よって作中の呪文やその効果の解釈が(多分)間違ってます。
「んな細けぇことはいいんだよ」の精神でお進み下さいm(_ _)m
「先生が・・・ドラゴンに!?」
ドラゴン――あらゆるモンスターの中で最上位に位置する、事実上最強のモンスター。
先ほどまでアバンだったものが、そんなものになって驚くなという方が無理だろう。
「『ドラゴラム(火竜変化呪文)』!!
古より伝わる幻の攻撃呪文じゃ・・・まさか使い手がおったとは!?」
「ピピィ~~!?」
あまりの事にブラスとゴメちゃんが後ずさる。
如何なモンスターの楽園・デルムリン島でもドラゴンまではいない。
本能的な恐怖で震え上がるブラス達を尻目に『アバン』はダイに向かって吠える!
「最強のモンスター・ドラゴン!
それらと互角以上に戦えなくては真の勇者足りえません!!
さあ来なさい、ダイ君!!」
――グオオオッ!!
洞窟の震えるような雄たけびを上げ、『アバン』は固い爪を伴う巨大な前足をダイに叩き付ける。
ガキイィィン!!!!
「わっ!?」
(か・・・固い!!)
攻撃を躱し様ナイフを抜き、肩に斬り付けるが強靭な鱗に守られた皮膚にかすり傷も付けられない――それどころか、叩き付けた腕が痺れる始末だ。
「――言ったでしょう、ドラゴンの皮膚は鉄より固いと・・・」
ボオオオッ!!
「うわあああっ!!」
『アバン』は振り向き様に『炎のブレス』を浴びせる。
加減はしているだろうがドラゴンのブレス――ダメージは免れないと覚悟した時――
「フバーハ(防御光幕呪文)!」
ポップの唱えた防御呪文がダイを守り、炎を無効化する。
淡い緑の結界に守られたダイを確認し、ポップは『アバン』に向き直る。
「無茶ですよ先生!
ヒャドも碌に出来ないダイが、どうやって炎を防ぐんですか!?」
「・・・いけませんねポップ、邪魔したりしては。
それにドラゴン程度も倒せないのに、その親玉の魔王をどうして倒せるのですか?・・・これはダイ君が越えなくてはいけない壁なのです!!」
「だけどっ・・・!」
理屈はわかるが納得できるものではない。
アバンを信じない訳ではないが、この方法では下手をしたら大怪我だ。
ポップが更なる説得を試みようと再び口を開きかけた時、小さな身体がポップと『アバン』の間に割り込む。
「・・・お前・・・?」
「大丈夫だよポップ・・・この位乗り越えてみせるよ!」
表情は見えないが、その背には確固たる決意が見て取れる。
「・・・本当に大丈夫だよ、ポップ!
たぶん、あのブレスを突破することは出来ると思う!!」
「・・・危ないと思ったら遠慮なく止めるからな。」
そうまで言われたら邪魔は出来ない。
とりあえず無茶はしないよう釘を刺して、しぶしぶポップはダイから距離をとる。
そんなポップの優しさに感謝し――すぐさまダイは『アバン』に向き合う。
(大地斬は力任せの技だ、ドラゴンの炎とは戦えない・・・打ち破るには・・・)
昨日までのアバンの教えを思い出し、ダイは一つの結論に辿り着く。
「海を斬る技・・・海波斬だ!!」
「・・・気づきましたか。
しかし、上手くいくかどうか・・・」
(やっぱり!)
『アバン』の答えから確信を持つダイ。
ならば後は成功させるだけだと、ダイはナイフを脇に構える。
『アバン』もまた、次に来るであろう攻撃を迎えるべく、ブレスの待機に入る。
睨み合っていたのは数瞬――しかし固唾を飲んで見守るポップたちには気も遠くなるような長い均衡を破ったのは・・・
「うおおおおっ!!」
やはりダイだった。
ボオオオオッ!!
「アバン流刀殺法『海波斬』!!」
炎のブレスが直撃する寸前、ダイのナイフが逆風に振るわれる!
カァッ!
ダメージを与えるはずだった炎は、ダイの剣圧に左右に割れる!
それどころか・・・
「グアアアァァッ!?」
およそ人間の声帯ではありえない悲鳴が上がる。
かなり離れていた筈のダイの剣圧が、『アバン』届きダメージを与えたのだ。
シュウウ・・・
ドラゴンの姿をとっていた『アバン』の輪郭が淡くなり、しばらくするといつものアバンに戻っていった。
「おお~~!おおお~~~っ!!」
・・・どうやら顔にダメージを喰ったようで、鼻の辺りを押さえながらジタバタと悶えている。
「・・・先生、大丈夫?」
「う~ん・・・イタイ」
過激な修行に自身もクタクタになりながらも、ダイはアバンの身を案ずる。
最も、もう一人の弟子はもう少し辛辣だ。
「自業自得ですよ。
ドラゴラムで修行だなんて無茶やるんですもん・・・」
「いや~、初めてガーゴイルと戦ったとき、ダイ君の剣の威力が海を割ったでしょう?
だから海波斬はイキナリでも出来るかな~・・・なんて♪」
「なんて♪・・・じゃありませんよ!
いい加減な目算でこんな危険な事やらないで下さい!!」
何時になく真剣なポップの剣幕にアバンもタジタジになる。
「まあまあ・・・ちゃんと目算はありましたよ。
ここ数日でダイ君の剣は元々備えていたパワーに加えて、スピードが飛躍的に増していましたからね。」
「成程・・・炎が切れたのは猛スピードの剣圧のおかげじゃな。」
海波斬は高速の剣圧で炎や吹雪などの『形無いもの』を斬る技。
本来は魔導師系の敵が放つ魔法を無効化しつつ、攻撃を当てる為のものだ。
「ダイ君はすでに海波斬のコツを掴んでいます!
この調子なら『特別ハードコース』の達成も夢ではぬわぁい!!
・・・あ!?」
コブシを握り力説するアバンの鼻頭から血が垂れた。
「・・・ポップ、バンソーコー持っていませんか?」
「先生は最後がしまらないんですね・・・」
苦笑しながら差し出される絆創膏を貼りながら、「まったく格好悪いですね」とおどけて笑うアバンに、皆つられて笑顔になった。
――穏やかな楽しい時間は、ずっと続くかのように思えた・・・
そんな中でアバンだけが、いち早く異変に気付き始めていた。
「先生、どうしたんですか?」
「・・・皆さん気を付けて下さい・・・何か来ます!」
「何かって?!」
・・・ゴゴゴゴゴッ!!
それは、はじめは小さな揺れだったが、次第に地響きを伴い洞窟全体が振動する。
「じ、地震だぁ!?」
「火山が噴火したのかっ!?」
突然島が大きく揺れ、ダイ達が慌てふためく。
「いや!違います・・・何者かが島の魔方陣を破ろうとしているのです!!」
「ええっ!?」
島の結界を作り上げた本人だからこそ、アバンだけが揺れの正確な状況が確認できる。
――そして、だからこそ結界を破ろうとする者の存在が、否応なしにアバンにプレッシャーを与える。
「いったい誰が!?」
「・・・悪党に決まってるだろ!
この島は邪悪を拒む結界で守られてる。
入って来れねえのは悪ぃ奴だけだ!!」
ダイの問いにポップは確信をもって答える。
(だが、並みのモンスターでは一歩たりとも結界を通れないはず・・・
――まさかっ!!)
アバンに戦慄が走る。
『マホカトール』のような強力な結界を力ずくで敗れるような者など、経験の中でもただ一人しかいない。
「こ、この邪悪なエネルギーには・・・覚えがある!」
「じいちゃん!しっかりして!?」
「どうやら・・・不安が的中してしまったようです!」
何かを堪える様に頭を抱えるブラスを見て確信する。
バアアァーン!!
「!!?」
突如洞窟の天井が砕け散り、空が開けた!
薄暗がりに慣れた目が、洞窟に差し込む日差しに一瞬焼かれる。
「クックックッ・・・貴様の魔方陣には中々骨を折らされたぞ・・・?」
それはアバンにとって忘れられるはずもない声だった・・・
「やはり、復活していたか・・・!!」
結界を破る程の力を持ち、穏やかに暮らすモンスター達を狂わせ、邪悪な意思をもって全てを従えんとした男
――
「魔王ハドラー!!」
――そこには、かつて魔王と呼ばれた男が佇んでいた・・・
魔王の登場に全員が驚きを隠せなかったが、その中でもブラスの動揺は大きかった。
(あれは紛れもなく魔王!
しかし、わしが知っていた頃の魔王より若く生命力に溢れておる・・・どうなっておるのじゃ!?)
目の前の魔王は、元・配下であったブラスには本人でありながら、まるで別人のような印象を受けた。
しかしそんな驚きも、直後の魔王――ハドラーの一言の前ではささやかなものだった。
「久しいな、勇者アバン・・・!!」
「え!?」
どこか嘲る様な呼びかけに、全員の視線がアバンに集中する。
皆の戸惑いに表情一つ変えずにハドラーを睨み付けるアバンを見て、ブラスは初めて出会った時に思い出せなかった事実を口にする。
「・・・そうか、アバン!
その昔魔王を倒し、世に平和をもたらした伝説の勇者の名が・・・アバンじゃった!!」
「・・・古い話ですよ。」
否定はない。
「・・・道理で強いと思いましたよ。
俺、知らずにとんでもない人の弟子になってたんですね・・・」
「フフ・・・大昔の事については後でゆっくり話してあげますよ・・・さあ!早くダイ君達を連れて洞窟の外へ!!」
「はい先生!
・・・ほら!行くぞ!!」
「そんな!俺も先生と戦うよ!!」
「いいから来い!!」
加勢しようとするダイの腕を引っ張り、ブラスとゴメちゃんと共に強引に洞窟の入り口へと連れ出す。
「いいか?絶対に中に入ってくるんじゃないぞ
・・・出来れば島から出るんだ!」
「そんな!ポップはどうするんだよ!?」
「俺は・・・先生に加勢する!」
「だったら俺も・・・」
「ダメだ!今のお前じゃまだ力不足だ・・・いいから逃げろ!!」
「・・・・・・!!」
ポップの厳しい指摘に言葉を失うダイ。
力無い自分が不甲斐なかった・・・
――それでも・・・力の足りない自分でも、盾ぐらいにはなれるはずだ!
そう決意を固めアバンの元へと走るポップを見送った。
ポップがダイを説得している頃、アバンとハドラーは互いに力を高め、攻撃に移る『きっかけ』を伺っていた。
「・・・あれが貴様の弟子か?」
「・・・・・・」
アバンは答えない――余計な会話は相手に付け入る隙を与えてしまう。
もちろんそれはハドラーも同じだが、彼はアバン程思慮深いタイプではないらしく、痺れを切らして先制攻撃の
態勢に入るようだ。
「聞けば『勇者の家庭教師』とかぬかし、正義の戦士を育てているらしいな――我が魔王軍の侵攻を邪魔する者は誰であろうと許さん!
まずは恨み重なる貴様を血祭りにあげてから、貴様の弟子全てを抹殺してやる!!」
ハドラーの右手に放電と共に生まれた火球が、徐々にその大きさを増していく・・・
「イオラッ(中級爆烈呪文)!」
火球はハドラーの手を離れ、凄まじい勢いでアバンを襲う。
だがアバンは冷静だった
・・・長年の経験から放たれた魔法を一瞬で見抜き、
ガッ・・・!!
なんと片手で受け止めた。
イオラはアバンの手の中でしばらく勢力を保っていたが、最終的には握りつぶされ、四散してしまう。
「ムゥッ!?」
「・・・魔王のお前自ら出向いて来るとは、考えようによっては丁度いい!
この場でお前を倒し、世界の暗雲を晴らしてやる!!」
宣誓と共にアバンの魔法力が高まる。
「ぬうう・・・ベギラマッ(中級閃熱呪文)!!」
突き出したコブシから放たれた白い熱線がハドラーに直撃した!
「クゥッ・・・クッ!」
「やったか?」
当たった熱線はそのまま炎となって渦巻き、吹き飛ばされたハドラーは身悶える。
しかし――
「・・・ククク・・・ファッハッハッハ――ッ!!」
苦悶の声だと思っていたものが明らかな哄笑と化し、収まりゆく炎の中からハドラーがゆっくりと姿を現す・・・
「ギラ(閃熱)とイオ(爆烈)の呪文はこの俺の最も得意とするもの・・・
この程度の炎でこの俺が倒せると思ったか?」
その言葉通り、纏っていたローブこそ燃えてしまったが、ほとんど無傷のハドラーが立っていた。
ローブ一枚取り去ったハドラーは魔王というより、屈強な魔界の戦士といった雰囲気だ。
「見ろ!本当のベギラマとはこういうものを言うのだ!!」
先程のアバンと同じようにコブシを突出しベギラマを放つ。
「!?」
自身が放ったものより威力の高い熱線が向かってくるのを、アバンは海波斬で迎撃する態勢をとる。
――だがその直前、聞き覚えのある高い声が洞窟内に響く。
「フバーハ!」
本日二度目の防御結界がアバンを包み、魔王の炎を無効化する。
「ポップ!」
「先生、俺も戦います!」
強い意志を持って戦場に戻ってきたのは、アバンが最も大事に育ててきた『勇者の』魔法使いだった。