「あなたの事が好きです!付き合ってください!」
ある日の事。四限目の授業が終わり昼休みになったので、私はいつも通り教室を出て校舎裏へとご飯を食べに来たのである。生徒がほとんど寄り付かないので、静かに過ごしたいときにオススメの場所なのだ。
アイツと他人同士になって以来あまり来ることがなかった校舎裏も、なぜか気持ちが離れずここに来る。雨が降ったときでも雨宿りの屋根が着いてるので、逆にBGMとしてよく働いている。
そして今日もここにやって来た私は、突然聞こえてきた女の子の話し声に驚き、近くの草むらに身を潜めた。
「こんなとこに来るなんてよっぽどのことなんか......あ、アイツなのか!?それにあの子も.....」
丁度よい位置を見つけたので、趣味ではないが観察をする。恐らく告白をしているのであろう女の子は、以前アイツが振ったはずの子であった。そして気になる相手は.....案の定、彼である。
(告白の場を盗み聞きするのも悪いし、仕方ないけど教室で食べようかな)
恐らくアイツはまた彼女を振るのだろう。そんな事を勝手に決めつけて憐れみたくなかった私は、コソコソと草むらを移動する。
しかし、聞こえてきたのは拒絶の声ではなく.....。
「あぁ、こちらこそよろしくお願いします!」
「っ~!はいっ、よろしくお願いしまつっ!?」
嬉しすぎて口がうまく回らなかったのだろう。告白を受け入れられたことに強く動揺している彼女の返事は、聞いていて可愛いと感じるものなのだろうが..........今の私にはどうでも良かった。
付き合う?......あの子が?
アイツと他人同士になったのは、まだ1ヶ月ほど前のことである。いつも教室でつるんでいる人間の中に、女子などいなかったはずだ。ということは、学校ではなくそれ以外の時間で会っていたということなのか...。
.....いや、そんなことどうでもいい。男友達ぐらいしかいなかったはずのアイツに。話し方は鬱陶しく、何かとしつこいアイツが。しかも一度振った相手を受け入れるなんて..........。
「それじゃ.....一緒にご飯、食べよ?」
「うん!」
アイツからのご飯の誘いに嬉しく頷く彼女を見て、胸から溢れてくるモノを吐き出したかった私は、急いでその場から逃げ出した。
「げぇ.....うぷっ。.....う、おげえぉ.....」
腹痛にも、ましてや食中毒にすら掛かっていないこの体は、あの光景を見て簡単に胃液を吐き出す。思い出したくないのに、脳が勝手に記憶したのか何度もフラッシュバックする。その度にモノが溢れて止まらない。
「ハァ、ハァ.....ウプっ..........ぐっ...!」
出して出して、また出して。異物など残っていないのに、汚い液体だけがひたすら逆流してくる。鼻の奥をつく刺激臭が、不快さと気持ち悪さを逆撫でする。
トイレの水が目も当てられないほどの状態になるほど吐き出し、何とかして負のループを止めることができた。口の中に残る刺激臭を無くそうと、千鳥足で洗面台へ向かう。
ゆっくりと水を口に含み、軽く濯いで吐き出す。まだ少し黄色いが、口の中の不快さは先程とは違いとても軽くなった。
酷い顔.....私じゃないみたい...
鏡に映る私の顔は苦痛で歪んでおり、目からは止めどない涙を今も流し続けている。手で拭っても、顔を洗っても、涙は止まることを知らないのか溢れ続ける。
涙を拭うことを諦めた私は、震える膝をそっと床に着ける。太腿から感じる冷たい白タイルの感触。薄暗いトイレの雰囲気が、私の負の感情に拍車を掛けていた。
『あなたの事が好きです!付き合ってください!』
『あぁ、こちらこそよろしくお願いします!』
「なんで..........なんで私は泣いてるの...」
既に分かっている答えを出さずに、自問自答という無駄な行為を繰り返す。
そしてとうとう、その答えを口に出すのだった。
「私が.....私が、アイツの事を好きになっていたから?」
口に出したその答えに不思議と嫌悪感はなく、スッと胸の中に落ちる。
「私が.....本人の前で断った程の私が惚れていた?お母さんさえいればいい私が..........」
即座に否定するも、一度自覚してしまった気持ちは抑えられない。『好き』という感情が明確に現れたことを示すのは簡単なことだった。
熱い.....体が...胸の奥がジンジンと熱くなる感覚がする。熱を感じていてあまり気付かなかったが、いつの間にか涙は止まっており、悲しい気持ちなどもう沸いてこなかった。
けど、悲しさと交代するかのように沸き上がってきた感情が、後悔だった。
彼女の告白を喜んで受け入れるアイツの姿を思い返す。
「っ―――.....私のバカ」
アイツが浮かべていた笑顔は、元々私に向けられていたものだ。それだけじゃない。困った顔も焦った顔も落ち込んでいる顔も驚いた顔も全部全部私に見せてくれた表情。いくら断っても、持ち前の根性と執拗さで振り向かせてみせるなどと言って、何度も私の前に現れては様々なことに誘われたものだ。
その誘いを、好意を自覚していなかった私は無下にし、足を止めることはおろか目を向けることさえあまりしなかった。
きっと心の奥では思っていたのだ。『アイツは私の事が好きだから何度でもやってくる』と。そんな傲慢な考えが起こした悲劇。まさに自業自得。
「...でも、抑えられないんだって.....」
母以外に関心も、ましてや恋などしたことのない私が、初めて好きになった人。鼓動が、心拍が、体を駆け巡る熱が収まろうとしない。いや、諦めたくない。この想いを。
私の方が...アイツにもっと好きになってもらえてた。
「っ.....あんな子よりも、私の方がアイツを知っている」
突如目覚める黒い感情。嫉妬よりも汚いそれは、糸も簡単に私の心を塗り潰した。ピンク色の純情な想いは濁り、燃え盛る炎とは違う.....そう、例えるならコレステロール値の高いドロドロとした血液のような赤色。
口の中に残る刺激臭はもうせず、体の震えも治まった。私はゆっくりと立ち上がり、もう一度鏡を見る。
「ほら.....こんなに可愛いんだよ...アハッ?」
鏡に映る私の目は、綺麗な黒色をしていた。
「ただいま」
家に着いた私は、ゆっくりと玄関の扉を開ける。扉が開く音を聞き付けた母は、手をハンカチで拭きながらエプロン姿で現れる。
「おかえりなさい。ご飯もう少しで出来るからね.....ねぇ、あなた大丈夫?学校で嫌なことでもあった?」
靴を脱いでリビングへ向かおうとすると、突然母が変なことを尋ねてくる。
私は訳が分からず、母に問い直す。
「大丈夫って、どういうこと?」
「そのままの意味よ。あなたいつもより辛そうな顔してるのに、無理な表情で隠そうとするから分かっちゃって。昔からの悪い癖よ?」
「――っ、.....ごめんなさい母さん。あのね.....後で話聞いてくれる?」
私がこうやってお願いするのは初めて見たのだろう。母はからかいはせず二つ返事だけして、すぐに持ち場へと戻った。我が母ながら、切り替えの早さには敵わない。
その日の晩。私は今日あったことを事細かく母に説明した。自分の感情に素直になればいいのか...そして、どうすればアイツを自分のものに出来るのか。
母は泣いた。綺麗な瞳を潤ませて涙を流した。驚いた私は母に聞いたが、どうやらうれし涙であるそうだ。クエスチョンマークが頭の上に浮かんだが、母はそんな私を見て抱き締めてくれた。
『今まで家庭の事情に縛り付けてきた娘が、ちゃんと恋をしていることが.....嬉しくて...!』
私は母に頭を撫でられるのが好きだ。優しく細い手は、私の心に平穏をもたらしてくれる。母のこんな泣きじゃくってる姿を初めて見た私は.....胸に込み上げてくるモノを抑えることが出来ず、母の胸の中に沢山流した。
母がここまで私の恋を応援してくれてるんだ。私も、これからすることに全霊をもって臨もう。
アイツを手に入れるのは..........私だ。
その日から私は、自分の在り方を変えた。長かった髪を切ってショートにし、普段しないような顔を周囲に振り撒くようになった。
当然、人が1日で変われば周囲は驚く。学校での私は色々な人に、好奇の眼差しで見られたが気になどしていない。
まずは私がどれだけ有能な女かを周知に分からせる必要がある。ゆっくり、ゆっっくりと―――――アイツを堕としてやる。
マッテテネ..........ハツコイノヒト
今回も読んでくださり誠にありがとうございます!
『無表情の女:日記』は間間で出すことにしました。なんかちょっと長くなりそうで、これだと本編進まなくなると思いましてアセアセ。という事で次回は本編です。新キャラのアンケートも切りますので、どうぞ楽しみにしていてください!!
新キャラ出すとしたらどんなキャラがいい?
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やっぱ男子で熱くなりたいよね!
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いいや女子で癒されたいでしょ!
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オカマが最強です
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ロリは正義
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人間じゃなくてペットがいい