「うおおおっ!!」
「さっそく絞られてんなぁ、あいつ・・・」
デルムリン島・二日目の朝
瞑想の自主訓練中のポップの目の前を、猛スピードでダイは駆け抜けていく。
その腰元を見れば、小さめとはいえ岩が三つ括られていた。
「だから、キツイって言ったろ?」
まだ始まったばかりの『過酷な』特訓の先を案じて、ポップは小さくなっていくダイの背を見送った。
昨日のガーゴイル戦の後、ダイの特訓プランが説明された。
「それでは、明日より真の勇者になる為のキビシ~修行がはじまります。
ポップは今日から兄弟子なのですから、ダイ君の面倒をいろいろ見てあげてください。」
「はい、先生!」
元気良く返事をすれば、ポップの前に目の前に小さな手が差し出される。
「よろしく、ポップさん!」
「ポップでいいよ」
根っからの庶民であるポップは、かしこまった関係は苦手だ。
「さてと、特訓のコースですが・・・何しろ時間がありません!
世界中で今こうしている間にも、魔王軍の猛攻に人々が苦しんでいるはずですからね・・・
そこでダイ君にはズバリ!『特別(スペシャル)ハードコース』を受けてもらいます!」
「特別ハードコース!?」
アバンの提案に、ダイではなくポップが声を上げる。
「なあに、それ?」
「・・・一週間で卒業できるけど、メチャクチャにキツイんで有名なコースだよ・・・おまえ死ぬかもな。」
「こらポップ!後輩を脅すんじゃありません。
…なんなら、君も一緒に参加しますか?」
「遠慮しときます。これ以上は身体を壊すだけですから・・・」
「・・・そうですね。
格闘系も今の君には向きませんからねぇ・・・」
「???」
自分の話をしていたはずなのに、突然頭上を意味深な会話が交わされ、ダイの頭に『?』マークが飛び交う。
そんなダイを見て、クスリと二人は笑う。
「さてどうしますか、ダイ君?
このコースを終えることが出来れば、間違いなく一週間後に君は勇者ですよ?」
アバンの問いかけにダイは迷わない。
「やります!一日も早く強くなって、みんなを助けに行きます!!」
「よろしい。いい返事です!」
こうして、ダイは一週間で勇者になるべく『スペシャルハードコース』を受けることになったのである。
「ヒーッヒーッ!!」
「おーい、大丈夫かぁ~?」
「ピピィ~!」
早朝のランニングを終え、浜辺にひっくり返るダイをポップとゴメちゃんと呼ばれる金のスライムが心配そうに覗き込む。
「だ・・・大丈夫・・・てか、あれ何・・・?」
「ん?・・・おおっ!?」
息も絶え絶えにダイの指差す方向を見ると、なにやら巨大な岩が「よいしょ!よいしょ!」こちらに向かって――来るわけもなく、よく見ればアバンが抱えてやって来る。
軽くアバンの十倍はありそうな大岩だが「別になんてことありませんよ♪」と涼しい顔でこちらにもってくると、
ドシ~~ンッ!
そのままダイ達の目の前におろした。
「ダイ君、これ剣で割って下さい。」
「えぇっ!?こんなでっかい岩を・・・!」
アバンは腰の剣を差しだし、にこやかに先を促す。
「今日中にクリアしちゃってもらわないと困ります。
初日の課題なんですから!」
「・・・ハイ!」
剣を受け取りしばらく考えていたが、意を決して大岩に斬りつける。
「でやあああっ!!」
バキンッ!!
折れたのは剣の方だった・・・
「ああああっ!伝説の名剣折っちゃった~!?」
「・・・まあいいですよ、君のナイフでやってごらんなさい。」
『伝説の名剣』を折ったと勘違いするダイがペコペコ謝るのを、アバンは複雑な表情で宥める。
・・・真相を知るポップが何やらニンマリとこちらを見ているのが、チョッピリ居心地悪い。
「てやあっ!!」
ガキンッ・ゴッ・ガキッ!!
構えを変え、続けざまに三度切りつけるも、大岩には浅い傷を刻むのが精一杯だ。
「ダメだ…割れないや・・・」
「まだ無理みたいですね、それじゃあまた後でという事で・・・
このまま通常コースに突入しまーす!
Are you ready!?」
怒涛の早朝特訓から休む間もなく、通常コースへと移行した。
ここからポップが合流するわけだが、ダイはこの兄弟子が優秀な魔法使いであることを確認することになる。
護身術程度ながら格闘技も一定こなし、魔法理論やモンスターの生態・対処法の知識は学者ばり、そして肝心の魔法は――
ドドドドドッ!!
普段は穏やかなデルムリンの浜辺に、アバンが魔法で生み出した大波が迫る。
ポップは向かい来る波を見つめながら、静かに魔法力を高める。
「ヒャド(初級氷系呪文)!」
ガッキーン!!
軽く振られたポップの手から生み出された猛吹雪が、大波を一瞬で凍てつかせる!
「これは――オマケだ!」
差し出された手をひらめかせ、軽くパチンと指を鳴らせば――
パ…キィィンッ!!
澄んだ音をたて、波が砕け散る。
キラキラと日差しを浴びて舞い散る氷吹雪は、それが攻撃呪文であることすら忘れさせるほど美しい・・・
「凄い!やっぱりポップの魔法って凄いや!!」
「本当に。いつ見てもポップの集中力は素晴らしいですね。」
ポップの見事な腕前に、アバンも手放しで賞賛の声を上げる。
「集中力~??」
「そう!魔法は集中力(コンセントレーション)ですよ!!
・・・さあダイ君、君の番です。」
再びアバンがおこした大波にダイは向かう。
(集中力・・・集中力!!)
覚えたばかりの言葉を反芻しながら、大地を踏みしめ力を高める。
「ヒャドォッ!!」
「ポン!」と可愛らしい効果音と共に生み出された小さな氷塊は――
ざっぱ~~ん・・・!!
ダイもろとも波に飲み込まれた。
「魔法は・・・望みが薄いですねぇ・・・」
「一週間で何とかなりますかね・・・?」
そして夕方――
カン・カキン・カカン・キン!!
辺りに剣を合わせる音が響く。
通常コースも終わり、ダイはアバンを相手に実戦形式の剣術の稽古だ。
(いい太刀筋です。Very goodですねぇ!
――やはりこの子は剣術の方が光るものがありますねえ!!)
互いにその辺で拾った適当な木の棒を使っての乱取りだが、アバンの的確な指導を受けダイは見る間に上達していく。
そんな彼らの様子を、ポップ達は少し離れた場所で見つめていた。
「ピイ~・・・」
「大丈夫だって、ゴメ・・・先生はホントに強いんだぜ?」
「・・・そうじゃな。それにダイがあんなに真剣に修行に打ち込む姿は初めて見るわい。」
心配する者・信じる者・・・現れる感情はさまざまだが、思いは一つだった。
(がんばれよ!ダイ!!)
特訓は、辺りが暗くなるまで続けられた。
結局初日のメニューが終わる頃には、ダイは再びひっくり返って動けなくなっていた。
「さあダイ君、最後の課題!
もう一度チャレンジしましょう!!」
いつの間にか、例の大岩を持ってアバンがやってきた。
「先生~~、俺もうへとへとだよ・・・そんな力残ってないよ~~っ」
実際ダイは疲労困憊で、岩を割るどころか立つこともままならないが、アバンは気にした風もなく促す。
「まあ・・・だまされたと思ってやってみなさい。」
「・・・よおし・・・!」
何とか立ち上がると、促されるままにダイはナイフを構える。
もはやまっすぐ立つことも難しいが、それでも最後の力を振り絞りナイフを振り切った!
「でりゃあああっ!!」
――ドォ――ンッ!!
「割れた!?先生っ!!」
大して力を込めたわけでもないのに、きれいに切断された岩を見て、ダイは目を丸くする。
「不思議ですか?簡単な理屈ですよ。
人間疲れると一番楽な動き――つまり自然な動きをしようとするものです。
君の剣には無駄な動きが多かった・・・元々君にはこのくらいの岩を割る力があったんです。」
ダイは改めてアバンの偉大さを知ることになる。
「先生って本当にすごいん・・・だね・・・」
「おやおや・・・」
今度こそ最後の力を使い切り、ダイはそのまま気絶した。
「・・・本当に一日で割れるもんなんですね。」
「おやポップ・・・夕飯ですか?」
「あんまり遅いんで呼びに来たんですけど・・・ひとり分余っちゃいそうですね。」
大の字に倒れたダイを眺めながら、二人はフッと微笑んだ。
「・・・先生、本当にこのまま特別ハードコースを続けるんですか?」
その夜、地べたに毛布を敷いただけの簡易な寝床に横になりながら、ポップはアバンに訪ねた。
「もちろんですよ・・・大丈夫、ダイ君なら耐えれます。」
同じく横になったままのアバンが確信をもって答える。
「彼には友達を救うという大目標がありますからね、上達も早いです。」
「そうですか・・・」
「何か問題でもありますか?」
「そうじゃないですよ・・・ただ・・・」
ポップは少し寂しそうに毛布に潜り込む。
「ただ・・・そうしたら俺、先生とサヨナラしなきゃいけないんだと思って・・・」
「ポップ!?」
それは本当に小さなつぶやきだったが、アバンには確かに聞こえて跳ね起きた。
「そんなこと言わないでください・・・私だって寂しいです!!
もう!なんて可愛いんでしょう!!」
「ちょっ、放してください先生!俺もうそんな年じゃありませんよ!!」
感極まったアバンに毛布ごと抱擁されたポップは何とか引き剥がそうとするも、悲しいかな職業の差かビクともしない。
結局、うっとおしいお父さんと化したアバンの「頬ずり」は深夜まで続いた――
こうして修行一日目は幕を閉じたのである。
ポップのヒャド→指パッチンの流れはff10の召喚獣シヴァの『ダイヤモンドダスト』のマネです。