魔王候補となったリーゼとの戦闘から数時間後
グラウンドにて体操服に着替えたアラタの目の前には、同じく体操服に着替えたミラとアキオ、そしていつもの服装をしたカタクリが佇んでいた。
そして、ミラがここに集まった理由を話し始めた。
「認めたくはありませんがリーゼさんに対抗するには、あなたの力が必要です」
「…そうなんだ……んで、何をすればいいんだ?」
アラタは目の前に立つ三人に威圧されながらも何をするのか聞いてみた。
「やっぱ魔道士特訓って言うからには塔に登ったり、ダンジョンにもぐったり……ってなことは、この格好じゃなさそうだな…」
「ええ…そんな時間はありませんので、てっとり早くあなたの潜在能力を引き出すことにしました」
時間がないからと言ってミラはこれから行う魔道士特訓について説明を始めた。
「おそらくあなたには他者の魔術を複製する能力があるハズです…リリス先生の銃の時のように」
「ああ…あるっぽいな、他の奴のはプロセスがどうこうで出来ないっぽいが……」
「ですから、あなたにはこれからアキオとカタクリの二人と戦っていただき━━」
「私の魔術である〝
ミラの説明に続くように、アキオも説明しながら自身の右手の甲に梵字の術式を宿らしていた。
「なるほど…バトル用の魔術をかっ払って、特殊能力も習得することでバトル漫画になるわけだな」
「そういうことだっ!!そうすりゃ私もガチでバトルが出来るし、覇気の修行にもなるしなーっ」
そう言って、アキオは拳を手のひらにパシンッと打ち付けながら笑顔で恐ろしいことを言っていた。
「待て待て!!まだプロセスってのが分かってねーんだぞ!!それに覇気なんてどうやって習得するんだよ!!」
「それを見つけるのが貴方の仕事です……プロセスの解明ともしくは覇気の習得方法…それらを短時間で見つけないと━━━死にます」
ミラの言葉に合わせるかのように、いつの間にかアラタのそばに来ていたカタクリの覇気を纏った踵落としが叩き込まれた。
だがアラタは間一髪でかわしていたのか直撃はしなかったものの、カタクリの踵落としを受けた地面には軽くクレーターが出来ていた。
「いやいや!!物騒すぎるだろっ!?」
「なんとかしねーと死ぬぜ?ははは!!」
「ぎゃぁーっ!!!!」
覇気を纏った踵落としの威力に冷や汗を流すアラタだったが、そんな暇を与えないようにすかさずアキオの蹴りも飛んできて悲鳴をあげながらまた回避した。
「次はこっちだ」
「いやぁーっ!!!!」
「まだまだ行くぞー!!」
「やめてぇーっ!!!!」
そして、アキオとカタクリが交互に攻撃を行いアラタは情けない悲鳴をあげながらも間一髪でかわしていくが辺りには絶えず土煙が舞い続けていた。
そんな逃走劇がしばらく続き、アキオは一旦攻撃の手を止めた。
「逃げてばかりじゃ終わらねーぞ?」
「無茶言うなアホか!?だいたいお前一人だけでもキツイのにカタクリまで来るなんて聞いてねーよ!!」
少し呆れた様子で言うアキオに、アラタは目ん玉が飛び出しそうな勢いで現在の状況に対してツッコんだ。
「泣き言をいう暇があるなら……」
「へ?」
そんなアラタの上から言葉と共に影が差して声の聞こえた方に視線を向けると、カタクリが武装色の覇気を纏った拳を振りかざしている姿があった。
「さっさとやることをやれ!!」
「おわぁあ!?」
カタクリが拳を振り下ろすが、アラタは無意識にその場から飛びのき直撃は回避していた。
しかし、カタクリの拳が地面に当たった衝撃でアラタの体は空高く吹っ飛ばされてしまう。
「…っ!?……しまった…ミラ!!」
そして吹っ飛ばされたアラタの先にミラが立っておりカタクリが大声で呼ぶが
「えっ?」
リーゼがいつ来ても気付けるようにと手元の水晶玉に視線を落としていたミラがカタクリの声に反応して上を向くが、時すでに遅くミラはそのまま吹っ飛んできたアラタにぶつかってしまった。
「すまないミラ…大丈夫━━」
「いつつ……ん?…むっ!!」
カタクリがミラを心配して歩き寄ってきたが目の前の光景に絶句して、そして吹っ飛ばされミラとぶつかってしまったアラタが立ち上がろうと手をついた瞬間手に柔らかい感触を感じた。
「こ…この決して大きいわけではないが━━だからといって小さすぎるほどでもない素晴らしい手の平サイズは……」
感触の感想を呟きながらアラタが下に視線を向けると仰向けに倒れたミラを押し倒した体勢で柔らかい感触を感じる手元は、どうすればそうなるのかミラの体操服が大きくめくれてさらけ出された胸を揉んでいた。
「ええーっと…」
「…ん?……えっ…」
アラタが突然の出来事に顔を青ざめさせていると、運悪くミラが目を覚まして胸に置かれた手を見た瞬間顔を赤らめた。
その時
「ぶべらっ!?」
先程ありえない体勢になった二人を見て絶句していたカタクリが一瞬で間を詰めて近付き、アラタの頭を蹴り飛ばした。
そして、即座にミラを立ち上がらせるとアラタから守るように自身の後ろに退かせた。
「まっ、待った!!落ち着いて聞いてくれ!!」
「………なんだ…」
目を怒りで赤く光らせたカタクリが迫り来る中、アラタが待ったをかけた。
「きっとオレは数秒後、絶望的に血まみれになっているハズだ……だから今の内にミラに言っておく!!」
「……………」
「大変気持ち良かったです…ありがとう……そしてごめんなさい」
「……死ね」
アラタの感謝と謝罪の言葉を聞いたカタクリが右足を180度開脚するように真上に振り上げると、膝から先が白くなり無数の足に枝分かれさせた。
そして、枝分かれしたすべての足を覇気で黒く染め上げると
「“柳モチ”」
「あぎゃあぁぁぁっ!?!?」
無慈悲に足は振り下ろされ、アラタに無数の足による連続踵落とし&踏みつけの嵐が数分に渡って降り注いだ。
「…はっ!!」
「よう…起きたかエロスケ」
沈んでいた意識が覚醒してアラタは勢いよく体を起こしたところに、そばにいたアキオが声をかけてきた。
「あ…あぁ…オレはいったい………血?」
アキオと会話しつつもアラタが視線を手元に向けると血だらけの手の平と地面があった。
「なにも覚えてないのか?」
「…カタクリに吹き飛ばされた後の記憶がまるでない………でもなんだろう……とても柔らかくて気持ちいいものがあったような…」
「そのまま忘れてなさい」
「ひぃぃっ!?」
先程の出来事を思い出すために手に残る感触を頼りに記憶を遡ろうとした時、いつの間にかそばにいたミラに殺気を込めた視線を向けられアラタは恐怖して後ずさるがなにかにぶつかり止まってしまった。
アラタが振り返って見るとカタクリが立っており
「思い出したら殺す」
「はっ…はひっ!?」
ミラ以上に殺気の込められた目と真っ赤に血濡れた右足を見たアラタは舌足らずな返事を返すことしか出来なかった。
「しかしやるじゃないかお前、手加減してるとはいえカタクリの攻撃を避けるなんて」
「手加減してあの威力かよ……」
「私も魔力が充分に回復してないからまだまだ本調子じゃないしな」
「冗談だろ」
タオルで血を拭いながらアラタは、今までの攻撃は手加減されていたと聞かされ呆れながらも全力の攻撃がいったいどれほどのものかを想像して身震いさせていた。
「次は避けないで下さい、訓練になりません」
「いやいや!?あんなの避けなかったら死ぬわ!!」
「それはそれで……」
「それでじゃなーい!!」
ミラの言葉にアラタがツッコミを入れていると
「でも魔力で身体強化するか、覇気を使えなきゃリーゼにゃ勝てねーぞ?」
「うー…やっぱそうなのか……」
今の修行の必要性をアキオに言われてアラタは困ったように項垂れた。
「…あんな動き、オレには無理だぞ…」
「お前さんがレヴィやカタクリみたいになるなんて誰も期待していないさ……だけど魔道の戦いってのは、なにもガチバトルだけじゃない……お前さんのスッポンポン魔術もあの銃作製も私らでは使えないお前さんだけの魔道だ」
「…特にあなたのは特殊なようですからね」
「……オレだけの━━魔道…」
アキオとミラの言葉を聞いて、アラタは魔道書を巻き付けた右手を空にかざして自分の魔道について考えた。
「よし続きやるか…とりあえず死線に立たせてさっさと覚醒を
「あぁ、死線を越えて覇気に目覚めることがたまにあるからな……殺すつもりでやった方が効率がいい」
「そうですね……最悪殺してしまっても構いません」
「構えよ!!!!」
恐ろしいことを話すミラとカタクリにアラタがツッコんだが、ミラは無視して話を続けた。
「リーゼさんの魔力が安定するまで、もうほとんど時間がありません……」
「んー……いつも閃きとノリで乗り切ってきたからな…」
「今回もそれで頑張れってことさ!!わかりやすいだろ?…それができなきゃ死ぬだけさ」
「…うむ!!シンプルでわかりやすいか!!」
ミラとアキオにそう言われて調子を取り戻してきたのかアラタはいつも通りの自信満々な表情をしていた。
「その男の魔力の流れを私が解析します……ですからアキオとカタクリは痛めつけて苦しめて死ぬくらいまでやっちゃってください」
「ぐっ…」
ミラの言葉を聞いてアラタは一瞬動揺するが
「…よーしいいぜ……こうなったらガンガンいったる!!」
覚悟を決めたアラタは拳を手の平にパシッ打ち付けて、こちらへ襲いかかってくるアキオとカタクリに向かって突撃したのであった。
数十分後
「…ふがっ…ふごっ…」
「あ~…やり過ぎたか?」
「これは少し……いやかなり…予想以上に痛めつけましたね」
「……ん?」
覚悟を決めてアキオとカタクリに向かっていったアラタだったが、ものの見事にボコボコにされて服はズタボロになり、顔面は見る影もない程に腫れ上がったまま倒れていた。
ミラとアキオがそんなアラタを見ている中、カタクリは何かを感じとったのか校舎に視線を向けていた。
「どうやらリーゼの奴が攻めてきたようだな」
「マジか!?」
リーゼが攻めてきたと聞いてアラタは体を起こして驚いていた。
ちなみに何故か知らないが顔面の腫れはすでに引いていた。
「じゃあ早く━━━」
「そうですね…覇気の習得は諦めて、早くアキオの術を使えるようにしないといけないですね」
「えぇー!?」
「アキオ!!」
「さっさとしねーと手遅れになるぜ!!魔王候補!!」
「ぐはっ!?」
アラタがリーゼを止めに行こうと言う前にミラにそう言われ、アラタは驚くがミラはそんな暇も与えないようにアキオに指示を飛ばし、アキオはアラタを急かすようなセリフを言いながら蹴り飛ばした。
「かはっ……なら早くお前さんの魔術をパクれ…ってことか」
「そういうことだ」
「〈うん?魔道をパクりたかったのかよ?〉」
「よう起きたのか魔道書」
そんなアラタとアキオの話を聞いていたのか、アラタの魔道書が会話に混ざってきた。
「〈どうでもいいが、そこのネーちゃんの
「「「っ!?」」」
「ほう…」
そして、魔道書がアキオの
「そんなっ…いつの間に!?」
「〈でも今回は魔道書を武器に変換する魔術じゃないからな…仕方ない━━━使い方を見せてやる〉」
そう言った瞬間、アラタの魔道書が光を放ちはじめた。
「〈
おそらく魔道書内の術式を発動しているのか呪文のようなものを呟く程、魔道書の形が人の形へと変化していき
「…ふう……この姿になるのは
「…お…お前……」
「
やがて魔道書はゴシック系の服を纏い、腰まで届く銀髪のロングヘアに大きなリボンを付けた少女の姿になっていた。
「そんなことより
自己紹介もそこそこにしてソラがプロセスの工程を呟きながら最後に右手に力を込めると、アキオと同じ梵字のルーンが手の甲に刻まれていた。
「こうやって体のどこかに宿す技ってことだな」
「おー、なるほどっ!!」
「その際、その魔術に〝意味〟を込める必要があるぜ」
「意味?」
魔術に意味を込めると言われてもピンと来ないのかアラタはアキオの方へ振り向いた。
「なんか楽勝で私の魔術をパクられるとビミョーな気持ちになるな……」
「ははは!!私は最強の魔道書だからなそんくらい出来て当然なのさ」
「まいっか……〝意味〟ってのは私の魔術では一番重要なもんでな━━こいつにどんな気持ちを込めるかぶつけるか…それが一番ダイレクトに出るし、込めた〝意味〟が弱ければ自分にもデカいダメージを受ける……私のはそういうもんさ」
「…気持ちを……か」
そう言いながら、アキオはアラタの右手の甲に拳を軽くぶつけながら
「それでミラ…こいつに託すんでいいんだよな?」
「…不浄すぎる魔力で正直胸焼けがしますが、〝
「たしかに今のあのネーちゃんに対抗するんなら、この魔術がベターだろうな」
ミラとソラがそんな会話をしている横でアラタは頭に?を浮かべていた。
「ちなみに使う時の私の
そしてアキオはそう言いながら梵字を宿した右拳をコツンッとアラタの額に軽く当てた瞬間、アラタの頭の中にとあるイメージが流れ込んできた。
枯れ果てた荒野にある教会であったであろう建物の残骸
その建物の中央で膝をついて祈り続ける修道服に身を包んだ小さな黒髪の少女
そんな少女を見守るように少し後ろにある柱の残骸に腰掛けているあずき色の髪の少年
そこまで見るとイメージは消え、アラタの意識は現実に戻ってきた。
「……なっ…なんだ……今のは…」
今のイメージがなんなのか分からず狼狽えるアラタだったが、不意に目の前にいたアキオの体が糸の切れた人形のように倒れそうになったがカタクリが駆け寄りアキオの体を受け止めた。
「おっ…おい!?どうしたんだ!?」
「アキオの魔力を無事に喰らったようですね」
突然のことに驚くアラタだが、後ろからミラが冷静に今起きたことを説明していた。
「喰らった…?だ、大丈夫なのか…そのネーちゃんは?」
「全魔力ってわけじゃないからちょっと休めば回復するだろうさ、それよりほれマスターの右手」
ソラに言われてアラタが右手を見ると、右手の甲にアキオと同じ梵字のルーンが刻まれていた。
「…ダチの魔力を奪う…ってのは好きじゃないんだが託されたなら上手くやんねーとな」
「……アラタ」
「…カタクリ?」
「リーゼを……頼む」
「っ!!……あぁ!!行くぜ
「あぁ…魔力に喰われるなよマスター!!」
「〝
「カタクリ……どうしてあんな不浄な男にリーゼさんを頼むなんて言ったんですか?」
不服そうな表情でミラがそう言うが、どうやらアラタにリーゼのことを頼んだことが気に入らない様子のようだ。
「…さぁな」
「さぁなって…もしかして未来を……」
「未来は見ちゃいねぇ、ただアキオの〝
そんなカタクリの言葉を聞いて、ミラはそれ以上はなにも言わなかった。
そしてしばらくして、大きな魔力の波動とともにリーゼの魔力がこの世界から消えたのをカタクリは感じ取った。
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「……そうですか…お姉ちゃんはもう……」
リーゼの魔力が消えたことを感知したカタクリ達は、リーゼとの戦闘があった保健室に来てここであった事について聞いていた。
話をまとめるとリーゼとアラタの戦いは、ほぼ互角の勝負で拮抗状態であったがリーゼのテーマである
その後アラタの思い仲間達の思いを語り、リーゼを改心させることは出来たが
そして、リーゼの手によりアラタだけは時間停止の世界から元の世界へと戻されたらしい。
「アイツめ……自分とこの始祖と同じことしやがって……」
「……すまん」
話を聞いてアキオは、呆れつつも悲しさを感じさせる様子で呟く姿を見てアラタは申し訳なく思い頭を下げた。
「いいってアイツの魔王因子は全部喰い尽くしてくれたんだろ?」
「あぁそれは間違いない今は私が預かってるぜ、魔道士が手に持つとまた暴走するだろうからな」
そうですか言いながら、ソラはペンダントのように繋がれた魔王因子の黒い結晶を見せた。
「コホンッ」
その時、突然ミラがわざとらしく咳払いをして周囲の視線をこちらへ向けさせた。
「魔道書……ソラさんでしたか?その不浄な男はどれくらい〝
「あん?あー………もう一声…ってとこだなっ」
「やはりですか」
ソラの答えにミラがなにか納得しているのに対して聞いていたセリナとアラタは首を傾げていたが、カタクリとアキオ、リリス、レヴィの四人はミラの言おうとしていることに察しがついていた。
「それでは
「……つまり湿っぽい空気なんか出してねぇで━━」
「とっとと修行してこっちからリーゼさんの場所に追いつけってことッスね」
「それならアラタが連れ出すことも出来るかもしれないわけですね」
ミラの言葉に続くようにカタクリ、レヴィ、リリスがそれぞれの意見を口々に語った。
「わおっ!!ミラちゃん優しいね~」
「ツンデレね」
「ちっ…違います!!!!私には早く彼女を罰する必要があるだけですっ!!私のテーマ〝
ユイとアリンに茶化され、照れているのか顔を真っ赤にしたミラはアキオとカタクリを引き連れて保健室から出ていってしまった。
「私が……お姉ちゃんに追いつく…」
「……そうだな…たしか超高速の世界とやらで停滞してるんだっけか?だったらそのカメラでアイツを〝束縛〟してやれよセリナ……その時はもちろん俺も手伝うからな!!」
「はいっ…!!お願いしますアラタさん!!」
先程のミラ達の言葉を聞いてセリナは呆然としていたが、アラタの言葉を受けて覚悟を決めたのかセリナはやる気に満ちた表情で答えた。
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「まったくユイさんとアリンさんは……」
「まあまあ大将」
「…………っ!?」
保健室から出ていったミラがブツブツと言っているそばでアキオが宥めている様子をカタクリは見守っていたが、〝なにか〟を感じ取りカタクリは窓の外に視線を向けた。
「どうしました?カタクリ」
「なんだ?」
深刻な表情で窓の外をみるカタクリに気付いたミラとアキオがどうしたかと聞くが、カタクリは窓の外を見たまま呟いた。
「………人の声が……命が…消えた」
カタクリの見つめていた先にあった〝西の学園〟はその時をもって完全消滅していた。