「チッ、やっと終わりか...ごふっ」
目の前に広がる物言わぬ亡骸を見下ろし、えらく不機嫌な舌打ちと、血が口から漏れる...抑えた肩は未だに焼けるような鋭い痛みを伴い、だらだらと血を垂れ流す。...糞が、まだ塞がらんか
吸血鬼と言う種族は言わずもがな人外に位置する。身体能力もさることながら、自己治癒能力...傷の治りも人とは比べ者にならない...だが
「銀...まぁ、使うだろうな...」
足下に転がる得物...窓から雲の合間を縫い見える月明かりを鈍く反射させるナイフを蹴飛ばし、半ば納得したような口振りで傷に目を向ける
吸血鬼に対する明確な対策...弱点...そんなことを考えながら、亡骸が散らかる廊下を進む
「ぐっ......少し足りんな」
突如として視界が揺れ、どっ、と壁に身体を預けてしまう。流石に少しばかり流し過ぎたか...辺りを見回す
使用人も殆ど殺られている...この様子だと飼っていた奴らも全滅、か。全く...
「...この際味には目を瞑る、か...」
がちゃり
フランの泣く声以外、一切の雑音の無かった静寂に包まれていた地下室。外からしか開かないその重厚な扉のノブが回る...メイドさん、だろうか
フランの頭を撫で、触れる手を離し後ろへと向き直る
「何か用で、ッ?!...ガッ...は......?」
どっ
そんな音が言葉を遮る。口から漏れるのは紡がれる筈だった文言ではなく、その衝撃で肺から無理矢理吐き出された嗚咽にも似た...そして困惑を孕んだ声だった
口の中からは既に慣れ親しんだ鉄の味...胸部からは、焼き印でも押されているじゃないか、そう感じる程の熱さ。そして、その温度と裏腹に身体中を寒気が襲う
薄汚いローブから見える眼には、明確な殺意...少しして、その人物が私から離れると、胸部からおびただしい量の出血。支えの無くなった身体は、いとも容易く地面に突っ伏す
手元には血濡れの刃が廊下から入ってくる光を受け、鈍く光っている。未だに殺意を帯びた眼は次の獲物...まだ、現状を飲み込めずに只震えているフランの方を見据えていた
『いやぁっ!兄様ッ!!』
「おにー...さん...?」
「...ぁ..」
震える声が、涙ぐむその瞳が、くしゃくしゃになったその金の髪が......重なった
あ...また......?
かしゃん
身体は動いた。ローブの人物を羽交い締めにし、この部屋から出る。この部屋の扉は外からしか開けられない...フランが出てくることは無い
うん、それなら良い
閉じていく扉の合間から、こちらへ手を伸ばそうとするフランの姿が見えた。何故だか、酷くゆっくりに...そう見えた
そして、こんな言葉が聞こえた気がした
死なないで
治った筈の胸が痛む気がした
ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また