遠雷   作:pathfinder

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雷、太もも、予兆、ボロアパート、別れ、背徳的関係、太もも


遠雷

窓の外、遠くのほうで雷が鳴っているのが聞こえた。きっと多分今年初の落雷だろう。目は既に覚めていた。薄汚れた部屋のシワだらけのベッドを軋ませて身体を起こし胡坐をかく。

その遠雷は猛烈な不安感を俺に与えた。これから何か悪いことが起こると予感している。そしてそれに対して忌避感情を抱いている。それが何なのか、自分でもわからない。第六感というやつだろうか。

時刻は午後3時を過ぎたところ。窓から差し込む光が弱いのは雨雲が空を支配しているからか。

そんな不安感を払拭しようと水道水を飲んでいると、ピンポンと安っぽいチャイムがなる。俺は立ち上がって玄関へ行き、扉を躊躇することなく開ける。誰が来るかわかっていた。というかこの部屋に来る物好きは彼女ぐらいだろう。

 

「お兄さん、こんにちは~」

 

扉の向こう側には有名なお嬢様学校である月ノ森の高等部の制服を着た少女。

 

「いらっしゃい、七深」

 

広町七深。5歳以上年下の少女。俺の数少ない知り合い。このボロアパートの狭い部屋を訪れる僅かな客人の一人。

 

「お邪魔しまーす」

 

勝手知ったるといった感じで七深は我が物顔でずんずんと家に上がってくる。そのままベッドにポスンと腰をかけた。

 

「ひょっとして起きたばっかり?」

 

彼女はベッドを少しまさぐってから俺に尋ねてきた。

 

「その通りだよ」

 

「ベッドが生暖かいからそうなんじゃないかなって思ったんだ~」

 

七深は無邪気に制服のスカートからすらりと伸びる足をバタバタさせる。スカートが乱暴に揺れる。そこから覗かせる健康的な太ももが眩しい。ついつい目が行ってしまう。

 

「毎度毎度来る度にベッドに座るなぁ、七深は」

 

「お兄さんのベッド座り心地がいいんだよね~。……もしかして普通じゃない?」

 

少し不安そうな表情で七深は尋ねてきた。

 

「親しい相手なら普通じゃないか。親友とか恋人とか」

 

「そっか~。じゃあ、普通だね」

 

俺の回答に七深は満足してくれたみたいだ。

七深の言葉に俺はホッとしてしまう。彼女は俺との関係を親しい間柄と思ってくれているようだ。この、どう表せばいいかわからない関係を。

 

「高等部の制服で来たのは初めてだな」

 

「そうだね~。どう? 似合ってる?」

 

「似合ってる」

 

「じゃあ、普通?」

 

「普通普通。よくいる普通の女子高生っぽい」

 

「そっかぁ、普通かぁ。よかった~」

 

安堵した表情を見せる七深に対して俺は内心苦笑いしてしまう。「似合ってる」よりも「普通」のほうで喜ばれてる。なんだかなとも思ったが、それだけ彼女にとっては大事なことなんだろう。だからこれでいい。

 

「ねぇ、お兄さん」

 

「? どうした?」

 

「ちょっと報告したいことがあって……」

 

テンション高めで、でも少し慎重に七深がそう切り出した。なんだか自分の秘密を話す前の子供のよう。

 

「なんと広町……バンドを組みました!」

 

その言葉の意味を飲み込むのには少し時間がかかった。バンド……音楽とか楽器のアレだよな。それを彼女には組んだという。つまり仲間や友達ができたということか。

どうしてか俺の心に雨雲がかかった。そんなビジョンが浮かぶ。

 

「……おお、おめでとさん」

 

飲み込んで出てきた言葉がそんなありきたりな言葉。彼女に青春を共に過ごす仲間ができたことを祝う言葉。

 

「あれ? 反応が薄い……」

 

「そんなことないぞ」

 

驚いている。それ以上に湧き上がる様々な感情を隠したかった。

 

「えー、薄いよ~。もっとすごいリアクションが欲しかったのに」

 

なんて無茶振りだ! 俺は単なる屑野郎だ。芸人じゃない。

 

「まったく、俺はお笑い芸人じゃないんだぞ……。ま、頑張れよ。応援してる」

 

「うん!」

 

七深はすごく嬉しそうに頷く。それだけで俺も嬉しくなる。

俺は願う。七深のバンドの仲間たちがどうか彼女を受け止めてくれるますように。七深が仲間たちと笑って過ごせますように。

……俺は気分を変えたくて、改めて制服姿の七深をじっくりと見る。舐め回すように全身をくまなく。

それにしても……似合ってるなぁ。七深の制服を初めて見たが、ホントいい。俺がもう制服に縁のない人間だからその分ノスタルジーになってしまうが、それを差し引いてもいい。

 

「あ、お兄さん、えっちな目で見てるでしょ~?」

 

「まぁな」

 

「変態さんだ」

 

「男なんてそんなもんだ」

 

俺はそう言いつつ七深に近づいて膝をつき、その美しい脹脛に触れる。ゆっくりと少しずつ膝、太ももと手を滑らせる。骨董を扱うかの如く丁寧に。味わうように時間をかけて。そうしてその繊細さに劣情を催しそうになる。

 

「んっ」

 

くすぐったそうに七深は声を上げる。ただそれだけ。抵抗するそぶりはない。そもそも抵抗するぐらいならこんなところ来ないだろう。

それをいいことに俺は七深にさらなる欲求をぶつける。

 

「なあ、スカート捲ってくれよ」

 

「うん、いいよ」

 

俺のド屑発言に対して七深は二つ返事で答えて、そのスカートを捲り上げてくれた。眼前に彼女の下着が露わになる。七深は少し頬を赤く染めて、恥ずかしそうにしていた。

 

「ねえ、これって普通?」

 

俺が露わになった足の付け根に向かって手を滑らせていると彼女が尋ねてきた。

 

「これは普通じゃないな」

 

「だよね~」

 

俺が問いに答えると七深は最初からわかっていたというような感じでそう言った。こんな変態行為が普通だったらヤベー。

 

「ふむ」

 

眼前にある七深の下着、正確に言うとパンツを凝視する。珊瑚色を基調とし、花柄のレースをあしらったショーツ。

 

「うぅ……ちょっと近すぎない?」

 

「よく似合ってるなって思って」

 

「それはありがとう……」

 

七深の言葉は次第に尻すぼみになって消えていく。

 

「だからよく見たいんだよ」

 

「それはこんなに近くなくてもよくないかなー……?」

 

控えめな抗議。

 

「馬鹿。こんなに美しいんだから近くで見ないとかありえない」

 

「それは下着と太もも、どっちのことを指してるの?」

 

「両方」

 

「おおう……やっぱりお兄さんは変態さんだ」

 

俺が即答すると七深は驚きつつも引いていた。

 

「男なんてそんなもんだ」

 

だから俺は正常だ。男はみんな変態だから仕方がないのだ。

 

「うーん……変態なのはお兄さんぐらいだと思うなあ~」

 

「心外だ」

 

「だって女子高生に手を出してるし」

 

「…………」

 

……仰る通りで何も言えねぇや。

 

「嫌じゃないからいいけどね」

 

そう言って七深はくすくす笑う。

俺は誤魔化すように七深のショーツを軽く触れるか触れないかといった感じで撫でる。フェザータッチというやつ。ひゃんっ、と可愛らしい声を七深は上げた。ちょっとした仕返し。

 

「最高」

 

七深のその様子に俺はそんな感想を述べる。それ以外の言葉が見つからない。

 

「も~、くすぐったいよ」

 

恥ずかしそうに身を捩じらせて抗議する七深。だけどそれは嫌がっているというわけではなさそうだ。俺の勝手な主観だが。そうだといい。

 

「制服、脱がしていいか?」

 

俺は次の段階に進みたくなった。

 

「えぇー、折角制服着てきたのにな~」

 

七深はちょっと残念、と言いたげな顔。しかしダメとは言わなかった。暗黙的肯定。

 

「制服は汚したらダメだからな」

 

つまりこれからすることは服を汚すことなんだ。毎日使う学校の制服を穢すわけにはいかない。

ま、替えなんていくらでも用意できるかもしれんが。いやそれでも替えを用意するためにはそれ相応の言い訳が必要になる。それにその替えをすぐにぽんと用意できるものではないだろう。

……色々言い訳をしたが、つまるところ俺は彼女に俺のために一銭も使ってほしくないのだ。ああ、なんて矛盾だ!

 

「それは……そうだけどさー」

 

「それに着替えなんて持ってきてないだろう?」

 

「お兄さんの服を着ればいいと思うの」

 

「それはサイズ的に無理だ」

 

ぶかぶかになるのが目に浮かぶ。……今度俺のワイシャツ着せてみようかな。

 

「えっちぃ目、してるよお兄さん」

 

さもありなん。

でもまあ、女の子が男物のワイシャツ1枚(おそらくぶかぶかな状態)で外を歩くのは色々と不味い。公然猥褻だ。警察のお世話になりかねん。

 

「とにかくダメだ」

 

俺は強めの口調で言う。こうでもしないと押し切られそうだ。

 

「えー……制服の方が絶対燃えるのに」

 

さもありなん。燃えないわけがない。燃えすぎてどんなに気をつけても絶対に制服を汚す。もうわかってる。

ぶーぶーと抗議しながらも七深はじっと脱がされるのを受け入れる。とはいえ恥ずかしいのかその新雪のような肌に色が点る。

彼女は下着と靴下だけの状態になる。何度見たってその美しさは変わらない。

 

「……綺麗だ」

 

七深の身体の美しさを俺はそんな単純な言葉でしか言い表せなかった。情けないぐらい目が離せない。

 

「ありがとう……」

 

段々消えていきそうな声だった。

珊瑚色のショーツと同じデザインのブラジャーでこちらも花柄のレースがあしらってある。

 

「お兄さんも脱いでよ」

 

不公平だー、なんていう七深に苦笑いしつつ、俺は服を脱ぐ。

七深に近づいて、その瑞々しい身体を抱きしめる。彼女の柔らかな肌と密着する。触れ合っている部分が熱い。鼻腔をくすぐる彼女の匂いが興奮を加速させる。

そうして抱き合ってるとまた空が鳴った。落雷だ。距離は多分遠い。雨音がいつの間にか聞こえる。胸がもやっとする。

 

「おへそ、取られちゃうね」

 

冗談めかして七深が言う。彼女の吐息がちょうど胸の辺りに当たって、俺の情欲をまた一段と刺激する。不快感はすぐに消えていた。最早我慢の限界だった。

俺はできるだけ冷静に、七深をゆっくりとベッドに押し倒す。彼女はそれに逆らわず、笑いながら俺に押し倒される。

そこからは男女の混ぐわい。あるいは秘め事。二人だけの世界で、視線を絡め、一つに溶けて、色欲に溺れる。

 

 

 

夢心地の中、雷の音だけがずっと頭から離れなかった。

 

その遠雷は彼女の門出を祝うように、俺たちのやがて来るであろう別れを知らせるように鳴り響いていた。

 

 

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