あの眠りの崩壊現象事件から数日後、カタクリはビブリア学園の校庭にて半袖長ズボンの体操服にいつものファーを巻いた姿で歩いていた。
今日は体育の授業であるためにカタクリも他の生徒同様、外に出ていたのだ。
現在はすべての運動項目を終えたので休憩も兼ねて歩いている最中であった。
「ん?」
ふと騒がしい雰囲気を感じとり視線を向けると、ミラとアキオ、アラタ、アリン、そして先日崩壊現象から救出したユイがいたので、特にやることのなかったカタクリはそちらへと足を運んだ。
「なにを騒いでいる?」
「あっ!!カタクリお兄ちゃーん♪」
ミラたちのそばに近寄り声をかけるといち早くカタクリの声に反応したユイがアラタから離れてカタクリの腰に抱きついた。
「……ふっ」
「ふにゃぁー♥️」
小動物のようにじゃれついてくるユイにカタクリが頭をポンポンと軽く撫でてやるとさらに甘えてきた。
「……カタクリ」
そんな一部始終を見たミラは底冷えするような声を出してカタクリの名前を呟いた。
「どうしたミラ……何を怒ってるんだ?」
「…別に……怒ってません」
とは言いつつ、今のミラは誰がどうみても不機嫌そうな雰囲気を出していた。
「まあまあ大将、そんなカタクリにくっつくユイが羨ましいからって…」
「羨ましくなんかありません!!」
「にゃははー、ミラちゃん嫉妬してるー♪」
「してません!!」
ニヤニヤした表情でアキオとユイにそう言われたミラは、顔を真っ赤にして必死に否定していた。
「落ち着け……ミラ」
「あっ…」
必死すぎてやや興奮気味になっているミラに、カタクリはユイをくっつけたまま器用に歩いて近づき頭を撫でた。
その途端にミラはおとなしくなりカタクリに撫でられ続けていた。
「なんかミラの様子……いつもと違うな」
「だってミラはカタクリのことが…」
「それ以上は言わないでくださいアリンさん!!」
「……難しいのね」
いつもと違うミラのことをなんとなく聞こうとアリンに質問するが、会話がミラに丸聞こえだったので当然のように遮られてしまった。
「えっ、ミラってカタクリのことが…」
「……アキオ……この不浄なゴミを消し飛ばしてください」
「わーっ!?ちょっと待て!?タンマタンマ!!」
余計なことを言おうとするアラタを黙らせようとアキオに指示を出すミラをアラタは慌てて止めさせた。
「あれ?皆さん集まって何をしてるんですか?」
そこへ運動項目を終えたリリスがセリナとレヴィの二人と一緒にカタクリたちのそばへ寄ってきた。
「聞いてくれリリス!!コイツら崩壊現象でもねーのに消し飛ばそうとするんだぜ!?」
「あっはっは!!」
リリスに慌てて説明するアラタを見ておかしかったのかアキオが声をあげて笑った。
「災難だったな!!ハーレム大魔王!!」
「よう……デカいネーちゃん、名前は……」
「アキオでいいよ、魔王候補のスケコマシ野郎」
「じゃあオレもアラタでいいぞ……」
互いに自己紹介をしたあと、気が合ったのかアラタとアキオはしばらく会話を続けていた。
そして、ミラはやっとの思いでカタクリにくっついていたユイを引きはがすことに成功していた。
「なんてことでしょうか…魔道士の頂点であるトリニティセブンの面々が一堂に集結…」
ここに6人のトリニティセブンが揃っている場面を見ていたセリナは興奮した様子でカメラを構えていた。
「…こ、これは……トリニティセブンによるアラタさんもしくはカタクリさん争奪戦がっ!?」
「なにっ!?オレ争奪戦だとぅ!?」
「ふんっ…くだらねぇ」
高々と熱弁するセリナの言葉に、アラタは食いつくがカタクリは興味なさそうに一蹴した。
「そんなの始まりませんっ、もういったい何を言ってるんだか━━━」
リリスもそんなものは起こらないだろうと思いそう言うが
「…なるほど、ここで決着をつけるのもいいッスね…」
「え゛っ!!」
「そうだな!!この前は途中で邪魔が入っちまったからなっ!!それにカタクリもいたから今度は一対一でやろうぜ!!」
「ちょ…えっ…」
レヴィとアキオは以前の眠りの崩壊現象の時の戦いが不完全燃焼だったからかやる気を出していた。
「〝
「〝
そして、二人はテーマの実行を行いメイガスモードへと変身した。
「…
「え゛っ!?あっ…アリンさん!?」
「〝
争奪戦と聞いてアラタ大好きのアリンも黙ってられなかったのか急遽参戦しはじめ
「お前らいい加減にしろ」
「カタクリさんまでっ!?」
さらには、この騒動を止めるべくカタクリも腕に覇気を纏わせて出陣した。
「アキオ!!カタクリ!!遊んでる場合では━━」
「みなさん!?勝手に魔術をこんなところで━━」
ミラとリリスが止めようとするが止まりそうな雰囲気ではなかった。
「ふふっ、すごいですっ!!」
レヴィ、アキオ、アリンのメイガスモードを見たセリナはさらに興奮した様子でカメラを向けていた。
「レヴィさんの
そう言って、セリナは一心不乱にカタクリたち四人の姿を撮影しまくっていた。
「ふふっ…お兄さんとカタクリお兄ちゃん争奪戦と聞いたら黙ってられないねっ♪」
そしてここにも争奪戦と聞いてやる気を出した者がもう一人
「〝
ユイがそう言って、指揮棒のような杖を手にして軽く振るうと周囲に音符が記された五線譜が現れユイの身体に巻きつくと服装がメイガスモードへと変身した。
「出ました!!学園でも誰も見たことがなかったユイさんのメイガスモード!!しかもユイさんの〝
「『
さらに興奮したセリナがカメラを構える暇もなく、ユイが指揮棒を振るとまばゆい光が発生した。
その光に周囲にいたメンバー全員は抵抗する間もなくその光に呑まれてしまった。
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「……ここは…」
「何処だ?」
光に呑まれたカタクリが目を開けると、そこはピンク基調の空間にぬいぐるみが散乱しているといったファンシーな雰囲気の部屋だった。
そして、隣には同じく光に呑まれたアラタの姿もあった。
「いらっしゃい♪アラタお兄さんにカタクリお兄ちゃん♥️ようこそユイの世界へ」
後ろから声をかけられ二人が振り返ると、身長が伸び成長した姿のユイがぬいぐるみを抱いて座っていた。
「おーっ、でかい方のユイだ」
「そっ、夢の中のユイだよ♪こっちの方が好き?」
「ん?いや本体のロリ巨乳もいいと思うぞ?」
「あははー、お兄さんは本当にストレートだなぁ」
当然のようにアラタが変態発言をするが大人ユイは何も気にせず笑って受け止めていた。
「カタクリお兄ちゃんはどっちのユイが好きなのかな?」
「どちらでも構わん、どちらもお前なんだ」
「もう相変わらずカタクリお兄ちゃんはつれないんだからっ!!」
カタクリの発言にしっかりと答えてほしかった大人ユイはプンプンといわんばかりに拗ねてしまった。
そんな中アラタはあることに気がついた。
「そういえば他の連中は?」
「ああ、ちょっと別の夢を見てもらってるの……ほらっ」
先程まで一緒にいたメンバーの事を聞いて、ユイにいわれるまま周囲をみるとリリスとアリンは並んで眠っており、レヴィはなんと天井に張りついたまま眠っていた。
「まったくどういうつもりですか!!」
「ん?…あ、あれ?お前」
突然の声にアラタが視線を向けると、爆睡するアキオを膝枕しているミラの姿がそこにあった。
「どうして寝てねーんだ?」
「直前で私の〝
「ミラはほとんどの術を反射することが出来るんだ」
「へぇー」
ミラとカタクリの説明にアラタは感心した様子で頷いていた。
「ともあれユイさん、不浄すぎる貴方を許すつもりはありませんからっ……それでは」
「あっ、待ってよミラちゃん」
「……なんですか?」
夢の世界から去ろうとするミラをユイが引き止めた。
「せっかく夢の世界に来たんだからカタクリお兄ちゃんとゆっくりしていってもいいよ?別室も用意しちゃうから♪」
「……むぅ…」
ユイの誘惑的提案を聞いたミラは思いとどまってしまった。
「カタクリお兄ちゃんもゆっくりしてっていいんだよ?お兄ちゃんのだーい好きなドーナツもあるんだよ?」
「そうか……ならばもうしばらくいるか」
対するカタクリはあっさり誘惑に落ちていた。
「はぁ……しょうがないですね」
「よーし、けってーい♪…えいっ」
そう言って、ユイが人差し指を振るうとカタクリとミラ、爆睡したままのアキオは別室へと転移された。
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別室へと転移されたカタクリはファーを脱ぎ部屋に置かれていた特大サイズのドーナツを胡座をかいて座り頬張っており、その隣でミラはいまだに爆睡しているアキオを膝枕した姿でいた。
「カタクリ」
「……なんだ?」
ミラに呼ばれカタクリは口にふくんでいたドーナツを飲み込んでから応えた。
「何故ユイさんの提案に乗ったんですか?普段のあなたならあのような提案には乗らないはずなのに……」
「……ミラ…お前最近ちゃんと休んでいるか?」
「えっ?」
突然の質問にミラは首を傾げた。
「
「っ!?…そんなことはっ」
「嘘だな」
「!!……見聞色ですか」
図星を突かれたのかミラが慌てて否定するがカタクリの見聞色の覇気の前では嘘を見抜かれてしまった。
「まだ……引きずってるのか、お前と同じ〝
「…〝
「…………」
カタクリに促されミラはポツリポツリと語り始め、カタクリはそれを黙って聞いていた。
「…彼女は研究の結果……つまり〝
「…………」
「彼女の魔力を……反転させたら、あんな……黒い魔物に…転じて………私の…せいで……」
「……ミラ」
語るうちにミラの瞳に涙が浮かびだした時、カタクリはそっとミラの頭に手を置くと軽く抱き寄せゆっくりと優しく頭を撫でた。
「お前のせいじゃねぇ…」
「ぐっ……うっ…」
カタクリにそう言われ、ミラは声を押し殺しながらも静かに涙を流していた。
「落ち着いたか?」
「はい…ありがとうございます」
しばらく涙を流し続けて落ち着いたミラは身体を軽くカタクリに預けるような体勢でいた。
「最近……友達がいなくなったり暴走する生徒が増えてきて……少しだけ…参ってるのかもしれません」
「……たまには
「……ん…」
カタクリにそう言われ、ミラはいつもの凛とした雰囲気ではなくただの一人の女の子として返事をした。
「…ぷっ…くくっ」
「っ!?」
「あっはっはっ、大将のそんな表情初めて見たぜ?」
その時、膝枕されていたアキオが突然起き上がった。
「ア、アキオ!?あなたいったいいつから……?」
「んー、大将がカタクリになんでユイの提案に乗ったのかって聞いてた所からな」
「ほとんどはじめからじゃないですか!?」
「いやー、ホントはもっと早く起きようかと思ったんだけど大将とカタクリがいい雰囲気だったから起きられなくなってたもんでな」
「なぁっ!?」
「あんなしおらしい雰囲気の大将は見たことなかったぜ?」
「~~~っ!!アキオー!!」
アキオのその言葉にミラは一気に顔を真っ赤にして怒った。
「まあでも、カタクリの言うことには賛成だぜ?」
「えっ?」
「たまには大将としてではなく、単に私の後輩のミラに戻ってもいいんだぞ?」
「……ありがとうございますアキオ、カタクリ」
そう言われたあと、ミラはアキオとカタクリに改めてお礼を言った。
「さーてとっ!!ならこの夢の世界から抜けていつも通りの学園生活に戻ろうぜ?」
「はいっ!!」
「……ふっ」
そうして三人はミラの魔術によって夢の世界から現実世界へと戻っていったのであった。