転生は好きな『物語』でした   作:しゃとす

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お寺の老人

 

 

 

 

「は.....?」

 

「あんたの耳はただの飾りかい?さっきは随分な推理をしてたけど、中身はぼんくらか?」

 

煙草の煙を俺に向けて吐き出すBBAもとい保坂里美。殴りたい、その余分な脂肪に。痛くないから殴らせて欲しい。

 

「逆にそこまで高評価だとは思いませんでしたよ。当てずっぽうの推理がそこまで気になりますか?」

 

謙虚な姿勢で美徳さをアピールすると同時に、軽く挑発をする。

 

だが今の挑発は中々効いたらしく、言いよどんでいる。BBA相手にしてるほど俺はジェントルマンじゃないんね。優しくするのは俺に特があるかどうかの私情だけだ。

 

「.....あの化け物のこと、知りたいか?」

 

「えっ、別にいいですよそんなの」

 

「「えっ」」

 

ふと声が重なったことに気付き振り返ると、先程まで必死に耳を塞ぎ目を瞑っていた姫野さんが驚いた顔をしてこちらを見ていた。対してBBAは呆れからきたのだろう。やれやれポーズが地味に腹立つ。

 

「まさか空気も読めない子だったとはね...そこは素直に聞く場面だろうが?」

 

「そうだよ引道くん!確かに態度は悪いけど...この人はくねくねについて知ってるんだよ?なら、倒し方だって.....」

 

「そう都合よくいきませんよ。まずその情報を提供するBB...おばちゃんはあまり信用なりません。近くのお寺に行く方がよっぽど良いですよ」

 

どうしてそんなのこと知ってるのって顔をしている姫野さん!俺が佐藤さんの家から盗っゲフンゲフン...一時的に借りているこの地図を後で見せてあげよう!隣に座っていちゃラブするんだぁ!?

 

「あら、私のことを信用しないのかい?」

 

なぁにを言ってるんだBBA!?過去の行い見つめ直してから言いなさい!少なくとも俺はあなたを信用してません、くねくねの話しか。何か自分で言っててよく分からなくなってきたわ。

 

俺が何も言わないのを思ってか、今度は姫野さんがBBAに質問をする。

 

「それで.....くねくねについて知ってることは何ですか」

 

「それが人に物を頼む態度かい?」

 

「それは.....あなたがさっき教えてくれるって.....」

 

めんどくせぇ!なんだこのDQN!あれか、人を煽らないとやってられない性分か。すんげぇ迷惑だな。

 

BBAに不満が止まることなく、それは態度にも表れた。

 

「それで結局、あなたはどうしたいんですか。俺達に教えたいのか、教えたくないか。正直俺はあなたの話はそこまで重要じゃないと思っています」

 

「年配に向かって随分と生意気だねぇ。知ったような口振りだけど、あんたはどこまで知っているんだ」

 

そこまで言われて初めて気付いた。やっちった.....喋りすぎた。何回も来る挑発で怒りのボルテージが上がっていたため、つい歯止めが聞かなくなってしまった。

 

話し合いにおいて冷静になるのは当たり前。ボロを出すなど愚の骨頂。今俺は、余計な情報をクソBBAに与えてしまった。

 

今この世界に存在している引道神聖は、BBAと初対面であり背景を知っていない。そこを知ってるような口振りで話せば当然疑惑が生まれる。

 

俺は横でしどろもどろになっている姫野さんを見る。正直BBAに疑われるのは構わない...が、姫野さんに疑われるのは俺としては非常に不味いのだ。

 

「それを答える義務はありません。あなたが口を割らないのなら結構。俺達は行くところがあるので、それでは」

 

そういって築山から早足で出ていく。姫野さんは一度お辞儀をしてから、俺の後ろを追いかける。BBAは特になにもしないまま、俺たちを目だけで追っていた。

 

 

 

 

 

 

 

時刻も昼を過ぎたことが分かるほど、影が伸びている。くねくねの対処時間は日没まで。それを過ぎればバッドエンドと、あの寺の坊さんは言っていた。

 

今俺達はその坊さんに会いに行くべく、畦道をトボトボと歩いている。

 

「.....引道くんはさ、あのおばさんのこと...知ってたの?」

 

姫野さんが下を向いて歩きながら確かめるように言う。

 

「俺の知人にあんな性格の悪い人はいません」

 

「そのわりには、随分と遠慮のない会話だった気がするんだけど...」

 

互いに腹の中の探り合いをしているのを、姫野さんには仲の良いような関係に見えたのだろう。そんなものは真っ平ごめん被りたい。俺のサークルには常に可愛い子と男友達しかいないのだ。それをあんな野猿みたいなラードに.....!

 

怒りで顔が熱くなる。これが姫野さんとのイチャラブイベントとかなら、顔を熱くするのもご褒美なのに...。

 

昼を過ぎた太陽は、衰えることなく俺の背にサンパワーを当ててくる。その余計な過剰攻撃により、さらに熱くなった俺は、たまらず声を溢した。

 

「あちぃ...早く冬になんないかな」

 

「そんなこと言って.....どうせ冬になったら、早く夏になって欲しいとか言うでしょ?」

 

「それは...い、いいませんよ...」

 

的確すぎるツッコミに俺は図星を突かれ、言葉が淀む。

やっぱりこの人には俺のことが分かるらしい。やだ嬉しい!神聖くん嬉しすぎてこのまま熱中症になりそう!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、こんな辺鄙な田舎の寺に若いのが来るとは...珍しいのぉ.....」

 

「あの...すみません、話を伺いたいのですが、その前に.....」

 

「寝床を貸せ、と言うことなら構わんぞ。肩を貸しているよりも、寝かしておいた方が引導くんにも良かろうて」

 

老人が素直に寝床を貸してくれるよりも、引道神聖の名を口にしたことに姫野は驚いた。が、今は引導の安全を確保することが大事なため、疑問は一旦胸のなかに置いておく。

 

 

 

 

姫野は引道に肩を貸したまま、ゆっくりと寺の中に入った。やがて少し広い和室に辿り着くと、老人は押し入れから布団を取り出すと、慣れた手つきで準備を進める。

 

和室特有の匂いが鼻をくすぐる部屋を見渡すが、特に目立つものもなく、どちらかと言えばほとんど何もない部屋だった。

 

「ほれ、出来たぞ。ゆっくりと寝かすんじゃ.....よし、これで大丈夫じゃろうて」

 

引道が横になると同時に、顔が緩くなっていく。布団で横になれた安心からきたのだろう。老人の顔もつられて笑顔になる。

 

姫野も引道のだらしない顔を見て、やっと腰を下ろすことが出来た。膝丈程のスカートを折り、畳の上で正座をする。

 

「あの.....どうして、引道くんの事を知っているんですか...?」

 

「そうじゃのお.....何て言えばよいか儂には分かりはせんが、彼を見ていると不思議と分かるんじゃよ」

 

お礼よりも先に出た質問をしたことに対して咎めもせず、快く答えるお坊に多少の後悔をしながらも、今は引道についてと頭を切り換える。

 

といっても、老人が言うことは曖昧と言うよりも、理解しがたい形で表しているため、受け取り方が分からない。

 

それを見て察するのは難しくなく、お坊は面白そうに笑って立ち上がる。

 

「ほっほっほっ........少なくとも、引道くんは儂の事を知っているじゃろう。彼は否定するかも知れないが、それは間違いだと儂が断言する。.......どれ、茶でもしばこうか。すまないが、ちょっと台所へ行ってくるぞ」

 

「あ、はい。お気遣いありがとうございます!」

 

うむ、と答えると、老人はゆっくりと和室を出ていった。

 

 

 

なぜ老人は彼の事を知っているのだろう。私達の状況を見てすぐさま対処に当たる辺り、恐らくくねくねの事も把握している。ただでさえ怪異についても拭いきれない部分があるのに、更に厄介事が舞い込んできた。

 

だが薄々気付いていたのだ。彼と初めて会ったときも、氷室さんを交えての話し合いのときも、彼は私と違って怪異に疑問を持つこともなく、むしろ臨むような姿勢だった。

 

引道の髪をゆっくりと撫でる姫野。手入れしているとはとても言いがたいような触り心地ではあったものの、決して不快なものではなく、しっかりと洗っているように捉えることができる。

 

「引道くん......君は、本当に何者なの............」

 

二人だけの空間に、ポツリと言葉が溢れる。それは安心からきたのか、それとも疑問が溶けない不満からきたのか。姫野には両方にもとれた。

 

 

 

 

 

「ほっほっ、随分と仲が宜しいことで」

 

「っ!?」

 

髪を撫でるのを止めるよりも先に、老人の姿が視界に入る。姫野は自分がしていたことに恥ずかしさを覚え、顔を赤くする。

 

それを愉快そうに見ながら、老人は姫野の前にお茶を置いた。

 

恥ずかしい!なぜ自分は友好もそんなに深めていない人の事をこんなに思っているのだろう。彼とはまだ1日程しか交流していないのだ。

 

心に掛かるモヤを払い除けることが出来ないまま、姫野は気を紛らすように、差し出されたお茶を喉に流し込む。

 

お茶を飲み終わり、改めて老人を見る。どうやら私の一人相撲が終わるまで待っていたらしい。察したような顔を浮かべる老人にムッとしながらも、改めて質問を......と言うよりは、確認をとる。

 

「早速ですみませんがおじさん......くねくねって知ってますか?」

 

先程の考えが正しいのなら、老人は首を縦に振るだろう。

 

しかし老人は、答えるまでに間を開け遠くを見つめるように口を開く。

 

「君達は、あの女に会ったか?」

 

「あの女、とは......誰のことですか」

 

老人は遠くを見つめていた目を戻し、初めて姫野と目を合わせる。

 

「保坂里美、今回の怪異の産みの親じゃよ」

 

「えっ.....」

 

姫野は、全身に電流が走るような感覚に襲われた。と、同時に、府に落ちる部分もいくつか思いだし目を丸くする。

 

「どうやら、奴とは会ったようじゃな。くねくねについて聞かれたやろ」

 

「は、はい.....確かに、おばさんから少しだけですけど、話を聞きました」

 

ついこのように答えてしまったが、話を聞いたのはほとんど存在しない。と言うのも、保坂の態度はお世辞にも良いものとは言えず、ほとんど引道と保坂が口論をしていた。

 

「それでも、有力なことは何も聞かされていなくて.....あ、でも引道くんは何か知っていた風でした」

 

「そうか.....。こんな儂が言うのもあれだが、保坂里美には注意しておくこと。奴は何をしてくるか分からないからな」

 

そこまで言うと、老人はお茶を口に含む。

 

ここまでの話を聞いて、姫野は思考の世界に足を踏み入れる。

 

保坂里美が産みの親と言うのはおかしな話だ。そもそもの話、くねくねとは都市伝説として語り継がれており、言い方は悪いがこんな田舎で生まれたとして、それが日本中で話題になるはずがない。

 

百聞は一見にしかずとは言うが、実際に垣間見ても有力な手掛かりを落としはしなかった。

 

そういえば、引道が保坂の過去を知っていたよう口振りだったのを思い出す。引道自身、意味のない情報だと言って切り捨てていたが、姫野にはどうにもその様には思えずにいた。

 

『保坂里美の過去』に焦点を合わせた姫野は、老人に尋ねる。

 

「あの.....くねくねを産みの親である、保坂さんの過去は、一体何なんですか.....?」

 

老人は口につけていた湯飲みをそっと下ろし、ポツポツと話始めた。

 

「奴はな.....昔、息子がいたのじゃよ。夫との間に。始めは二人ともよう可愛がっておった。.....だが、人とは変わるものでな、いつしか二人の間には大きな亀裂が生じた。そのせいもあり、離婚をするのに時間は掛からなかった」

 

ゆっくりと、それでもしっかりと聞き取れる声で話す老人。外はうっすらと紅くなってきており、温度も下がってきているのを肌で感じることができる。

 

姫野はただただ静かに話を聞いていた。

 

「息子はあの女が引き取ることになったが.....それでも、以前のように愛情を注ぐことは出来なかったようじゃ。過労とストレスが溜まっていく毎日。......やがて堪えかねたのか、とうとう息子に手を掛け.....殺めてしまった」

 

「......っ」

 

姫野は、保坂が過去に殺人を行ったという事実に対し、恐れを抱いているようだった。

 

「何をトチ狂ったか.....奴は墓地にある井戸に、息子を遺棄したのじゃよ」

 

ここまで知れば、その後の展開は難しくはない。老人が次の言葉を発するより早く、割り込んだ。

 

「そして、その息子さんがくねくねになったと.....」

 

「いや、正しく言えば.....息子自体がくねくねの依り代となったのじゃろう。お前さんも知っておるじゃろう?くねくねは過去に違う集落で現れたことを。.....本来は、息子を依り代とすることはなかったんじゃ。それを」

 

そこまで言うと、老人は今までの頼り無さそうな態度とはうってかわって、しっかりと物を言った。

 

「引き寄せたのは、君達じゃ」

 

「ど、どういうこと、ですか.....」

 

老人の出す答えが、上手く処理できない。仕方のないことだ。姫野は自分の事態を知っておらず、分からないからだ。

 

混乱する姫野から目線を引道に移す老人。呆れたようにため息を吐くと、引道の方に向かって言葉を投げ掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「盗み聞きとは感心しないぞ.....引道くん」

 

 

 




今回も読んでくださり誠に有難うございます!!

早速ですがすみません。学校が再開したことにより、投稿に約一週間開けてしまいました。大型連休のとき以外はこのような頻度になるので、ご理解のほどよろしくお願い致します。

それではまた次でお会いしましょう!ではでは~
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