外伝マギアレコード RTA ワルプルギス討伐チャート情報提供者ルート   作:最近ハマってしまった人

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カレーが美味しいので初投稿です









第二話 真向かいの空、未だ広く (前)

 

 

 

 

意味もなく夜中に目を覚ます。

気怠げな身体とぼやけた頭を抱えて、その場で上半身を起こして何も考えずに呆けていた。

変な夢を見ていた気がする。真広がどっか遠くに行ってしまうような、とても酷い夢だったのだと思う。

静かな屋敷の中じゃあもう皆寝てしまっているだろうなぁって、隙間から覗く曇り空のように気分が沈む。

 

「……………え……。」

 

あの時真広に離された手を見て、そこにある琥珀色の宝石が嵌った指輪に、あれは夢じゃないと現実を突きつけられたんだ。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「せめて…鴉弓真広の本心を理解して、私をちゃんと認めてくれるような……そんな、そんな支えてくれる存在が…私は欲しい。」

 

 

 


 

 

 

 

 

 

『そう!ココが今日から住む家だよ!広さだけは有り余ってるんだ!』

 

住まわせてもらってた屋敷の中。

真広に手を引かれてやって来た場所は彼女が住んでいる立派な木製のお屋敷だった。

長い年月が経って厳かな雰囲気を醸し出す表の門を彼女は開いて、私の肩を掴みながら中に入れようとする。

困惑して真広の顔を見たけど、彼女は笑顔のまま変わらず「入らないの?」と言うように、キョトンとして首を傾げた。

 

 

 

『………もう誰も居ないの?……そっか……。』

 

ゴミだらけで放置された元実家の空き家。

自分の荷物を取りに来るためだけに久しぶりに帰ってきたけれど、その惨憺たる光景は仮に我が家と言えども嘆かわしいほど。

家には誰も帰って来ていない様子で、少なくとも1ヶ月は住人を見かけていないのだという。

とうとう本格的に夜逃げしたのだろう。どうせ、毎夜街を出歩き家に帰らぬ男と、知らない人を招き入れる女しか居ない家だ。

……ちょっとだけ、清々する。

 

 

 

『新しい事がいっぱい知れたんだ!友達だって出来たんだよ!』

 

あの子が通っていた神浜市立大附属の学校。

いつも自慢げに喋る彼女は本当に楽しそうで、見てるこっちまで明るい気持ちになってくるんだ。

最初の頃は入院しがちな真広に友達が出来るのかなんて心配をしていたけれど、持ち前の明るさとかであっという間に友達が出来たらしい。

やっぱりさ、真広の笑ってる顔が好きだよ。そして2人でお話しする時間が何よりも、私にとってかけがえのない思い出なんだ。

 

 

 

『詩織ちゃんはここに通ってるんだ〜、制服似合ってるね!』

 

私が通っている大東学院の校舎。

真広は西側の人だったから、もし東に来て何かあったら嫌だった。

だからどこの学校か聞かれても、内緒だと言って今まで口に出さなかったのに、ある日の放課後に貴女は校門前まで迎えに来た。

後日、十七夜から彼女は誰なのかを聞かれたんだよね。

真広も私の交友関係に興味があったみたいで紹介したけど、いつかは他の子にも教えてあげたいな。

 

 

 

『オーダーメイド?え、世界に一つ!?すごい!至上!最高!まさに一番の宝物だよ!』

 

プレゼントをお願いした工匠区の工房。

貯めに貯め続けたなけなしの財産を使って、誕生日プレゼントであるオーダーメイドの万年筆を注文した。

真広は手紙を書いたりするのが好きだから、手紙に書かれた文字を鑑定してもらって、彼女の手に馴染むような使い心地の物。

プレゼントを受け取った真広は私の手をがっしりと掴んで上下に振り、そのあと跳ねまわりながら喜んでいた。

人生で初めて誰かにプレゼントを贈ったかもしれないこの日、布団の中で密かに嬉しさで寝れなかったのは内緒の話だ。

 

 

 

『……あれ、詩織ちゃん!?来てたなら一声かけてくれれば…っ゙でづめ゙だい゙!!!』

 

身体の調子が良い時にときどき訪れる屋敷の一角にある弓道場。

学校に迎えに行ってもいつもの屋上に探しに行ってもいない時は、大概ここに真広は居ると思っている。

そのうち飽きてきた真広は射ってペットボトルの蓋を開けたり、矢を矢で貫いたりとか…流石に射程距離に障害物がある的を、目隠しして真ん中に当てた時はビックリしたよ。

集中してる時の真広の横顔を見る時間も私は地味に好きなんだよね。

 

 

 

『……ん?おお!?ははは!今日もお見舞いに来てくれたの?ありがとう!』

 

入院先だった里見メディカルセンター。

勉強も出来て運動も出来て、大抵の事がなんでも簡単に出来ちゃう真広は、その代わりに身体が弱かったりする。

原因はあんまり分かっていないらしい。ただ前に彼女が咳き込んで吐血した時は、心臓が止まってしまうのかと思うほど背筋が凍った。

風邪とかがすぐに重くなってしまうんだって、病衣に身を包んだ真広から聞いたんだ。その時の困ったような笑いが目に焼き付いて離れない。

 

 

 

 

新西区も、大東区も、神浜市にある全部の区を隅々まで回って探し続けて、だけど何処にも真広は居ないんだ。

まだ、まだ探していないところだってあるかもしれない。神浜市だけじゃなくて、市外に行ってしまったのかもしれない。

だって真広が私の前から居なくなってしまうなんて、絶対に有り得ないと信じたくなかったから。だから……!

 

「…ッ有鷺!」

 

不意に一つしかない手首を掴まれて、思わず掴んだ人物を確認するために後ろを振り返る。いつもの落ち着いた表情を崩して、どことなく焦ったような和泉十七夜の姿がそこにあった。

廃墟の屋上、いつのまにか青空を目指して身を乗り出していたみたいだった。

あのさ、知ってる?真広は私の目のような快晴の青が好きなんだって。でも生憎、ここ数日は晴れた空を見た記憶は無いのだけれど。

あれから何日経った?真広は見つかったか?結局何も進捗は無いまま、ただただ日々を浪費していただけじゃないか。

 

「ねえ、十七夜。真広はまだ生きてると思う?」

「すまないが…今はそう信じて待つしかないだろう。」

「…………そ、っか……そうだね。」

 

申し訳なさそうに目を逸らす十七夜を見て、一番悪いのは私なんだという言葉は喉奥につっかえたままだった。

本当に…真広がいないとこんなにも私はちっぽけで、どうしようもないほど情けなかったんだね……。

 

 

 

 

 

 

いつもよりも重く感じる身体を引きずって、とにかく遠くへと歩いていく。

時間帯が夜だったのが幸いしたのか、人と会うことなんて全然なかった。街中から少し離れた場所というのが幸いしたのだろう。

せめてドラックストアとか薬局が近くにあれば良かったんだけどな。この前買った包帯は使い切っちゃったし、また今度買いに行かなきゃいけない。

でも今は少し疲れたからと自分の事を労って、近くのベンチにしばらくの間横になることにした。

 

『え゙…!?詩織ちゃん!?』

 

知っている声に驚いて、目元を覆っていた腕をどかす。

月明かりに照らされてキラキラと輝く銀の髪は、見間違えるはずなんてなく一番の親友のモノだ。

ちょっと待っててと駆け出す真広を止めようとしたけど、痛みで軋む身体は予想以上に疲れていて起き上がる事も出来なかった。

 

少しの間そこでじっとしていると、しばらくして真広がどこかから戻ってきて、怪我した場所の手当てを始めたんだ。

手慣れてるって訳じゃないけど、一生懸命に頑張ってくれている。真広には関係のない事なのに。

 

『どうして真広はここまでしてくれるの……?』

『……詩織ちゃんの事が好きで、大切だから…かな。私の、親友だもん。』

 

照れながらはにかむ真広が眩しすぎて、彼女の顔を直視出来なかった。

私だって大切だよ、真広。行き場のない私を拾ってくれたとか、そういうのも関係なしに貴女に出会えて良かった。

 

 

 

ねぇ、置いていかないで。

真広の背中だけがずっと遠くにあるんだ。

 

 

 

 

お気に入りの屋上に真広を探しに来た時、どこかから頭に響くような声が聞こえたのがキッカケになった。

 

まだ壊れそうにない廃墟の手すりを伝ってこちらに歩いてきたのは、白いタヌキのようなイタチのような奇妙な生き物。

自らをキュゥべえと名乗ったその白タヌキは、魔法少女の契約とやらを私に持ちかけてきたんだ。

何でも願いを叶える契約、胡散臭くないわけがない。

そもそも契約はちゃんと条件を確認しろと、昔から親を反面教師にして学んでいた。いやそれに関しては子供のまま成長できなかったアイツらが全面的に悪い。

 

根掘り葉掘り思いつく限りの全てを質問した私に対し、キュゥべえ改めインキュベーターとかいう異星人?の白タヌキは言う。

やはり美味い話には裏があるとは良く言うもので、コイツは聞かれない限り魔法少女の真実を話すつもりが無かったらしい。

なんだかんだで今まで上手く生き残ってきた経験が活きた瞬間だろう。

もちろん、本当に願いが叶えられるかどうかなんて怪しい所で、それよりも私は早く真広を探したいという心境だった。

珍しい生き物を見たなんてその程度で終わらせて、ここにも真広は居なかったと廃墟の屋上を後にする。

 

 

 

 

だけれど、次の瞬間に私の足は動きを止めていたのだ。

 

 

「君が探している鴉弓真広は生きているよ。というよりも、最初からずっと近くに居るじゃないか。」

「…………は……?」

 

あいも変わらず愛想のない無表情の赤い目が私の事を見つめていた。

この白いヤツは何て言った?真広が生きてる?最初からずっと近くにいた?どこに、いつから、何で真広は私の前に出てきてくれないの。

頭が追いつかないまま、白タヌキに理由を問い詰める。混乱した喉から出てきた声は思っていたよりも小さく、そしてだいぶ弱ったような声だった。

 

「違うかな?君が大事そうに持っている、その宝石がついた指輪。それこそが魔法少女のソウルジェムなんだよ。」

 

弾かれたように手にある指輪を凝視する。居なくなった時に真広が私に置いていったお守りだった。

ソウルジェムは魔法少女の魂そのものだ。砕かれたり穢れきったりしたら、即座に本人は外傷もなく死亡する。

逆に言えば、宝石が壊れたりしないと魔法少女は死なない。

 

たとえ肉体が消滅したとしても。

 

……それじゃあ真広は生きてるの?こんな喋る事もなく、笑う事もない琥珀色の宝石が真広自身だって言うの?

あり得ないだなんて言葉はとっくに意味を成していなかった。

だって彼女の魔法少女姿を、あのおぞましい魔女という化け物も、私はあの時に見てしまっているのだから。

今も魂だけの存在になってまで、彼女は意思が無い状態で生き続けている。私が彼女を縛り続けているんだ。

 

 

 

 

ふとあの夜の事を思い出した。

快晴の空に浮かぶ星々を見ようとして、2人連れ添って抜け出してきた廃墟の屋上。

 

 

 

本当に覚えてもいないほど昔から使ってきたショルダーバッグに、温かいミルクティーの入った水筒と飴とチョコをたくさん持って空を見上げる。

真広は先に階段を駆け上って、手を広げながら楽しそうに笑って、動くたびに二つだけ飛び出た髪の毛が大きく揺れる。

屋上から見下ろせる神浜の街は、まるで月と星々の光を鏡合わせにしたかのように、幻想的で煌びやかな輝きを放っていた。

 

『ねぇ、まひろはさ。どんな事をお願いするの?』

『んーそうだなぁ。しおりちゃんとずっと一緒にいられますように!とかかな。』

 

キョトンとした金の瞳を優しく細めながら、少し気恥ずかしくなったのか顔を背けて手に持ったミルクティーを流し込む。

表情は見れないのに耳だけ真っ赤にした姿がなんだか愛おしくて、思わず笑みがこぼれてしまった事を許してほしい。

 

『一緒にいられるといいね。』

『いられるよ!だって私はしおりちゃんの事が好きだもん!』

『ふふっそうだね、私とまひろだもん。きっと大人になっても一緒にいるよ。』

 

一緒にいればいつだって楽しかったよ。困ってる子達を助ける時だって、家から抜け出して遊んだ時だって。

まさかこんなに突然お別れが来ちゃうだなんて、その時の私も真広もきっと想像した事なかったんだ。

 

真広は私が一体どんな気持ちで、ずっと背中を見てきたと思う?一人で勝手に何処かに行っちゃうところ、本当に少しだけ苦手だよ。

何も言わずに自分の判断基準で消えてしまうのなら、私だって真広を好きに扱ってもいいとは思わない?

 

 

『じゃあ約束しようよ!』

『約束?』

『ずっと一緒にいようって約束!』

 

 

ねぇ真広は覚えているかな?あの時ちゃんと約束したんだよ。

だからこそ今、堂々と胸を張って言う。

はじめて出会ったこの場所で。

 

 

「私はね、鴉弓真広が背負うモノを含めて、その全てを分け合いたい。あの子の事を助けたい、救いたいんだ。

 

 

 

 

 ……契約しよう、私の願いの為に。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▶︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな金庫から取り出されたのは、青いソウルジェムが入った箱と一枚のDVD。

そのDVDの映像に映っていたのは、黒髪青目の有鷺詩織、弓有詩織の元の身体の持ち主である。

今現在マヒロの姿になっている彼女は、少女たちの後方にて映像に補足説明を少しずつ挟んで話を進めていく。

真相を全て明かす気はないようだが、それでも親友を想う気持ちに嘘偽りは無い様子だった。

 

『……まあ、この録画を見てるってことは想定外が起きたんだろうね。』

 

実際に今の状態は有鷺詩織にとって、予想外の出来事の連発という有り様なのに間違いはない。

なんとか本拠地内の翼に変装して、ウワサと融合させるという多少強引な手を使い、弓有詩織を逃したのはあの状況で最善だっただろう。

洗脳されたまま敵対されていたら、と思うとゾッとするところだ。

味方ならあんなにも頼もしいのに、敵になった途端に脅威と化す強さ。普段の彼女の有難さがどれほどのものだったかを改めて思い知る。

 

 

 

敵から持ち出した郵便烏のウワサ。

かつては自分があの黒い紙飛行機に名付け、そして自分達2人の手紙がそう呼ばれ、のちに神浜の空を飛び回った使い魔の話。

まさかウワサとして出てきていたなどとは考えたこともなかった。

いくら詳細を知らないであろうマギウスとしても、宝物の思い出を貶すような所業をするようなら報復していたのは容易に想像できる。

 

だが今回ばかりは彼女達に感謝するしかなかった。

なにせ件のウワサにはうわさの制約に縛られた攻撃的な本能が無かった為である。

手下に手紙を運ばせて結界の中に引きこもり、自分から外に出てこようとはして来ない。

おそらくは活動初期のマギウスが脅威となりうる魔法少女を閉じ込めるためだけに作られたウワサなのだろう。

結界内に入り込めるのは1人だけという致命的な欠点があったが、捕まったら最後外に出るのは簡単ではない。

さしずめアリナの固有魔法のウワサバージョンといったところか。それにウワサの要素を追加したようなものだった。

 

「なるほど、結界の中に入れるのは一人のみ…とならば奪還は難しいかもしれないな。」

「あ?何でそうなんだ?みとを連れてけばいいじゃん。」

 

和泉十七夜の発言を聞いて、思わず深月フェリシアは疑問を投げかける。

確かに話はちゃんと聞いていたのだが、ウワサと融合したのならば鶴乃の時と同じように魔法を使えばいいのではないか?と思っていたからだ。

 

 

十七夜は前に自分が体感した事も含めて、作戦を実行できない理由を話す。

実は弓有詩織には心の中に入るような魔法が効かない。いや正確には、表面上しか読めず強制的に弾かれる。

今までは意識して拒んでいるのか、無意識に封じ込めているのか、甚だ疑問が湧き出るところであった。

 

しかし現在に至ってようやく答えにたどり着く。

 

「……これが有鷺の言う安全策とやらの一つだな?」

 

その言葉に有鷺は首を縦に振る。

もともと有鷺詩織は鴉弓真広と平和な生活を送りたいだけの普通の少女だ。それは最初からズレることのない想いである。

だが彼女の因果の量が少ないのが原因なのか、願いが言葉通りに解釈されて叶えられたのか、文字通り2人の存在全てを分けられてしまった。

 

 

つまりは弓有詩織もこの場にいる彼女も、鴉弓真広であり有鷺詩織なのである。

コーヒーを混ぜた牛乳を二つのコップに分けたところで、結局のところ液体がコーヒーや牛乳に戻れるわけではない。

 

表面に残っていた有鷺詩織が様々な策を講じた結果、鴉弓真広の持っていた記憶を消してこの身体ごと『弓有詩織』という架空の存在を作り出すことにした。

その時に出来たのが弓有詩織のストッパー、有鷺詩織の言う安全策だ。

記憶が戻らないように念入りに分けられた『使役』の固有魔法を使い、身の回りの至るところにある鴉弓真広の記録を抹消した。

 

 

そうして完全に封印することで、弓有詩織が平和に生きていける環境を整えていく。

記憶や心を覗かれたとしても対象者を『使役』で無理矢理気絶させ、弓有詩織の設定を覆らせないために対策を立てた。

和泉十七夜の『読心』や相野みとの『心を繋げる力』が途中で弾かれてしまうのは、この妨害が原因だった。

 

「……本当だったら…有鷺詩織と鴉弓真広の名前を聞いたって、弓有詩織という一個人を保っていたはずだったんだけど……。」

「なんらかの要因でソレが外れてしまったという訳ね。」

 

しかしある時、その計画に小さな綻びが生じた。

やがてそれは亀裂となり、穴となり、ついには封じられた弓有詩織の記憶を決壊させるまでに至る。

そして記憶が混濁したまま錯乱した鴉弓真広の人格と、記憶を保ちながらも手を出せない有鷺詩織の人格に分かれた。

噛み合わなくなった歯車を無理やり動かし続けたがために、二つの魂はややこしく深刻な状態になってしまったのである。

 

 

 

「…すまないが、今日のところは解散にしてもらえないだろうか。」

 

あれこれと話を続けていた彼女達を遮ったのは和泉十七夜だ。

弓有詩織相手に戦力を割いて、肝心の勝負で不利になってしまっては不味いだろうという懸念が彼女にあった。

ましてや今はマギウスとの抗争がまだ終わっていない状況下。

故にマギウスへの対策を考えなければならない現状で、これ以上話し合って時間だけが過ぎ去るのを危惧していた。

 

「大丈夫だよ、私が一方的に真相を話しただけなんだ。……ただ、あの子のことは覚えておいて。」

 

和泉十七夜の言うことはもっともだ。

確かに判断を渋く思う魔法少女はいるだろうが、神浜全体が関わってくる以上、この件に関して目を瞑るしかないと七海やちよはそう感じている。

悩みに悩んだ末にこの場を解散することに決意する。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、1人の少女が俯きながら考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、志伸あきらは言いようのない不安とともに、自らの通う参京院教育学園へと向かっていた。

 

特に夢を見たわけではなかったが、どことなく憂いの表情を浮かべながら自分の席に着く。

色々な事が気にかかって授業にいまいち集中できていなかった彼女は、ふとペンを止めた時に今日感じていた違和感に気がついた。

 

「そういえば、今日は一度もななかの姿を見かけていない」と。

 

育ちの良さからいち早く学校に着くことはあっても、遅刻するなんてことは余程のことがない限り無いだろう。

もしかして体調を崩して寝込んでいるのでは?そう考えたあきらが同学年の生徒達に声を掛けた。

校内でも常盤ななかは有名人であったためにすぐに返事は返ってきたのだが、欠席だとしか聞いていないらしい。

同じ魔法少女である参京院の生徒達に聞いても、今日は姿を見かけておらず、何があったのか知る人はいなかった。

 

 

 

 

放課後になった途端、奇妙な胸騒ぎと直感、頭によぎる一つの可能性を持って校舎を飛び出していく。

行き先は新西区の廃墟に存在する調整屋。

全力で走ってその場所についた時には、ちょうど八雲みたまが開業のために中へ入ろうとする場面だった。

 

「あら、そんなに急いでどうかしたかしら〜?」

「いえ、その!……ななかを朝から見かけていなくて……!」

 

息を整えながら話すあきらの話に、みたまは同じ可能性に思い至って息を呑む。

急いで2人が入った調整屋の中は、昨日集まった時の様子とあまり変わりが無いように感じられる。

調整のためにスペースを区切るカーテンがそよ風に揺れるばかりで、そこに誰かしら人がいる気配はない。

 

ただこの調整屋を営んでいる八雲みたまは疑問に思うことがあった。

いくら廃墟とはいえ彼女は普段からここを管理している店の主人だ。当然昨日も全ての戸締まりを確認してから帰ったはずである。

 

「……風…?」

 

だからこそ、そよ風が吹き込んでいるなんて本来ならば有り得ない事なのだ。

風が吹く方向から考えてみれば、その原因となる場所は奥の部屋にある窓。おそらくはそこが開いているのだろう。

あきらも風の違和感に気が付き、2人はアイコンタクトを取って、意を決して奥の部屋の中へと足を踏み入れた。

 

机の上に何かが乗っている。

空の箱、少しだけ高級そうな便箋、その上に置かれた黒い万年筆。隙間の空いた窓辺に残されたカラスの羽が一枚。

そして何よりも志伸あきらの目を引いたのは、『行って参ります』と一言、達筆な文字で残された書き置き。

 

 

 

それは常盤ななかが弓有詩織の元へ向かったという証拠だった。

 

 

 

 











こたつに吸われたので失踪します






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