NHKと聞けば誰もが思う集金。行儀が良い奴はまだ構わないが、土足で踏み込んでくる害虫もいる。奴等はこちらの事情などお構いなしに突撃してくるため、払い落とすのが困難なのだ。居留守を使えば、どこぞの人形のようにドアの前でスタンバってたり、なんならこじ開けようとしてくる奴までいる。ソースは俺。
NHKの評判が落ちたのも、これが大きく関わっているのは間違いないだろう。といっても、NNN系とはあまり関係がないのではあるが雰囲気というものだろう。
目の前のテレビ画面は、赤白青緑黄等のカラーテロップで埋まっていた。甲高い音が不気味さをより引き立てている。
「急に、どうしたんだろう.....故障、かな...」
見るのを拒むかのように目を細くして原因を探る姫野さん。怯えている姿がまたキュートである。
「故障で済むならありがたいですけどね」
いやホントにそうである。故障なら、これを放置して出ていけるし、俺の物でもないので壊すことができる。器物破損?バレなきゃ何しても平気な世の中なのよ!Hoooooooooooo!!!
おっと失礼、己をさらけ出し過ぎた。たまにあるよね、意味もなく叫びたくなること。あれを友達の前でしたら「また学校でね」と無表情で言われたときには、もうもう止めようかなと思った。
「.....壊れてないなら、原因は.....!も、もしかして、これも怪異!?」
「あながち間違いでもありませんね。なにも起きてないので、断定は出来ませ」
ヴァン!
「.....」
「.....」
「.....」
「.....テレビ、直りましたね」
「それはちょっと無理があるんじゃないかな.....」
あ、ありのままの事を話すぜ!?俺は姫野さんに怪異のせいかもしれないけど、まだ何も起きていないと言ったんだ。なのに、合わせてきたかのようにフラグ回収しちまった!俺ってば実は結構怪異の野郎と仲良かったりすんのかもしれん。何言ってるか分からんが俺にもさっぱり分からん!!
姫野さんの苦笑いに軽く傷を負いながらも、靴を履くのを止め、テレビを確認しに向かった。
「...特に、変わったところはないよ、ね...」
姫野さんがテレビをまじまじと見つめ、状態異常を確認する。このまま杞憂で終わってほしい気もするが、どうせまた点く。
姫野さんがテレビ画面に触れようとしたその時、
「きゃっ!?」
先程と同じ音をたてて、テレビ画面が写った。あ、姫野さんご馳走さまです。真っ黒な画面が少しずつ明るくなる。次第に、写っているのが何処かの村であることが分かってきた。
何が起こるか分からない姫野さんは、急いで俺の隣に来て服の裾を掴んでくる。どうやら先程のアクションで堪えたようだ。そのことに鼻の下を伸ばしつつ、画面に集中する。
「うぅ...こ、怖かった.....」
「.....シリアスっぽい展開で、過保護だと言われたんですが、姫野さんから来るとは思いませんでした」
「むぅ...意地悪しないでよ。.....?これは...『本日の犠牲者』?」
怖がったり泣きそうだったり拗ねたりと、喜怒哀楽が豊富な姫野さんがテレビに書いてある文字を読む。
始めのテロップが消えると、次々と人の名前が並べられていく。
「なに.....これ...」
「人の名前ですね」
詳しいことまでは知らんが、書かれてる内容は大体分かるため、そんなに不思議がることはない。驚いたことと言えば、不意打ちの点滅と姫野さんが俺を頼ってくれたことだけである。
姫野さんが食い入るように、一つ一つの名前を小声で読み上げる。
「志岐千代子...90歳!?...鍛冶光博2歳!?随分と年齢にばらつきがある.....」
並べられていく名前や年齢に共通するものが無いが、幅広い人の名前が載っているのを見て、驚く姫野さん。
すると突然、気の抜けた声が隣から聞こえた。どうやら看過できない事があったらしい。というか見付けたのだろう。
「佐藤...淳二.....引道くん、これって...!?」
俺はなにも言わず、ただ画面を見続ける。その姿はテレビを見ろと促しているように見えるだろう。
姫野さんは俺が何も言わないと分かると視線をテレビへと戻した。すると、今度は隣から驚きの声が聞こえてきた。
「姫野美琴.....私の...名前.....あっ!引道神聖...引道くんの名前も載ってる!」
犠牲者一覧に名前が載っている異常性に震える手は、服越しでも伝わってくる。相当怖かったらしい。
やがて最後の一人まで名前が載ると、最後の一言に『ご冥福を御祈り申し上げます』と書かれ、画面は再びカラーテロップへと戻り無機質な音がまた部屋を支配した。
「.....ねぇ」
「なんですか?」
姫野さんはカラーテロップのままのテレビ画面を見つめながら話し掛けてきた。
「本日の犠牲者って、書かれていたよね.....そこに佐藤さんの名前が載っていたってことは.....それ以外の大勢の名前の人は.....!」
「えぇ、多分くねくねに殺られたのでしょう。佐藤さんが気付かなかったということは、随分と静かに殺し回ったのでしよう。R18みたいな見た目して、やることは器用ですね」
「.....私たちの名前も載っていたんだよ.....随分と落ち着いていられるね」
姫野さんに感心するような言葉を送られるが、その顔はどちらかと言うと少し怒っているように見えた。理由は多分、人の命がどうだーとか、危機感なさすぎーとかだろう。
どうやら姫野さんが思っているのは前者の方らしく、ほぼ同じことを俺に言ってくる。
「変な言葉を使って、人が死んでいるのによく平気そうな顔できるよね.....どうして?」
「俺は善人ではありません。冷酷な性格ではないですが、無関係な人が死んでいる事実を突き付けられても、どうしようもないじゃないですか。知り合いならまだしも、赤の他人にまで回せる気遣いなんて俺にはありませんよ」
はっきりとは言わなかったが、遠回しに「余裕がない」とも伝える。今まで俺の伝えてきたメッセージを理解できた姫野さんのことだから、今度もまた理解してくれるだろう。
面と向かってバッサリ言うのは俺には無理なので、どうしても相手に分かるよう遠回しに言ってしまう癖がある。
「そっか.....私は、そんなに強くないんだ.....」
姫野さんは自虐気味に言って苦笑いをする。その顔を見ていると、こちらも苦笑いしてきそうな程の顔だ。
「俺のこれは強さでも何でもないですよ。ただめんどくさいからしないという屑っぷりな考えです」
「でも、私を助けてくれるんでしょ?」
「.....」
今度はからかうように、意地の悪い顔をして俺に言ってくる。両の掌を合わせるその姿はまさにサキュバスである。一発ヤらせて欲しいですね!
恥ずかしくなった俺は適当な言葉を並べて曖昧に返事し、玄関へ靴を履きに行く。姫野さんも俺の隣に来て靴を履く。
「よし...じゃあ、いこっか」
「はい。とりあえず、コンビニの方に曲がらず、奥に続く畦道を歩きましょう」
姫野さんはうんと頷くと玄関のドアを開いた。
「ひ.....きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
姫野さんが悲鳴を上げて俺に抱き着いてくる。高校二年生としてはまぁまぁな胸を持っていらっしゃいますねと呑気な事を少し考えながらも、俺も目の前の光景に驚き悲鳴を上げた。
無理もない。ドアの目の前には、R18怪異『くねくね』が出待ちしていたからだ。
俺は姫野さんを強く抱き締めながら、力一杯声を出す。
「ちっくしょおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
青鬼かよ!青鬼なのか!?出待ちするとかもうお腹一杯なんだけど!何、約束!?お約束の展開なの!?マジふざけんなよ!なーにいっちょ前に出待ちしてやがるんだビックリしただろぶっ殺するぞ!?
と同時に頭のなかでは、
姫野さんめっちゃ良い匂いする!クンカクンカクンカすーはーすーはークンカクンカすーはーすーはーめっちゃ癒される髪も滑らかですんばらすぃ!?ヤベぇ!俺のエクスカリバーが!夜限定のエクスカリバーがああぁぁぁぁ!!!!
一方姫野さんは、突然のくねくね出現により相当ビックリしたらしく、俺の首に腕を回して抱き着いてくる。力的には体感としては全力みたいで、正直言って結構首が絞まっている。
「ほぉら!もっとしっかり抱きついて!このままお姫様抱っこして切り抜けますよ!!」
「ごめん引道くん!言ってることが恥ずかしいのに頼りたい自分とさっきの出待ちで腰が抜けて動けないし怖かったしどもう頭が混乱してる!?」
場は騒然としていた。状況は悪いのに、緊張感はこれっぽっちもなく、むしろギャグ漫画っぽかった。
俺は姫野さんを両手で抱き抱えると、部屋の中に土足で入りキッチンに置いてある大量の皿を一気に蹴って地面に落とす。すると、皿は音をたてて割れる。数も多く音もそれなりに大きかったので、くねくねを怯ませることは出来た。
その隙をついてくねくねのすぐ横を素通りし、そのまま全速力で先程話していた畦道を走る。
「ぐぅえぇぇ!ひ、姫野ざん!首!首絞まってるうぅ!」
「.....えっ!?あ...ごめん.....」
謝ると同時に、首を絞めていた力が一気に弱まる。改めてこの状況に恥ずかしくなってきたのか、俺の胸に顔を埋める姫野さん。姫野さんの生暖かい息が胸に掛かるため力が抜けそうになるが、必死に「抜くのは後で抜くのは後で!!」と、頭の中で反復して言うことにより、何とか倒れずにすんだ。
後ろを振り返らず、必死に走ること少しして、コンビニへと続く畦道を通りすぎ、やがて公園へと辿り着く。辺りを見ると、丁度良い大きさの築山を見付けたので急いで隠れる。
所々空いている穴から、先程通ってきた畦道を監視すると分かるとくねくねがやって来た。
「姫野さん、そこに体を丸めて小さくなってください!」
「わ、分かった.....!」
指示通り、姫野さんは体育座りをして頭を抱え丸くなる。抱き着きたくなる衝動を抑えながら、くねくねを見張る。
(ヤベぇこっち来た!!)
口に右手を当て、胸に左手を当て体を縮める。足らしきものが着いているのに、いっこうに音がせず頼りになるのは奴の奇声だけだ。
段々とくねくねが近づいてくる。胸の鼓動は早くなり、体が少しずつ震えてくる。俺は怖くなり、目を思いっきり瞑った。
(早くどっかいけ早くどっかいけ早くどっかいけ早くどっかいけ早く早く早くハヤクハヤクハヤクハヤク!!!!!)
どんっだけベタな展開なんだよ!ベタすぎる展開なだけに滅茶苦茶こえーじゃねぇか!?
すると突然奇声が止む。風も何も吹いておらず、木葉が擦れる音さえしなくなった。俺の背中につぅっと汗が流れる。
それでも恐怖に耐え、チラッと目を少しだけ開けて姫野さんを見る。姫野さんはまだ蹲った態勢のままだった。
どうにかやり過ごしたと安心した俺は安堵の表情を浮かべ、築山の入り口に振り返る。
「.....は?」
気の抜けた返事が無意識に吐き出された。無理もないだろう。先程まで俺達はくねくねに追われていたのだ。そこをくねくねと入れ替わるようにして、ゴリラもとい――保坂里美が仁王立ちして此方を睨んでいる。
手元にはライターを携えており、バカにしてくるように笑われた。軽く殺意が湧いたが、さっと気持ちを落ち着かせる。
俺の反応が面白くなかったのか、不機嫌な顔をして煙草に火をつけ大きく吸う。やがて、気持ち良さそうに白い息を吐くと、俺らを一瞥して言葉を投げ掛けた。
「あの子なら、もうどっか行ったよ」
読んでくださり誠に有難うございます!!
おいゴリラ!じゃなかった...おいゴジラ!でもないわ.....えぇっと...おいBBA!ゲラゲラ笑うんじゃねぇブッ飛ばすぞぉ!?
それではまた次でお会いしましょう!ではでは~