「...これで、良かったのでしょうか」
いつもの仕事に戻る途中に、そんな言葉が口を突いて出る。あの方...妹様のお相手をさせるためにお嬢様が買い付けた、死なないお人...
私のような何の力もない、脆い人間では妹様を救うことなんてできない。話した時間は僅かだったけれど、あの方は優しい...もしかすると、本当に妹様を救ってくれるんじゃ、なんて淡い期待...
「あ...雨、ですか...」
ふと、窓の外を見るといつの間にかざぁざぁと音を立てて雨が降り始めていた。...お洗濯物、大丈夫でしょうか、なんて考える
どっ
背中に何かが当たる音。なんでしょ...う、あ...あれ、熱い?熱い、熱い熱い熱い...腹の底から何かが昇ってくる感覚。一気に収縮した肺から吐き出されたのは、くぐもった声と...鉄の味
...血...?私、の...?真っ赤な絨毯を汚す赤黒い液体が、自分の身体を流れている命の根源であると気付くのにそう時間は掛からなかった。身体から何かが引き抜かれる感触と共に、自分の膝が折れ曲がるのを感じた
じわりと広がっていく生暖かい感覚。前へと突っ伏した私は、それよりも低くなっていく身体の温度に、目前に迫ってきた死をより一層強く知覚する
次々に五感が閉じていくような...もう、手も足も...口さえ動かない。考えることも、ままならない...これが、死ぬ、ということ...
最期に見えたのは...辺りを染め上げる私の血の紅、だった
『いったーい!何するのよ、もうっ』
「うるっ...さい!!勝手なことしないで!!」
『...そんなこと言って、気持ち良かったでしょ?ねぇ』
「ッ!...ちが『違わないよ、私のことは私が一番知ってるもの。イイ顔してたよー?』...違う、違う違う違う...違うっ!!」
「...フラン?」
「......違う...』
弾けた音の正体。今まで、フランが右手を握ると私は内側から弾けて死んだ。吸血鬼特有のそういうチカラ、なのか...そして今、握られているのは左手。向く先は...そこにさっきまで有ったであろう右手...出血は未だに止まらず、白い骨が歪に剥き出しになったまま、フランはベッドに力無く座り込んでいる
...違う?確かにそう聞こえた。呼吸は荒く、身体は震え、目の焦点は合っていない...
「...どうし「近付かないでっ!!...やめて...もう、もうイヤ......』...フラン」
拒む声は次第に力を無くしながら...消え入りそうな、何かを怖がるようにさえ見える拒絶の意...歩を進め、優しく肩を抱く
「ッ!...なん、で......私、何回も...なんっ...回も...おにー...さんの、ことっ』
「大丈夫...私は少しばかり、丈夫...だからね」
「...でも、でもっ!』
「あははっ...フランは優しいからね...でも、大丈夫。大丈夫、だから...ね?」
フランが内側に何を飼っていて、今までどんな葛藤の中で生きてきたのか...十年やそこらしか生きてない私には、分からないだろうね...でも、それでも
「今は、我慢しなくたって...良いんだよ...?」
「ッ!...う、うぅっ...えぐっ...おにー、さん...」
君を救えれば、こんな命にも意味が有ったと思えるから...
ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また