怪異『くねくね』を倒した俺たちは、ワゴン車で迎えに来てくれた氷室さん達と合流していた。ここまで来るのに掛かった時間を考えると、大体姫野さんが引き付けたくねくねを退治した頃ぐらいに、結界のようなものが解けたのだろう。
そう考えれば俺達の驚異は、保坂里美の息子さんの体を宿主にしたくねくねだったと結論づけることができる。
あんだけ語っていた夕陽は無くなり、静かな虫の音が夜を迎える。優しい風が舞う中、二人の心配する声が聞こえる。
「心配したぞ。心身に怪我はないか?」
「はい、引道くんが頑張ってくれたおかげで無事に済みました!」
「ホントに心配したぜぇ。同じとこに何度も戻されるって感覚は気持ちわりぃしよぉ.....引道、お前はどうだったんだ?」
「今回もめっちゃ頑張りました。俺達に労いのパフェぐらい奢ってもバチは当たりませんよ」
ちょっと意地悪な言い方をしたが、利用できるもんは利用するに限る。
設定上、くねくねとぶち当たることは予想できていたし、回避のしようも無いとは分かっていたので、持てる限りの知識を使って今回の件に当たった。
それでも氷室さん達は『怪異症候群』の事を知らないので、勿論くねくねが姫野さんの影響で出現したなど今は思いもよらないだろう。
多分氷室さん達は自分に負い目を感じてるはずだ。その罪悪感に漬け込んで飯を奢ってもらおう!って魂胆である。.....え、汚い?滅茶苦茶計算高いでしょ?策士と言ってくれたまえ!!
「.....そう、だな。確かに今回の件については俺達の油断が招いた事態になってしまった。その事の詫びで飯を奢るくらいなら安いものだろう」
「そ、それはちょっと.....悪い気がするっていうか、申し訳ないっていうか.....」
どうやら姫野さんはこの事に乗り気ではなく、むしろ反対に近いような感想を言ってくる。
それとは反対に、加賀ちゃんはイケイケゴーゴーらしく、氷室さんが飯を奢ってくれることに喜んでいる。.....いや、よく見たら俺より達悪いでしょあれ!?
「いいって気にすんなよぉ!氷室は一度言ったことは曲げないことで有名なイシツブテだ!断る方が骨おれるぜぇ?」
有名なゲームキャラで氷室さんを例える加賀ちゃん。後でボコボコにされる未来が見えるのは、決して俺がエスパーなわけではない。
「そういうことだ姫野くん。別に君は負い目を感じる必要はない。むしろ被害者なのだから、これぐらいのことを言ってもらわないと、こちらの方が申し訳なくなるからな」
「はい.....有難うございます...。ほら、引道くん...氷室さんにお礼して」
再びお辞儀をする姫野さんは、気まずそうな顔をして俺にお礼を求めてきた。なぜか俺が悪いことをしたみたいになってる空気だが、身に覚えがないのでハテナになるしかない。ウンオレナニモワルクナイ。
「ごちになります!氷室さ「俺もごちになるぜぇ!」.....」
記事を書くことにはスペシャリストな加賀ちゃんだが、こういうことで空気を読むのは苦手らしい。あまりの乱入さに俺だけでなく、姫野さんもポカーンとしていた。
そんななか、氷室さんだけが無表情で加賀ちゃんを見ている。
「代金は全て加賀名義で姫野くん達に奢る。お前もたくさん食べていいぞ。俺もちょうど腹が減っていたことだし」
加賀ちゃんが「そんなぁー!」と声をあげるが、こればっかりは加賀ちゃんが悪いので助け船を出したりはしない。
「さて.....着いたぞ。ここが神代由香くんが入院している『菊川総合病院』だ」
「うわぁ...おっきい.....」
助手席で必死に弁解する加賀ちゃんの姿にも飽き、外を眺めていたらいつの間にか寝落ちしてた俺は、氷室さんの掛け声に気付き目を覚ました。
どうやら姫野さんも疲れていたらしく、俺と同じく隣で目を覚ました。
そして一同車を降りるが、目の前にそびえ立つ大きな建物に思わず声を溢してしまう。菊川総合病院である。
俺の地元は田舎だったので、この様なドでかい病院は見たこともなく衝撃と驚愕が大きかった。
田舎者特有の感じを出してしまったことに羞恥していた俺を気にも止めない氷室さんは話を続ける。
「晩御飯は病院の中にある食堂で食べる。食べ終わり次第、今回の件について少し聞かせてもらう予定だ。だがその前に.....」
「由香のお見舞い、ですよね」
寝起きだというのに、完全に意識が覚醒しているのかお目めがパッチリの姫野さん。神代さんと会えることに感動を覚えているのだろう。落ち着いてるフリをしているが、声が上がっている。恐らく本人は気づいていないだろうが.....。
さて、これから向かうのは『神代由香』の所。ひとりかくれんぼの件では、会話とも言えない程しか言葉を交わしていないため、今から会うことに結構緊張している。
ただ、今でも確信していることは.....神代さんが美人だったということだ。
「さて、まずはお見舞いからだ。おい加賀、いつまでもメソメソすんな。ガタイが良い分、気持ち悪さが凄いことになってるぞ」
「くそう!いいじゃねぇかちょっとぐらいよぉ!!こんな俺だけどよ、しっかりと現状を見て記事を作ってんだ。そっちも助けて貰った恩もあるだろうによぉ.....」
必死に弁解する加賀ちゃんに、氷室さんは容赦のない言葉のナイフでめった刺しにする。自業自得とはいえ、流石に加賀ちゃんが可哀想に見えてきたので、後でこっそりジュースでも奢ってやるかと思いながら、俺達は病院へと入った。
受付に神代さんの病室を聞き、俺達は三階病棟へと向かう。エレベーターを降り暫くすると、由香さんの病室が見えてきた。
姫野さんがドアの前に立ち、数回ノックする。中からは病人とは思えない、元気な声が聞こえてきた。ドアを開けると、漫画を読んでいたであろう由香さんが目に写る。
神代さんは笑顔で手を挙げる。
「よっ!美琴元気にしてた?氷室さん達を困らせてないよね~?」
「.....ぅ、うぅ...由香ぁぁぁ!!」
今まで堪えてきたものが溢れ出すように姫野さんの心のダムは崩れ、泣き叫びながら神代さんに抱きついた。突然の事で神代さんは困惑するも、優しく姫野さんの頭を撫でる。
「由香ぁ!ごめんなさい!私が.....私がもっと早く駆けつけてれば、由香をこんな目に遇わせなかった......由香の家族を護れたのに...!ごめんなさいっ!」
「姫野さん......」
顔をくしゃくしゃにして懺悔を繰り返す姫野さん。そのか弱い後ろ姿は、神代家で泣いていたあのときの姫野さんと重なって見える。
俺達は当然何も言わない。先程空気が読めなかったと言った加賀ちゃんでさえ、腕を組んでその光景を見守っている。氷室さんはその横で目を瞑って聞いていた。
対して俺は腕を組んでドアにもたれ掛かり、カッコつけて立っていた。イケメンと勘違い野郎がよくする格好である。
姫野さんの懺悔が終わった頃、神代さんは優しく姫野さんに問い掛ける。
「美琴はさ、何で私を助けに来てくれたの?」
「それはね、由香が助けを求めてるって思ったから」
「.....私の事を見捨てて、一人で逃げれば良かったんじゃないの?」
「親友を見捨てて逃げることなんかできないよ。.....そんなことするぐらいなら、命に代えても由香を助けだすつもりでいたから」
自分の命と親友の命。天秤にかけるもそれは無意味な事で、取る選択肢は一つしか姫野さんは持ち合わせていなかった。
姫野さんの答を聞いてあれだけJK感満載だった神代さんも耐えきれなくなったのだろう。親友がいかに自分の事を思ってくれてるか。その事実が彼女を包み込む。神代さんの涙腺も崩壊したらしく、涙声で姫野さんに抱きつく。
こんな百合百合な展開を見せられる俺達は流石に恥ずかしくなり、何とか気を紛らわそうと視線があっちいったりこっちいったりと、落ち着きが見られない。俺?涙液が過剰に分泌されているだけですがナニか?
だ、だってよぉ.....こんな光景見せられて泣けないわけ無いじゃのいこ!
一通り泣き終わった姫野さん達は漸く周りが見えてきたのか、俺達を見る。頭が今の状態に追い付き、顔がリンゴのように赤くなる。そして耐えられなくなったのか、両手で顔を覆った。
神代さんに至っては、恥ずかしそうにしてるものの頬を人差し指で掻く程で、姫野さんの様なオーバーリアクションではなかった。
「それでは改めて.....菊川警察署の氷室等だ。こうして顔を合わせるのは初めてだな。暫くの間だが、宜しく頼む」
面倒くさい空気を断ち切ったのは氷室さんで、高レベルのコミュ力で神代さんに話をする。マジリスペクトっす。
すると今度は、先程まで腕を組んでいた加賀ちゃんがいい笑顔で神代さんに挨拶をする。
「俺っちはオカルトジャーナリストの加賀剛ってんだぁ。宜しくなぁ」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします!私に出来ることがあれば、何でも言ってください!!」
二人の自己紹介を無視して、俺は先程から顔を覆っている姫野さんを励ましにいっていた。
「ほらほら姫野さん。別に俺達は気にしてないですよ。だからそんなに恥ずかしがらなくても」
「だ、だってぇ.....うぅ...」
そういって、先程の光景を再び思い出したのか姫野さんは恥ずかしさの限界を超え、泣き出した。
「こら!美琴をなに泣かせてるの!」
「ちょっ!?俺は別に泣かせてませんよ!?」
とんでもない言い掛かりを付けてきたのは、先程の二人の自己紹介を受けていた神代さんだった。一応勘違いしてるかもしれない人達に言うと、俺が励まそうとしたら姫野さんが泣き出した。だから俺は泣かして.....あれ、これって俺のせい?
「引道のせいでしょ。なんで疑問系なのよ」
「エスパーかお前は!!」
おっと、つい熱くなってしまった俺は上級生相手にタメ口を使ってしまった。不意に言ってしまった事を後悔した俺は口を閉じる。
俺がいきなり静かになったのを見て首を傾げていた神代さんであったが、俺の考えていることが分かったのか「そんなこと気にしなくていいよ」とフォローされてしまった。イヤホントにエスパーですかあなた......。
二度目の会話は、神代さんにペースを持っていかれ敗北した俺だった。
とまあそんな事はプライドと一緒に置いといて......。
「すみません自己紹介が遅れました。俺の名前は引道神聖。ご存知の通り、姫野さんと共にあの夜を過ごした男ですぎゃいやぁぁ!?」
突然俺に襲い掛かってきたのは暴言でも貶しでも怪異でもない。俺の両腕をそれぞれ反対方向に全力で引っ張る姫野さんと神代さんだった。
「ちょっ!?痛い痛い痛い!!ち、ちぎれちゃう!ちぎれちゃううぅぅぅぅぅ!!!」
「何勝手に捏造してるのよこの変態!!」
「由香に何てこと言ってるの引道くん!?誤解されちゃったらどうするの!!」
他人から見れば一人の男を取り合っている非リアの敵となって見えてしまうが、そんな気持ちの良いもんじゃねぇ。男性にも劣らない力は俺の腕をメシメシと言わせていた。
氷室さんと加賀ちゃんはそんな俺をジト目で見ており、どうにも助けてもらえそうにない。
「あの!引っ張るならもっと抱き着いた方が力が出まぎゃいやぁぁ!!!!」
「なーにどさくさに紛れてセクハラ行為しようとしてるの!そこに警察がいるんだから連行してもらいましょうか!?」
「らめぇ!!今メキって鳴ったよ!鳴っちゃいけない音したよ!!これ以上はマジで終わる!入院生活待ったなしになるぅ!!??」
「い、引道くん.....私、引道くんが、その......」
「やめてぇ!その反応が何気に一番心にくるぅ!!」
引っ張る力は衰えず、むしろ勢いが増した綱引きは盛り上がりを見せる程に均衡していた。結果的に腕に抱きついてもらうことはできたが、痛すぎて感覚が無く何も気持ちよくない。余裕もくそもねぇよ!!
そして今日一番の驚きが......。
「神代さん暴力系ヒロインだったのかよぉ!」
「最後に言い残すことはそれだけ?」
「あ″あ″あ″ぁ″ぁ″ぁ″!!!」
看護師が激おこで飛び込んでくるのに時間は掛からなかった。
今回も読んでくださり誠に有難うございます!!
いやぁ.....テストが...近いぃ!!期末テスト?なにそれ美味しいの?
という事で主の諸事情は置いといて、次回からは完全オリジナルの展開をぶっこんでいくんでよろしくぅ!!新たな怪異やってきますよぉ!!お楽しみに!
それではまた次でお会いしましょう!ではでは~