「大丈夫か?××」
「フフフ、もう今日その台詞7回目よ」
「そりゃあ、心配だからな」
私は妊娠していた。
3年前○○と結婚し、妊娠してから7ヶ月。
私のお腹は大きくなっていて、赤ん坊がいるのがはっきりわかったし、
私は幸せで幸せで仕方がなかった。
不満もない、所謂薔薇色の人生という感じになっていた。
あの日までは。
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「もう着くわね·········」
昨日、父が死にそうだという知らせを受け、私は実家に一度帰った。
しかし、実際は大したことはなく、私がついた頃にはピンピンしていた。
私は直ぐに戻ってきたのだが、
夫には3日は帰らないと思うと言ってあるので、
私が帰ってきたことを知るときっと吃驚するだろう。
私は吃驚する姿を想像しながら、鼻唄混じりにゆっくりと家に帰っていった。
「あら················」
家の中から誰かの声がする。
夫と誰かが話しているのだろうか?
私は邪魔してはいけないと思い、音を立てずに家に入った。
居間にはいない。
どうやら向こうから聞こえるようだ。
私は襖を音を立てないように少しだけ開けてのぞきこんだ。
私は凍りついた。
その部屋、寝室では、夫が知らない女を抱いていた。
私の顔は青ざめ、私の心はかなり動揺した。
私は動揺のあまり荷物を落としてしまい、それで夫に気づかれた。
「っ!?誰だ!」
夫が襖を開ける。
私はただただ立ち竦んでいる。
数秒間、時が止まっていたかのように全員が止まっていた。
「あ、あぁ········違うんだ××·········」
彼が狼狽しきった声で言う。
私は言葉を返さない。いや、返せない。
私の唇は恐怖やパニックでうまく動いてくれなかった。
知らない女が脱兎のごとく逃げる。
私達二人が部屋に残される。
部屋の空気は昨日までの暖かい明るい空気とは違う。
冷たい空気だった。
夫が必死に弁解する。
然れど私の耳には入ってこない。
何で。
ナンデ。
なんで。
何故。
なぜ。
ナゼ。
どうして。
ドウシテ。
『なんで?』
私の頭を同じような意味の言葉が駆け巡る。
目に涙が溜まる。
そして数秒後、零れ落ちる。
夫の弁解も聞こえない私は泣いていた。
立ったまま泣いていた。
そして、私は走り出した。
このままだと私の心が壊れそうだったから。
きっとそれは気のせいで、
私が逃げるための口実のようなものだったのだろう。
だけどその時、私にそんなことを考える余裕はなかった。
頭の中が一杯で考えられなかった。
夫が私の名を呼ぶ。
私は戻らない。振り向かない。答えない。
何も考えられない私は一心不乱に泣きながら走っていた。
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もうどれ程走ったのだろうかわからない。
そこは私の知らない風景で、
きっと私は随分長い間走ったのだろうということがわかる。
橋がある。
私は橋の上に行く。
そしてまた泣く。
私は見たくはなかった。
見なければよかった。見なければ幸せだった。
見なければ、見なければ、見なければ··············。
流し続けた涙が枯れた頃、私の心にはとある感情が芽生えていた。
それは誰の心のなかにもあるもので、誰もが知っている感情。
その感情のままに私は呟く。
「妬ましい·············」
私の夫を奪ったあの女が妬ましい。
復讐したい。あいつの全てを奪ってやりたい。
私の中にドス黒い色をした憎悪の炎が燃え出した頃、
それ見計らったかのようにとある言葉を思い出す。
「憎しみを持った女性は川に身を投げると鬼になる」
そうか。
私は鬼になろう。
そして、あの女を、夫に復讐しよう。
私の口元がにぃと歪む。
私は笑いながら川に身を投げた。
憎悪に満ちた笑みを顔に浮かべながら。
長い間私は川の底で眠り続けた。
そして私は再び目覚める。
鬼として。
橋姫として。
川の中で。
ゆっくりと目覚める。
他の奴等とは比にならない嫉妬を心に宿しながら。
私はもう一度呟く。
「妬ましい」
頑張ったけど無理がある気がします。
もう気にしないでください。