誤字報告や評価や感想ありがとうございます。
やっぱ、感想とか貰えるとヤル気でますわ!
少し垂れているがキッとした綺麗な黄緑色の瞳をした少女は、そのアイスグリーンの髪をなびかせながら頭を下ろし、俺にサインを求めてきた。
「えっ、えーと、俺の事知ってる感じ?」
「はい。ずっと、Utopiaの、ユウさんのファンです」
「そっか、ありがとう」
最初こそいきなりで驚いたけど、こういう純粋な気持ちは素直に嬉しい。彼女の持っているギターを受け取り、サインを書こうとするも、ペンが無い事に気づくと、受け付けの女性、まりなさんが気を利かせてペンを貸してくれる。
「ありがとうございます」
「いえ! それにしても、あのUtopiaのギタリストさんだったんですね!」
「えぇ、まぁ。けど、そんな大した者じゃないですよ」
ハハハと笑いながらペンを受け取り、彼女のギターき目を落とす。
「いいギターだな。俺もESP持ってるよ」
「知ってます。私、Utopiaの曲で『宇宙飛行』が1番好きなんですけど、『宇宙飛行』のMVでユウさんがこのギター使ってるのを見て買いました。流石に同じグレードの物とはいきませんでしたが」
それはそうだろう。見た感じ高校生っぽいし、高校生に数十万のギター買うのはキツイよな。
それにしても、『宇宙飛行』ってまだ結成して半年とかの頃の曲だよな。俺が思ってた以上に彼女は相当ファンらしい。
「別に値段がどうこうじゃないさ。確かにグレードが高い方が良い音が出るだろうが、1番いいギターってのは愛着持って使い込まれたギターの事を言うと俺は思ってる。だからコイツは紛れも無くいいギターだよ」
俺はそう言うと、ギターのボディの裏面にサインを書いた。我ながら綺麗に書けた気がする。
「はい」とギターを返すと、彼女は嬉しそうに「ありがとうございます」と返事を返してくれた。
サインを書き終え、スタジオの予約の続きをしようとすると、まりなさんが話しかけてくる。
「紗夜ちゃん、Roseliaのギタリストで、とても上手なんですよ? ほらあのポスター」
紗夜ちゃんとは、恐らく彼女の事なんだろう。まりなさんが指さす方を見ると、そこには確かにRoseliaと書かれたポスターが貼ってあり、そのメンバーの中に、キリッとしたクールな表情の彼女が写っていた。
「あの、失礼を承知でお願いするのですが、よろしければユウさんの演奏を見せて貰えないでしょうか」
「ん? あぁ、いいよ」
「えっ? ホントですか?」
玉砕覚悟でのお願いだったのか、俺の言葉に真面目だった表情の彼女は驚きながらも花が咲く。
まぁ、そんな駄目って事はないし、Roseliaはどうやら中々有名な実力派バンドらしい。俺としても少し興味があった。
「と言う事なので、今日の所は彼女が使ってるスタジオを使わせてもらいます」
「ええ、大丈夫ですよ。良かったね紗夜ちゃん」
俺の言葉にまりなさんはそう言うと笑顔で見送ってくれた。
彼女の後をついて行き、スタジオに入る。
所属している事務所が事務所なだけに、事務所のスタジオには流石に劣るが、状態の良い機材も充分に揃っているし設備も良い。
(個人練するには、丁度いいスタジオだな)
そんな事を考えながら、ギターのチューニングやアンプ、足元の準備を進めていく。
ある程度の準備を終えた所で、彼女の方を見て、改めて自己紹介。
「改めまして、UtopiaでGt.Choを担当してるユウです。よろしく」
「氷川紗夜です。Roseliaのギタリストです。よろしくお願いします」
彼女、改め氷川さんは俺の出した手を握り返してくれる。
「ところで、1つ提案何だが、俺も実力派バンドと呼ばれるRoseliaの、氷川さんのギターを見てみたい。そこでだ、どうせならセッションしてみない?」
「ええ、私としては、ユウさんとセッション出来るなんて光栄です。私で良ければ」
「そう? ありがと。それにしても堅いな。もっと楽に話していいよ?」
「いえ。素がこれですので、あまり気にしないでください」
まぁ、こういうのがデフォと言うか、誰に対しても敬語で話す人も居るし、氷川さんもそう言うタイプなのだろう。本人がそう言うなら別にそれでもいいか。
「それで? なんの曲やろうか。何かのコピーにする?」
「私としては、Utopiaの曲をやりたいです」
ウチのバンド、ギター1本だからこのセッションにおいてあんま適してないんだが……
まぁ、いいか。ギター2本でも出来んことは無いし、こちらから申し出たお願いだしな。
「リードとバッキングどっちやりたい? やるのはウチの曲だし、氷川さんがやりやすい方やっていいよ」
「では、リードでお願いします」
「へぇ……、俺を目の前にしてリードを御所望とは。自分で言うのも何だけど、ウチの楽器隊結構レベル高いよ?」
「それでもです」
俺からどちらをやりたいか聞いたが、まさかリード選ぶとは。リードギターは、バッキングギターより比較的難しい。それも今からやるのはウチの曲。俺が普段弾いているギターを彼女が俺の前で弾くと言うのは、それくらい自分も弾けると言っているようなものだ。氷川さんはリードの方が得意なのかもしれないが、それでも相当肝が座ってる。
「OK。それじゃあ、俺がバッキングとボーカルをやろう。曲はどうする? エミ程綺麗な英語で歌える自信はないが、紛いなりにもイギリスに2年住んでたわけだし、ある程度は歌えるぞ?」
「そこは、ユウさんにお任せします。Utopiaの曲はある程度はコピーしていますので」
「へぇ、それは楽しみだ」
曲はとりあえず、彼女が好きだと言っていた『宇宙飛行』。あとは、ある程度有名な曲を数曲チョイスしておいた。
彼女の言葉が真実なのか強がりなのかは合わせてみればわかるだろう。
ベースとドラムは俺が持っている音源を使い、彼女との初のセッションが始まった。
最後の曲が終わる。汗が頬をつたり、顎からこぼれ落ちる。氷川さんも肩を使いながら呼吸をしている。耳に残るのはお互いの荒い吐息と、先程まで弾いていたギターの音だけ。
エアコンをつけ忘れた部屋は熱気に包まれている。色んな意味でアツイ、セッションだった。
「正直言って、予想の遥斜め上を行く演奏だ……」
この歳でこのレベルの演奏が出来る子を日本中探して何人見つかるのだろうか。
「おっと」
一瞬よろめきかけた彼女を抱く様に支えてあげる。彼女の体温が、吐息が伝わってくる。
「大丈夫?」
「はい。すみません。ありがとうございます」
顔を若干赤らめた氷川さんを椅子に座らせてあげると、呼吸を整えた氷川さんは口を開く。
「ユウさんは凄いですね。このギターをワンマンの時は約2時間弾くなんて。しかも曲によって歌いながら、しかもライブですからパフォーマンスも」
「まぁ、これでもプロなんでね。あと、ワンマンの時は最後の方は死にそうになりながら演奏してる。まぁ、あのアドレナリンが出まくってる瞬間が最高なんだけどな」
俺は苦笑いをしながらそう言い、「それに」と付け加える。
「氷川さんも相当レベル高かったと思うぞ。手首に指の柔らかさ。指の可動域の広さ。運指も正確。これは相当努力しないと出来るもんじゃない」
これは紛れも無く正直な感想。このレベルに達するには半端な練習じゃ無理だ。相当努力を積まなくては普通出来るものじゃない。
まぁ、それは普通であって、この世にはその普通の枠に入らない存在もいる。
そんな存在を、人は天才と呼ぶ。
俺の言葉に、彼女は「そう、ですか」と、何処か歯切れ悪そうに返事する。
(……こういうタイプには言ってやる方が身のためか)
俺は重く閉じていた口を開く。
「でも、それだけだ。確かに、さっきの演奏は完コピとはいかない、少し違う部分もあるがしっかりと俺のギターを弾けてる。別に少し違う部分を間違いとは言わない。動画サイトとかにも、ウチの曲をアレンジを加えてコピーしてる人もいる。
けどな、氷川さんの違う部分はアレンジとは言えない。氷川さんのギターには、圧倒的に自分の音が欠けている」
「っ!」
俺の言葉に氷川さんはピクリと反応する。図星、自覚ありか。
「……やはり、ユウさんにはそう聞こえましたか。
私には双子の妹がいるんです。何でも私の後を追いかけて、私が努力した事をあっという間に追い抜いてしまう妹が。
ギターは、そんな妹がやっていない、私の全てだった。けど、そんなギターも最近始めた妹に直ぐに追いつかれました。もしかしたらもう抜かれているかもしれません。
あの子なんて居なくなれば良いと思いました。あの子にはもっと色々出来る事があるのに、私にはギターしかないのに、なんでギターなの。と思った事もありました。
妹に悪気が無い事は分かっていますし、今は少しずつあの子と向き合えています。
けど、それでも分からないのです。私を表現する、私らしさ、私自身の音が」
氷川さんはぽつりぽつりと話し始め、後半は大分感情的になっていた。
正直、普通の人が氷川さんのギターを聞いても上手いと思うだろう。彼女の言葉を聞いてもそんな事ないと言うだろう。
彼女が今悩んでるのはそう言う、ほんの微小な差だ。けど、その一線を越えられるかどうかが、ギタリストとしてこちらの世界で通用するかどうか、輝けるかどうかに大きく関わる。
「天才って言うのは一括りにされがちだが、実際には2種類存在する。1つは、努力に努力を重ねた結果、多くの人に天才と呼ばれる努力が裏付けされていりタイプの天才。
そしてもう1つが、努力せずともある程度やれば大抵の事は出来てしまう、生まれながらに持った天賦の才能。これが本物の天才ってやつ」
俺は2本の指を立ててそう言う。
「俺や氷川さん、あとはウチのドラムのリョウも、ってか、世間一般的に天才って呼ばれてる大体の奴は基本前者だ。
けど、偶にいるんだ、氷川さんの妹みたいな後者が。ウチのエミ何かも後者だ。氷川さんの妹がどれだけ才能に溢れているのかは分からないけど、音楽の才能において、エミを超える存在は居ないと俺は思ってる」
だから俺には分かる。氷川さんの音が。
その圧倒的なまでの才能と一緒に2年間バンドを続けてきた。俺と彼女は何処か似ているのだ。
故に、彼女には腐ってほしくない。
「俺は氷川さんに興味を持ってしまった。俺は氷川さんの輝く姿が見てみたいと思ってしまった。
君はまだ伸びる。俺ならその道を教えられるかもしれない」
この先は俺の口からは言えないし言わない。彼女の口から言わなきゃ意味の無いものだから。
「……ユウさん。私にギターを教えてくださりませんか?」
「あぁ、喜んで教えよう」
俺は彼女の言葉に笑顔でそう答えるのであった。
後半若干グダリ気味だったかも知んないですね。気おつけます。