退廃的TS百合   作:三白めめ

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これで、すべてお終い。


「「そこにあったんだ」」

 2079年4月30日。夜の空気はしんと凪いでいて、冬の静謐さが強調される。車や電車、飛行機に高速スロープも何も通っていない大通りの車道の真ん中で、二人の少女が歩いていた。

 

「例えばさ、もし私たちが死ななかったら。こうしてずっと二人きりね」

 

 手をつないで歩いている二人のうちの一人、黒髪の少女が言葉をこぼす。

 あたりを見回すと街中を出歩いている人はめっきり減っていて、電灯の点いている家も既に少なくなっていた。いや、既にもう、外には二人しかいなかった。正確には、この日本にいるのは、二人だけだ。

 ──TSウィルスの身体保存限界。寿命とも呼べるそれは、多くの人間を蝕み始めたのだ。TSした体は寿命を迎えると、塵になって宙に霧散する。若返った体も、同じ末路だ。痛みはないと思う。悲鳴もなく、そこにいたのが夢だったように、体だけがサラサラと消えていく。

 街を見渡せば、折り重なって落ちている服がいくつも目につく。口づけをしたり、抱き合ったり、そうして愛しい人と最期を迎えたのだろう。

 

「もらった夢の始まりの、最期なんだと思う」

 

 ぽつりと、銀色の髪を肩まで伸ばした少女がつぶやく。空を見上げると、星がとても鮮明に見えた。立ち並ぶビルの明かりもすべて消えていて、周囲を照らす光はどこにも存在しない。

 

「こうして世界が終わると決まって、涼香が誰にも害されないような世界になって、愛する人と最期を一緒にできる今までの時間は、本当に幸せな夢だった」

 

 そういうと、彼女は手をつないでいた少女に微笑む。それは見かけ相応の幼い笑顔ではなく、それこそ十数年を一緒に過ごしていた夫婦に向けるものだった。

 

「俺のせいで世界が滅んだけど、案外それでも構わなかったんだ」

 

「あのときの答え?イジワルなことを言ったと思ってるわ」

 

 銀髪の少女の言葉に、涼香と呼ばれていた少女は少しだけ口を尖らせる。彼女たちの足音しか聞こえない静寂に、二人分の笑い声が加わった。

 

「涼香、あとどれくらいだっけ」

 

「夜明けまでね。それで、この国には誰もいなくなる」

 

 そうして二人で一つの方向に進んでいく。最期を迎える場所は、相談せずともお互いに同じ所を思い描いていた。

 

「そういえば、年号、変わるんだっけ」

 

「そうね。誰も残っていなくても、何かを遺したいから、だったかしら」

 

 平成から令和に年号が変わった同日に、令和から次の時代へと変わる。迎えた新しい時代には誰もいなくても、何かを遺すため。みんなが幸せな結末を迎えたことを証明するために。

 

 

 そうして何気ない話をしながら歩いて、二人の少女はとある場所で立ち止まった。

なんてことはない、噴水やイチョウの木があるどこかの道だった。マンションが近くに建っていたり、地面にうっすらと小の文字が描かれていることから、小学校の通学路だったのだろうと推測できる。

 

「もう、大人になったわね」

 

「体は、あのときと同じくらいの年齢だけどな」

 

 大人になったら結婚しよう。そんなことを子供ながらに誓い合った、この国がなくなるきっかけとも言える始まりの場所。

 今度は、誓いの言葉じゃなくて、エンドロールの言葉を。後日談もなく、大団円もない、それでも幸福な、白ずんでいく夢に終わりの言葉を告げる。

 山の向こうから朝日が昇ってきた。イチョウの木が立ち並ぶ道にも光が差し込んで、二人の姿が照らされる。口を開いたのは、どちらからだっただろうか。

 

 

「病めるときも、健やかなるときも」

 

「私たちの人生は」

 

「二人分の幸せが」

 

「「そこにあったんだ」」




そこには、愛だけがあった。
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