俺がまだ小学生の頃、テレビでヒーロー番組をよく視聴していた。今でもたまに見るぐらい好きでもある。ヒーローに限らずゴ◯ラ等の怪獣系統も見ていた。実にウルトラである。
今ではそのような真似をするのはあまり好まないが、当時はよくしたものだ。保育園では、周りの子はほとんど腕を十にしてウルトラな光線を出しまくっていたほど流行っていた。女の子も恥ずかしがってはいたが、やっていた子は少なくない。やがて大人へと(高校生です)なるにつれ、その様な光景は姿を消していった。不思議と寂しさが生まれるのは、それほど自分は熱中していたのだろう。
「ええい鬱陶しい!!あんたが望むもんは何もありゃしないよ!!早く出ていきんさい!」
改めて現状を確認してみよう。目の前にはレジを軽々しく持ち上げてるように見えるおばちゃんと、我々の宿敵『くねくね』がいた。
本来、人は得体の知れないものには恐怖が湧くもので、このように応戦することはあり得ない。パニックになった人ならあり得るかもだが、普通はない。
その考えをぶち壊したのが、レジを頭の上まで持ち上げる馬鹿力を兼ね備えているおばちゃんである。相手が人間ならばまだ分かるが生憎、相手は人ではなく怪異なのだ。
怪異も襲おうとしているように見えるが、どうやらおばちゃんの奇行に萎縮しているのか、手を出そうとはしない。
「姫野さん、そこに置いてある防犯ブザーを取ってください」
「えっ...それって犯罪なんじゃ...」
「見るからに店員いませんよ、それに強盗に襲われそうになったから、って言えば何とかなります」
「何とかならないよねそれ」
冷静にツッコミをしてくる辺り、姫野さんも肝が据わってきましたね。俺は右手のコーナーから卵の形をした防犯ブザーを手に取ると、じりじりと怪異ににじり寄る。
....あれ...そういえば俺ってくねくね見ても何も起きないんだけど。単に体制でも着いているのだろうか...。ま、見ても平気なら怖くはない...。
むしろ気持ち悪い程だ。改めてくねくねを見るが、俺が考えていた容姿とは異なっていた。靄が掛かったような姿ではなく、全身ドロッとしたような白で覆われている。普通に触ることも出来そうだ...触りはしないが。
くねくねとの対峙により初めは俺達に気付いていなかったおばちゃんも、流石に接近してきた事に気づいたのか目線だけを動かして此方を睨み付ける。
「なんだいアンタ達は!こっちは今忙しいんだよ、後にしておくれ!!」
あ、呆れた...ホントにあの怪異相手に強気の姿勢でいるよ。姫野さんもどうやら俺と同じ感想らしく、口をポカンと開けて突っ立っていた。
やがて怪異の方も俺達に気付いたのか、此方に体を向ける。顔なんてものはコイツには無いので、体を向けてくれたことでその対応を知ることができた。
その時だ、
俺達を一瞥していた怪異は、いきなり何かに取り付かれたかの様に笑い始め、俺達目掛けて跳んできた。いや、俺達ではない。姫野さんの目掛けて跳んできたのだ。
「...っえ!?」
「っ!?姫野さん逃げて!!」
俺が叫ぶすぐ後には、既に怪異は俺の横まで来ていた。佐藤さんの家で言っていた、怪異が姫野さんを探していると言う考えを今思い出し、何をしているんだと歯軋りしながら防犯ブザーを引く
「おぉぉらあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
よりも先に、物凄い物音が店内に響き渡った。後ろを見ると、俺よりも早く動いたらしいおばさんが、先程持っていたレジを地面に叩き付けたようだ。
え、なにこのゴジラ...ほんとにBBAかよ!
轟音とまではいかないものの、結構な音が響き渡ったことで怪異は姫野さんに突っ掛かる直前で止まり、悶え苦しみ始めた。やはり強い音やノイズは弱点らしく、段々と体が薄くなってきている。
姫野さんは隙を見計らい、俺達の元へ走って来た。俺は何時でもブザーを鳴らせるよう構えながらくねくねを睨み付ける。が、それでもくねくねは俺に構わず姫野さんをひたすら凝視していた。...多分そうだと思う。目なんか付いてないが、雰囲気で何となく分かった。
そして体も薄くなり景色と同化しそうになる直前、奴は今までの奇声とは比べ物にならないほどの高い声を張り上げながら消えていった。
くねくねが去ったことを確認した俺は姫野さんの安全確認をする。不意に、過保護という言葉が頭の中を過る。姫野さんに目立った外傷はなく、本人も大丈夫だと言っているため安心した。
「やっぱり...あの怪異は姫野さんを狙っている様に見えますね」
「どうして...私が...」
姫野さんは困ったように顔を俯かせる。どうやら本人にも自覚は無いらいので、俺こと引道神聖くんが核心的なことを言ってやろう。
「姫野さんは可愛いですもんね、まさかくねくねまで堕とすなんて...罪深い人で」
「あそう、そう言うの大丈夫だから」
「......」
どうやら冗談は通じなかったらしく、ウケもしなかった。い、いや?本当にそうかもしれないんじゃね!?姫野さんってばスーパーウルトラハピネスキャワイイんだもの。怪異でも惚れさせること出来そうだもん。
なんて言えば、暫くは口を聞いてくれなくなるので、そんな事は言わない。蔑んだ目はご褒美だが、無視は普通にNGである。おほっ!その蔑んだ目、グッときたよグッと!!
すると突然、鼻で笑う声が聞こえた。頭の中でフィーバーしていた俺を現実に戻してくれたのは姫野さんではなく、ゴジラゲフンゲフン....おばちゃんだった。
「そこの坊主、さっきくねくねと言ったかい?」
おばちゃんが初めて俺に声を掛けてきた。姫野さんもくねくねに関しては気になるらしく、何も言ってはこない。
とりあえず、聞かれたことには答えなければいけないので、ここは素直に白状する。
「はい、先程の怪異の特徴....有名な都市伝説とされている『くねくね』と合致しています」
「ほぉ...どこがくねくねだと言いたいんだい?」
おばちゃんの煽るような言い方にムッとしながらも、冷静に質問に答えていく。
「...俺と姫野さんは先程までは佐藤さん...この近辺に住んでいるおじさんと一緒にいました。佐藤さんは田んぼの奥にいるくねくねとした白い物体を見つめると、急に狂ったような声と動きをしました」
姫野さんもおばちゃんも何も言わずに話を聞く。と、思った途端袋が開く音がし、おばちゃんの方を見ると、あろうことかパンコーナーの商品を食べていたのだ。
これには姫野さんも流石に黙っていられなかったのか、おばちゃんに注意するように声を掛ける。
「あの、その商品は販売されているものですよ...?勝手に食べたらいけないんじゃ...」
「あらそうかい、てっきりアンタ達もブザーを盗っていたから私も大丈夫かなと...」
「っ...こ、これは...身の安全を守る為に、その...」
姫野さん頑張れ!負けるな!DQN何かに負けるな!するとおばちゃんは姫野さんを一瞥する。やがて興味が無くなったのか、先程開封した袋からパンを取り出し頬張った。
「......」
「いや、ブザー戻さなくていいですからね!?」
どうやら罪悪感を感じているらしく、罪を無かったことにしようとしていた。それはダメだ!犯罪者が俺とおばちゃんだけになっちゃう!
姫野さんに考え直すよう説得をする。別にこれは正当防衛なのだから平気だ平気。警察には強盗に襲われていましたって言えば何とかなるでしょ!!もしくは防犯カメラぶち壊してとんずらこくか。
俺達の様子を見飽きたおばちゃんは、先程の話の続きを促してくる。
「アンタら犯罪者になろうが、私には関係ないねぇ。それよりも、早く続きをはなしなさいな」
上から目線の態度に堪えながら、やさーしく馬鹿でも分かるように説明していく。
「......くねくねの姿を見てしまった人は正常ではなくなる、これが一つ目です。もう一つはまぁ、奴の動き方ですかね。間接を無視したかの様な動きは、くねくねの名前に由来する通りです」
「そうかいそうかい......でもさぁ、あれをくねくねと信じるにはまだ足りないねぇ」
「何がです?」
「アンタのさっきの答え、矛盾が生じているんだよ。馬鹿な子でないなら、納得のいく回答をしておくれ」
おばちゃんの今の物言いには流石に黙っていられないらしく、姫野さんが介入しようとする。
「ちょっ、いいの!?引道くん!」
「根を上げたら俺達の負けです」
スッとカッコよく手で制すが、何分関係は1日も経っていない初対面での知り合いである。簡単には収まることはなかった。
「負けでも何でも...ここまで言われてはいそうですか何てなれないよ!命が懸かっているのに...!」
姫野さんの言いたいことも分かる。けど敢えて言わせてほしい。
「姫野さん、ひとりかくれんぼの時初めは俺の言うこと信じてくれなかったじゃないですか」
「引道くんはちょっと静かにしてて」
ヤベースゲー笑顔なんですけど!なにこの子、都合が悪いことは隠蔽するタイプの人だよ!汚い、すんごく汚い!あっ、俺もそうでしたねテヘッ?
「痴話喧嘩なら他所でしてくれないか?私は昼飯で忙しいんだよ」
「......金払わず食う飯は最高ですもんね」
こちらも会話に対応しつつ皮肉を交えて応戦する。がこのおばちゃん、見た感じ多くの修羅場を潜ってきたらしく、これしきの事ではなんの反応も示さない。
ま、それそうだろう。何せこのおばちゃん...『保坂里美』は、過去に人を殺しているからだ。実はここに来る前に、俺のスマホを使って色々と調べていたのだ。勿論このことは姫野さんにバレていないし、氷室さん達にも知られていない。
スマホの電池も30%を切った位だと心配になるも、さっきの話の続きをする。あれ?そういえば姫野さん、痴話喧嘩って言われましたよ?よかったですね!僕は嬉しいのでその真顔止めてください死にたくなります。
軽く咳払いをする。
「ンンッ!......確かに矛盾してますね」
「だろ?だから早く言い訳を聞かせな」
だから一々煽らないでください。話進まないし姫野さん怖いので!
「言い訳ですか......今ここにいる人は、何かしらの意味を持っています」
「意味...?どういうこと、引道くん」
「そうですね......俺は色々とありますし、姫野さんも思い当たる節がありますよね?」
やはり思い当たる節があるらしく、否定はしてこない。まぁ思い当たる節もなにも、今日起こったことだしね。
「私に事情を誤魔化したところで、疑いの目は変わらないよ。それに私はどうなんだい?」
うんたらこうたら言いながらも、ちゃんと聞いてくれる所は好感持てるよ!少なくともマイナスがゼロになっただけだけど。
「おばちゃんさ......あの精◯野郎に何かしたでしょ」
「「............」」
痛いほどの沈黙が流れる。一方は俺から少しずつ距離をとる者。もう一方は......目に力を込めて睨んでくる者。
姫野さんの見る目もまさにそれであり、快感を感じることはない。
やはりこのBBA、くねくねとは関係があるらしく珍しい反応をしてくれた。手に持っている焼きそばパンが悲鳴を上げそうなほど握られている。
「それは......どういうことだい?」
「あなたがよく理解してると思いますが......焼きそばパン、大丈夫ですか?」
俺がパンを指摘すると、自分で潰していたことに気付いたらしく、パンを床に置く。いや置くのかよ。
「結局あのおばさん、何だったんだろうね......」
姫野さんがカゴに緑茶とおにぎりを入れて呟く。
あの後、おばちゃんはレジ袋を盗って飲み物と食品をねじ込むと、何も言わずに足音だけを鳴らして裏口から出ていった......金を払わないで。
「そうですね...謎は深まるばかりです」
そう言いながら、俺はカウンターから盗ってきゲフンゲフン......取ってきたレジ袋に、炭酸ジュースと補給ゼリーを入れる。お腹はそんなに減っておらず、ゼリーが食べたかったので手に取った。栄養も取れるゼリーとか超優秀。三食ゼリーで過ごしても良いかも。
「その謎の少しを、引道くんは知っているんでしょ?」
レジの前に立ち財布を取り出しながら、そんなこと聞いてくる。
「......まぁ、可もなく不可もなくって所ですかね」
「使い方間違ってるんじゃない?」
え、そうかな...。改めて言ったことを振り返る。.....うん、多分違うなこれ。
最近俺に少し冷たい姫野さんは、カウンターに商品分の代金を置くと、レジ袋に詰めた。
「.....別に払わなくても」
「窃盗は犯罪だよ.....ほら、引道くんの代金も置いてあるから、行こ?」
「.....ハイ」
あれおかしい。ナチュラルに俺奢られてんだけど。あれ?ここは男の見せ場じゃないのか?甲斐性なし見せつけてどうすんのよ俺.....あ、元から払わないつもりでしたね、ハハッ!!
尻に敷かれている自分の不甲斐なさに胸が痛くなる。あれ何故だろう、涙液が過剰に分泌されて止まらない...。
自動ドアを通る堂々としたその姿は、さながら姉御と呼ばせて頂きたいほどのカッコよさを持っていた。
「.....」
結局俺もポケットマネーから支払い、奢られた代金を姫野さんに返しましたとさ、テンテン!
と、いうことで...今回も読んでくださり誠に有難うございます!!
やっと出てきましたよ怪力ゴリラ!原作では描かれなかったシーンを書いてみました(白目)!!
冗談はトイレにでも流しておいて...姫野さん、神聖くんに冷たくない!?もっとhotでキュートに接してくしゃい!あと皆さんも...窃盗は犯罪ですよ!?レジ壊したのはおばちゃんなので器物破損は引道一味にはいきませんご理解お願いします。
それではまた次でお会いしましょう!ではでは~...