クルツシリーズ   作:あらほしねこ

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花の帝都を猫が征く 前

 最近、うちの周辺、と言うか、ノヴァキャット氏族全体が妙な雰囲気になっている。いや、またどこかの連中とドンパチとか、そう言うものじゃない。そもそも、その程度の話なら、珍しくもなんともない。

 俺がこのノヴァキャット氏族、という珍妙な社会に連れてこられるきっかけになった、あのバトル・オブ・ツカイード。あの一件以来、どうもノヴァキャットとドラコ連合の間で、なにやら接触を持っているという話がある。

 どこでそんな途方もない与太をってか?まあ、そうだろうな。氏族といえば、程度の大小はあっても、中心領域の連中とは相容れない連中だ。

 その、戦闘にのみ特化した、常識外れの戦闘技術。そして、凶暴性と残虐性。それは、このノヴァキャットとて例外じゃない。人もメックも奇妙な踊りを舞い、訳のわからない神託をのたもうて騒いでいるだけの、脳天気な連中じゃ決してない。

 とにかく、それだけ氏族の連中ってのは、得体の知れない連中として、中心領域の民草から気味悪がられているってわけだ。

 俺だって、初めてエレメンタルとかいう大巨人を見たときは、これが本当に同じ人間かと、自分の目と正気を疑ったもんだ。

 まあ、そんなことはどうでもいい。要するに、氏族連中ってのは、初めて中心領域の人間の前に姿を現した時、冗談抜きで宇宙人と思われていた。そりゃそうだろう、エレメンタル云々以前に、容貌や戦闘スタイルその他をもってしても、常識とか既成概念とか、そういったものがまったく当てはまらない連中だ。

 そういった両者が、実力行使で相手を叩き伏せる他に、歩み寄りの方法を模索するなんて、確かに信じられない話だ。

 けれども、ノヴァキャットと言う氏族に限って言うなら、それは不思議な話でもなんでもない。ノヴァキャットは、人の知恵をはるかに超えた別次元の存在。いわゆる『視法』の導きをなによりも崇め敬う。

 人の常識などはるかに飛び越した、その貴賎など全く問題にもしない、より高みにある光。それは、己の存在の証たるたてがみをなびかせ、力の限りひたすら駆け抜けるノヴァキャットの行く手を照らし上げるのだ。

 と、まあ、これが俺のマスターおよび、顔馴染の視法師兼メック戦士様から、繰り返し聞かされ続けたお題目だ。まあ、その是非はともかくとして、彼らには彼らにしか見えない何かがあるのだろう。そして、それは確かに存在しているんだろう。

 俺だって、実際にその様を見ていなければ、単なるガンギマリ集団としか思わなかっただろうからな。

 勝つとわかれば、どんな絶望的な状況に見えても、迷うことなく出陣して、確実に勝利をもぎ取ってくるし、やばいとなると、絶対勝ちにいけるとしか思えない状況でも、平気でケツをまくってしまう。

 面白い

 確かに、面白すぎる。

 それは、久しぶりのこの文明世界に来て見て、はるかにその面白さが際立つことになった。そしてわかったのは、氏族という連中は、良くも悪くもはるかに純粋で、はるかに奔放な連中だということだ。

 ああ、俺な。俺は訳あって、ドラコ連合のお膝元、ルシエンはあの帝都にお邪魔しているってわけさね。

 いや?別に俺は脱柵なんかしちゃいないぞ?ちゃんと、マスターもいるし、視法師とその護衛役も一緒だ。言ってみりゃ、スターキャプテン殿御引率のもと、はるばるやってきました花の帝都。ってとこさね。

そもそもの起こりは、俺がマスターと一緒に、ノヴァキャット次期族長と目されている、あのサンチン・ウェストの屋敷へと召集を受けたことから始まる。

 いや、俺達だけじゃない、他にも、あの時、危うく爆殺しかけた女視法師と、彼女の弟も、同じように気鋭の次期族長の屋敷に呼ばれていた。

 それにしてもなんだね、あれだよ、あの時はさすがに今思い出しても背筋が震えるよ。なにしろ、俺みたいな一介のボンズマンが、次期族長ともあろう御大に直々にお目通りがかなうなどと、それこそ天変地異に等しい超絶イベントだってのに、その上、オースマスターの筆頭である、ビッコン・ウィンタースまで控えていた訳だ。

 ただ、あの時一番印象的だったのは、女視法師の弟はともかくとして、俺のマスターや、彼女でさえもが、この二大巨頭の前では、ノヴァキャット訛りは跡形もなく消えうせ、氏族人口調で凛々しくも言葉を紡いでいたんだ。あれを見た時は、正直、あのふたりが本当に心配になった。なにか、悪いモンでも食ったのかと。

 そうそう、そんなことを話したいんじゃなかった。問題は、ビッコン・ウィンタースが、その巨大な体躯にふさわしい、重厚な言葉で告げた言葉の内容さね。

『ノヴァキャットは、更なる未来の光を追い、龍の園へと飛び込む。その露雫を払うのは、月の先見、星の戦士たる姉弟。そして、その血銘と共に雌伏せむ、白き短剣を携えし戦士。白き短剣の放つ叡智の光により、はびこる茨、澱む闇を切り払い、勇敢なる彼らは、ノヴァキャットの行くべき道を切り開く』

 と言うものだった。

 この予言を聞いた時、俺は何かの英雄小説の受け売りかなんかと思った。とはいえ、いくらなんでも氏族軍の大幹部ともあろう者が、そんなジュニアハイスクールの2年生みたいなことを言うはずもない。しかし、率直に言って、言ってる意味がビタイチわからない。とはいえども、さすがに、精霊と共に歩む一族だけのことはある。彼らには、全てが見えているらしい。ただし、余人が理解できるかどうかは、また別の話ではあるようだが。

 そして、ふたりは、俺達に衝撃的な言葉を聞かせてくれた。信じられるか?ノヴァキャットが、およそ200年の歴史をあっさり放り投げ、中心領域へと帰ると言い出してる。言ってみれば、親に大啖呵を切って実家を飛び出していった子供が、しばらくして家に帰ると言い出してるようなもんだ。

 さてさて、お優しくご寛大な親御さんであるならともかく、家出したあとも、散々迷惑かけた氏族というこの放蕩息子を、中心領域という親御は、果たして歓迎してくれるもんなのかね。

 なに?他人事みたいに言うなって?あのね、そんなこと百も二百も承知だよ?いいか?なんで俺が呼ばれたかわかるか?まあ、見当はついてるだろうけどな。要するに、俺はこの田舎モン達のツアーコンダクターをやれって言われてんだよ。

 基礎知識講習のため、極秘裏に派遣されてきた、ドラコ連合から極秘で派遣されてきた駐在官が、講義中であるにもかかわらず、アトラスよりも重い溜息を俺たちの目の前で思い切り吐き出してしまうほど、突き抜けた田舎者っぷりを炸裂させてくれたあの面子を、最悪俺ひとりで面倒見なきゃいけない羽目になったんだよなぁ。

 中心領域における、氏族社会との文化や概念の違いから始まって、言語、儀礼、慣習、その他諸々の講習中、真剣なものから頓珍漢なものまで、実に幅広い質問が飛び交った。しかし、女視法師が言い放った、

『機内持ち込みの糧食で、バナナはおやつに入るんかみゃあ?』

 とか言う質問、あれはどう見たって明らかな悪意だ。

 俺は、金髪と青い瞳の組み合わせがなんとも素敵なスラブ系の女性駐在官から、ボルシチやらスシやら、微妙に食い合わせの悪い夕食を振舞われ、

『もう手に負えない、貴方が最後の希望です』

 などと頭を下げられてみろ。早い話が、下駄の丸投げだ。これが美人に言われたものでなければ、悪いが俺は突っぱねる。

 まあ、久しぶりに、女性らしい女性と話が出来たわけだし、これはこれで悪い話じゃなかった。せっかくの機会だから、もっとお近づきになろうと考え、バーにでも誘おうとした瞬間、いきなり心臓に激痛が走ったのにはたまげた。

 こうなると、もうそれどころじゃない。俺は、可能な限りその場を取り繕いながら彼女の宿舎をおいとまし、青息吐息を吐きながら、ほうほうの態で宿舎に帰り着いた。そして俺はそこで見たものに、悲鳴を上げる寸前まで飛び上がった。

 宿の敷地内で、口には6インチ釘を咥え、右手にハンマー、左手には草か何かで編み上げた、不細工ながらもどこか禍々しい雰囲気の人形を握り締めた女らしきものが、その長い髪を振り乱し、暗がりの中をうろついていた。それは、昔なんかの資料で見た、ジャパニーズ・ゴースト、Ver.オーキョマルヤマさながらだったからだ。

 いったい、なんだったんだろうな、あれは?

 まあ、それはどうだっていいけどな。とにもかくにも、この予言に従うという形で、マスターと俺、そして、件の姉弟は、非公式ながらも、親善訪問団という名目で、ドラコ連合の本星へと派遣されることになったわけだ。

 

『アテンションプリーズ、アテンションプリーズ、当機はこれより着陸態勢に入ります。お客様につきましては、お席のシートベルトをお締めになり、ランプがお付きになるまでの間、お席をお立ちにならないようお願いいたします』

 キャビンアテンダントの、流麗かつ柔らかな声のアナウンスが流れ、旅客用ジャンプシップは、俺達の乗る旅客区画を兼ねたドロップシップを切り離した。そして、ドロップシップはゆっくりとアプローチ体勢に入る。いやはや、こういった、乗客重視の丁寧な着陸なんて久方ぶりだ。

 なんていうか、あのドロップシップの、レールのいかれかけたジェットコースターに乗せられたような、あのキチガイじみた轟音と振動がない降下着陸なんて、嬉しすぎてこのドロップシップのクルーが、みんな天使に見える。

 そして、俺達の乗ったドロップシップは、これまた優雅な白鳥が、穏やかな春の湖に舞い降りるように着陸した。そうだよ、本来、着陸とはこういうものなんだ。制動ブースターを全開にぶっ放して、自爆と勘違いして本気でビビるような爆発音が艦内を叩きのめしたりするもんじゃないんだ。

 嗚呼、文明よ萬歳

 

「おお~・・・」

 空港に降り立った一同は、みな例外なく修学旅行で都会を訪れた、クソ田舎のジュニアハイスクールの生徒のような表情で、ロビーの中を見回したり見上げたりで忙しい。

 メックどころか、ドロップシップさえ格納して、おまけに整備もおっぱじめられそうなほど、見上げんばかりの天井をもった広大なロビー。

 磨き上げられた、それこそ、御婦人がたのスカートの中をのぞけそうなほど、チリひとつ、くすみひとつなく磨き上げられた床。

 壁という壁を覆う、曇りひとつないクリスタルガラス。そして、天井からロビーを優しく照らす、上品ながらも優雅な衣装のシャンデリアライト。

 丁寧に刈り込まれ、入念に手入れされた観葉植物の鮮やかで柔らかい緑が、ともすれば、清潔すぎて無機的になりがちな空間に、さりげない自然の穏やかさと潤いを添えている。

 これだよ、これなんだ。人間の住む世界というのは、本来こうあるべきなんだ。空港ってのは、間違っても、茶色く変色した、血の染みが滲んだ包帯を巻きつけた戦士が、頭陀袋を枕にして死んだように寝ていたり本当に死んでいたり、降下酔いを起こした新兵が吐いたゲロが、床に不愉快なオブジェを作ったりなんかしていないんだ。

「ど、どえりゃーきれーなとこだぎゃ。こ、ここは誰かの宮殿かね?」

「いえ?ここは一般の公共施設ですよ」

「し、信じられねーだぎゃ。族長のお屋敷でも、ここまでピッカピカじゃあねーだぎゃ」

 女視法師は、ここがごく一般の市民に開放された公共施設、という事実がにわかに信じられないらしく、微かに怯えの混じった表情で辺りを見回している。まだ言葉を言えるだけ、彼女はマシなほうだ。

 肝心要のスターキャプテン殿、つまりは、俺のマスターなど、その目をまん丸にしたまま、すっかり言葉を失っている。その中で、特に変化が見られないといえば、視法師の護衛、つまり、彼女の弟は、努めて冷静に周囲の状況を観察している。

「ク、クルツ」

「はい、なんですか?」

「あ、その、なんだぎゃ。のどが乾いてしもーたでね、水はどこにあるだぎゃ?」

「水ですか、ウォータークーラーなら、ほら、そこにありますよ」

 緊張のあまり、口の中が渇いたのであろう女視法師は、俺が指差した先にあるウォータークーラーに、怪訝そうな表情で近づいていく。

「クルツー!これはいったいどーやって飲むんだぎゃー?蛇口もコップも、どこにもついてねーでよー!」

 イエーイ

 やってくれるとは思っていたが、まさか、あんなことを大声で言うとは。俺は、周囲の通行人が漏らす、かすかに聞こえる吹き出し笑いを後頭部で受け止めながら、少し火照ってきた耳をもみつつ、本気で戸惑った表情の彼女の元へ近づく。

 まったく、彼女も黙ってさえいれば、神秘的な雰囲気を漂わせた、それこそ息を呑むような美人なのに、ノヴァキャット訛り丸出しで大声を張り上げては、まったくもって全て台無しもいいとこだ。彼女ももしかして、先代のように、深く静かにイカレかけてきているのかもしれない。

「これはですね、ほら、ここのペダルを踏んでください・・・ほら、ちゃんと出てくるでしょう?」

 俺は、実際に水の出し方を実演して見せた。彼女は、それを興味深そうに眺めて、ふんふんと納得したようにうなずいていた。

「で?コップはどこにあるんだぎゃ?」

 まだ言うか。

「いえ、出てくる水を、上手く口で受け止めながら飲んでください。蛇口から直飲みする要領ですよ」

「わ、わかっただぎゃ」

 俺の説明に、彼女は若干緊張気味にうなずくと、噴水ノズルの真上に顔を差し出し、意を決したようにペダルを踏み込んだ。

「ブフォ!」

 神様、お願いですから、俺にこれ以上試練を与えないでください。

 目算を誤り、冷水で鼻の穴の中をまともに洗ってしまい、激しくむせ返っている彼女の背中をさすりながら、俺は、笑いをこらえて引きつる腹筋を押さえつける。

「こ、これはとてもじゃねーけど、うちの手には負えんだぎゃ。他のもんはねーのかね?」

「なら、そこの自販機で、何か買って飲みますか?」

「ジハンキ?なんだぎゃ、そりゃ?」

「え、ああ、自動販売機です、すみません。コインを入れて、ドリンクを買える機械ですよ。レクチャーで聞いたでしょう」

「え?ああ、そうだっただぎゃ。それじゃ、それにするだぎゃ」

 彼女は、まだ軽く咳き込みながらも、とことこと自販機の前に近づくと、きょとんとした表情でサンプルを眺めている。

「で、クルツ。こっからどーすりゃえーんだぎゃ?」

 本当に人の話を聞いていたのか、コンチキショウ。

 俺は、目の奥にかすかに鈍痛を感じながら、適当にボタンを押したりしている彼女の横に立つと、財布を開けて、ルシエン行きにあわせて支給された、物品価値換算で為替された、久々にお目にかかる硬貨をつまみ出した。

「いいですか、この金額にあわせて、硬貨を入れるんです・・・と、これで買えますから、好きな飲み物を選んでください」

「ありゃあ・・・こりゃすまねーだぎゃ」

 そういうと、彼女はさして考えもなく、さっさとボタンを押してしまった。

『お買い上げ、まことにありがとうございました。またのご利用をお待ちしております』

 自動販売機の簡易メモリーに録音されたアナウンスが、プログラム通りの対応音を流す。と、これまた彼女、意表を突かれたように、ドリンク缶を片手に自販機の前でぽかんとしている。

「あ、いやいや、こりゃ、ごてーねーに。こっちこそ、どーいたしまして」

 あろうことか、彼女は、自販機に向かって律儀に感謝の言葉を返している。そして、俺は、彼女が押したボタンの上にあるサンプルを見て、次に起こりえるであろう事態を予測し、鈍痛がさらに大きさを増した。

「んっ、んっ、んっ・・・げぇふっ」

 左手を腰に当て、思い切り胸を張りながら、まさに仁王立ちのフォームで炭酸飲料を豪快に一気飲みしたかと思えば、腹の底から、思い切り力強いげっぷを放ち、彼女は不思議そうに、自分が手にしたドリンク缶を眺めている彼女は珍しさ半分、驚き半分といった様子ながらも、はじめてのお買い物にいたくご満悦。といった感じだった。

「なんちゅーか、どえりゃー刺激的だでよ。のーみそがちくちくして、えーヴィジョンが見れそーだぎゃ」

 駄目だ、まだだ、まだ笑うな。こらえるんだ・・・し、しかし・・・!

 ここで笑おうものなら、冗談抜きで命にかかわる事態に直結しかねない。視法師の弟の方はともかくとして、俺はまだ彼女の人となりを把握していない。したがって、戦士様を嘲笑ったとかで、遠慮ない鉄拳が飛んできかねない。そんなのは御免こうむりたい、マジで。

「失礼、ノヴァキャット氏族よりの親善訪問団の御一行とお見受けいたす」

 まだ、前哨戦も済ませていないうちからのこの有様に、俺が必死に笑いをこらえていた時、氏族の戦士階級の堅苦しいしゃべり口に引けをとらない、アイロンをかけすぎたズボンのような折り目正しすぎる声で我に返る。そしてそこには、ドラコ連合武官と思しきふたりの男が立っていた。

 中肉中背ながら、均整の取れた体格は、ピッシリと着込んだ詰襟式の軍服の上からも、引き締まった体格を容易に感じ取らせる。そして、ナイフで切れ目を入れたような、切れ長の鋭い眼光は、東洋系特有の彫りの浅い面持ちも手伝って、彼らが魂として携える、サムライ・ソードを思わせる。

 これは、間違いなくクリタで言うところの、サムライという奴だ。初めて見る訳ではないが、静かにたたえられた水面の下に、鋭利な刃を潜めた雪解け水のような、彼ら特有の雰囲気はいつ見ても慣れることができない。

「我らが御館様の主命により、御迎えに参上つかまつった次第。それがし、トシロウ・ミカサ大尉と申す。以後、お見知りおきを」

「それがし、ライゾウ・イシカワ大尉と申す。以後、お見知りおきを」

 ふたりのサムライ・ウォーリアーは、自己紹介が終わるなり、深々と頭を下げた。その様子に、氏族人において、相手に敵意の無いことを示す、最上級の意思表示である利き腕での握手をしようと、右手を差し出した俺のマスターは、その見たこともない予想外の反応に、出した手のやり場を見失い、声を詰まらせながら戸惑った表情を浮かべていた。

 この瞬間、ある意味完全にイニシアチヴを握られてしまったと言ってもいい光景に、俺はこれからの一週間に、漠然とした不安を感じずに入られなかった。

 さすがに誰も口に出して言うなんて野暮はしないが、ここじゃ一番階級の高いスターキャプテンのあんたが頼りなんだよ。

 頼むよ、本当に。

 俺は、軽量級メックの偵察隊で、重量級メック小隊に挑まざるを得ない状況に陥ったような、そんなまるで勝ち目のない戦いに直面したような、やるせない気分に沈みかけたときだった。

その時、不意に、俺の肩を叩く手が置かれた。

「クルツ、及ばずながら、俺も力になる。出来ることはなんでも言ってくれ。ひとりで悩むことはない」

 彼は、並々ならぬ決意を秘めた、純粋な光をたたえた目でまっすぐ俺を見ていた。そうだ、まだ彼がいたんだ。希望はまだ残ってる。

でもな、別にこれは戦闘じゃないんだ。気持ちは純粋に有り難いが、力が入り過ぎたりして、それが空回りしたりしないことを祈るしかない。

 あれ?でも、俺はいったい何に祈りゃいいんだ?

 トーテム? セント・サンドラ? ・・・それとも、セント・ジェロームにかい?

 

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