「それで、お前は何か掴めたのか?」
俺は少し嫌な顔をしていう。ガタイの良さを新聞記者で収めるのは勿体ないと思うこの男は、『加賀剛』だ。
加賀は俺の顔を見て少し身を引いたが、それで終わるほどの男ではない。
「さぁ、な。とりあえず、あの嬢ちゃん...姫野美琴の家庭と周囲の環境については調べてみたぜ。これと言って特に怪しいものは無かったがな。だから、今から嬢ちゃんに取材をしに行くところだ!」
こいつはまた...。呆れる俺は、加賀に少しきつく釘をさす。
「相変わらずの情報の早さには感心するが...あまり調子に乗るな。お前の軽率な行動も、今は彼女にとって負担にしかならない」
「怪異のことについては否定しないのな...。やっぱお前のとこに来て正解だったぜ」
聞いてるのか聞いてないのか、まったく違うことを言うな...。
お調子者で馬鹿そうに見えるが、これでもしっかりとしたオカルトジャーナリスト。加賀の書く記事は適当にでっち上げたものではなく、しっかりと現場を捉え冷静な思考のもと、検証などを加えて書かれている。そこがまた責めるに責められないところなのだ。
「...今は休んでいる、そっとしておいてやれ。取材なら後で時間をつくる。...それに、お前には後々仕事を出すからな」
「おいおい、俺っちは警察署の人間じゃねぇんだぞ?やんねぇよ.....と、普通の奴なら言うが、怪異が関わってくるんじゃ話は違う。仕事を受け持ってもいいが、俺っちにも今回の件は関わらせてもらうぜ」
怪異あるとこ俺あり、みたいなことを言い出した加賀が少しおかしくて、思わず笑ってしまった。物分かりが良いのは、こいつの評価点でもある。
「ま、そこは必要経費だ。だが、作った記事は一度こちらを通して確認する。面倒だと思うかもしれないが、プライバシーを守るのも警察としての勤めだ」
加賀は快く承諾すると、道を譲った。といっても、こいつの書く記事はそこら辺がしっかりとしているので、あまり心配はしていない。
俺が加賀の横を通ると、一言付け加える。
「今から『引道新聖』の事情聴衆を行う。お前が着いてきてくれれば、何かと好都合なのだが...どうだ?」
「お前がそんなことを言い出すなんて、よっぽどのことかぁ。いいぜ、協力する。それに、事情聴衆の内容を聞けるなんて、俺っちとしては嬉しい限りだからなぁ!」
そういうと加賀は、俺の隣を歩き出す。加賀はワクワクとした表情でボールペンとメモノートを握っていた。
...俺がコイツを連れて行くのには勿論理由がある。相手はなにぶん素性の知れない男だ。黙秘やこちらに害を及ぼすような行動を起こされては面倒だ。そこで加賀だ。こいつは見てくれだけではない。力でも俺に勝るし、威圧的な態度も、相手に効果を存分に与える。
無論、このような事態が起こらないのが一番ではあるのだが...警戒をするに越したことはない。それを言わずとも、加賀はこの事を理解してくれている。そこがまたこいつの良いところだ。
それに...引道新聖には、聞きたいことがいくつかある。まずは外堀から埋めていくが定石だ。
【07,40】
母が作っている朝飯の匂いで目が覚めるのは、学生として青春を送っている証拠だろう(??)
ご飯と納豆、味噌汁が俺の俺のbreakfast ruleである。ちょっとカッコつけてみたが、要はこれがないといつもの調子がでないのである。ハツラツではなくヤツラツだ。
俺が目を覚ましたのは、このくっせえ薬品が沢山置かれている...恐らく病室か安静室だろう。設定道理働くのであれば、今俺達がいるのは『菊川警察署』だろう。
姫野さんが見当たらないのはどうせ「男と女の子が一緒の部屋で寝るなんて破廉恥です!!」とか言ってるやつらのせいだマジゆるざん。姫野さんが寝ていたら俺も隣で寝たかったのに...あ、そんな度胸持ち合わせていませんでした、テヘッ?
「いや、ホントにマジで刺激臭が凄い...」
愚痴りたくなるほどの刺激臭。鼻の奥が物凄く気持ち悪い。おい俺病人だぞ、もう少しまともな部屋で寝させてくれよ。こんなんじゃやる気が出るどころか、腹から大切なものまで出かねない。
グダグダと考え、文句でも言ってやろうかと思っていた。.....が、暫くして今の現状を理解した。
(本当に.....ここはゲームの世界なのか...)
数時間前までの事を覚えて、目が覚めたら自分の部屋でした!とかいう夢オチなら、まだ理解できた。許容範囲だろう。
しかし、目が覚めてもそこは見知らぬ天井。大方どこにいるのかは把握しているつもりだが、それがまた夢ではないと突きつける。
寝て起きても現状が変わらないと言うことは十中八九、転生もしくは長い長い夢の中のなのだろう。前者はともかく後者はあまり考えられない。夢の中で寝て起きても夢の中というのは、なんと言うか...おかしいのだ。まぁ、転生の方に関してもそうだが。
けど、転生って聞くとやる気上がるくね?ここが夢の世界だとか考えるよりも、ロマンがあるってもんよ。
ってことで、俺は転生した。意味不明な説明だとしても暴論だとしても受け付けません。誰に言ってるかはよくわかんないけど。
暫くして――ノックが鳴った。
「失礼する。菊川警察署警務部、氷室等だ。今回の事件を担当することになった。...体のほうは大丈夫か?」
部屋に入ってきて自己紹介アーンド俺の体の心配をしてくるのは、『怪異症候群』の中でも重要人物『氷室等』だった。側にいる体のゴツいゴリラみたいなのは恐らく『加賀剛』なのだろう。ゲームをプレイしていても思っていたが、ホントにジャイアンが筋トレしたみたいな体である。
「はい。お陰さまで体調は良好です。氷室さんと、ええと...」
「加賀剛ってんだぁ、俺っちの名前。単なるオカルトジャーナリストだからよぉ、気にしなくていいぜ」
「と、言うことだ。すまない、今から事情聴衆をするが、こいつがいるのを容認してくれ」
氷室さんはそういうと頭を下げてきた。それに合わせて加賀さんも頭を下げてくる。あまりの対応に結構驚いたが、慌てて落ち着きを取り戻す。
危ない危ない、変なとこでボロが出ないようにしないと...一応俺ってイレギュラーなんだから。
とりあえず俺は頷くと、氷室さんが言っていた事情聴衆を受けることにした。
「話が早くて助かる。今回、君に聞くのは事件の経緯ではない」
「あり?そうなんですか?てっきり事細かく聞かれるもんだと思ってましたけど...」
「氷室のやつはぁ、引道よりも先に嬢ちゃん...姫野美琴ちゃんに聴衆していたんだ。だから、そこら辺についてはもう聞いてあるのよ」
加賀さんがペン回しをしながらそう答える。そうか、俺よりも前に...今さらといっては失礼な話ではあるが、姫野さんは本当に大丈夫なのだろうか。あの夜、一番心に負担が掛かったのは誰でもない、姫野さんなのだ。
だからこそ、初めは俺のとこに来て長めの事情聴衆をして、簡単な事を姫野さんに聞くものだとばかり思っていた。
氷室さんが加賀さんに注意をする。
「加賀、お前は余計なことは言わなくていい。大人しくメモを録っていろ」
「へいへい、あー怖いこった怖いこった」
.....なんと言うか、仲が良さそうに見えるのは気のせいだろうか。いや、原作では仲が良かったのを知ってはいるが、今の会話を聞く限り、氷室さんの対応がきついように見える。それでも、加賀さんは何食わぬ顔でそれを聞き入れる辺り、本当に仲が良いのだろう。
俺は少し、ずれた話を元に戻す。
「それでは、俺は何を話せばいいのでしょうか」
「それは.....君についてだ」
.....はっ?俺について?.....あぁいや、冷静に考えてみたら、今回の事件に関わってること事態がおかしいもんな、他から見たら。
とりあえず、ボロは出さないようしっかりと話していかなければ...バレたらバラたで絶対に大変なことになる...と思う。自意識過剰だとお笑いください(泣)
「俺について、ですか...。それじゃ、丁度いいんでここで自己紹介をしましょう。どうも、引道新聖です。高校2年生の16歳ですね!」
俺が話始めると、加賀さんの表情がザ・仕事人になり、素早くボールペンを走らせる。なにこのギャップ、めっちゃカッコよく見えるんですけど!やだイケメン!絶対に外国人の人に持てそうなタイプ!
俺のテンションについては二人とも突っ込んでくれないのが悲ちい。
「...少し、夜風に当たりたいと思いまして...たまたま由佳さんの家の前を通ったんです。初めは、門が開いていて不用心だなぁなんて思っていたんですけどね...」
「それで、なにがあったんだ?」
「ええとその...ドシャ!って音が聞こえたので、何だろうと覗いてみると...由佳さんのお母さんが倒れていたんですよ。これは不味いと思った俺は、急いで脈を確認しましたが...どうやら即死でした。そこで...善意、からですかね、上着を被せることで、自分がいい人で在れたと実感できました」
嘘も織り混ぜて話をしていく。何も馬鹿正直に話す義理もなければメリットもない。むしろデメリットが大きすぎるくらいでもある。
「そうか、自分がいい人で在りたいと思ったのか...」
「はい...やっぱりおかしいですよね、こんなの...」
少し被害者っぽく、自虐で自分を苦しめているっぽくアピールをする。最初の威勢?知らない子ですね。
「いや、別におかしなことではない。続けてくれ」
「はい。そのあとに姫野さんの悲鳴が聞こえてきたので、急いで探しに行きました。不思議と体が勝手に動いたんですよ。人間って不思議ですね」
ヤバい、今演じてる自分のキャラが気持ちわりぃ!こんな不思議ちゃんになりたいんじゃないのに!完全にアピールの仕方間違えちゃってるよ!分岐点でやらかしたよ!
「そ、それでですね...一階を探索していたら、偶然あの人形と鉢合わせてしまって...鬼ごっこの開始ですよ。ああ見えてアイツ、階段の登り降りは下手くそなのでそこで時間を稼ぎました。それで逃げ込んだ先が...」
「由佳くんの部屋、ということか...。そこで姫野美琴くんと出会い、あとは彼女と共に行動していたと聞いている」
やだぁなぁ~彼女だなんて気が早いですよぉ~氷室っちさん!俺まだ告白してないのに彼女だなんて...彼女だなんて...!めっちゃいいじゃないですか!!!
勘違い野郎も程々に、溢れる幸福感を押し止めて、気持ちわりぃキャラアピールを続けていく。
「そうですね...姫野さんには沢山助けてもらいました。こう見えて、心構えは俺のほうがダメだったんですよ?男なのに、ははっ」
乾いた声で笑うが、二人とも反応なし。遠目から見ると、ただ気味の悪い笑顔としか受け取ってもらえないように思える。
「以上です。あとは、二人とも一緒に気を失って、そこを由佳さんに通報、警察に保護されたって流れですね」
そこまで言うと、加賀さんの書く手が止まった。氷室さんの方を見ている辺り、どうやら何処か納得していない様子である。俺はこんなにも真剣に話したと言うのに!
...嘘も混じってはいるが。
加賀さんからの熱意ある気合いの目を見て何か分かったのか、氷室さんは俺に質問をしてくる。
「君の経緯は一通り分かった。それでは、今度はその経緯で疑問に思ったところを聞かせてもらおうか」
え?疑問に思ったところ?そんなんあったっけ?
「分からないって顔をしているが...まぁいい。まず1つ目。由佳さんの母親...神代夏子が倒れているのを見て、何故周りに助けを求めなかった?」
あ、そういことね...。まぁ、これに関しては言い訳も立つわ。
俺は何食わぬ顔で答える。
「...あれも化け物の影響でしょうか、周りの民家には、何一つ電気なんか付いていませんでしたよ。人気もなかった。だから不気味に思ったんで、神代夏子さんの元に駆け寄ったんです」
「そうか...怪異の影響か...。わかった、次だ。2つ目。君は何故、転落した女性が由佳さんの『母親』だと気づいた?」
「...」
あまりのクリティカルに、思わず黙ってしまった。
.....落ち着け俺、別に大したことではない。よくよく考えてみれば、いい逃れぐらいできる。
「それは、姫野さんから聞きました。由佳さんの家族構成を。...ベランダから転落した女性は、中年の見た目だったので、由佳さんの母親だと確信しました。先程の説明、少し語弊がありましたね。倒れていたのを見たときは、神代夏子さんだとは気づいていません。今は知っているのでつい、あんなことを口走りました」
加賀さんは不貞腐れたような顔でボールペンを走らせる。氷室さんも、難しそうな顔をして聞く辺り、何とか成功しているようだやったぜ!
このまま何事もなく進めばいいのだけれどもぉ!!!
それに、早くて姫野さんにあってパフパフ...は出来ないけど、お話ししたいし。将来のこともボソッ
だが、そんな考えはすぐに吹っ飛ぶこととなった。
暫くして、何かを決心したような顔をした氷室さんは、一度加賀さんを見て頷いた後、俺に最後の質問をしてきた。
「では、最後の質問だ。.....君は何故、この事件が『怪異』だと知っていたんだ?」
「...っ!?」
この質問が来るまでは。
今回も読んでくださり誠に有難うございます!!
事情聴衆の回が普通に長いですね...。次で終わりますよ!タブン
それよか、新聖くんは相変わらずよく分からない人ですね!こんな人を皆さん応援してあげてください!
それではまた次でお会いしましょう!ではでは~