化け物から逃げて数分したところか。俺達は直で神代さんの病室に向いはせず、一階のエントランスに誘き寄せることにした。
ふと通り過ぎようとしている部屋を見る。診察室1だ。ちょっと前まで俺が手当てを受け、化け物から身を隠していた部屋である。
「引道くん、そこを曲がってここの丁度下にある廊下を走るよ!」
やはり看護婦は体力がつくのか、全く息切れを起こしていない小野さんから指示が飛ぶ。短く「はい!」と答えると、後ろを確認してから左のエスカレーターを駆け降りる。
どうやら化け物との距離は中々に空いたようで、これなら全速力で走れば逃げられそうだ。
エスカレーターを降りた俺達は、神代さんの病室付近にある階段を目指して走る。その間、後ろを見るのは小野さんに任せていただいた。だって体力そんなに持たないもん...べ、別にパンチラが恋しくて目が離せないとかそんなんじゃないんだからね!
「ねぇ、化け物とは結構距離を離せたから言うけど...私達が見られてること、知ってた?」
「...え、見られてるって、誰に.....」
突然知らされた第三者の監視の存在。全くそんな事を感じもしなかった俺は、腑抜けた返事で返すしかなかった。
「よく考えれば誰でも分かること。私達があの場所で戦闘を行ったのは、多分多くの人が感知したと思う。だからこそ、私達が化け物を連れて部屋に入ってこないよう窓から確認したり、ドアの隙間から見たりなどをしてるんだよ」
小野さんにそう言われて初めて、俺はパンツから目を離した。チラチラと通り過ぎていく部屋を少し注意深く見てみる。
「.....見られるって、いい気分じゃないですね」
「私は現場でこういうことがよくあるから、すぐに分かったの」
ペースは落とさず、流れる景色に視線を合わせて部屋を確認していく。電気は付いていないが、確かに窓のカーテンから除いてる人が数人いるのが分かった。俺と目が合ったかと思うと、すぐにカーテンを閉めた。拒絶の合図である。
そして反対の部屋を見ても...
『.......』
無言で見つめては、目が合うとすぐにカーテンを閉めたりドアを閉じたりする。あの化け物でも送り付けてやろうかマジで。
こそこそ隠れている奴らに若干殺意を覚えながらも、化け物との距離を離して何とか西側二階階段までたどり着くことができた。俺は早々に息切れだが、ここを乗り切れば姫野さんたちに会える。その一心で駆け上がる。
「よし、引道くん」
「ハァ...ハァ...な、なんすか」
小野さんが声を掛けてくるが、生憎俺はバテバテ中。情けない返事しかできなかった。
「目の前に空き病室があるでしょ。そこの一つ隣の部屋が神代さんの病室、だから頑張って着いてきて」
「ひ、姫野さんが...俺を待っている.....」
何とか己の願望を口に出すことで気力を持たせる。既に俺の体は、化け物による恐怖と圧力、そして長距離をダッシュしたことにより消耗しきっていた。マジでこんなに疲れたの、中学二年の時にLINEで初めて告白したとき以来の胸の痛さだ。え、違うって?
んなどうでもいいことを考えられるのだから、結構余裕なのだろう。小野さんをパンチラしながら着いていってたら、いつの間にか神代さんの病室の前にいた。
暗闇と静けさ、そして少しの月明かりが支配する病室で、姫野一行はただひたすらに身を隠していた。氷室と加賀は入り口と窓を抑え見張っており、姫野はくねくねの時にコンビニで買った防犯ブザーを手に持っていた。
そして神代はと言うと.....
「ブツブツブツブツ..........」
「.....ゆ、由香?どうしたの?」
「..し.....とを...るんだ......」
姫野を守ると言う使命感を強く持ちすぎたため、側に置いてあった果物ナイフを両手で力強く持っていた。
呟き声はまるで呪詛のように聞こえ、静かな空間に酷く恐ろしく聞こえてくる。何このヤンデレ。
当然これには氷室や加賀も気付き、不安げな面影で神代を見る。
しかし氷室たちはその場を離れられないでいた。彼等が抑えている所が、化け物が通ることの出来る唯一の通り道だからである。故に、姫野に任せることしかできなかった。
「ゆ、由香......ね?取り敢えず落ち着いて、それを置こ――」
コン、コン
「「「「!!??」」」」
やはりこの世に神も仏もいないのか、数回のノック緊張した空気に熱を加える。生まれるは焦りか、それとも......
「殺す!!!」
殺意である。
神代はベッドから飛び出ると、右手に包丁持って扉へと走る。
「!?待て!神代くん!!」
突然の行動に出た神代に気付くのが遅れた氷室は、不完全な対応で神代を止めようと腕を伸ばすが、強く振り払われ後ずさる。
止まることを知らない蒸気機関車の如く、扉へ向かう神代。その目に映るのは果たして化け物だけなのか...。
扉の取っ手が強く引かれ、奴の姿が露になる――
「んぎゃあ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″!!!!!!」
当然この世に神も仏もおらず、そこにいたのはナースズボンに切れ目を入れた小野鈴美香と、急に開かれた扉から現れた神代に刃物を向けられ涙している引道新聖であった。
「「「引道(くん)!?」」」
扉の前で涙を流しながら必死で神代の手首を掴んで抑えている引道を見て、安心か。それとも心配からなのか、氷室と加賀、そして姫野から声が上がった。
しかしその中に、気付いていない者が一人。
「化け物ぉ″...美琴を、守るんだ.....!」
最早目の前の引道を認識できないほどに、心が駆られている神代である。何とか手首を掴んで止めたが、突然のことで引道もあまり対応できないでいた。止めたナイフはまた少しずつ顔に近づき、距離を縮めていく。
「美琴を.....守るんグッ――――!?」
ナイフとの距離があと数センチまで来たところで、急に神代が苦しそうな声を出して後ろへこける。
「ハァ...ハァ.....あ、有難うございます、小野さん」
「えぇ......それにしてもよく堪えたわね」
「火事場の馬鹿力ってヤツですかね、めっちゃ力湧いてきてましたよ」
「のわりには押されてたよ、火事場の馬鹿力」
未だに息を上げる引道から乾いた笑みが溢れ、気まずそうに顔を反らした。
「......い、てて.....」
後ろへこかされた神代が、痛みを口にして頭を抑える。
しかし今度はまた引道を襲おうとはしなかった。痛みを受けたことにより、回りが見えるようになったのである。
ナイフと引道との距離が数センチというとこで、小野が助け船を出したのだった。引道の泣き顔が少なからず見てみたいと思った彼女は、引道が恐がるギリギリを見計らって、神代の首の後ろの襟を掴んで引っ張った。
突然後ろへ向かう力が首に集中して働いたら、呼吸をすることもままならない。神代は呆気なく後ろへとこかされたのだった。
「と、言うとこかな」
「小野さんいい性格してますね。初めて会ったときの純情な俺の気持ちを返してください」
そんな言い合いも、引道は弱々しい。神代に刃物を向けられたのが恐ろしかったからだ。
「由香!......よかった、怪我はしてないみたい...」
いつもの軽い雰囲気に戻ったのを察したのだろう。姫野は今も頭を抑える神代へ飛び付き、状態を確認する。
氷室は姫野達を加賀に任せ、引道達の方へ向かった。
「引道くん、無事で何よりだ。......そしてすまない、このような事になってしまって。警察の俺がいて情けない」
「いや、まぁ俺はいいんですけど」
「凄い泣いてたのに?」
「うるさぁい!と言うか話の途中なんで、ツッコミとか俺で間に合ってますから!!」
氷室が頭を下げ、引道は申し訳なく思ったのだろう。今回は自分の非でもあると氷室を責めたりはしなかった。途中小野がツッコミを入れたが、それに対する引道のカウンターも中々のものだ。自分の立場が危うい事に気付いたのだろう。
そんな二人の会話を多少聞きながらも、次の話を催促する氷室。
「.....それで、どうしたんだ?」
「ああっとすみません.....。今回の非は俺にもありますし、氷室さんがそこまで思い詰めることでもないですよ。こっちはサイヤ人連れてるんで」
「そうか......そう言ってもらえると助かる、ありがとう」
「ど う ひ は し は し て」
小野の手が引道の頬を引っ張る。サイヤ人扱いされたことにドタマにきたのだろう、仕方のない話である。
氷室はこれを華麗にスルーして、二人のじゃれあい?を見守る。
「んくぁ...あー痛かった!サイヤ人て言われても仕方ないと思いますよ。だってあの化け物相手に渡りあったんですよ?しかも妙に考え方が脳力のそれだし.....っておいおい!こっちこないでぇ!?」
「大丈夫、引道くんには女性との関わりかたを教えてあげるから。さぁこっち来て」
こっち来てと言うが、自分から追い詰めてるためその言葉は間違っている。なんて引道は指摘もせず、ただひたすらに引きつった笑みを浮かべていた。
氷室は二人の会話を見守っていたが、聞きなれない単語に頭が急に仕事モードになる。その顔は警察官と呼ぶに相応しいキリッとした表情である。
「まて、化け物と渡りあっただと?.....それは本当なのか引道くん」
「え、えぇ...俺が腕の怪我の処置を受けてたときに、丁度電気が落ちて悲鳴が聞こえてきたんですよね。それで色々と話し合った結果、何者かが病院に侵入。これから身を隠すために、部屋を転々としてました」
氷室からの質問に引道もしっかりと答えるため、小野は仕方なく手を降ろし、二人の話に聞き入る。姫野と神代も落ち着いたため、加賀と一緒に部屋へと戻る。
「おーい、話すのなら中でもいいじゃねぇかぁ?外にいたら直ぐに見つかっちまうぞ」
加賀が振り向き様に氷室達へと言う。これには氷室も少し焦りすぎたと反省し、引道達を病室へ招き入れた。
「それで、化け物を見たのか?」
病室に入り、扉を閉めて懐中電灯で部屋を照らす。今まで走ってきた引道は安全がとれたことを確認し、ドサッと腰を降ろした。
「んえあ、まぁそうですね。小野さんも初めは不審者の類いか何かだと思い行動していたんですが、俺たちが隠れていた部屋にダイレクトで飛び込んできたんスよ」
「......小野、さんと言いましたね。貴方が化け物だと信じた理由はなんですか」
氷室は、引道に向けていた顔を小野に向ける。小野は座りはせず、壁にもたれながら話を聞いていた。
「そうですね.....見た目はまんま人型ですが、あれは別のナニカでした。バールで顎を貫いても、倒れもせずに追ってくる体力。本来人の力では千切ることの出来ない体の部位。......沢山ありましたよ、エントランスに死体が」
「.....そうでしたか。確かに人の力で千切ることの出来る体の部位は少ないです。首や足、腕などは腐らない限り千切れません。確かに人の力では無理ですね.....」
「あ、あの.....」
大人二人が話をするなか、姫野がおどろしく手を挙げる。
「その化け物も...やっぱり怪異の仕業なんですよね......」
病室中の空気が重くなるのを小野を除く五人が体感した。無論、怪異についてである。これに答えたのは、氷室ではなく加賀であった。
「一概に物事を決めつけるのは良くねぇ...って、うちのお袋なら言うが、類似する点が多いのも事実。俺っちだって、こんなんでもオカルトジャーナリスト兼新聞記者だ」
「自覚はあったんですね」
「自覚はあったんだな」
引道と氷室が辛辣な言葉を贈る。が、それすらも加賀は笑いで流し受け止める。心が広いのが加賀の良いところなのだ。
「がっはは!手厳しいねぇこりゃ!姫野ちゃんも今初めて知ったって顔をしてるしなあ」
「す、すみません.....」
「いいってことよ。......んで、話を戻すがー...以前怪異に遭遇したお前達なら分かると思うが、まず第一として雰囲気がそれだ。心臓キュッてされそうな感じするだろ?」
これには一同が頷く。共感できる部分でもあり、現在進行形でもそのような感じがするからだ。
「まぁこれ以外にも理由はあるんだが...引道と小野さんが化け物と認識したんだ。怪異と判断して事を進めるのが定石だろぉ?」
まともな事を述べる加賀に氷室は難しい顔を浮かべる。それは決して加賀の考えに思うところがあるだけではないだろう。
加賀の後ろにいる、ベッドに腰かけている神代へ視線が向いている。加賀のおかげで頭が冷えたのだろう、落ち着いた顔で下を向いていた。
「しかし.....今回のケースについては俺知りませんよ?」
引道が難しい顔で唸るが、氷室はこれをすぐに否定する。
「都市伝説全てが怪異と言う訳ではない。確かに都市伝説としての形で現れる怪異が多いのも事実だが、一般的な心霊現象も怪異に含まれることがある」
「あぁ。例えばの話、椅子や机がひとりでに浮いて俺達を殺すかのように飛んでくれば、それも怪異の一つとして数えられる。.....日本人形が飛んできたときはチビりそうになったがな!だははは!!」
「今では笑い話なんて、凄いですね」
姫野が作り笑いを浮かべる。口元は引きつっており、笑えない話だったからだ。引道も似たようなも.....いや、彼に関しては先程から小野のチラパンを盗み見ていた。
外は相変わらず闇が広がり、闇寂である。喜ばしいことなのか、引道達が逃げてきた頃から、悲鳴が聞こえなくなっていた。襲われていないということなのだろう。
誰しもが黙りこむ中、小野が綺麗に右手を上げた。それに注目する引道除く一同が、次の発言で驚きの表情をとる。
「私、今回の事件に近い都市伝説を知っています」
引道が顔を上げると同時に、頭に手刀が振り下ろされ、鈍い音が鳴る。下痢のつぼを貫くかのような痛みは、目尻に涙を浮かばせるのに充分だった。
今回も読んでくださり有難うございます!!
はい、投稿が遅れてしまい大変申し訳ないです!オリジナル書くのって難しいんですよね。これ言い訳ですハイ。
さて、小野さんが次回から紹介する都市伝説。気付いた方もいると思いますが、グローバルですよグローバル!
こんなキャラ出してみたら意見、ありましたら下さい!
それではまた次でお会いしましょう!ではではー...
新キャラ出すとしたらどんなキャラがいい?
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やっぱ男子で熱くなりたいよね!
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いいや女子で癒されたいでしょ!
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オカマが最強です
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ロリは正義
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人間じゃなくてペットがいい