魔の森を抜けロモス城下に着いた時は夜はすっかり更けていた。
「やれやれ・・・早いとこ宿屋に入らないと、もう一日野宿になるな・・・」
「え!?
ポップ、お城に行かないの??」
「バ~カ!
こんな夜更けに城に入れるかよ。」
「え~~!?」
パプニカ王国への道がやっと開けるチャンスを目の前にしてのお預けに、お子様勇者は可愛らしくとムクれて見せる。
「そんな慌てなくても、城も王様も消えないっつーの!
・・・今日はゆっくり寝て、明日出直せばいいさ。」
「・・・うん!」
優しく諭されて頭をなでてもらえば、それだけでご機嫌のダイを見てを、側でマァムが微笑ましそうに見ている。
「ポップ・・・『お母さん』みたいよ。」
「せめて『お父さん』にしてくれ・・・」
自分でも『それっぽく』感じてきて、なんだか複雑なポップだった。
***
「え?魔王軍と戦ってる・・・!?」
いかにも人の良さそうな宿屋の主人は、ポップ達からそう聞き驚きの表情を見せた。
だがその驚きは目の前の子どもたちが『勇者一行』だからだけではなかった。
「そりゃあまた奇遇ですな・・・
実はもう一組勇者様達がお泊りになっておられるんですよ・・・今この宿に・・・!」
「ホント!?」
思いもよらぬ主人のサプライズ発言に、ダイの顔にみるみる『喜』の感情が満面に広がる。
元々『勇者』に憧れていたお子様勇者は、宿屋の主人に教えられた部屋に一直線に駆けていく。
「あ!ダメよダイ。明日にしなさい!」
「子供はしょうがねえな~・・・」
ポップとマァムが息の合った夫婦みたいに諌めるも、「ちょっと挨拶するだけだから」とダイも取り合わない。
「勇者様!勇者様~~!!」
ドアの前まで来ると『本物の』勇者に会える期待に、ダイは少し強めにノックを繰り返す。
しばらくすると男の声がドアの向こうから帰ってきた。
「・・・帰れ帰れ!
俺達は昼間、モンスターどもとの死闘を繰り広げておるからとっても眠いのだ!」
そっけないとはこの事。
あまりのツレなさにお子様勇者の頬がムクれた。
「・・・ちょっとくらい会ってくれてもいいじゃないですか~・・・」
「ダメだ!
サインだったら明日してやるから・・・!!」
いかにも『面倒くさい』という雰囲気を隠しもしない勇者に、ダイが諦めようとしたとき、奥から別の人物たちの声が聞こえてきた。
「何よお?何の声??」
「妙なガキがうるせえんだよ!!」
ヤケに艶めかしい女の声や、それに答える仲間達の声に奇妙な感覚がおこる。
(・・・どっかで聞いた声だなあ??)
「勇者様!ねえ勇者様~~!!」
嫌な予感と、相手にしてもらえない不機嫌さとで、先程までとは明らかに違う調子でドアを叩き続けると――
「だあああ!!うるさい!!」
堪りかねて飛び出してきたのは二十代半ばくらいの『これが勇者です!』と自己主張しているかのような男だった。
((アレ?この顔・・・?)
………
「「あああああ~~!!!」」
デジャブを感じて数瞬見つめ合ってしまったが、ほぼ同時に誰なのか思いだし大声を上げる。
「偽勇者っ!」
「か・・・か、怪物小僧っ!!」
突然の大声に、それまで部屋の奥でポーカーをしていた他の仲間たちも、勇者――デロリンと全く同じ反応で騒ぎ出す。
「お前ら!まだこの町にいたのか!!」
「ひええええ~~!!」
「どうしたんだ?ダイ!?」
優しいダイが背に差してあるパプニカのナイフを抜くものだから、ポップは珍しく慌てて止めにかかる。
・・・もっともそのくらいでダイは険しさを引っ込めず事情を訴える。
「こいつら、勇者様の名をかたるニセモノなんだ!!」
「へ~~・・・」
個人的な知り合いのようだが、正体が分かればポップは一瞬で興味を失う。
・・・島育ちのダイは知らないようだが、世の中には『自称勇者』はゴマンといる。
別に資格や許可が必要な職業ではないのだから、駆け出しから胡散臭いものまで、アバンとの旅の間だけでも結構見て来たものだ。
目の前の小悪党も、そうしたものの一人だろう。
「ま、待てよ!俺達は悪事から足を洗ったんだ・・・!!」
「そうよ!
今ではちゃあんと罪を清算して、真の勇者を目指すべくガンバッてるんだから!」
こんな小物を相手にしても疲れるだけなので、ダイを宥めて部屋に向かおうかと思っていると、今にも飛び掛かりそうな様子に怯えたのか、『勇者たち』が口々に身の潔白を勝手に訴えてきた。
「具体的には何してんだ・・・?」
「・・・え~と~?」
呆れ半分で聞いてやると、『自分より弱いモンスターを倒す』『魔王軍にやられた城の宝箱を開ける』『適当な武術や魔法を城の兵士に教える』などなど、情けなくなるほどの小さな進歩が返ってきた。
何故か誇らしげだ。
「それじゃあ昔やってた事とほとんど変わらないじゃないか・・・」
「いいんじゃね~の?
小っちゃくても、程ほどに人様の役に立ってんなら。」
「そんなものかしらね?」
マァムもダイも疑問の声を上げるが、胡散臭いという理由だけで役所に突き出すこともないだろう。
「ホラ・・・二人とも行くぞ。」
いい加減疲れた。
はやい所暖かい寝床に着きたいと踵を返したその肩を、『ガシッ!』っとゴツイ手が引き留める。
見ればゴリラ顔の戦士のヘロヘロが満面の笑みでこちらを見下ろしていた。
「まあまあ、ポーカーでもやっていかんかね!!」
いかにも『魔法使いです!』と全身で訴えているような爺さん――マゾッホが、部屋の奥に転がっていたテーブルをガタガタと中央に戻している。
他のメンツもこちらに敵意が無いと判断したのか、急にフレンドリーだ。
「まあ、そういうわけだから・・・
過去のいきさつはサラリと水に流そうじゃないか・・・!」
「・・・・・・」
馴れ馴れしくダイの肩など叩く図々しさに、ダイもマァムも変な顔になるが、元来ノリのいいポップはこの手の連中は嫌いではない。
「・・・俺にポーカーだなんて、博打にしても相手が悪すぎるぜ!」
「おおボウズ!話が分かる!!」
「ちょっ!・・・ポップ!?」
勧められるままに椅子に腰かけるポップに、ダイ達は面食らうが、肝心のポップは「い~じゃないか」とやる気満々でカードを配っていく。
――1時間後…
「よっしゃ、フルハウスであがり♪」
「ま、待っとくれ!そいつは先日見つけたばかりの、貴重な水晶玉何じゃあぁ~~!」
こうして深夜のポーカー祭りは、ポップの恐ろしいまでの強運の前に、デロリン一味が身ぐるみ剥がされるまで続いたのである。
***
翌日早朝――
ロモスの町が一望できる小高い丘の上で、獣王は一人覚悟を決めていた。
(今から俺は鬼とならねばならん・・・!
武人としての誇りも・・・意地も全て勝利あってのもの・・・!!)
迷いが無いわけではないが、それも先日の敗走が脳裏にかすめた時、強引に胸中に押し込んだ。
「たとえどんな手を使っても――奴等を討つ!!」
固くコブシを握りしめ、クロコダインは澄み渡る空に大きく吠える。
ウオオオォォォオオンッ!!
雄たけびはロモス一帯に響き、聞きつけたモンスター達が続々と森から姿を現し町へと駆けて行く。
獣形・植物系・昆虫系・・・まさに百獣魔団のオールスターが本能のままに目を血走らせる中、獣王の背後から一匹のガルーダが迫る。
「クワアアァアッ!!」
他のモンスターとは明らかに一線を画す巨鳥は、その巨大な鉤爪でクロコダインの肩を掴むと、まさかの持ち上げ飛び上がった。
そうして巨体を抱えているとは思えないほどの速度で街に差し掛かった頃、獣王は再び高く吠えた。
「出て来い!アバンの使徒ども!!
――さもなくば・・・ロモス王国は今日で壊滅だ!!」
栄光に固執した戦士のなれの果てが、誇りと尊厳を投げ捨てた瞬間だった。
***
ウオオォォオオ・・・!!
「な、何なの!?」
「この声は・・・!?」
尋常でない気配に、ダイは飛び起き勢いよく窓を開け放つ。
――眼前に広がるのは・・・モンスターの軍団が町中を我が物顔で暴れまくる光景。
「クロコダインの百獣魔団だ!!」
「まいったな・・・規模からみても総攻撃をかけてきやがった・・・!!」
ポップが状況の悪さに舌打ちをする。
城攻めなら王を助ければ済むが、今回は町中に被害が及んでいる。
呆然と町を見下ろしているダイ達の背後で今後の行動を考えていると、背後からデロリン一味が部屋にノックもなしに乗り込んできた。
「おっおいっ!何なんだありゃあ!?」
よほど慌てていたのだろう・・・僧侶のズルポンなど色っぽいナイティのままだ。
「魔王軍の百獣魔団だよ!」
「ひゃ・・・百獣魔団!?」
「今までこんな大群で怪物が出てきたことなんて無いよう・・・!!」
もう魔王軍と聞いただけで『自称勇者ご一行』は震え上がる。
「情けね~な」と呆れていると、何かに気付いたマァムがダイの腕を引っ張り、窓の影へと隠れるよう無言で訴える。
上空に注意すると、無数の鳥系モンスターに混じり空を翔るクロコダインを確認する。
「グワオオオ!!
行け行けえっ!!ロモス城を殲滅するのだ!!」
まさしく鬼気迫るといった風情で号令をかける獣王の目が間違いなく復讐に狂う様子に、クールなポップも背筋に冷たいものが走る。
もちろんニセ勇者達は全員白旗状態だ。
「な・・・何だよ、あのものスゲエのは・・・?」
「・・・お城に向かってるわ!」
クロコダインの意図を感じ取ったダイは自分の武器を手に取り駆け出した。
「あ!ダイ・・・待って!
待ちなさい!!」
マァムの静止を振り切り城へと向かっただろうダイに「しょ~がね~な・・・」とため息をつくと、ポップは傍らにあるマァムの装備を手に取り手渡す。
「マァム!悪ぃけど、先にダイを追って助けてやってくれ!!
・・・俺が駆け付けるまで持ちこたえてて欲しいんだ・・・!」
「・・・ポップはどうするの??」
言外に責めるようなニュアンスがこもった返答を気にすることなく、こんな状況にはひどく不似合いな『いたずらっ子』な笑みを浮かべる。
「俺は町のモンスターどもを先に何とかして来るよ。
――こいつらと一緒にな!」
「「えええええっ!!?」」
急なご指名にデロリン達だけでなく、マァムも驚きに声を上げる。
何の冗談をと誰もが思ったが、ポップはいたって真剣だ。
「勝負自体は城にいる親玉を倒せば終わりだ。
・・・だけどそれじゃあ他のモンスターまで手が回らない。
被害を最小限に食い止めるためにも、いったん二手に分かれるべきだ!!」
元来ロモスは平和な国であり、魔法も兵士もさほど強くは無い。
今日まではクロコダインが直接赴くことも少なく、また『遊んで』いたような状況の為に、何とか踏ん張って来れたが、総攻撃が非戦闘員にまで及ぶ状況では城は守れても町までは助けられないかもしれない。
だからポップは先に町中のモンスターから対処すると言っているのだ。
「・・・ムチャはしないで!絶対に駆けつけるのよ!!」
「任せとけ!!」
ポップの提案を受け入れたマァムは急いで支度を済ませると、武器を手にダイを追いかけ城へと向かって行った。
「さあて!
ちゃっちゃと済ませてダイを追いかける・・・か!!」
ドンッ!
「ひええええっ!!」
ポップが軽く手をひらめかせドアを破壊したのはイオ(爆烈呪文)だったが、そこから逃げようとしたデロリン達を足止めするには十分な威力だった。
完全に戦意喪失してへたり込んでるニセ勇者に近づくと、一見無害な笑顔でデロリン達に宣言する。
「あのさ・・・昨日のポーカーの負け分、『身体』で返してくんない?」
十五の少年がするには、壮絶すぎる艶やかな笑顔だった。
できるだけ原作通りにしたくても、キャラが勝手に動くことがあるのよ
ポップを強化することで、他を強くしたり弱くしたりとバランス調整難しい