転生は好きな『物語』でした   作:しゃとす

16 / 31
ダイヤル式電話

 

 

 

 

ゴリラと怪異の戦闘現場を後にした俺達は、佐藤さんの家に向かった。別に探索は諦めているわけではなく、安全を考慮した上で、休憩がてらお昼にしようということになったのである。

 

 

「っと...佐藤さん、失礼します...」

 

「.....失礼します」

 

根が真面目な姫野さんは、主を失った家にも礼儀を忘れない。俺の飼い犬も見習ってほしいもんだ。自室でティッシュ散らかされたのはまだ新しい記憶である。

 

ちゃぶ台に、先程コンビニで購入してきた食品を並べる。その間に姫野さんは台所で手を洗っており、水の流れる音がする。

 

 

 

 

「「いただきます」」

 

仲良く手を合わせてご挨拶。いや、別に仲良いいかと聞かれたら俺は縦に振るが、姫野さんは多分横に振るだろう。とても悲しいデス!

 

この世の全ての食材に感謝を込めたので、いざ実食。と言っても、俺の昼飯は寂しいもんで栄養補給ゼリー二つである。美味しさと手軽さで選んだため、少し後悔をした。

 

姫野さんは、おにぎりを美味しそうにバリバリ食べてる。実に可愛らしく、餌付けをしたくなるほどだ。いや、むしろ餌付けしてほしいと言うかしてください!

 

頭の中はお花畑であるが、食事は思ったよりも静かに進んだ。決して話題とかなかったとか俺のコミュ力が足りなかったからとかではなく、食事は静かにするものだしね!

 

 

 

 

「なーんか面白いのないかなー」

 

ゼリーが昼食だった俺は、5分も掛からず平らげてしまった。後もう一つ買えばよかったなと未練がましくしているが、そんな考えは何処へらや、なんと佐藤さんの家を物色し始めていた。我ながらなかなかグズである。

 

「ちょっと引道くん、人の家を漁るなんて悪いよ...」

 

俺の行動を見かねたのか、流石に注意が入ってくる。それを軽く受け流して、物色を再開する。

 

「手持ちがブザーだけってのは心許ないです。もしこれが無くなったら後は走って逃げるだけですけど、そう都合よく撒けるとは思いません。なのでこれは仕方のないことなんです!」

 

「屁理屈なんか言っちゃって...」

 

俺の行動を呆れた姫野さんは、緑茶を開け飲み始める。どうやらこういうことには慣れてきたらしく、あまり追及はしてこなかった。...ある意味、一歩前進って感じがする...感じだけど。

 

「.....ん、そう言えば.....!!」

 

「えっ、ど、どうしたの、引道くん!?」

 

いきなり声を上げたことに驚いた姫野さんは速攻で襖を開け、いつでも隠れられる準備をする。なんだろう.....無駄のない動きですねと褒めるべきか、隠れる気満々ですねとからかうべきか、ちょっと分からなくなってきた。

 

いやいやちょっと待て、今はそういうことよりも...!

 

「姫野さん!そこの黒電話から、警察署に掛けられませんか!?」

 

姫野さんは俺の言うことに一瞬ポカンとしていたが、意図を読み取ってくれたらしく、弾かれたように黒ダイヤル式電話へと手を掛ける。

 

「...うんっ、問題ないみたい!いつでもいけるよ!」

 

「それじゃあ......周りに奴の姿は見えませんから、どうぞ掛けてください」

 

俺の言葉を合図に、ダイヤルを回す音が鳴る。手つきは慣れているように見え、一切の無駄がない。意外なとこでの技術に苦笑いしながらも、ガチャっと音が鳴った。

 

 

 

どうやら繋がったらしく、向こうから菊川警察署ですと答える女性の声が聞こえる。俺は急いで姫野さんの隣に行き、静かに耳を傾ける。

 

姫野さんは俺が来たことを確認すると、氷室さんを呼ぶよう頼む。

 

少しして保留の音楽が止み、氷室さんの声が聞こえた。

 

『.....姫野くんか。どうした?俺に電話を掛けてくるなんて』

 

「氷室さんすみません.....!実は、その...怪異に、遭遇してしまったんです.....」

 

『.....は?いやいや待て...怪異だと?姫野くん達は病院に向かっているんじゃないのか?』

 

いきなりの事態に少し早口になる。怪異に遭遇という事実は向こうにも結構な動揺を与えてしまったらしい。電話越しからでもそれは伝わってくる。

 

「いえ、実は、その.....道に迷ってしまって...菊川市にはいるんですけど...周りは田畑ばかりの田舎なんです.....」

 

『.....そこで、怪異と遭遇したということか。...そこから逃げ出せそうか?』

 

「いえ.....それが、ずっと同じところを回ってるんです...」

 

『回ってる...?それは、ループしているということか?』

 

「はい......それで、動ける範囲で逃げ回っていました。それで、途中で助けていただいたおじさんの家に籠らせてもらってるんですけど.....」

 

『そうか.....そのおじさんと変わってもらえるか?』

 

そこで姫野さんにも動揺が走る。未だに責任を感じているのだろう、唇を噛んでいる。

 

「おじさんは.....殺されました...私たちの目の前で...」

 

『そ、そうか...悪いことを聞いた』

 

流石に不味いと感じたのか、申し訳なさそうに謝る氷室さん。そうだそうだ!我らが姫野様に謝れ!(キチガイ)

 

「いえ...氷室さんが気に病むことはないですよ」

 

『そう言ってもらえると助かる...』

 

なぁーんだこの会話は!見せ付けてんのか、見せつけられてんのか!?俺ってば結構嫉妬しやすいのよ氷室ざぁん!??

 

『とりあえず、二人とも無事なんだな?』

 

「はい.....引道くんは相変わらず元気ですよ...私も平気です」

 

あれ、俺なんか子供扱いされてね?いや確かに世間様から見れば充分ガキだと思うけど、一つ歳上の女性に児童扱いはちょっと.....待てよ、これはこれでバブみを感じることが出来るかも...やっぱり姫野さんには俺の保護者になってほs――

 

『そこに引道くんはいるか?いるのなら替わって欲しいんだが...』

 

「わ、分かりました.....引道くん、氷室さんが」

 

おうおう、やっと俺の出番か!俺のヒロインとイチャイチャしやがって!文句の一つでも言ってやるわい!!

 

「了解です.....もしもし」

 

『無事で安心したぞ、引道くん。本当にすまない.....やはり俺が送って行くべきだった.....』

 

「本当にそうですよ...長い距離を歩かされたことを、俺は忘れませんからね!許してほしかったら今度パフェ奢ってくださいよ、二人前!」

 

本当にまったくだよ!ちゃんと警察が保護すると決めたのなら、最後まで責任をとりなさい!もちろん俺は転嫁絶対だけどね。都合の悪いことはひた隠し、はっきり分かんだね。

 

『.....俺は警察だぞ。もう少し言葉の使い方があるんじゃないか?姫野くんしか助けないぞ』

 

向こうで顔を怖くしているのが何となく分かってしまった俺は、全力で頭を下げる。本人はここにいないけど。

 

「調子乗ってすみませんでした!.....茶番はここまでにして、そろそろいいですか?」

 

『茶番も何も、君から始めたことだろ。.....まぁいい。それよりも今君達が置かれている状況を説明してくれないか?』

 

「説明ならさっき姫野さんが」

 

『君ならある程度検討はついているだろ?俺は引道くんから説明して欲しいんだが』

 

うわぉ、買い被りすぎぃ!でも当たってるから何とも言えないぃ!単に俺が怪異に詳しいからって、ここまで頼られるものなのかと疑問に思うも、氷室さんの質問に答えていく。

 

「.....まぁ、そうですね。今回の怪異は」

 

『あ、悪い引道くん。怪異に詳しいやつに代わるから、そいつに話してくれ』

 

「............」

 

お、落ち着け俺.....こんな場面はいくらでもあっただろ。人が話そうとしてるときに邪魔をしてくる奴とは何度も渡り合ってきた。こういうときは心を落ち着かせて...

 

チラッ

 

「...?」

 

うん、やはり姫野さんはお美しい。こんな近くでも可愛いなら、きっと目にいれても痛くないだろう。

 

「どうしたの...引道くん?」

 

ガン見していた俺に不信感を抱いたのか、はたまた自分の顔に何か付いているのか心配になったのか、恐る恐る尋ねる。

 

「いえ...至近距離から見ると、改めて姫野さんが可愛いことに気づいて見入ってしまいました」

 

「っ...そ、そう!」

 

やはり褒め言葉には耐性がないのだろう。髪をくるくるいじりながら頬を赤らめる。フッ、可愛いやつめ...。

 

 

 

 

『...お取り込み中失礼するよ』

 

「どわぎゃはは!?」

 

びっ、びっくりしたぁ~!代わったんなら早く言ってよね、プンプン!...冷静に考えると俺が悪かったですねすみませんでした。

 

「はっ、ハイハイ大丈夫ですよぉー...」

 

『声が裏返ってるのは言わないでおくが...民俗学者の霧崎翔太だ。それで、君が思う今回の怪異を教えてくれ』

 

言っちゃってますよね?声が裏返っているって。隠す気毛頭ないよこの人!

 

それにしても.....この人が『霧崎翔太』か。思っていたよりも随分と大人びた声色だ。なんだ?怪異症候群の男キャラは全員大人びていんのか?あ、加賀ちゃんはどちらかと言うと若い部類の方に入るからそうでもないか.....。

 

「まぁここは素直に話します。あまり悠長なことはしてられないので.....今回の怪異は、世間でも有名な都市伝説とされている『くねくね』ですね」

 

『くねくね、か。確かに危険だが...根拠は何だ?』

 

一応は話の分かる人で否定してこない。俺はBBAに言った事を反復して説明する。

 

「くねくね特有の動きに、自分を見たものの心を壊す能力。さっき姫野さんが言っていた佐藤さんが丁度その様になりました」

 

あっさりと話すと、俺は窓の外をチラリと見た。昼を過ぎたらしく、日も少し傾いてきた。

 

『それなら、くねくねだと言っても分かるが...引道くん達はくねくねを見たんだろ?ならここに矛盾が生まれることになる』

 

「おばさんと同じこと言いますね.....」

 

なに、皆矛盾を見つけたら指摘したい人たちなの?俺もだよ!けどこうも何度もされると流石にめんどくさくなってくるんだよなぁ.....。

 

 

 

 

『おばさんだと.....?どういうことだ引導

道くん。佐藤さん以外にも民間人はいたのか?』

 

何か疑問に思ったのか、今度は怪異についてではなく民間人について質問する。

 

おばさんのこと説明しろとか言われると、一言にまとめることができる単語しか思い浮かばない...。

 

「はい、今のとこ確認してるのはおばさんだけです。ついでに先程の矛盾について話すと.....くねくねの影響を受けないのは、俺と姫野さんとBB.....おばさんです」

 

おっと危ない、つい悪口が出るとこだったテヘッ?うん気持ち悪い。でも俺のこういうとこめっちゃ好きよ!でも気持ち悪い。

 

『影響を受けないだと.....?それはどういう.....いや、それは後だ。.....単刀直入に言おう。君達が置かれているその状況はとても危険な状態となっている』

 

「まぁ......そうですね」

 

『一般的にくねくねが広まったのは2003年初期。しかし、俺や怪異を特務とした氷室などは、遥か昔から″そいつ″を知っている』

 

遥か昔から、ね。ここら辺については記憶があまりないので、余裕が出来たら聞いてみようかな。

 

『最初は自然現象によって引き起こされる幻覚症状だと推測されていた。......だが事実は違った。1978年、とある村で20人近い集団失踪が発生した。いや.....集団発狂というべきか。結局、村人は一人残らず元には戻らなかった』

 

姫野さんは強張った表情で手を握っている。佐藤さんみたいな人が20人も一斉に発狂した光景でも想像しているのか.....なにその光景めっちゃカオスやん。

 

『目撃者の証言、発狂者からの発言を元に辿ると、どうやら白い形をした″ヒトガタ″を視た事が村人達の発狂の原因だと特定された......これが、くねくねに関する情報だ』

 

「発狂した人からよく聞き取れましたね.....おじさんは奇声を上げていましたけど、全員がそうじゃないんですか?」

 

『あくまで調べて分かった情報だ。当時がどうだったのか、そこまで詳しいことは記されていない。だが......今言ったことと、君達の情報は非常に酷似している。ほぼ間違いないと言ってもいいだろう』

 

確かに、俺達の前に現れているのはくねくねであるが、それだけではない。くねくねをこの世にもたらした元凶は二つあるが......今はまだ分かっていないみたいだ。

 

霧崎さんは少し間を置くと、声を少し強めて警告してきた。

 

『......くねくねの対処法はただ一つ。近づかないこと。何があってもそいつを認識してはならないそれが何か理解したら......アウトだ』

 

「でも、俺達は認識しても何もなかったですよ。それに、こちらから出向かなくても向こうから会いに来てくれますし」

 

『それでもだ。絶対安全なんて保証は何処にもない。極力視ることは避け、逃げに徹してくれ』

 

と言っても、どうせまた向こうから会いに来るんだよなぁ.....ヤベ、ちょっと可愛く見えてきた。あれで中身が美女だったら俺から飛び込んでいくかも。......いやないな。やっぱ命優先だわ。

 

『引道くん、姫野さんと代わってくれ』

 

あ″ぁ!?俺のヒロインに何をー!って言いたいけど、状況が状況だし、こっから先は姫野さんのターンでもあるので大人しく代わる。

 

姫野さんに受話器を渡すと、また外を見る。くねくねの姿はまだ見えない。

 

 

 

 

 

『霧崎翔太だ、宜しく姫野くん』

 

「宜しくお願いします...あの、私たちここから出られないんです。どうしたらいいですか...?」

 

『.....そこなんだな。君は今、複数の怪異が重なっている。いや.....怪異がくねくねを呼んだのかも。......ああ。姫野くん、氷室に代わるぞ』

 

「はい.....」

 

姫野さんはひたすら静かに話を聞く。部屋に響くのは向こうの声と、時を刻む秒針の音だけだ。

 

暫くして、氷室さんの声が聞こえた。

 

『......そういう訳だ。大丈夫か?』

 

「氷室さん.....」

 

『......姫野くん。俺達も、今まで散々な目に合ってきた。何度も死に掛けた。怖い思いをしてきたのは君だけじゃない。だから....何も心配することはない』

 

外見から発言まで、何でもカッコいい氷室さん。こんなんがクラスにいると考えると、もう色々と勝ち目が無くて泣いちゃう。というか今も泣きそうです。

 

『.....今から、俺たち三人で君達を助けに行く。怪異を掻い潜る方法を幾つか試した上でな。.....それまで、絶対に死ぬなよ』

 

「.....はい」

 

『何かあったら、引道くんに助けてもらうといい。彼なら何とかしてくれるだろう。警察にも動じない人だからな』

 

おいごら、何を言ってるんだこの人は。余計な信頼はプレッシャーとなって襲いかかってくるのよ?それに、俺まだ高二だし...。

 

「はい...引道くんには今まで助けてもらいましたから、頼りにはしてます。...ちょっと過保護過ぎる所が心配ですけど」

 

はい頑張らせていただきます。怪異だろうが妖怪だろうが夏休みの宿題だろうが何でもこいや!俺が全部相手にしてやるぜ!!過保護?量を考えれば何とかなる!

けどホモォな人はNGである。あれは男性キラーだからな。俺達男には天敵である。

 

『.....随分と信頼してるんだな、安心したよ。君達が不仲じゃなくて。......そういう訳だ。コトを急ぐぞ。今からそっちに行く!』

 

「はい...!」

 

氷室さんの掛け声と共に、加賀さんのやる気のある声が電話越しでなくても聞こえてきた。相当燃えているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

そして電話を切ったのか、無機質な音が一定の間隔で流れる。姫野さんは受話器を置くと、小さく呟く。

 

「.....まだ、死ねない.....行くよ、引道くん!」

 

弱気な姿勢は何処へら、氷室さん達のやる気に触発され、目には闘気が宿っているようにも見える。

 

.....そんな顔されちゃ、俺も頑張りたくなっちゃうじゃないか。

 

「過保護と言われても聞く耳持ちませんよ。俺はあなたを守りたいので!」

 

「.....うんっ、宜しく頼むね!」

 

出会って初めて、俺は姫野さんと距離が縮まったと思えた。姫野さんの優しい笑顔も、俺には活力になる。

 

 

 

 

「さぁ行こうか、姫野さん!!」

 

「お、おー...!」

 

掛け声に会わせてくれたことに嬉しくなる。足の運びは絶好調だ。外を確認して、玄関に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

ビンッ!

 

 

不意に、テレビの点く音が聞こえた。俺と姫野さんは足を止め、恐る恐る後ろを振り返った。

 

 

 

 

熱いムードでしっかり忘れてたわ...『NNN臨時放送』の事を。

 

 

 

 

「.....とりあえず、見てみましょうか...」

 

「......うん」

 

再び気まずい空気へと逆戻りである。.....何この空気、めっちゃ嫌なんですけどどうしたらいいですかぁ!!!???

 

 




今回も読んでくださり誠に有難うございます!!

書いてて思ったけど、やっぱ氷室さんってイケメンだねこんちくしょう!神聖くんがイケメンっぽいことすると場の空気が壊れるのは主と同じで泣けてくるシクシク。

それではまた次でお会いしましょう!ではでは~。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。