PARALLEL QUEST   作:8mn

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気高き者・7

死角から姿を現した大猿系のモンスターが、目の合ったマゾッホに狙いを定め、巨大な腕を振るった。

 

「ひええええっ!!」

 

元々防御力の弱い魔法使いの上に、既に高齢の彼が直撃したなら死は免れないだろう。

もちろんそれを黙って見過ごすポップではない。

 

「メラ!!」

 

 ギャオォォォン・・・!

 

非常識な速さで生み出された轟火球が敵に襲い、大猿はあっという間に消し炭となった。

 

「おら、じいさん!呑気に腰抜かしてる場合じゃねえよ!!

とっとと『持ち場』に急ぐぞっ・・・!!」

 

「わわわ・・・分かっとるわい!!?」

 

自分よりはるかに若い魔法使いに激を飛ばされ、老魔導師は伸ばされた腕に掴まり立ち上がる。

――掴んだ手は驚くほど細く、儚げであったが、それでもマゾッホにはとても力強く映った。

 

(カッコイイのお~~・・・)

 

それはまさしく『勇者の魔法使い』だった。

マゾッホを守りながら、時折襲われている市民を救い、目的の為に駆けるポップは、かつて自分の目指した『正義』そのものだった。

 

――真の勇気とは打算無きもの!

相手の強さによって、出したり引込めたりするのは本当の勇気ではない!!

 

かつて教えてくれた師は、何度も・・・何度も自分にそう教えてくれた。

だが、自分はダメだった。

今は無理、まだ無理。そう言い訳しながら、最後は尊敬する師の下を逃げ出した。

 

それからも言い訳を繰り返しながら、似たような『仲間』達とツルむようになり――結局何も変わらない日常が、今、自分の半分にも満たない少年によって変わろうとしている。

 

――修行で得た力は、人の為に使うモンなんだよ!!

 

ポップの一喝は、胸の奥に残る一かけらの勇気に火を灯した。

変われるかもしれない。

師のように、強かった『兄弟子』のように…

 

年がいもなく胸が高鳴り、老体に鞭打って必死について行く。

 

他の仲間たちは『目的地』に向かいそれぞれ逃げて行ったが、一人では戦力が激減する上、体力も乏しいマゾッホだけは、目的地までポップが護衛している。

 

『四人それぞれが指定された位置まで逃げる』

 

それがポップに託された役目だ。

ちょっと本気を出せばそれで英雄――確かにポップの『計画』が成功すればその通りだろう。

 

ムチャクチャな計画だが、それを成功させるために奔走するポップの負担は半端ではない。

 

「おっ、おまえさん!わしはもう大丈夫だから、早う城へ向かえ!!」

 

このあと彼は城であの化け物と戦うために、勇者の元へ向かわねばならないのだから、マゾッホは「任せろ」と叫ぶ。

 

「でも・・・!?」

 

「目的地まではもうすぐじゃ!!

心配せんでも、この『ニセ勇者の魔法使い』・・・逃げる事だけは得意なんじゃ!!

――『本物』は早う勇者を助けに行け!!」

 

「じいさん・・・!」

 

確かにモンスターの大半は市街戦に突入しているようで、郊外に出る頃から少なくなってきている。

少し心配ではあるが、ダイ達の様子も気になるポップは、老魔導師の厚意に甘える事にした。

 

「恩にきる!これでこの町は安泰だ。

後は俺達に任せて、あんた等は町の救助に全力を尽くしてくれ!!」

 

「ムチャするでないぞっ!!」

 

 マゾッホの激励を受け、ポップは自分の勇者の戦う戦場へ再び駆け出した。

 

 

***

 

 

戦況は最悪だった。

 

『ブラス』の放つメダパニで、味方は次々混乱し被害は拡大。

マァムは打開しようと行動を起こすと、肝心のダイが『家族』を守ろうと必死で食い下がったあげく、鬼面道士のメラミ(中級火炎呪文)をまともに受けて、ほとんど戦力にならない。

 

『お願いだよ・・・俺のこの世でたった一人の家族なんだ・・・

――俺のじいちゃんなんだよお・・・!!』

 

悔しかった。人質を取られて手も足も出ない自分も。

ダイを――『ブラス』を助ける具体案も思い浮かばない、情けない自分も・・・

 

理不尽な現状への怒りは『元凶』に爆発した。

 

「クロコダイン!貴方それでも戦士なの!?」

 

「なっ・・・!?」

 

年端もいかない少女の詰問に、獣王は後ろめたさに身構える。

 

「誇りだのなんだのと言ってたから、もう少し正々堂々とした男だと思っていたのに・・・!

何が”獣王”よ!笑わせないでよ!!」

 

「そうだそうだ!!こんな少年相手に人質まがいの手でくるとは・・・!!」

「武人の風上にもおけぬ奴よ!!」

「恥を知れ・・・!!」

 

「ぬううぅ・・・!!?」

 

何と耳に痛いのか?

クロコダインはこれまで武人として、どんな敵にも堂々と渡ってきたことが誇りだった。

だが今の自分は何だろう。子供相手に卑怯な手を使い、揚句敵に『戦士失格』の烙印を押されようとしている。

 

・・・今ならまだ仕切り直せるかもしれない。

そんな考えが掠めるが、それを邪魔する声もよぎる。

 

――魔王軍に居場所が無くなるぞ・・・?

 

あの邪悪な老人に売り渡した物の大きさを、クロコダインは心底後悔した。

 

誇りか?勝利か・・・?

 

長い懊悩の末、出された答えは――

 

「だっ・・・だまれェッ!!!」

 

目先の勝利だった。

 

「武勲のない武人など、張子の虎も同然!

何とでも言うがいい・・・誇りなど・・・とうに捨てたわぁっ!!!」

 

自分はもう『禁じ手』に手をかけてしまったのだ・・・これで勝てなければただの道化・・・

後戻りできぬ覚悟に、獣王は武人の尊厳を封印した。

 

 

 

「・・・一体どうしたら・・・?」

 

一瞬はこちらの挑発に正気に返りかけたようにも見えたクロコダインだが、結局手を変える気もなく『ブラス』を従えジリジリと向かってくる。

 

このままでは誰も助けられないかもしれない絶望感に、マァムが冷や汗をかく。

 

「クロコダインの持ってる筒だ・・・!」

「えっ!?」

「あれを奪ってもう一回じいちゃんを封じ込めるしかない・・・!!」

「どうする気!?」

「・・・じいちゃんを押さえておいてくれ!

その間に・・・俺が奪う・・・!!」

 

クロコダインの腰元にある『魔法の筒』。

それさえあれば問題は解決する。

唯一の対策に「わかった!!」と目くばせすると、図ったかのように『ブラス』のメラミが飛んでくる。

 

両者器用に飛び退くと、マァムは壁を利用した三角飛びで『ブラス』へ飛びかかる。

 

「やあああっ!!」

 

「ムグッ!!?」

 

小柄な『ブラス』はタックルをまともに受け、ゴロゴロともつれ込んだ。

 

(今だ!!)

 

派手な動きにクロコダインの注意が逸れたのを見逃さず、ダイも背後から魔法の筒へと手を伸ばす。

 

 ドゴォッ・・!!

 

あと一歩で手が届く――目前まで見えた希望はたった一手で脆くも霧散した。

 

「残念だったな・・・」

 

「う・・・ぐぅっ!」

 

振り返りざまに繰り出された巨大な膝蹴りが、鳩尾どころか小さな身体全体をしたたかに撃ち抜いた。

作戦自体に問題はなかったが、『ブラス』に喰らったメラミのダメージが、ダイのスピードを半減させ、クロコダインに追撃されたのだ。

 

「終わりだ・・・ダイ・・・」

 

「ダイっ!!」

 

苦悶に呻くダイを払い飛ばすと、マァムが『ブラス』から離れて駆け寄る。

 

「・・・それ以上苦しまぬよう、ひと思いに葬ってやる・・・

この獣王クロコダイン・最強の秘技でな!!」

 

「エエッ!!?」

 

今の一撃で完全に反撃の力を失ったと見たクロコダインが、最後の一手に打って出る。

 

「むうううぅぅうッ!!!」

 

 バアンッ・・・!!

 

気迫と共に、ただでさえ太い上腕が倍ほどにも膨れ上がり、右腕の肩当がはじけ飛ぶ。

その右腕に集中する輝きが闘気だと見抜くも、ダイもマァムも態勢が悪すぎて躱せない!!

 

「ぬうううっ!!」

 

クロコダインは一度腕を引くと、狙いを定めて一気にダイへと闘気の塊を撃ち出した。

 

「獣王痛恨撃!!!」

 

 ゴアアアァァッ!!!

 

闘気の奔流は渦を巻き、ダイもマァムも、周囲の兵や王をも巻き込んで全てを破壊していく。

悲鳴すらもかき消した無慈悲な爆風の後には、戦う力を失った者たちが点々と地に伏していた。

 

 勝った・・・!!

 

クロコダインは勝利を確信したが、思った以上にダイ達はしぶとかった。

 

「・・・ううっ・・・」

「ぐ・・・う・・・!!」

 

「・・・まだ死にきれんのか・・・」

 

もう力の入らぬ身体を叱咤し、立ち上がろうとする少年達に敬意を覚えるも、その視線の先に自分の斧を見つけると、クロコダインは黙ってそれを取りに行く。

 

せめて楽に死なせてやろう――そんな思いで斧に向かう獣王を確認し、マァムが何とか魔弾銃に弾を詰め直す。ポップが入れ直してくれた『ベホマ(上級回復呪文)』なら、態勢を立て直すことが出来る。

 

こちらには注意を払っていないのは好都合。震える腕で照準を合わせ、後は撃つだけ・・・ダイさえ動ければ――

 

 ヒュル・・・!!

 

「あ・・・ウッ・・・!?」

 

突然生温かな感触がマァムの首を締め上げた。

 

(何なの・・・コイツは・・・!!)

 

強い拘束を繰り出す方へ視線を流せば、触手の塊に巨大な目玉が付いたモンスターがいた。

 

「悪魔の目玉!!」

 

クロコダインの呼びかけに、魔王軍の伏兵であることは分かったが、それで状況が改善するわけではない。モンスターはさらに触手を伸ばし、腕を両の足を、次々と拘束しマァムの自由を奪う。

 

「グヒェッヒェッヒェッ・・・!!」

 

「ザ・・・ザボエラッ!!」

 

切り替わる目玉の映像に、醜悪な老魔族の姿を認めて、クロコダインの声に嫌悪が浮かぶも、忌み嫌われるは慣れているザボエラは意にも返さず、獣王に勇者の止めを促す。

 

「この娘に邪魔はさせん・・・

安心して止めを刺すがいい・・・!!」

 

「・・・・・・」

 

この醜い老人に、いいように操られる不快感は拭いきれぬものの、ここまでくれば一蓮托生と無言で頷く。

 

「アッ!?」

 

再び斧へと向かうクロコダインを止めようと力を込めるも、細い触手は見た目以上に丈夫でビクともしない。

・・・どころかギリギリと首を締め上げられ、酸欠で意識が飛び始める。

 

(ダイを助けなきゃ・・・ダイを・・・)

 

薄れる意識を必死に保ちながら、マァムはもう一人の仲間に思いを馳せる・・・

 

(ポップ・・・早く・・・!!)

 

街を救うために奔走しているだろうポップ。必ず追いつくからとダイを頼まれたのに、自分は何と情けないのだろう。

 

ポップさえいれば、きっとこの悪夢のような光景を救ってくれる!!

 

「・・・今度こそ本当に終わる・・・この一撃で・・・!」

 

そう信じて、マァムはありったけの力で助けを求めた。

 

「ポップッ~~!!ダイを助けて!!」

 

 バアアァァンッ・・・!!

 

「!!?」

 

振り上げられた斧がダイの首を刎ねんとする瞬間――マァムの願いが届いた。

三度玉間へ飛び込んできたのは、緑の魔法衣に身を包んだ少年。

 

この状況での乱入者にクロコダインの意識がポップに移る。

ポップの登場は彼にとって面白いモノではない。

 

一方のポップは戦況を冷静に分析する。

 

ダイは完全に戦闘不能。マァムの謎のモンスターに拘束されて動けない。

その他の兵も満足に動けるものは一人もいない。

 

――その上ポップが一際驚愕したのは・・・

 

「ブラスじいさん・・・!!」

 

完全に予想外だった。

何故ここにいるのか、どうしてアバンの結界を超えてきたのか?

疑問はいくつもあるが、今となってはどうでもいいことだ。

 

問題は、間違いなく彼の存在が、今の劣勢を決定づけている事実だけだ。

 

(すまねえ!ダイ・・・マァム!!)

 

ポップの中に、静かに怒りが込み上げる。

魔王軍の卑怯な手ではない・・・それを見抜けなかったポップ自身の甘さに腹が立った。

 

たとえ敵でも、クロコダインは真っ当な戦士だと思ったからポップは二人を先に行かせたのだ。

正面からのぶつかり合いなら、決してダイ達が引けを取る事など無いと信じたから・・・

 

「ゆるさねえ・・・!!」

 

「ううっ・・・!?」

 

怒りの波動をまともに受け、クロコダインがたじろぐ。

 

「俺の仲間を傷つける奴は、絶対に許さねえぞおっ!!!」

 

少年には相応しくない強い視線が獣王を貫いた。

 

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