プリコネ短編集(仮   作:サツキ

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忘却猫娘と記憶の欠片5

「やぁあああーーーー!」

 

 ずがん、とおよそ剣で出せる音ではない衝撃音が響き渡る。

 ペコリーヌの持つ王家の装備が輝き、その身体能力を何倍にも引き上げ、超人的な力を引き出している。その状態で繰り出される斬撃は文字通り大地を抉るほど威力を持っている。しかし、その一撃は魔物の黒い体毛によって肉を断つには至らない。目の前の魔物は吹き飛ばされことすれど、ダメージが入った様子はない。

 

「硬いですねえ。お肉も堅そうです。となると、一度すりおろした玉ねぎなどに漬けた方が」

「調理方法は後で考えましょうペコリーヌ様。来ます」

「GYAAAAAA!」

 

 ペコリーヌとコッコロが戦線を支えている中、ユウキとキャルは後方で頭を抱えていた。

 

「あー! 魔法ってどう使うのよ!」

 

 杖を持ってきたはいいものの、うんともすんとも言わない。記憶とともに戦い方も忘却してしまったようだ。

 

「こんなんじゃ、あたし」

 

 不意に、ペコリーヌの言葉が脳裏をよぎる。

 

『このままでいるとキャルちゃんは、後悔すると思うんです』

「あいつが言ってたのは、この事なの」

 

 戦い方を知らない自分では、戦闘でお荷物になることを言ったいたのか。力のない自分は、このギルドに不要とうことか。キャルの頭の中でマイナスな思考がよぎる。

 

「・・・弱いあたしなんて、誰からも必要とされない。そう言うことなのペコリーヌ」

 __それは違う。

 

 前を向く事ができず、俯いてしまうキャルにユウキは力強く言葉をかける。

 

 __僕たちが必要としている。

「それは・・・記憶をなくす前のあたしでしょ。戦う力のあるあたし。魔法を使えるあたし。ペコリーヌはこのままのあたしでいると後悔するって言った。それってつまり、弱いあたしなんて」

 __それは、違う。

 

 同じ言葉。されど、先ほどよりも力を込めて。

 

 __後悔するって言ったのはきっと

 

 ただひたすらに、仲間の優しさを信じて、言葉を紡ぐ。

 

 __キャルが今までの思い出を思い出せない事を後悔すると思ったんじゃないかな。

「思い、出・・・?」

 

 その時初めて、キャルは自分の心にぽっかりと穴が開いている事を自覚する。

 

 __楽しかったこと、辛かったこと、面白かったこと、悲しかったこと、乗り越えたこと、驚いたこと、笑ったこと、泣いたこと、。そういう思い出を、思い出せない。ううん、思い出さないようにしようとすること。それをいつか、後悔する。

「そんなこと、ないわ。だって、あたしは」

 __キャルは優しいから。

 

 *

 

「いつまであたしを閉じ込めておくつもり」

 うるさい。

「いい加減出してくれない。いつまでもここにいる気なんてないんだけど」

 黙ってて。

「分かってるでしょ。このままじゃ、ペコリーヌとコロ助が」

 わかってるわよ!

「ひゃう!?」

 わかってるけど、でも、嫌なのよ!

 だってそうでしょ。この体を返すってことは、あたしは消えるってことでしょ。

 あたしはまだ消えたくない。まだやりたいこと、いっぱいあるのに。こんなところで消えたくないのよ。

「・・・馬鹿ね」

 消えたくないって思う事がそんなに悪いの? 生きたいって思って何が悪いの!

「それが馬鹿だって言ってんのよ。いい、よく聞きなさい」

 

「あんたはあたしなのよ」

 

 *

 

 剛! っと巨大な爪が空を切り裂く。ギリギリで避けたペコリーヌが即座に反撃へと移る。しかし、魔物の胴体部分へと直撃した剣からは嫌な衝撃が手に届く。

 死角からコッコロが動く。ペコリーヌの攻撃に合わせて放たれる一突きは並みの魔物であればそれだけで致命傷を与えうる一撃であったが、ペコリーヌの一撃さえ阻む防御力が相手では威力が足りない。

 魔物は二人の攻撃を異に返さず両腕を振り回すようにして暴れまわる。雑な攻撃、しかし当たれば必殺となりうる攻撃。二人はやむなく距離を取る。

 

「いやー、ほんっとタフですねこの魔物。さっきから全然ダメージが入ってる気がしませんよぉ」

「私もでございます。あと、もうひと押しあれば・・・」

 

 疲労も見え始めた二人に対し、魔物はまだまだこれからといった様子。思わずため息が出るほどのタフネス。

 どこか、嘲るように空気を漏らす魔物。

 

「なら、こういうのはどう?」

 

 刹那、その一瞬の気の緩みを狙い撃ちするかのように雷球が魔物の横っ面に直撃する。

 

「GYAOOOOOO!?」

 

 魔物の絶叫が響き渡る。空気を震わすほどの悲鳴。それを涼しげな顔で受け流す猫耳の少女。

 不敵な笑みを浮かべたキャルがそこに立っていた。

 

「キャルちゃん!」

「キャル様!」

「待たせたわね。ほら、追撃よ!」

 

 連続して爆音が鳴り響く。キャルの魔法が猛威を振るう。

 爆炎が魔物を包み、その姿が隠れた。

 

「ふん、他愛な__」

「キャルちゃーん!」

「ああああ! 戦闘中でしょうが! 抱き着いてくるなー!」

 

 ペコリーヌの行動を先回りし、静止させる。王家の装備の力を発動中のペコリーヌに抱き着かれたら命がいくつあっても足りない。

 

「あはは、ごめんなさい。・・・あの、キャルちゃん。えっと」

「なにもじもじしてんのよ。安心しなさい。あたしは、ちゃんとあたしだから」

「__はい!」

「ふふ。どうやら、諸々の問題ごとが解決したようですね。主様」

 __安心。

「さてと、みんな構えなさい。まだ、生きてるわ」

 

 魔物方へと視線を戻す。煙が晴れた場所には‘白い魔物‘が何事もなかったかのように立っていた。

 

「GYAAAAAAAA!」

「あれ? さっきまで黒くありませんでしたっけ?」

「これは、どういう事でしょう」

「関係ないわ。倒れるまで魔法を打ち込めば終わるわよ!」

 

 キャルの杖の先端に幾何学的な魔法陣が浮かび上がる。同時、魔力が高まり、魔法を構築、発動。再度魔物を魔法が襲う。

 しかし、

 

「GYAAAAAAAA!」

「効かない!?」

 

 腕の一振りで魔法はかき消される。先の一撃は確実に効いていたはず。しかし、すでに耐性が付いたというのか?

 

「やー!」

 

 そんなこと関係ないとばかりに全力攻撃。地を踏み砕くほどの踏み込みと、全身を使った一撃。しかし、それもまた届かない。‘黒くなった魔物‘の体毛にまたも阻まれる。

 

「・・・なんか、ここまであからさまなのも笑えるわね。」

「たしかにでございます」

「だとしたらやることは決まってるわね。ユウキ、力貸しなさい」

 __わかった。

「では、私は支援に徹します」

「ええ、頼むわ。ペコリーヌ!」

「はい。なんですかキャルちゃん!」

「突っ込め!」

「了解です!」

 

 決まったならば行動は早い。暖かな光がユウキの体を包み、その光がペコリーヌ、キャル、コッコロへと伝わっていく。

 ユウキのプリンセスナイトとしての力。仲間の力を、限界以上に引き出す能力。

 ユウキの力を受けた三人の能力が引き上げられたことを敏感に感じ取ってか、魔物は先ほどまでの余裕をなくしたかのように狼狽える。ここのきての逃走。

 

「させません」

 

 しかし、コッコロが先回りし足止めをする。時間を稼いでいるうちにキャルの魔法が完成する。

 

「いくわよ! コロ助!」

「了解しました」

 

 即座に距離を取るコッコロ。直後、魔物の周囲を囲むように巨大な魔法陣が展開される。

 

「GYAO!」

 

 魔物の体毛が黒色から白色へと変わる。それを見てキャルは笑みを浮かべ、躊躇いなく魔法を放つ。闇の柱が魔物を包み込む。

 魔物にダメージはない。邪魔だったコッコロは距離を取っている。逃げるのなら今のうちだろ。そう魔物はキャルたちがいた方向から背を向けた。それ故気付かなかった。後ろから近づくペコリーヌの存在に。

 

「はぁあああああ!」

「GYAU!?」

 

 ペコリーヌの剣が白い体毛へ食い込む。ぶちぶちと肉が断たれる音。

 魔物は混乱する。なぜ、どうして。

 

「その魔法はただのハリボテ。飛び切り派手で、むちゃくちゃに魔力を詰め込んだだけの魔法と呼ぶのもおこがましいレベルの代物。だから、ペコリーヌくらい頑丈なら強引に割り込める・・・やっちゃいなさいペコリーヌ!」

「いっきますよ~! 全力全開、プリンセスストライク!」

 

 決着。

 

 *

 

「つっかれた~」

「うぅ、もうお腹ペコペコです」

「皆様、お疲れさまでした」

 __お疲れさま。

 

 魔物の死骸の脇で、すべてを出し切ったと横になる面々。

 時期にギルドからの人員がくるだろう。事後処理は押し付けよう。

 そんな風に志向を巡らせていたキャルにペコリーヌは声をかける。

 

「キャルちゃん。今日は、楽しかったですか?」

 

 どこか場違いにも感じる質問。しかし、キャルはくすりと笑う。

 

「そうね。後は美味しい料理でも食べれれば、完璧かしら」

「・・・キャル様」

「なによ」

「あ、いえ。その、少しだけ素直になられましたか?」

「・・・かもしれないわね」

「よーし、では、倒した魔物を使って魔物料理といきましょう!」

「って、あんたは性懲りもなく! 戦闘後で疲れてんだからあんま言わせないでよ! ゲテモノ料理はやめなさいよ~!」

 

 記憶を取り戻したキャル。そこには、いつもの美食殿の日常が広がっていた。

 

 *

 

「あんたはあたしなのよ。だから、消えるも何もない。ただ、戻るだけよ」

 戻る?

「ええ。戻るだけ。だから安心して。あんたがいないとあたしじゃないんだから」

 ・・・。

「それにね。あいつらには口が裂けても言えないけどさ。あたしもあいつらのこと__好きだから」

 ・・・あたしはなにもできない。

「できるわよ。あたしなら」

 ・・・少しくらい。素直になりなさいよ。

「あんたがやってよ。あたしなんだから」

 ・・・あと、思い出も大切にしなさいよ。

「するわよ。あたしの思い出よ」

 なら、助けにいくわよ。

「ええ、そうね」

 

「「頼んだわよ、あたし」




これにて「忘却猫娘と記憶の欠片」完結となります。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。今後もプリコネ短編を書いていきたいと思いますので今後ともよろしくお願いします。
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