転生は好きな『物語』でした   作:しゃとす

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『くねくね』

 

昔々、都会とは離れた山の中に一つの集落があった。古来より受け継がれてきた伝統を守り、裕福とは言えずとも不自由ない暮らしを送っていた。

 

しかし、人の力ではどうすることも出来ない事態がやってくる。人はこれを『天災』と称した。長きに渡る大雨は作物を腐らせ、山は崩れ土砂となりて民家を襲った。潰れたのは何も家だけではない。産まれたばかりの赤ん坊から、介護が必要な高齢までもを下敷きとなり命が散った。

 

だが、彼らは強かった。この大雨から学んだことを生かし、農業を改善していった。雨で作物が殺られるのなら、天井をビニールで覆ってしまおう、と。

 

しかし現実とは無情で、この集落を今度は熱という形の天災が襲ってきたのである。長期に渡る日照りは生命から水分を奪い、水で黒かった土は干上がり黄土色に固まってしまった。

 

水が本格的に無くなれば、必然的に人の争いが起こる。それを止めた一人の男がいた。男はこう説いた。

 

 

『この天災は、我々に対する天の怒りである』と。

 

 

男は、天の怒りを沈めるには捧げる供物が必要だと言った。しかし、その集落は貧しかったため、捧げるような物など存在しない。住民は頭を悩ませたが、答えが出るにはそう時間は掛からなかった。

 

『生け贄』

 

命ほど重いものはない。それはこの集落の人間全てが知っていることだ。我々が天に捧げるのは命しかないと踏んだ住民は、最も生命活動が盛んである8~15歳までの子供に焦点を定め、各々が所有する畑に首を吊らせた。

 

するとどうしたのだろうか。あれほど照れつけていた太陽を雲が覆い、雨が降りだした。人々は歓喜した。子供を生け贄にすることで天からの赦しを貰い、天災を避けることに成功したのだった。

 

それからというもの、その集落では年に一回、子供が吊られるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが、くねくねの起源じゃ」

 

「そ、そんなことが......」

 

姫野に着いていたくねくねを老人が浄化した後のこと。老人の聞き取れぬほどのお経の速さに驚きつつも、神聖を助けに行こうとしていた姫野は、老人に「行っても邪魔になる」と言われてしまい、助けに行けないでいた。

 

 

姫野は悲しそうに顔を歪める。人殺しである怪異に、殺戮を行う異常気象と勝手にレッテルを貼っていた自分を責めていた。

 

彼らとて、元は人間であったのだ。それもまだ成人していないような子供である。その子供たちが命を捧げ死に、そしてくねくねとなって現れている。未練がましいのだろう。やり残したことが、やりたいことが沢山あったのだろう。

 

そんな強い欲求、想いが形となりて、今この世界に存在したのだ。既に人を殺めてしまっているくねくねだが、その背景はとても悲しいものであり、バカにしていいものではない。

 

姫野は先程浄化されたくねくねに謝罪の気持ちで一杯だった。

 

「それと.....くねくねとい名の由来は、子供の吊るされた状態を指しているんじゃよ」

 

「えっ.....」

 

「姫野くんもだいたい予想がつくじゃろ?人が首を吊るされたときの動きを」

 

「で、でも.....それがあんな形でだなんて、報われませんよ.....」

 

首を吊られた状態.....人は首を吊られると、苦しさのあまり首を絞めている縄をほどこうと足掻く。それが足場もない空中であったなら、文字通り手や足が宙を描くだろう。

 

勿論、ちゃんと首を絞められれば痛みも感じずに逝ける。しかし、それが上手くいかなければ......。

 

陽がもう暮れる。山に隠れる太陽は、半分以上も姿を消していた。

 

老人は馬鹿にするような、そんな溜め息を吐く。

 

「報われない、か......。それを人が言うのじゃから、皮肉なもんじゃのう」

 

老人は目を細めて言った。

 

「思念体だから、でしょ」

 

風も暑さも鳴りを潜め、辺りの気温が急に下がってきたなか、背後から聞き慣れた声が聞こえた。

 

姫野は驚きと過度な心配がごっちゃになった心境で振り返り、目を見開いた。

 

どういうことか、と聞くよりも先に言葉を発したのは老人でもなく.....横にくねくねを連れていた引道神聖であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――」

 

「頑張って話してるとこ申し訳ないが、俺って基本的に日本語と世界共通語の赤ちゃん言葉しか話せないんだよね」

 

姫野さんの方に着いていったくねくねとは違い、奇声を抑えながら......さも話し掛けてるかのように叫ぶくねくね。もうめんどくさいからくねくねBでいいや。

 

俺の方にタゲが向いたのは不幸中の幸いであった。あのまま俺か姫野さんどちらかに二体同時も襲われたら多分即死だったろう。くねくね二体相手とか何そのクソゲー。俺は廃人がじゃねぇんだぞ。

 

「......なんだお前。俺を襲わないのか......?悪いけど、姫野さんの所に行こうってんならそら無理だぜ」

 

俺が話し掛けた途端、くねくねBは突然あの関節を無視した動きを止め、此方を見る。顔は着いてなどいないが、なぜか此方を見ている。それが本能的に分かったのだ。

 

俺はくねくねBと一旦距離を置こうと、少し離れた。すると次の瞬間、俺は自分の目と耳を疑うことになった。

 

『お願いだ.....儂の話を.....こいつらの思いを聞いてくれ.....!!』

 

「そ、その声は.....佐藤さん、ですか......!?」

 

どういったことだろう、何て疑問はそこまで深く難しくなかった。というのも、前例が保坂里美の息子さんの依り代を使ったあのくねくねAであるので、家を貸してくれたおじさん.....『佐藤淳二』がくねくねの依り代になったのは想像に難くない。

 

俺は佐藤さんに襲う意思はないか聞いた。俺は目の前の光景に目を疑った。

 

「論より証拠とて。この姿の方が信じられるだよ」

 

俺の前にいたくねくねBは、あろうことか体が縮んだかと思えば、佐藤さんの見た目へと姿を変えた。

 

流石のこの事態に俺はついていけず、脳は考えることを放棄した。元から頭が変な方に偏っていたにしても、これは流石に驚き桃の木山椒の木ぃ!!

 

背中に一筋の汗が流れる。信じる信じない以前に、怪異が人の姿に化けることが出来るという事実に対して、大きな危機感を抱いていた。

 

もし佐藤さんが襲わなかったにしても、これから対峙していく怪異がこのような手段で来たらと思うとゾッとする。いくらドMな俺でも、これは無理なのだ。

 

 

「.....と、とりあえず.....そこの階段に腰でも下ろして、話を聞きますよ」

 

「おぉ、ありがとう.....。ゆっくりと話している時間もないのでな、手短に話すばい」

 

俺と佐藤さんは間に一人座れるほどの間を空けて腰を下ろした。どっこいしょと言うわりには、時間も少ないという。多分あれだ、日没後は体の自由が効かなくなるヤツだ。お約束だね。

 

「それで、俺に伝えたいことは何ですか」

 

「そうじゃな...引道くんは儂がこうなった訳を知っているだろうて省くが.....儂が伝えたいのは、死んだ子供達の想いだよ」

 

佐藤さんは顎に少しだけ生えている毛を優しく撫でながら話す。

 

「くねくねの元は、災害避けの生け贄となった子供達だばい。人とは残酷で、種を残すためなら必要な犠牲と称して命を差し出す。死んだ子供達の反応はそれぞれやった.....。皆のためと苦しながらも嬉しく思うもの。理不尽な運命に怒るもの。.....今こうしている間にも、彼らの記憶が流れ込んできてる」

 

「.....原因は分かりました。それで、俺に伝えたいこととは」

 

「そうじゃなぁ.....この子たちには未来があった。けど、若すぎるままに死んでしまっただけに、未練も強かった。.....苦しんでいる姿を都市伝説にされ、ネタとして世の中に出回っていることにこの子達は腹を立てていてね。それに......望まぬ形での蘇りだ。それも人間によって、な.....。だから殺戮をしていたんだよ」

 

紅く燃える陽を直で眺める佐藤さんを、ジト目で見ていると、一つの疑問が生まれた。

 

「あれ、じゃあ何でその佐藤さんは怒りを抑えることが出来たんですか?」

 

「.....さぁ、なんでかは儂には分からんばい。それでも、儂はこのことを伝えたかった。だから今こうして、引道くんの前に居る。あんたなら、どうにかすることができるではなか?向こう側の人間なら」

 

俺は先程抱えていた危機感とは比べ物にならないほどの焦燥感に駆られていた。どうして、何故か。様々な思考が交差する。

 

そんな俺の考えなど分かったかのように、佐藤さんは答える。

 

「この身になって、初めて引道くんのことが分かったよ。姫野ちゃんとも、あの保坂里美とも違う感じ.....この世界の者では無いことぐらいは」

 

「幽霊って、便利ですね...」

 

「おぉっと、気を付けろ。あまり変なことを言うと、この子達が騒ぎ出すさかい」

 

いつの間にか話がズレ、くねくね.....子供達にケンカを売っているぐらいには、慣れてきた。

 

それではと相槌を打つと俺は立ち上がり、夕日を背に佐藤さんと子供達に言った。

 

「残念ながら、俺は望むようなことを出来ませんし、世の中も簡単に変わりません。今も何処かで、その子達のような子が同じ目にあっているかもしれません」

 

「じゃあ!」

 

佐藤さんが声をあげたのを、俺は「でも」と言葉で切る。

 

「でも......死んだ子達がもう苦しまないようにと、弔うことぐらいは出来ます。お経は言えません。墓の作り方だって分かりません。ですが、手を合わせ頭を下げ、祈ることは出来ます。これからも望まぬ形で死ぬ人が増えることでしょう。天国があるかなんて俺には分かりませんが、それでも......幸せでいて欲しいじゃないですか」

 

「!!」

 

俺に出来ることはそれだけです。と最後に飛びきりのしたり顔をして、佐藤さん.....くねくねを見る。寒いと言われても責任はとれないが、本当にサンセットしている今の俺は多分カッコいい!!

 

「ふっ.....あっはは!引道くんは面白い性格してるんでなぁ!.....おい聞いたかお前さんがた!腹を括れ、儂たちはここで終わるば」

 

どうやらこの後の展開も知っているらしく、佐藤さんは再びくねくねの姿になって、俺の横に立った。

 

『そんじゃば、向かうとするかね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、引道くん!どうして隣にくねくねを連れているの!?」

 

やはりというか、予想道理というべきか.....姫野さんがくねくねがいることにもお構いなしに俺に近寄ってきた。.....え、なにそれ超嬉しい。ほら!もっと近づいて!そしてぎゅーっとしちゃお!?

 

俺が腕を広げているのを完璧にスルーしている姫野さんに言葉を掛けたのは、佐藤さんであった。

 

『すまない、驚かせてしまって......』

 

「その声は佐藤さん!?どうして.....くねくねの姿で...」

 

「詳しい話は後でするにして.....おじさーん、お経の準備は大丈夫ですかぁ!?」

 

俺は姫野さんを宥めつつ、老人にお経の確認をとる。

 

「そんじゃ、始めてください」

 

「任しとけ...―――」

 

老人がお経を読むと同時に、くねくねの姿が薄くなっていく。それは、命が...思念体がこの世の枠から外される一歩手前の姿であった。

 

疑問に何も答えてくれないことに不貞腐れてる姫野さんは、佐藤さんに再度問おうとした。のを、俺は止める。

 

「なんで...佐藤さんがくねくねに...!」

 

「保坂里美の息子さんと同じ要領ですよ。.....ほら、もう少しで佐藤さん.....くねくねは無くなります。何か言うことがあるのなら、今いうのが空気を読むってヤツですよ」

 

「最後の発言が空気を読んでないよ引道くん.....。.....佐藤さん、あなたのお家を貸していただき、本当に助かりました!もしあの家がなければ、私達は今ここにはいません!私達を助けてくれて、本当にありがとうございました!!」

 

枯れるほど、カラスが飛び立つほど大きな声で思いを届ける姫野さん。その姿を見て、佐藤さんは言った。

 

『儂が役にたったのなら、それでよか。あんさん達にはこれからがある。気張ってけよ』

 

「はい!!」

 

『それと引道くん......』

 

急に話が降られて焦――何てことはなく、空気を読むことに関して長けている俺は、大体分かっていたのでそこまで驚くことはなかった。

 

「何ですか」

 

『理解してくれて、話を聞いてくれたて、助かったばい。あんがとな』

 

お経も半分を過ぎた頃だろうか、くねくねの体が大分薄れてきていた。それでも、佐藤さんからは恐れの気配が伝わってこないので、改めて胆が据わってることに感心する。

 

「礼には及びませんよ.....。息子さん、しっかりと迎えてあげてくださいね」

 

『っ!!......そうか.....そうだばんな!んだ、聞いてくれて助かったよ!本当に......ありがとうございました.....」

 

陽が完全に沈んだのは、お経を読み終わりくねくね.....佐藤さん達が旅立った後の事であった。

 

余韻に浸っているところを、老人はお構いなしに声をかけてきた。

 

「これで、怪異は去った。もうここからは出られるぞ」

 

「おじさん.....改めて、私達の手助けをしていただき、本当にありがとうございました!」

 

「ありがとうございました!」

 

姫野さんよりは声が小さいかもしれない。それでも、出来る限りの感謝を言葉にのせて、老人に送る。

 

初めて見たかもしれない、優しい老人の笑顔に俺は自然と笑顔で返していた。

 

「.....ほれ、迎えが来たぞ」

 

老人が俺達の後ろを指差す。その先には.....

 

「おぉーい!大丈夫かー!?姫野くん、引道くん!!」

 

大声で駆け寄ってくる氷室さんと加賀ちゃんの姿があった。久しぶりに感じたその光景にむず痒くなった俺は、たまらず老人の方に向き直った。

 

 

 

 

が、そこに老人の姿はなく.....歴史を感じるお寺が佇んでいるだけだった。

 

姫野さんは特に驚きもしない。結局あの老人が何者なのか何て、知ることはなかった。それでも、感謝の気持ちはあれだけでは足りなかったのだろう。

 

姫野さんはもう一度、お寺の方を向いてお辞儀をした。

 

「......本当に、ありがとうございました」

 

......まぁ、俺も世話になったし、化けて出られるのも困るから、一応感謝の言葉ぐらいは言っておかないとなぁ.....。

 

「......助かったよ、ありがとうな」

 

変な言い訳をしないと素直に伝えられない性格でも、感謝を伝えたことに憂いを感じる自分は本当にいい性格してるよ。

 

赤黒かった空と代わり、空を覆う濃い藍色と遠く輝く星々が、優しい世界へと、招き入れてるように俺は思えた。

 

 

 

 

 

CHAPTER2 END




今回も読んでくださり誠に有難うございます!!

ちゃんと週末に投稿できてよかっ......たバタ(__)

それではまた次でお会いしましょう!ではでは~
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