潮風の中に、笛の音が混じっている。ただしそれは生者には聞こえぬ笛の音、この世に揺蕩う死者の耳にだけ届く幽かな音楽だ。
幽玄の音楽は白亜の校舎の頂上、仏塔を思わせる多重塔の上に立つ死者の奏でるものだ。
緑に錆びた銅瓦の上に、月影を落としたものがあった。大海燕だ。大海燕は多重の塔にギリギリまで接近すると、その背から一人の魔法使いを屋根の上へとおろしていった。降り立ったのは、つぎはぎだらけのローブにぼさぼさ頭の魔法所教諭、南方サクマだった。
「何を吹いてるんです、市來先生」
サクマの問いに、振り向かぬままに市來タテワキ校長は篠笛を吹く手を止めた。
「『惜別の唄』を。今夜は四十九日じゃ、魂が彼岸へと向かっちょる」
少年のままに死んだ魔法使いは、水平線を見つめながらかつての教え子の一人に答えた。死後なおこの世に残る霊魂の見つめる先には、夜なお明るい東京の灯が浮かんでいる。死者の目には、あるいは不夜の幻灯のなかに死者たちの群れでも見えているのかもしれない。
日本魔法魔術伝習所の校舎は、陰陽寮による襲撃以降は南硫黄島から東京湾外へと移動しているのだった。秘匿性よりも、万一の際に寮に残った生徒がすぐに脱出できることが重要だとの声を受けた決断だ。日本の魔法族を二分する紛争にひとまずは決着が付き授業が再開された今となっては海燕で通学する初等部生徒はもちろん、「空自基地に忍び込まずともスマートフォンが使える」「放課後に東京に遊びに行ける」と中等部高等部の生徒たちからの評判もすこぶるいい。もちろん、教諭陣もたいていは立地の良さを歓迎している。新たな日本魔法族の統括機関がマグルの政府を相手に交渉をどうにかやりとげてくれれば、校舎がこの場所に定住することになるのもそう遠い話ではなさそうだ。
死者と同じ水平線を眺めながら、サクマは大海燕に生き餌をやり、巣箱へ戻るよう指示した。
「たくさん、人が死にましたね」
「哀しかことじゃ。おいん教え子たちは、たいていおいよりも先にこん世から去っていっど」
半透明の横顔は、そこに何かが飛び交っているかのように夜空を見上げ、目を細めた。もしかすると生者のものならぬ目は、本当にそこに消えゆく死者の魂を見送っているのかもしれない。そう思わせるような表情を、七十年以上前に死を迎えた少年兵の霊は浮かべていた。
「そいで、南方先生。わいん鞄ん中に居っもんな、おいにないん用事があっど?」
霊の顔が、不意にサクマへと向き直った。けして治ることのない額の傷が、銀の血を宙へと散らす。めったに物事に動じないサクマが、ぎくりと屋根の上で後ずさって片手に持ったトランクを背後へと隠そうとした。日本に住む大抵の魔法使いにとって、市來校長は生涯「なんとなく苦手意識のある怖い先生」であり続けるものだ。
とはいえ、背後へと隠されかけたトランクの口を開けて出てきたものにはその原則は当てはまらない。なぜなら、彼女はホグワーツ魔法魔術学校の出身で、市來タテワキの教え子であったことはないからだ。
「ごめんなさい、校長先生。正規の手続きを経ていたら到底、いつ魔法所に入れるか分からなかったものだから」
検知不能拡大呪文で拡大されたトランクの中から這い出てきたのは、秋津・ミズホ・ローレンスだった。もはや日本には闇祓いという職業は存在しないが、ミズホは右手を掲げてその甲に八咫烏の徽章を浮かび上がらせてみせた。
「敷島と一緒に居た闇祓いどんか。なっほど、規則を破りがちな性質、実にホグワーツらしか」
市來校長はミズホのことを、その出自も含めて覚えていたらしい。規則破りについては特に咎めることなく、ゴーストは笑ってみせた。ただし、その笑い声は死者のそれという点をさっぴいても寒々しく、怖気の走るようなものだ。
「再三おいに出頭命令を寄越して、無視し続けたや次は陰陽師を入れと散々せっちた上でんこっだ。ロンドン塔ん大鴉は〈評議会〉ん半端者どもん手先に成り下がったか?」
緑青を帯びた銅瓦ががたがたと揺れ、生者の足元を揺らす。南方サクマは慌てて多重塔の先端部、屋根から突き出た相輪と呼ばれる部位にしがみついたが、最後の闇祓いは動じることなくポルターガイスト現象を無言呪文で打ち消してみせた。
「半端者。そう。あたしが最初にその言葉を聞いたのは、あなたからだった」
ポルターガイストの起こす強烈な嵐を抑え込みながら、ミズホはゴーストに向けて歩を進めた。市來校長の持つポルターガイストとしての力は強いが、物理的にものを動かす力であるだけに
「そいがどげんした。そげんもん、
「ええ。だから、不思議だったのよ。西洋魔法教育を受けたかどうかの区分で魔法族を区切る区分が一体どこから来たのか」
ミズホの頬を強烈な力が打ち、プロテクターに覆われた足が揺れる。相殺可能とは言っても、見えない力の向きを瞬時に判断し、逆向きの力を加え続けるのだ。少しでも判断が遅れればたちまちミズホは嵐のごとき力に呑まれ、プロテクターごと引き裂かれる羽目になったろう。
「少なくとも今生きている魔法使いは〝半端者”という概念を何の疑いもなく受け入れている。だから、明治に西洋の魔法が入ってきてから自然に生まれた概念なのかと思ってたのだけど──どうも、年長の妖狐たちと話をしてると、そうでもないみたいなのよね」
死者と生者の向き合う多重塔の屋根からは、時折ミシミシと異音が立ち始めている。二人の間に発生する強大な力のぶつかり合いに、構造物が耐えられなくなりはじめているのだ。
「聞けば、もともとは〝半端者”というのは、マグルに混じって生きる魔法族を呼ぶ言葉だったそうね。そして、その言葉がいまの意味で使われだしたのは、市來校長、あなたが魔法史教諭として魔法所に着任した時期と一致しているわ」
うわあ、とサクマが悲鳴を上げた。しがみついていた相輪の先端で宝珠が潰れ、続いて相輪そのものがぐちゃぐちゃにへし折れていく。銅製とはいえど相応の大きさのあるパーツのことだ。それだけで、ミズホと市來校長の間に渦巻く力がどれほどのものか知れよう。
石造りの尖塔の軋む音は次第に大きくなっていく。建物の上げる悲鳴を覆い尽くすように、怨霊の哄笑が夜の闇に響き渡った。
「わざわざフィールドワークで調べたんか、そりゃあ偉か、レポートで提出してくれれば三〇点はやろう、動機も当てたなら追加で一〇点じゃ」
「動機? そんなもの決まっているわ、あなたは、魔法族がマグルと交わることを嫌ったのでしょう。少しずつじわりじわりと、自分の生徒を通じてマグルと共にあろうとするものを嘲る風潮を作ろうと試みて、それは実際に完遂された。純血を保とうとするなら、遠回りだけれど確実なやり方だわ」
「ああ、惜しかね。大筋では当たっちょる。じゃっどん、そりゃあ英国魔法界ん常識に引っ張られすぎじゃ。だいたいおいだって武家ん出じゃ、純血なんかじゃあなか。日本で魔法界が成立した時代を考えてみぃ、日本に純血ん魔法族なぞ居っはずがなか」
ごう、と音を立てて尖塔の屋根が抜けた。石造りの建物といえど、屋根は木造だ。初めに最も弱い部位に無理が出たのだろう。だが、もちろん闇祓いともあろうものがその程度のことで死ぬこともない。ミズホは抜け落ちた屋根のあったその場所に変わらず佇んでいた。その姿を下方から見上げるものが居れば、編み上げ靴の裏に飛翔の呪符が張り付いていることに気づいたはずだ。
「おいが望んたぁ、二度とおいんような魔法使いが出らんこっだ。マグルん政府、日本ちゅう国に未来あっ子供が取り込まれて、そんために命を落とさんなならんような時代を二度と来らせはせん。魔法所で学び、学んだ教え子を再び戦場に送らせはせん。──おいが持っちょるんな、そん願いだけじゃ。そん願いでもって、おいは死してなおこん世に留まり、こん場所に残っちょっる」
崩れた屋根の銅瓦が空中に飛び上がり、闇祓いへと叩きつけられかけ、寸前で静止する。
「そのために魔法族という集団にどうしようもない亀裂が生まれ、ついにこんな有様になった! あなたの教え子、闇祓部のみんなも結局、本来必要のないはずの争いで命を落とす羽目になった!それを悔いてはいないのか!」
静止した瓦はゆっくりと押し返され、じわりじわりと死者のもとへと近づいてゆく。ミズホの問いに、市來校長は心外そうに両手を広げてみせた。
「そんために? 魔法ん暴露からあとん対立は、半端者どもがあれだけ大量にこん国にのさばっちょって、ないも考えず日本政府ん意向に従うたでこそ起きたことじゃろう。皆がきちんとマグルと距離を起いておりゃ、初めんテロは避け得らんかったにせえ、そん後ん内紛には至らんかったはずじゃ」
ここではないどこかへ語るような口調で、市來タテワキは断言した。死を経ているはずの瞳は、自らの正しさを疑わないものに特有の輝きを帯びてさえいる。
ミズホは口をつぐみ、烏の防護面を装着した。正しさを執念としてこの世にあり続ける怨霊とは、これ以上の対話は不能と見たのだろう。だが、一体霊魂に対して、何を成しうるというのか?
市來校長もまた、同じことを指摘する。
「そいで、闇祓いどん。おいと力比べを続けて、どうすっつもりじゃ? どげん魔法使いもゴーストを消し去っことはおろか、追い出すことすらできはせん。ホグワーツ出身なら、住み着いたポルターゲストをだい一人追い出すこっができらんかったことは知っちょっじゃろうが」
そう。西洋の魔法には、ゴーストを完全に消滅させうる呪文は存在しない。いっときその姿をかき消す事ができたとしても、死を経た霊魂は本人が望まない限りは気づけば再びその場に戻ってくるものだ。
空中で繰り広げられる力比べは、今の所ややミズホが有利に見える。だが、生者と死者の戦いとなればいずれ、生者に限界が訪れることも知れている。故に、死者はあくまで焦った様子を見せることはなく、その口元には薄笑みさえ浮かべて見せているのだ。
その笑みが凍りついたのは、
「ああ。知っている。──あなたが自らのそばに陰陽師を近寄らせようとしなかったことも、その理由もよく知っている」
と、烏頭の防護面の下でくぐもった声が発せられたときのことだった。
市來タテワキの周囲に、炎が走った。炎は五本の直線を成し、怨霊を取り囲む形で五芒の星を描き出す。陰陽道で言うところのセーマン、あるいは晴明紋だ。結界に囚われた死者の顔が歪み、周囲の構造物を動かそうと両手を大きく振り回す。だが、この世に干渉するための力は未だ、烏姿の闇祓いによって抑えられている。
「う、ああ────陰陽師ども! わいらんごつ半端者どもに──」
炎の結界の外には、忽然と色とりどりの水干姿が現れていた。陰陽師たちは、残らず滅魔の呪符を指に挟み、霊力を通し続けている。
晴明紋は、そこにあるだけで死者に耐え難い苦痛をもたらすものであるらしい。かと言って、怨霊が結界を抜けようとすればたちどころに炎が上がり、霊体であるはずの透き通った体を燃やし始める。滅魔の呪符が描く陣は、この世に未練を残す死者にとっては必滅の場であるのだ。
「──嫌や、まだ、やっこっがあっとじゃ。まだおいは、子どもたちん行っ末を見ろごたっど。まだおいはここで、こん学校に居て──」
滅魔の炎に焼かれゆくうち、死したその時の姿のままであったはずの霊の姿は急速に年を経て、老人となり、更には肉を朽ちさせてゆく。それは、彼が正しく年齢を重ねることができていれば辿ったはずの姿であったかもしれない。
空には青い月が浮かんでいる。海風の中、消えゆく魂は黒い煤に代わり、未だ焼け落ちぬ篠笛に縋り付いている。果たしてそれは、この世への未練をあらわすものであろうか。
未練を断ち切れぬ魂を見かねたものか。一人の陰陽師が進み出た。
「青龍、白虎、朱雀、玄武、勾陳、帝台、文王、三台、玉女」
青い水干姿の陰陽師は呪符を挟んだ二本指をまっすぐに怨霊の残滓へと向け、中空にドーマンと呼ばれる格子を描くように動かしていった。指を刀に見立てて中空を切る所作でもって悪鬼を断つ、九字護身法だ。臨兵闘者皆陣烈在前の九文字とともに行うものが有名だが、陰陽道では加護を求める神の名を並べて使うのが一般的となっている。
無論、それもただ、世界各地に存在する魔力を使う様式の一つに過ぎないのだろう。けれど、魔を断つにあたって自らの力のみを頼むのではなく、加護を与える神の存在を信じた上で行うのもまた、重要な要素に違いない。
「──悪霊よ、律令の如く急々に退散せよ!」
そして、宙に描いたドーマンを陰陽師の指が押し出した途端、黒い煤は霊体の笛ごと格子の形に断ち切られていた。五芒星が高く燃え上がり、悪鬼の残滓を包み込み、そして、海へと燃え落ちていく。ドーマンにセーマン、そして九字護身法に急急如律令の呪文。どれもマグルでさえ知っている有名なまじないであり、古くから陰陽師が行ってきた悪霊祓いの呪法でもある。
ミズホは息をついた。いくら魔力量の多い闇祓いと言っても、魔力を使えば疲れることには変わりはない。
「西洋魔法にあって陰陽道にはない種類の魔法もあれば、陰陽道にあって西洋魔法にはない種類の呪法もある。その最たる例が悪霊祓いだった、というわけですね、猿曳さん」
青い水干を着た陰陽師、猿曳レイヤもまた息をつき、空中で器用にしゃがんでいるところだった。賀茂陰陽頭の死亡が明らかになったため、陰陽寮ではほぼ全員の階位が一つ上がっている。
猿曳は頷き、役目の終わった呪符を焼き捨てて海へと返した。
「逆になんで西洋魔法に悪霊祓いの魔法が無いのかわからないけどね。エクソシストいるでしょそっちでも……ああ、だから逆に魔法使いはやらないってことなのかしら? 教会との棲み分けとかで……」
不思議そうに首をかしげる猿曳の足元で、がらがらと何かの崩れるような音が鳴り響いた。瓦を押しのけて、南方サクマ教諭がようやく脱出してきたのだ。その姿は瓦礫に埋もれていたためにかなりぼろぼろになっている──はずなのだが、元々似たような格好であるためにどの程度のダメージを受けているのか今ひとつ判り難い。
サクマは瓦の山を這い登り、海へと消えゆく炎の残滓を見て、ああ、と絶望的な表情を浮かべた。
「ああ! 市來先生、もう成仏しちゃった!? 折角ゴーストが消滅するところが見られると思ったのに!」
変人と名高い魔法生物飼育学教諭は、どうやら大抵の人間とは大幅に異なる価値判断において心からショックを受けているらしい。
「大丈夫よ、悪霊祓いなら東武線あたりで年中見せられるから」
猿曳がそう言って慰めにかかり、さらにはサクマを心配した魔法生物たちが尖塔の上に集まってくるに至り、辺りはなかなか百家争鳴のありさまとなっている。所在なさげに空中により集まる陰陽師たちに、ひとまず壊れた屋根の補修を手伝うよう要請したところで、ミズホはなにか冷たいものが体を通り抜けるのを感じ、その場から飛び上がった。青白く光るゴーストが、ミズホと接触したのだ。
「ごめん。まだ人との距離感に慣れなくてさあ」
背広姿のゴーストは、申し訳無さそうに振り返り、それからあたりを見回した。現代人と服装の差が存在しないゴーストの姿からは、明らかに死んで間もないことが伝わってくる。
「あれっ穂村ちゃんいないの穂村ちゃん。ああ、陰陽頭になって現場に出るどころじゃないんだっけ、猿曳ちゃんもなんか取り込み中みたいだし、じゃあ闇祓いのきみでいいか。とりあえずこの校舎浮かせてるけど結構これ辛いんだよねえ。どっか置いちゃだめなの?」
死にたてのゴーストはその場に目的の人物がいないことに気づくと、今しがたの接触によってガタガタと震えるミズホに向き直った。その姿には、実のところミズホにも見覚えがある。と言うか、かなり印象は強いほうだ。何しろ、目の前で最期まで死にたくないと言いながら死んでいったのだ、印象に残らないはずがない。
「だめですよ、鳥辺さん。この大きさの建造物を下手に陸地に置いたら建物は良くても地盤が崩壊しますよ」
「やっぱだめ? ポルターガイスト現象で浮かせ続けるの前提の建物って、絶対変だと思うんだよねえ。せめて龍脈由来のシステムとかにできないの? 魔法省庁舎はそうだったんでしょ? ずっとこれじゃあ怨霊にもなるよ」
半透明の姿になった元魔法族の警察官、鳥辺アオイはいかにも幽霊らしく体の前で両手をだらんと垂らして見せながら校舎を浮かせる仕事への不満を漏らしはじめた。
「本来は魔法所もそういう形だったのが南硫黄島の火山活動の影響でポルターガイスト頼りになったそうですから、いま魔法省の残存スタッフが文献を調べて復旧の方法を考えてくれてます。それまではすみませんが、よろしくおねがいします」
「んー、まあ、給料出してくれるって言うからいいけどね。終わったら早く僕のことも成仏させてよね」
未練たっぷりに死んだ結果、見事地縛霊となってこの世に舞い戻ってきたゴーストは、あっけらかんと言って瓦礫をすり抜け、消えていった。陰陽師たちの話だと、鳥辺アオイの霊が魔法所での仕事を了承するまで、警視庁では警察幹部の頭髪がすべて抜け落ちる異常現象や制服が突如すっぽ脱げる怪奇現象が連日発生し続けていたと言う。今見る限り鳥辺も魔法学校ではそう悪さをする気はなさそうなので、ひとまずはこれで魔法所に関する最大の問題は方がついたと言えるだろう。
退魔の炎はすべて燃え落ち、黒い海に光るものはまた、都会の光ばかりとなっている。
「あのお、屋根の基礎部分は組み直したんですが、折れた部分をどうやって修復すればいいのか」
屋根の修復作業に従事していた陰陽師たちが、ミズホに声をかけた。瓦礫の中から屋根の木材だけを選り分けて動かすことはできたものの、折れた箇所が修復できずに居るようだ。
ミズホは杖を握り直し、屋根の高さにまで呪符の高度を下げた。
「修復は、
最後の闇祓いの指導のもと、陰陽師たちは折れた屋根の基礎をつなぎ合わせていく。そのありさまは、長きに渡り深い溝を意図的に作り上げられた日本魔法界にあっては、ささやかながら数少ない幸福な協力関係と言えよう。
けれど、同様の関係が今後、数を増やしていくことができるのか、どうか。
夜の海は、未来と同じく闇に包まれている。闇の中に揺蕩う潮風は、今なお犬笛のごとき隠された音色を乗せているかのようだった。