ポップ(強化版)主人公と原作との辻褄合わせで苦労しました
修行二日目の朝
地獄のランニングを終え、そのまま剣の稽古へとなだれ込む。
「とりゃあっ!!」
「むむむ・・・!!」
アバンの技を吸収し、たった一日とは思えないほどの速度で上達していくダイの剣技に、これまで片手でいなしてきたアバンも徐々に余裕をなくし始める。
「ちょえええっ!!」
アバンは隙を見て袈裟懸けに剣を(もちろん木の棒)大きく振り下ろす!
ダイはこれを上に飛ぶことで回避し――着地時にアバンの剣を踏みつけ、追撃を封じるという妙技を見せる。
「!?」
「たああっ!!」
この隙を見逃すことなく今度はダイが剣を振り下ろす。
バシイィッ!
アバンはたまらず、空いた左手で剣を受け止める。
(お見事!まさか二日目で私に両腕を使わせるようになるとは!!)
受け止めていた手を払い、一旦両者が距離をとる。
「驚きましたよ。一日でここまで上達するなんて大変な進歩です。」
「へへっ」
惜しみない讃辞に照れるダイ・・・背を向けたアバンの左手が腫れて、涙目になっているのはナイショだ。
「・・・ご褒美にとっておきの技を見せちゃいましょう!」
「え?」
振り返ったアバンは、剣を逆手に持ち替える。
「私のスーパーな必殺技です。
一日も早くマスターして下さいね・・・」
そう言うと、剣ごと上半身を後方に捻る独特の構えを見せる。
それは闘気であろうか・・・アバンの剣に淡く光が灯る。
そうして暫し貯めた後、逆風に振り抜いた!
「アバンストラッシュッ!!」!
ドンッ!!
アバンの剣から放たれたエネルギーにダイは弾き飛ばされ、後方の海に盛大に突っ込んだ。
「!!?」
「ピーピピィー!?」
慌てて起き上がるも何が起きたかわからない。ゴメちゃんも心配して頭上を飛び回る。
「ちゃんと自習して下さいね。」
そう言い残すと、次の準備の為か家の方へと向かっていく。
ダイはその背をぼんやり眺めながら、衝撃を受けた左胸に手を当てる。
(木の棒でこの威力!凄い技だなぁ~・・・よおしっ!!)
見たばかりの『必殺技』を自分が使うのを想像しながら、ダイは見よう見まねで剣を逆手にもった。
「二日目で先生が決め技見せるなんて、本当に一週間で勇者にする気なんですね。」
「見学ですか?」
いつの間にか、自習を言いつけていた筈のポップが近くまで来ていた。
「君の『卒業』も近いですよ。」
「はい・・・」
すれ違いざまに頭を撫でてやれば、少し寂しそうな返事が返ってきた。
そのまま、次の準備が整い再びアバンが呼びに来るまで、ポップはずっと自主練習をしているダイを静かに見つめていた。
夕方、
午後の特訓も全て終了し、アバン流刀殺法の基礎『大地斬』をほぼ習得したところで、恒例の大の字に気絶したダイをポップに任せて、アバンは夕食の準備に取り掛かる。
ランラ・ランラ・ランランラン♪
なにやら楽しそうなアバンの鼻歌がブラス家の台所に響き渡る。
なぜか奥様エプロンで、これまたどこから調達したのか、本格的な調理道具を前に実に手際よく調理するアバンを、ブラスは複雑な表情で眺めていた。
「すみませんね~、夕ご飯が遅くなってしまって・・・」
「い、いえ・・・」
「ダイ君の成長が目覚ましいので、つい夕方の練習が長引いてしまったのです。
――それにポップも・・・」
料理をしながら語るアバンは本当に楽しそうだった。
「ポップ君が、どうしました?」
「いえ、呪文使いのブラスさんならお分かりしょうが、ポップは実に優秀な魔法使いです。
本来ならとっくに卒業して、私の手元を離れているはずの子なんです。」
そう、本来ならば卒業させているはずだった。
それを先延ばしにしてきたのはアバンの未練だ。
「ご存じの通り、魔法使いは後衛での援護が中心の職業です。
盾となる戦士無くしては、どれほど強力な魔法が使えても実力が半減します・・・
ですが、これまであの子に相応しいパートナーは見つかりませんでした。」
「なるほど、それで・・・」
軽やかにニンジンを刻むアバンに感心しながら、ブラスはこれまでのポップの様子を思い出す。
弟子とは言いながら、手取り足取り指導を受けるダイと違い、ポップはその大半を瞑想などの自主訓練や、洗濯炊事などの雑用ばかりしていた疑問が氷解した。
才能ある戦士だった最初の弟子は現在行方不明。
どこかの城に仕官させることも考えたのだが、ポップ程『勇者の魔法使い』に相応しい子もいないことを思えば、それは才能を無駄にさせる行為…
魔法を扱うことも出来るアバンだが、自身の能力はどちらかと言うと『戦士』に重きをおく為、魔法使いの教育には限界があった。
それ故、もう魔法に関しては教える事が無いと知りながら、ポップを傍に置き続けたのである。
「しかし――」
アバンが手を返せば、炒めていた野菜がフライパンの上で華麗に舞う。
「このままダイ君が勇者となれば、ポップも無事に卒業させられます。
これでやっと私の念願が叶うわけです。」
「そうでしたか・・・」
「おっと、話に夢中になりすぎましたね・・・」
スープに塩を入れすぎたようだと、アバンはそのまま料理に集中することにした。
ポウ・・・
ポップの手から発する淡い緑の光が、身体をゆっくりと癒していくのを、ダイは眩い物のように見つめていた。
「すごいねポップ、ホイミ(初級回復呪文)も使えるんだ・・・」
「ん・・・?まあな。」
なんだそんな事かと、ポップは微笑む。
「でもそしたら、ポップは『魔法使い』じゃなくて『賢者』だよね?
なんで魔法使いを名乗ってるの?」
「ああそれな、先生が許可してくれないんだ・・・
『君にはもっと相応しい肩書きがある』ってさ。」
「相応しい肩書き・・・?」
「『何か』って聞くなよ。俺も知らないから・・・」
アバンの弟子になって一年程・・・卒業後の身の振りが決まらず傍に居続けてきたポップだが、その間アバンは新たな弟子を探すと同時に、人探しをしていた。
アバンが知る中で最も偉大な魔法使いだと言う。
「その人には会ってないの?」
「なんでも人嫌いだそうで、行方が分からないんだ。」
旅をしている間中、暇さえあれば聞いて回ったが、足取りは掴めなかった。
「で!結局パプニカで城勤めしてたのを最後に完全に消息不明・・・これからどうしようかって悩んでる時に、パプニカ王家からお前の話を聞いてここに来ることになったんだ。」
相棒となる戦士は見つからない、更なる魔力向上を望める魔法使いは行方不明――困り果てていたところに今回の話があり「いないのならば育てましょう!」とばかりに弟子取りと戦士育成(今回は勇者だが)を同時に行うプランに変更したわけである。
「おかげで俺も独り立ち出来そうだ・・・
これからよろしくな、相棒!」
「ポップ、一緒に行ってくれるの!?」
「・・・おまえ一人で魔王倒すつもりだったのかよ。」
突然の同行宣言にダイは目を丸くする。
「パプニカの姫さん助けに行くんだろ?
だったら目的地は俺も一緒だし、つきあってやるよ。」
魔法使いマトリフ――彼を見つけることが、魔法使いとして成長が止まってしまっているポップの当座の目標だ。
もちろん実戦も兼ね、この弟弟子の旅を助けてやるつもりである。
「『修行で得た力は他人(ひと)の為に使え』
アバン先生のアリガタ~イお言葉だ、肝に銘じとけよ?」
「ポップ!ありがとう!!」
「こらっ、くっつくな!」
思いがけない申し出に、ダイは喜びのあまりポップにしがみ付く。
いかにもお子様じみたスキンシップに顔をしかめながらも、本心ではそれほど嫌じゃない。
一人っ子のポップにしてみれば、こんな『弟』はどこかで欲しかったものだ。
(こいつとなら、上手くやっていけそうだ)
卒業の時――アバンとの別れは寂しいが、新たな『相棒』との旅はきっと楽しいものになりそうだと、ダイとじゃれあいながら、ポップはこの日久しぶりにアバン以外の人間と眠りについた。
修行三日目・早朝
アバンに頼まれブラスが案内したのは、島の奥深くにある普段誰も近寄らない洞窟だった。
「ここがこの島で一番大きな洞窟ですが・・・一体何を?」
「なあに、ちょっと派手に暴れますんでね、他の動物達に迷惑が掛からない様にと。」
『暴れるなら洞窟は危ないんじゃないかな?』というポップの心の声は、幸い誰にも届かなかった。
「さてダイ君は大地斬を覚えました。したがって今日からの修行はその上をいく技を習得するものとなります。
――半端な覚悟では、死にます!」
何時になくシリアスなアバンの「死にます」宣告に、ダイは緊張から生唾を飲み込んだ。
「一体どんな修行をするんですか?先生!?」
「簡単です、私と戦うのです。
ただし私は『ある魔法』で攻撃しますから、君も真剣を使って構いません・・・今から私の身体は鉄より固くなってしまいますからね。」
アバンは皆から少し離れると軽くストレッチをし、深呼吸をすると、やおら魔法力を高めはじめた。
一般的に魔法は強く効果の高い上位のものほど、詠唱や発動に時間が掛かるものである。
そしてアバンがこれから使おうとしているのは、明らかに上位の術。
異常な程の力の高まりに歯を食いしばり、溢れる魔力は炎のように――いや、事実炎となってアバンを蔽い込む。
――ド・ラ・ゴ・ラ・ム!!
「!?」
『力ある言葉』が解放され、洞窟内を駆け巡る炎が収束し視界が開けた時、そこには巨大な『紅き竜』が立ちはだかっていた――