「ごめん、遅れた」
「おっ、来た来た」
「
あの後、俺は用事があった為、氷川さんとは連絡先を交換して、CiRCLEで解散し急いでこちらに向かったのだが少し間に合わなかった。
待ち合わせ場所だったレストランに着くと、2人は席に着いており、エミがプリプリと怒っていた。可愛い。
レストランは貸切り。この場の高級な雰囲気に合う、プラチナブロンドの髪を揺らす彼女の名前はエミリー・エドワーズ。歳は俺とリョウの1つ下の19歳。俺がイギリスで出会った本物の天才。
俺らは基本渾名で呼びあっている。エミリーでエミ、実渕涼真でリョウ、そんで俺が野田優真でユウ。
まぁ、そんな事はどうでも良いんだ。今日はUtopia日本上陸のお祝い。俺とリョウは2週間前に日本に帰って来て居たのだが、エミは別件で個人のお仕事が入っていたので、こちらに来たのは昨日だから、3人揃ってのお祝いは今日が初めてである。
運ばれて来た3人分のお酒を各々持つ。
「それじゃあリーダー、お願いしますよ」
リョウがそう言うと、リョウとエミは自身のグラスを中央に差し出す。
「それじゃあ、Utopia日本上陸を祝しまして、これからの活動に乾杯!」
俺の言葉と共に、3人のグラスがチンと音を鳴らす。
イギリスでは18歳からお酒が飲めるし、エミも結構飲み慣れている。とは言え、日本では20歳からだし飲むなとは言わないけど、飲む場所は注意させないとな。
「それにしても、エミは日本語で話すのに慣れないとな」
「
「
「リョウ、ユウがいじめてくるわ!」
エミは好奇心が意外と強く、俺達に英語を教えてくれる交換条件として、日本語を教わっていた為、日本語をある程度は聴き取れるし、日常会話くらいならできる。
「まぁまぁ、エミ。大丈夫! 少しずつ慣れてくって。俺も向こうに居た時はそうだったし!
あと、ユウもあんまり、エミの事をからかってやるなよ」
リョウは何処か抜けている所があるが、意外と纏め上手だ。高校時代から思っていたが、何故こいつがリーダーじゃなくて俺がリーダーやってるのか不思議である。
「それで? 何でユウは遅れてきたんだ? 何時も時間より早く来るのに珍しいじゃん」
「ん? あぁ、今日あった子にギター教えてた。おっ、これ美味い」
俺はリョウの言葉に、運ばれて来た食事を食べながら答える。
余談だが、俺は基本ジャンクフード系が好きだ。けど、今回は日本に初めて来たエミの強い要望のもと、ここに来ているが、やはり日本食は美味いと最確認。
「むっ、なんだその顔は」
「いや、ちょと突飛的すぎて理解が……」
「言葉道理の意味だ。今日個人練出来そうな丁度いいスタジオがないか探してたらその子に会って、その子もギターやってたからセッションしただけ」
「しただけって……」
リョウは呆れながら諦め半分にこちらを見てくる。まぁ長い付き合いだ。お互い何となくの事は理解しあえる。
「あら、もうユウは日本の女の子に手を出しているのね」
「俺、女なんて一言も言ってなくね? まぁ、当たってるけどさ。
それに、そう言う関係じゃないから」
「
「んー、師弟関係?」
「何で疑問系なんだよ」
リョウが再び呆れ顔をすると、次の瞬間「えっ?」と驚いた顔をする。忙しい奴だな。
「お前弟子とったの!?」
「うーん。お互いそう言うふうに言ってないから分かんないけど、多分関係性としてはそれが正しいと思う」
氷川さんがどう思ってるか知らんけど多分そうだろ。違かったら恥ずかしいけどな。
「まさか、弟子とはね……。そう言えば、ユウが弟子とるのって2回目じゃないか?」
「あら、ユウには以前にも弟子がいたのね。私、そんな事聞いて無いんだけど?」
「ん? アイツは弟子なんかじゃねーよ。昔よく、俺の後ろちょこちょこ着いて来てただけだ」
リョウが言ってるのは多分、俺らがまだ高校生の時、岐阜にいた頃の話をしてるんだろう。
確かに、ギター始めたばっかだったアイツと色々話した事はあったが、別に俺がアイツに教える事なんて何も無かった。アイツも、エミと同じ後者の人間だったのだから。
まぁ、だからと言って別に無碍にしていたわけじゃない。ただ、俺はアイツの事を弟子と思ってないだけ。
「それで? その子もギタリストなのよね? 腕前の方はどうなの?」
「実力は相当だよ。今日のセッションの動画あるけどみる?」
「Of course!」
スマホをだし、テーブルの真ん中に置くと、エミとリョウが覗き込む様にスマホを見る。
そして、再生ボタンを押すと、今日のセッションの映像が流れ俺と氷川さんのギターの音が流れ込んでくる。
動画が終わり、少しの沈黙。
それを破るようにリョウがそう呟く。
「これは凄いな」
「ええ。もしかしたら、ユウ御役御免?」
「え? 何それ酷くない? 俺、一応リーダーなんですけど」
「ふふっ、冗談よ」
エミは小悪魔の様な笑みでそう言う。まぁ、エミも冗談で言ったのだろうが、氷川さんの実力には一目置いているようだ。
「この子は氷川さん。Roseliaって言うガールズバンドのギタリストだよ。正直高校生とは思えない技量だ」
「日本では今、ガールズバンドが人気急上昇らしいわね。マネージャーさんが言ってたわ」
「あぁ、Roseliaなら何となく納得かも。Roseliaって言えばメジャーの声もかかるくらいの実力派バンドだしな」
リョウは結構なバンドオタクだし、インディーズバンド何かも色々知ってるから分かるけど、他バンドにあまり興味が無い、エミすら日本のバンド事情を知っていたとは。何か敗北的なんだけど。
それにしても、高校生にして、もうメジャーの声がかかってるのか。まぁ、あれだけ技術高い氷川さんが溶け込めているバンドだ。まぁ、必然と言えば必然か。
バンドは、1人が突出していても意味が無い。1人が突出してしまっていては、そのバンドが奏でる音は不協和音になりかねない。
高校の時に、俺達が解散したのもこれが原因の1つだしな。
(今度、氷川さんにRoseliaのギターも聞かせて貰うかな)
そんな事を考えていると、リョウがこちらを見てくる。
「何だよ、そんな俺の顔見て?」
「いや、何でお前がこの子を弟子にしようと思ったのか何となく分かってさ」
あぁ、そうか。こいつも俺と同じ側の人間だから分かってしまったのだろう。俺らにしか分からない音が。
「? 演奏が上手いから?」
エミが可愛らしくコテンと首を傾げながら聞いてくる。
「うーん。内緒」
「ムッ、私だけ除け者なんて酷いわよ!」
「エミはそのままで大丈夫。エミにも、彼女が変わった時、その理由が分かると思うから」
そう言いながらエミの頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細める。猫みたいだな。
「なら、ちゃんとこの子に教えてあげるのよ? そうしたら許してあげる」
「分かってるよ」
実力の差が開き、解散してしまった俺達のバンド。エミリー・エドワーズはそこから逃げ込んだ先で俺達が出会った、初めて見る圧倒的な才能の持ち主だった。
だけど、俺とリョウの元を去っていったアイツみたいに、才能ですましてしまうのは嫌だろ?
まだ、音楽と全く無縁で、まだ高校生だったお前をバンドに誘い、ここまで来た。もしかしたら、エミにはもっと違う人生があったのかもしれない。だけど、俺はお前の音を聞いた時、どうしようもなく思ってしまったのだ。この3人で音楽がしたいと。
だから、俺はお前と肩を並べて歩いていく為に、努力する。才能で終わらせてしまわないように。
だから、エミはそのまま俺達の道を照らしていてくれ。もし、お前が光る事が出来なくなったら、その時は俺達がお前の事を支えるから。
彼女はUtopiaと言う夜空に浮かぶ三角形に属する一等星だ。