しかしEトレントは自身の根っこを地面から突き刺すように放ち攻撃してくる。
俺はそれを紙一重にかわし、時に【気功刃】で切り裂いてEトレントにわずかながらのダメージを与える。
振るわれる枝の鞭を避け、根っこの槍をすり抜け、Eトレントの葉が作りだす影に入った時だった。
Eトレントは枝を振るう事を辞め、その巨体を大きく揺らし始めた。
そして何かを落とし始めたのだ。
「何だ…っ?」
それはリンゴのような果実だった。
非常に広範囲にばらまかれたその果実は、地面に落ちると同時に破裂したのだ。
「グゥ…ッ!」
近くに落ちた破裂の余波を喰らい、俺は足止めを余儀なくされる。
それを待っていたかのように、何本もの根っこの槍が俺へ放たれた。
俺はその槍を地面から噴出する【気功波】で弾くと同時にその【気功波】へ身を投げた。
タイミングをずらして放たれた槍が元いた場所を貫くのを感じながら、空を行く俺はついに巨体へ密着する距離へとたどり着くことができた。
「さあ、これで終わりだ…ッ!」
EトレントのHPゲージは8割ほど残っている。
このままグズグズしていると根っこの槍が俺を貫くだろう。
「【気功刃】!【気功波】ァッ!」
【気功刃】を両手に展開し、殴ると同時に刃で追加ダメージを与える。
そして【気功波】を連発することで一気にダメージを加算していく。
「【気功波】ァ!【気功波】ァ!【気功波】アアァッ!」
背後から根っこの槍が俺めがけて放たれるのを感じ取った。
俺は最後に残ったMPを使い、【気功波】を放った。
「【気功波】アアアアアアァッ!」
根っこの槍が俺を貫こうとしたその瞬間、EトレントのHPゲージが0となった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴという音とともに、Eトレントは光の粒子となって消えて行った。
根っこの槍も同じように消えて行ったのだろう。
「ハァ…ハァ…ハァ…勝っ…たぁ…」
俺は崩れ落ちるように座り込んだ。
自身のHPも残り1割を切っていた。
視界の端で『レベルが22に上がりました』の文字があったが、俺は強敵を打ち倒した充実感に浸っていた。
ゲーム開始初日である今日は、運営も一息ついたところであった。
昨日まで続いたデスマーチを乗り越え、ゲームもバグらしいバグもなく順調に進んでいた。
しかしある通知が運営を大きく揺るがすことになった。
「んー?ボス討伐…?まあ弱いボスならもう倒されてもおかしく…」
「あれ?どうした?」
「はあ!?『エルダ―トレント』討伐だと!?」
「ダニィ!?」
「おいおい、嘘だろ?あれは序盤で調子に乗ったプレイヤーをお仕置きするつもりで置いたボスモンスターだろ!?」
「少なくとも初日で討伐できるようなレベルじゃねーぞ?バグじゃねーか?」
「いや、ログを精査してもバグらしいバグは見当たらねぇ…」
「あれか?何十人ものプレイヤーがゾンビアタックしかけたとか?」
「いや…ボス撃破したのたった一人のプレイヤーだ…」
「は?いやそれは流石にないだろ、初日だぞ?」
「今プレイヤー見る…プレイヤーはヴァックス…え?【樹木特攻】に【拳法】に【気功術】持ってる…」
「なによそいつ!?【樹木特攻】はともかく、【拳法】と【気功術】を初日で取れる!?」
「どうやらゲーム開始してすぐ北の森に来てトレント狩りまくってたらしい…素手で」
「えぇ…変態じゃん…初日でそれやるって変態じゃん…」
「ただまあ、それなら納得だわ…」
「【拳法】と【気功術】、合わさると爆発力ヤベーからな」
「武器を持つのを捨てて、さらには物理近接にはあまり縁のないINT上げてないと得られない火力だしな」
「どうする…?」
「どうするもこうするも、そのプレイヤーは何の違反もしてないからなんもできん。ゲーム内最初の【ユニークシリーズ】取得者はそのプレイヤー、確かヴァックスだったか?それに決まりだ」
「あ~あ~、【ユニークシリーズ】のゲーム内初取得者がでるのがいつになるかの賭け、負けちゃった」
「ああ、それやってたな…てか初日取得に賭けた奴いるの?」
「…いや俺は二日目に賭けてた」
「私は三日目~」
「五日目だねー」
「一週間…」
「…誰も初日に賭けてないのか…」
「どうする…景品の映画のチケット…」
「…改めて別で考えよう」