一人ぼっちの男の子と女の子の話。

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 猫葉です。
 短いお話を書きました。


終着駅は二人

 

 

 僕は今、ガタンゴトンと揺れている。切符も買っていない。気づいたら、乗っていた。

 

 この電車には僕以外誰も乗っていないみたいで、全車両を見ても運転室を見ても人の姿はなかった。つまり。運転手がいないこの電車がどうやって線路を走っているのか、どこへ向かっているのかまるで分からない。

 

 駅には何度か止まった。でも、ドアが開かないのだ。駅に人もいないから出るに出られなく、僕はただ茫然と座席に座る。下ばっかり見ているのも飽きてきて、窓へと視線を上げた。

 

「もう夕方……どれくらい乗ってるんだろ?」

 

 窓の外はまん丸夕日が漂う雲を染めている。

 

 あ、また駅だ。……あれ?

 

 駅に誰かいる。一人静かに立っている。その子はランドセルを背負っていた。ショートカートの女の子。見た感じ僕と同じ背丈だ。

 

 電車が止まった。

 

 まるで、待っていたかのようにドアがゆっくり開くのを目にし、僕は驚く。

 降りれる!すぐさま座席から立ち上がったのはいい。でもそこから体は動かなかった。

 

 ドアがゆっくり閉じていく。

 

 

 もう一人の乗車客を迎え入れた電車は、再びガタンゴトンと揺れだす。

 

 女の子の眼は閉じていた。入ってすぐ座り込んだ様子は、まるで引っ張っていた糸を切られたかのようで。

 

 まったく……。何なんだ。この女の子が泣いていたからって、何で体が動かなくなるんだよ。

 

 女の子の閉じた瞼から滲んで頬を流れるそれが、なぜか僕の心を止めた。

 一人にしたらいけないような気がしたのか。

 

 うっすらと開いた瞳が潤んで見えて、僕は息を呑んだ。女の子は辺りをキョロキョロ見渡して不安そうに「ここ、どこ?」と呟いた。

 その声が涙声で、余計に僕の心を揺さぶる。

 

 やがて女の子は、僕に気づいた。何も言わないのも変だから、ここが電車の中だと教えてみる。

 

「僕も、気づいたら電車の中さ。君は何処から?」

 

「家に、帰るところだったんだけど……でも、このままでいいかも」

 

 瞼に溜まる涙をぬぐいながら、女の子は僕の目の前の座席に腰かけた。少し傷ついたランドセルを寂しげに見つめて、女の子は語る。

 

「この電車がどこか遠くに連れてってくれるなら……。家は、怖いから。私はずっと一人ぼっちなの。お母さんもお父さんも仕事でいなくて。学校なんかもっと嫌い」

 

 

 ガタンゴトンと電車が揺れる。夕日が女の子までも染めていく。

 

 一人ぼっちという言葉に、僕の肩がビクンと跳ね上がった。

 

 

「同じだね」

 

 

 話してみれば、僕たちは同士だということが分かった。ちょっとした仲間外れを受ける同士。

 こんな広い世界で、たまたまこんな不思議な電車に乗っている二人の境遇が同じとは。

 

「おかしいね」

 

「うん。ほんとにおかしい」

 

 顔を見合わせて笑った。なんとなく、気持ちが楽だ。周りに合わせなくていい、自分のまま笑える。息苦しくない時間ではあった。

 

 

「……僕さ。おいてかれるのが嫌で、はぶかれるのが嫌で、思ってもないけど皆に合わせてたんだ。でも、素が出るんだな。気づいたらそれが仇になって一人ぼっち」

 

 私も同じ、と返ってきた。

 

 自分らしくが、なかなか難しいんだよね……と女の子は悲しそうに笑う。迷っているように、笑う。

 

「誰しもが、それを受け入れてくれるわけじゃないから。……でも、やっぱり悲しいよ。一人は……」

 

 流れ出た水滴を目にし、僕は思い出した。

 

 ドアが開いた時、どうして体が動かなかったのか。どう思われるのかなんて珍しく考えなかった。力になりたいと、思ったんだから。

 

 

「自分らしく出来たことに誇りが持てれば、案外一人も怖くないかもしれないね」

 

 

 女の子の目を見据えて、僕自身にも大丈夫だよと手を差し伸べる。

 

 そしたら、笑ってくれた。さっきまでは見られなかった明るい色が、女の子の笑みに溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づいたら部屋の中だった。ベッドに横たわっていた体を起こす。

 

 窓の外には雲が漂い見え隠れしていた青空。それはめいいっぱいに広がっている。残念ながら太陽も隠れていたが、その光は隠しきれずまぶしい。

 

 いつまで寝てるの!とお母さんの怒号。いつもならしばらく学校に行くのが嫌でぐずぐずしているけど、今日はすぐにベッドから降りて着替えを始めた。

 

 怖くないのだ。ぜんぜん。

 

 

 学校について教室に入ると、僕をニヤニヤと見下す視線。そして机には落書き。いつもどおりだ。何か違うところがあるのなら、それは僕が泣かずに黙々と落書きを消したことぐらいだろう。

 

 しばらくして先生が入ってきた。その後ろに続き背中を丸めて歩く女の子に僕は驚く。

「あ」と思わず声が出た。

 

「6の1組に入ってくる吉田百花さんです。百花さん自己紹介して」

 

 先生に促されて、女の子は足元に目をやったままおずおずと自己紹介を始めた。

 

「よ、吉田百花です。え、絵本が好きで……絵を描くことも好き、です……」

 

 スカートをギュッと掴んだ手は震えている。恥ずかしいのか耳まで真っ赤にして。

 どんどん小さくなっていく声に、教室の空気は変わる。

 

「……よろしく、お願いします……」

 

 自己紹介が終わった。僕は思わず立ち上がって、誰よりも早く拍手を送った。見定めるようなあいつらの目から女の子を守りたくて。

 クラスメイト全員の注目を浴びる。

 

 彼女の顔も、その音につられて上がると見る見るうちに目を丸くした。

 

 

 こんな目立つこと、昨日までの僕だったら絶対やらないけど。

 

 ここから、始めようと思った。

 

 

「よろしく!」

 

 

 僕はもう一度あの笑顔が見たいから、まずは自分から笑ってみせた。

 

 みんなが見てるけど。あいつらが面白くなさそうにしてるけど。

 大丈夫。怖くない。

 

 だって。君が笑ってくれたから。

 

 ふと、もぬけの殻だった運転席を思い出す。

 

 

 ―――もしかしたら。

 

 あの不思議な電車の運転手は、「誰か」を探していた僕なのかもしれない。

 




 
 読んで下さりありがとうございます。
 
 自分に誇りを持つことはなかなかに難しい事。だからこそ、それが出来たなと思える瞬間がとても嬉しい。

 自分らしさとは何なのか。この男の子と女の子はその答えを探しながら大人になっていくことでしょう。

 みなさんも、自分の部屋のベッドに寝転がりながらゆっくり考えてみては?

 話は変わって宣伝タイムです!
 私、猫葉は「中野家」という小説もハーメルンで連載中でして…。5人兄妹の歌い手とその仲間たちの物語になっています。
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                猫葉

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