「...はどう.....。...か、...よかっ.....」
誰の...声だ?.....俺は、どうなった...?確か...うぅ、頭がふわふわする...。目もうっすらとしか...開かない。視界が.....霞む.....。
「っ!?.....ん......うくん...!」
...あ、なんだ...ちゃんといるじゃないか...。なら、もう少しだけ、寝てもいいよね.....。
「ひ.....い............ぶ......」
「.....すか......り......ます」
話し声がまた遠くなる。目元が重くなり、再度俺は体を預けた。
【07.00】
ここはとある警察署の一室。姫野美琴こと私は、気を失っていたらしく、そこを警察に保護されたらしい。どうやら警察に連絡してくれたのは当時死んだと思われていた人物.......神代由佳からだった。由佳からの通報を聞き付けた警察は、私達を保護。そして、今に至る。
もちろん由佳は重症であったので、そのまま病院へと搬送された。命に別状はないみたいだ。
ここまでの情報を教えてくれたのは、今目の前で医者と話をしている男の人。
『菊川警察署警務部』の、『氷室等』さん。今回の騒動で、一番手を回してくれた人...らしい。
どうやら2時間ほど寝ていたらしく、倒れてからの記憶が一切ない。何とかして、今日あったことを思い出そうとする。
確か今日は、由佳がやり始めたひとりかくれんぼに巻き込まれて、それで、逃げ回りつつ終わらせることが出来たんだっけ。勿論、私ひとりではなく、もう一人の男の子、引道新聖くん......と......あっ!?
「ひ、氷室さん!引道くんは...引道くんは、どうなりましたか...!?」
布団を思いっきり捲り、氷室さんに視線を向ける。いきなりのことに少し戸惑っていたがすぐに答えてくれた。
「引道くん、か...彼も君と一緒に保護をした。男女ということもあって、今は別の部屋で寝ている。容体は大丈夫だ。ただ少し疲れが溜まっているらしく、まだ寝ているとのことだ」
「そ、そうですか...よかった...」
引道くんの安静を聞き、安心感が胸に広がる。あの場で、一番頑張ってくれたのは彼なのだ。出来ることならもっと休んでいてほしい。私のために倒れたなんて、そんなのは嫌だ。
「少し経ったら、事情聴衆をする。勿論、医者も部外者も外す。話せるだけのことを話してほしい」
「...はい...でも、多分信じてくれませんよ...誰も、あなたも...」
そういって、また塞ぎこむ。誰かの手をとれば...話せば楽になれるかもしれないのに。それでも、今回の事件は本当に信じられないことばかりなのだ。人ではなく、化け物が引き起こした事件。
「大丈夫だ。こちらも、君達の立場を理解している。大まかな経由も把握はしている。信じないことなんてない。....あとは、君達から聞くだけなんだ」
「っ!?......じゃあ...人を殺したのが人形...化け物って言ったら、信用してくれますか?」
少し、嫌そうに顔を反らしながら言った。自分でも、良くない態度だとは理解しているがそれでも、認められないのが怖かったのだ。
「あぁ、信じる。今回の件は、全てあの呪われた人形...『怪異』によって、引き起こされたものだ」
「.....っ!?し、信じて...くれるんですか...?」
そのとき、また私の中に安心感が広がった。だって...こんな馬鹿げたことを、信じてくれるなんて思ってなかったから。
それに、氷室さんは今回の事件を『怪異』とも言っていた。これには正直.....気になることがいくつかある。
背けていた顔を氷室さんに向け、事情聴衆を受けることにした。
私の意見を承諾してくれた氷室さんは、先程までいた医者を外してくれて私達二人だけの空間となった。
氷室さんが机から書類を持ってくると、椅子に座り私に質問をしてきた。
「それでは姫野美琴くん...始めるよ。君は今回の事件をどこまで知っているんだ?分かるとこまで教えてくれ」
「そ、それは......由佳が、『ひとりかくれんぼ』を始めたことがきっかけで...起きました。夜中の3時に、由佳から電話が入って...でも、何も...聞こえませんでした」
私の話を聞きながら、手元の書類に書き込んでいく氷室さん。私の方を見はせず、ひたすら書類を見続ける。
こう言ってはなんだが、この様な対応のほうが話しやすいので、こちらとしても助かる。
私は淡々と、また話の続きをする。
「...心配になった私は、急いで由佳の家に行きました。不思議と玄関は開いていて、入ることができました。そしたら.....由佳の叫び声が聞こえてきて...部屋に入ると...由佳が.....由佳...が...!」
話していく中、由佳の話をするとあのときの光景が頭にフラッシュバックする。由佳が、お腹から血を流し横たわっている姿が...。
氷室さんは何も言ってこない。私は熱くなった目元を指で擦り、再び話始める。
「...そして、今度はおじさん...由佳のお父さんの悲鳴が聞こえたので、大広間に行きました。...おじさんも、お腹から血を流していましたが...由佳よりも酷かったです」
「あぁ...神代初はその後、死亡が確認された。死亡時刻も見ると、君があの場にいたときには、既に死亡していたと思われる」
そんな事をスラスラと述べる氷室さんを少し、恐いと思ってしまった。何もない無垢な目は、死というものを恐れていないように見えた。
「そう、ですか...。その、おじさんが死んでいる近くに...血の着いた襖が目に留まりました。..ナニかが、いることも...勘ですけど、わかったんです」
「ほう...」
手を止め、私のほう観察するかのように見る氷室さん。しばらくして、また書類の方に戻った。
「続けてくれ」
「はい.....。気になった私は、思いきって襖を開けようとしました。....そしたら...中からノックが聞こえて、怖くなって後ずさりました。.....そしたら...中から、人形がひとりでに歩いて出てきました。...包丁を持って...」
そう、あのとき人形は包丁を携えてこちらを見た。そして言ってきたのだ。『鬼ごっこがしたい』と...。
「そのあとは簡単ですよ...人形が私に追いかけてきて、鬼ごっこの開始です...。部屋を転々と移動しました。由佳のお兄さんの部屋で、花瓶を手に取り人形に投げつけました。すると...人形は動かなくなったので、急いで由佳の部屋に逃げ込み、隠れました。.....人形が離れていくのを確認した私は、由佳の前に行き、ひたすら懺悔を繰り返してました...」
自虐の意味を強く含めた言い方だった。...ただ、その方がまだ楽でいられたのだ。謝罪をすることで、自分が少し...許された気がしたから。
「ひたすら懺悔を繰り返した私は、その場に膝を抱えて座り込みました。暫くすると.....あの人...引道新聖くんが部屋に飛び込んできたんです。どうやら引道くんも私と同じく、あの人形に襲われていて、そこで由佳の部屋に逃げ込んだらしいんです」
本当にあのときは驚いた。ひたすら心を塞ぎ混んでいた私の前に、いきなり知らない人物....それも男性が来たのだ。驚くなと言うほうが無理である。
「始めはふざけた人だと思いましたよ。ひとりかくれんぼ、怪異による影響とか言い出して...そのと――」
そこまで話したときだった。いきなり書類を落とした氷室さんが、目を大きく見開いた。すると、私に少し強めの口調で質問してきたのだった。
「引道新聖...彼が、そんな事を言っていたのか!?」
「は、はい...あの...どうかしましたか.....?」
私がそう答えると、自分が何をしていたのかに気付き、すまないと一言言うと、先程の氷室さんに戻り話の続きをと言われた。
氷室さんの言いたいことは私も分かる。だからこそ、後で彼を問い詰めるつもりだ。
「...彼も、自分の行いが不謹慎だと気づいたのか、謝ってくれましたよ。...その後、お互いに自己紹介をしました」
「自己紹介...引道くんは、どうだった?」
今度は彼について質問をされた。どうだったとは、彼の素性のことについてだろう。私は聞いたことを全て、氷室さんに話した。
資料に書き込んでいく氷室さんの目が今度は無垢ではなく、少し怒りが見てとれた。
「それで...引道くんと行動を共にしました。鍵を探しては、部屋に入って対抗手段を探しました。...不思議と彼は、由佳さんの家の中を知ってるかのように歩くので、少し不気味に思えました。...あ、今言ったことは内緒にしてくださいね!引道くんが傷つくので...」
「...わかった。不気味に思っていた、と言うところは伏せておく。さ、続きを」
本当に分かってくれたのだろうか...。いや、この人なら余計なことはあまり言わないはず。信頼と言うわけではないが、なんとなくそんな気がした。
「そ、それで確か、書庫に行った...っ!?」
「ど、どうした?何か思い出したのか?」
氷室さんが私の慌てように心配してくれてるが、生憎心配されるようなことではない。というよりも、破廉恥な漫画を思い出しただけ。変なことで焦った自分が恥ずかしかった...。
引道くんに問い詰めることが増えたことを改めて確認しながら、話の続きをする。
「い、いえ何も......その後は、人形が現れた襖を調べたら、西部屋の鍵があったので、それを使って入りました。おじさんの部屋らしく、パソコンを使ってひとりかくれんぼの終わり方を調べました。でも、部屋を出た瞬間に...人形が.....待ち伏せていたんです」
「へぇ...殺すことに盲目だと思っていたが、知能はあるのか...」
そう、私もそのように思った。包丁を持ってただひたすら追いかけてくるばかりだったから、知能はあまり内包だと過信しすぎていた。だから...引道くんを置いてくなんてことを.....!!
「....引道くんは、私を逃がして一人で化け物を相手にしました。それに比べて私は......由佳の部屋で一人で泣くことしかしませんでした...。ただ、それだけをして待つことしか...しませんでした」
「...」
氷室さんはただ静かに話を聞いてくれている。
「でも...彼はちゃんと帰ってきてくれたんです、無事に...。その後、トイレの近くで人形と対峙し、和室で見つけたガムテープを使って壁に固定。不思議なことに、人形の右手からは包丁が生えてました...」
「そうか...。では包丁は二本あり、1本は誰でも持てる物。もう1本は人形の腕として使われていたということか。...さすが怪異、何でもアリだな...」
氷室さんが呆れるその姿はまるで、これが初めてではないように思えた。
「人形を固定した後、大広間で暖炉に火をつけました」
ついでに汚物も燃やしました。あれはイケナイものだから。引道くんは泣いていたが後悔はしていません。
「そしてキッチンへと足を運び、人形に塩水をかけて回収。.....と同時に...空気が...重くなるのを実感しました」
「空気が...?どんな風だった?」
「胸が...押し潰されそうになる...頭が、物で殴られたようにガンガンする...歩こうとすると、壁を押しているかのように進みづらくなる...そんな感じです」
「...はぁ...今回の怪異は相当だな...」
氷室さんの書く速度が少し速くなったのを確認した。
「それでも...私たちは歩きました。.....ひとりかくれんぼを終わらせるために...!」
「そして暖炉に放った後、意識を失い倒れてしまったと」
「っ...はい...そして、今に至り...ます.....」
話していく度にあの情景が浮かんでくる。包丁を、殺意を向けられる恐怖。人が死んでいるという事実。
そして..........何も出来ない...無力な自分が...。
私が静かになったのを見て察したのか、これ以上の質問はなかった。
「...一応報告しておこう。あの家での被害者は君と引道くんを含めて、6人。そのうち殺害されたのは3人だ」
っ!?おかしい、私たちは家中を歩き回った。もちろん開けていない部屋もあるけど、それは鍵が空いていないだけで、化け物も入れるはずが...!
氷室さんは私の考えを知ってか知らずか、淡々と事実を述べる。
「神代初は大広間で殺傷、神代夏子は二階のベランダから転落死、神代和也は風呂場で体を半分に切断されていた。生き残ったのは...姫野美琴、神代由佳、引道新聖の3人だけだ」
なんで...風呂場は鍵が掛かってて入れなかったはず。じゃああの人形が切断した後に鍵を閉めて、何処かに隠したって言うの!?もう訳が分からないよ...。
おばさんに至っては、私が家に入る前は玄関にはいなかったから...入ったあとに落とされた...。
氷室さんは書類を持って立ち上がる。でも、と言うと
「俺達が駆けつけたときには、神代夏子の死体に上着が被せられていた。おそらく、引道くんがしたのだろう。...彼は、優しい子なのだな...」
「っ...はい!引道くんは、とても優しい男の子です!ちょっと変わってる変態さんだけど...自分よりも、人の事を優先してくれる、とっても頼れる...優しい人なんです...!」
氷室さんは「そうか」と言うと、荷物をまとめだした。...というか、今言ったことを振り返ると、結構恥ずかしいことを言っていたんじゃ...!
顔が熱くなる私を氷室さんは気にせず、荷物をまとめる。そして終わると、私に一言いってきた。
「話してくれてありがとう...次は引道くんに事情聴衆をしてくる。俺が帰ってくるまでは安静にしていてくれ」
そう言うと、氷室さんは部屋を出ていった。
ただその横顔は.....決して穏やかなどではなく、真顔でもない。あれは.....怒っているかは分からないけど...とても、怖かった.....。
カツ,カツ,カツ
「.....よう!」
引道新聖の部屋の近くで待ち伏せていた男が、俺の行く手を阻んだ。
「.....おっと、そうだったな。怪異に敏感な男はもう一人いたっけか」
はあ?と男は太い腕を組んでこちらを睨み付ける。
彼の名は『加賀剛』。オカルトジャーナリストであり、今回の事件を聞き付けた熱血オカルトマニアであり、新聞記者である。
今回も読んでくださり誠に有難うございます!!
いやぁ、やっと氷室さん登場ですよ!それに加えて、加賀さんも最後にちょびっとだけ!
簡単な振り返りも含めて書いたんですが、これまた大変でした(ヽ´ω`)
以上、皆大好き加賀さんで締めていただきました~!
それではまた次でお会いしましょう!ではでは~