デロリン達とて、仮にも『勇者』を名乗っているのだから戦えないわけではない。
しかし大人しいモノや、レベルの低いモンスターばかりを相手にしてきたため、今回のように玉石混合のモンスター軍団に立ち向かえと言うのはいささか酷だ。
「別にホントにモンスターを全部討伐しろとは言わね~よ。
あんた等に頼みたいのは――・・・」
誰が盗み聞いている訳でもないのに、そっと小声で『計画』を4人に耳打ちする。
しばらくフンフンと相槌を打っていたデロリン達の表情が、内容を理解するにつれ、驚愕と恐怖に引きっつっていった。
「そ・・・そんな事、上手くいくはずないじゃろ!!?」
4人の中で、最も魔法の扱いに長けたマゾッホが「ムリだ!」と声を荒げる。
実際ポップの提案は無謀もいいところ――非常識な話だがポップは取り合わない。
「大丈夫だって。
俺の先生だって、この位の事はモンスター退治の片手間でやってのけたぜ?
何もあんた等に全部倒せって言ってる訳じゃないだろ・・・
ほんのチョット村の外れまで『逃げて』くれればいいんだよ。」
「そんなこと言ってもよ・・・」
それでもデロリン達はゴニョゴニョとごもりだす。
完全に引き腰になっている四人にため息を付きそうになるも、ポップの『計画』は彼らの協力なしに成立しない。
――やってやれない事もないが、時間がかかりすぎる。
(しょうがねえ・・・チョイ脅すか・・・)
今頃ダイ達は城に辿り着いてる頃だろう・・・
戦いに怯える者をムリヤリ戦地に送るなど気も引けるが、今は呑気に人選をしている余裕もない。
彼らにやってもらうしかないのだ。
ダンッ・・・!!
「ぐうぇっ!!?」
ポップはデロリンの胸倉をつかむと、そのまま手近な壁に押さえ付けた。
「ちょっ・・・何すんだい!?」
「うるせえっ!!」
「・・・・・・!!?」
慌てて止めに入るも、迫力負けして一瞬で引き下がる、他一同。
怯えて固まる三人に一瞥をくれながら、意識して低い声を出す。
「あんた等昨日言ったよな?
『真の勇者目指してる』って・・・!
今こそその成果を出すときだろ!!」
けして大きな声ではない・・・だが腹の底か絞り出すかのような言葉は、臆病者の心に痛いほどに響く。
「あんた等も勇者名乗ってるなら、今戦わなくて何時戦うんだ!?
修行で得た力は、人の為に使うモンなんだよ!!」
そうして静まり返る部屋に外から悲鳴が――助けを求める声が聞こえる。
今自分達には、これらを助ける力があるのかもしれない・・・
そう思うと走り出したかったが、『あと少し』勇気が足りない。
ポップの喝に、自分たちの不甲斐なさに、最初に口を開いたのはマゾッホだった。
「・・・わしも・・・若い頃は正義の魔法使いになりたくて修行しとったんじゃよ・・・
だけどアカンかった・・・
自分より強い怪物に出会うと、どうしても踏ん張れなくてのぉ・・・
仲間を見捨てて逃げるなんてザラじゃった・・・」
ぼそぼそと情けない過去を語るも、次第にその瞳には微かな勇気の光が灯る。
「そんなわしでも・・・この状況で少しでも役立てるのかの・・・?」
まだ少し言い訳めいているが、マゾッホの言葉は協力の方向に強く向きだす。
最年長の彼が前向きになる事で、残る三人もソワソワと視線を交わし始める。
「ホントに、逃げるだけでいいのよね?」
「そそそそ・・・そのくらいなら、いいい、いくらでも手伝ってやるぞ・・・!!?」
なんだかんだで、彼らはこの国で活動を続けてきたのだ。
知り合いも多く、世話になった国を助けたい気持ちはもちろんある。
頭の中の作戦のピースが完成し、ポップは満足げに頷く。
見つめるデロリン達の不安を払うかのように、ポップは自信たっぷりに、艶然と唇の端を上げただけの人の悪そうな笑顔を浮かべる。
「ほんのチョット力を出せば、あんた等それで英雄だ・・・
こんなボロイ役はねえぞ・・・?」
***
ダイは駆ける。
小高い丘の上に立つロモス城を、静止する兵すらもロクに見当たらないほど混乱した城内を、ただひたすら駆ける――
時折襲われている兵士や文官を助けながら、教えてもらった部屋に向け一直線に向かって行く。
かつて自分を勇敢な少年と認め、未来の勇者にと『覇者の冠』を与えてくれた優しい王様・・・
その王様が今、危機に瀕している。
例え未熟でも、勇者ならばここで逃げるわけにはいかない。
――間に合え!間に合え!!
それだけを願い、ダイは一際大きな扉を叩き開けた。
バアァ――ンッ・・・!!
「やめろっ!!俺が相手だっ!!!」
中の状況は最悪だった。
すでにクロコダインは小柄なロモス王を捕え、後はその首をはねるのみという状態。
護衛の兵士たちも獣王の一撃を受けたのか、全て地に伏していた。
「来たな、ダイ!待ちかねたぞっ!!」
やっと現れた主役に喜色を浮かべるも、獣王は油断することなくシナナ王を掴んで離さない。
(くそっ!何とか王様を引き離さないと・・・!!)
まずはロモス王を助けない事には身動きが取れない。
「どうした・・・かかって来いっ!!
さもないと・・・こいつが死ぬぞ!!」
「ぐうっ・・・!」
攻めあぐねるダイに、獣王はその言葉が本気である事を証明するかのように、小柄な王の首を締め上げる。
途端に苦しげに呻く王の様子に、ダイは決意を固める。
「よおしっ!いっくぞー!!」
これ以上は非力な老人の命にかかわる。
密着した両者を引き離すために、ダイは飛び掛かる。
「だああっ!!」
「むう!?」
ナイフを構えて飛び掛かるダイに、迎撃のためクロコダインも斧を構える。
だが想像とは違い、ナイフはすぐに鞘に戻すと、ダイは空いた両の手に力を込める。
「メ・・・ラ・・・!!」
「バカなっ!?呪文をっ・・・!?」
一抱えはある炎の塊を、そのままクロコダインの足元めがけて撃ち落とす。
「たああああっ!!」
ドオオォォンッ!!
所詮は『メラ(初級火炎呪文)』ゆえ、威力は大したことはないが、武器攻撃しか出来ぬと完全に油断していた獣王にこの不意打ちは効いた。
「ウッ!?」
一瞬――ほんの一瞬だった。
爆炎に気を取られたわずかな隙に、ダイはシナナ王を奪い返し、その小柄な背に隠す。
たった数瞬の出来事だったが、クロコダインの背に冷たいモノが走った。
――強くなる・・・!!
数日前に会った時には呪文など使えなかった筈の少年が、今は当然のように『メラ』を使いこなしている。
このまま成長していけば間違いなく魔王軍の脅威となる!!
“今ここで”倒してしまわねば――クロコダインが腰元にある「奥の手」を使うか逡巡していると、まるでその考えを後押しするかのように・・・
「ダイーー!!」
「マァム!」
援軍が駆け付ける。
ポップの姿は見当たらないが、彼もじきに駆けつけるだろう。
(本意ではなかったが・・・やむをえまい・・・!!)
全ては魔王軍の為――まだ少しだけ残る武人としての誇りに言い訳をしながら、数日前ザボエラから受け取った奥の手を掲げる。
「!?」
その場にいた全員が獣王の挙動に注目する中、クロコダインは手にした箱を握りつぶす。
その中から現れた物に反応したのは、意外にもダイだった。
「あれは・・・魔法の筒だ!!」
「魔法の筒・・・!?」
「あれは生き物を封じ込めておける筒だよ・・・
呪文で簡単に出し入れできるんだ!!」
「先生の作った魔法の弾丸みたいなもの?」
マァムの的確な指摘にダイが頷く。
「おそらく中身はアイツの助っ人だ・・・!!」
一体どんなモンスターが入っているのか?
皆が固唾を飲んで見守る中、クロコダインは筒の中身を開放する。
「出でよ!デルパッ!!」
解放の呪文に呼応し、魔法の筒から煙が巻き上がる。
しばらくすると、その煙が晴れていき、一つの懐かしい姿を結ぶ。
現れたのは一体の鬼面道士。
やっかいなモンスターには違いないが、獣王の助っ人としてはずい分拍子抜けの相手だ。
それでもダイにはその鬼面道士が誰なのか分かった。
分からないはずがない――大事な『家族』なのだから・・・
「じ・・・じいちゃんっ!?」
突如現れた懐かしい思いに、ダイはヨロヨロと『ブラスじいちゃん』に近づいていく。
だがブラスの元まであと一歩というところで気付いてしまった。
――ブラスがこちらを見つめる瞳に理性の輝きが無い事に・・・
「グウウウウッ・・・!!」
『ここ』はデルムリン島――アバンが張ってくれたマホカトールの『外』なのだ。
そこから一歩でも出て魔王の影響下に置かれたならば、ブラスは魔王軍の先兵と化してしまう。
「さあ行け!鬼面道士ブラスよ!!」
「・・・そ!!そんな・・・!!!」
非情にもクロコダインの命令に従い、ブラスはダイたちを倒すべく進み出る。
「おのれ!化け物めっ!!」
「待って!
あれは・・・アレは俺のじいちゃんなんだ!!」
「ええっ!?」
新たな『敵』の出現に武器を構えた兵士たちを、ダイは慌てて押し止めようとする。
「・・・島に流れ着いた俺を拾って育ててくれたんだ!!
だから・・・待ってよぉっ!!」
まだ幼い少年の必死の訴えを誰が無視出来よう。
今にも泣き出しそうなダイを前に、兵士たちは皆一斉に戦うべきか迷い出す。
しかし、肝心のブラスの方は待ってはくれなかった。
スウ・・・!
向かってくるでもない、だが油断なく自分に投げられる視線を気にするでもなく、ブラスは掲げてた杖に魔力を込めた・・・
戦闘シーンはポップが絡まないかぎり、基本原作に忠実に進行どす。
ポップはもうしばらく町で活躍してもらいます。
というかポップだけ変な伏線張りまくって、どうやって回収しよう(テキトー)