「ポップ・・・君はダイ君と共に行きなさい。」
戻ってきた弟子に顔をしかめるも、ポップの方は飄々としたものである。
「そんなこと言って、自分だけ格好付けるなんてズルいですよ♪」
可愛らしいウィンク付で軽口を返すも、その瞳に必死の光を見て、アバンは内心ため息をつく。
長くポップを手元に置いてきたアバンには、それこそ実の親同然にポップに関しては詳しいという自負がある。
つまり――こういう時のポップは何をどう説得しても折れないのである。
「・・・君は援護に徹して下さい。
決してムチャはしない様に!」
「はい!」
短時間の説得は無理。ならば次善の策をとるしかない。
現状においてベターなのは、正攻法によるハドラー撃退である。
「チッ!」
アバンが前衛にて敵と戦い、ポップが後衛で援護に回る。
勇者と賢者が互いのベストポジションをとるのを見て、対峙するハドラーが舌打ちする。
ハドラーとしては一人でもアバンを倒す自信はあるが、不安要素自体は少ない方がいい。
仲間の参戦などやっかいなだけだし、増してそれが『フバーハ(防御光幕呪文)』のような高位の補助呪文が使える僧侶・・・もしくは賢者など面倒この上ない。
どう攻めるか――互いに攻めあぐねているうちに、ポップの呪文が完成する。
「ピオリム(加速補助呪文)!」
まずは補助系呪文による仲間の補佐。
基本中の基本だが、距離がある今、実に有効だ。
「行くぞ!」
ポップの援護を受け、アバンが突撃する。
ガキィッ!!
「――速い!!」
指と中手骨の境目から飛び出た鉤爪――『ヘルズクロー』で、ハドラーは放たれた一撃を受け止める。
威力こそかつてと同等――いや、むしろ多少衰えた剣撃だが、呪文の補助により移動速度が大幅に上がっている。
「うおおおおっ!!」
アバンもそれを理解し、力及ばぬ分は数で勝負と怒涛の連撃を繰り出す。
袈裟切りに・薙ぎ払いに、時にフェイントも交え繰り出される乱舞に、次第にヘルズクローだけでは捌きれなくなり、一撃・二撃と掠り始める!
「俺を舐めるなぁーっ!!」
「むう!?」
丈夫なハドラーとてこれは堪らない――圧倒的有利な腕力をもって強引にアバンの剣を弾き距離をとる。
「喰らえっ!――ベギラマ(中級閃熱呪文)!!」
コブシを突き出すモーションと共に得意の呪文を繰り出すも、『相手』の呪文も完成する。
「ヒャド(初級氷系呪文)!!」
バシュウゥッ!
熱閃呪文とポップの氷系呪文が互いを相殺する。
「ヒャドでベギラマをかき消すだと!?」
ヒャダルコ(中級氷系呪文)ならまだわかる。
しかしワンランク下の呪文でベギラマをかき消す呪文使いなど聞いた事もない。
ハドラーの動揺をよそにポップの術が次々ハドラーの状況を悪くしていく。
「スクルト(防御補助呪文)・バイキルト(攻撃力補助呪文)!!」
「!!?」
嘘のような速さで完成するポップの術に、本気でハドラーは焦り始める。
「小僧!調子に乗るなー!!」
賢者だけでも何とかしなくては――ターゲットをポップに変更するも・・・
ガンッ!
「させるかっ!!」
「くおのぉぉっ!?」
渾身の力を込めたコブシを今度はアバンが受け止める。
先程まであったはずの腕力差のハンデがゼロ――とまではいかなくても、呪文の補助により縮まっている。
続けざまにアバンの前蹴りを喰らい、吹き飛ばされたハドラーに今度はアバンの追撃が迫る!
「ライデインッ(雷撃呪文)!!」
バチィィッッ!!
「ぐおおおっ!?」
天に掲げられた指先から放たれた、『勇者のみ』が放つ一撃がハドラーを穿つ。
(冗談ではない!このままでは本気で負けてしまう!!)
いくらアバンが直接育てた弟子とはいえ、ここまで優秀な賢者が控えているなど完全に計算外だった。
ポップがとっているのは勇者と賢者の戦い方で、一番正攻法(オーソドックス)なものだ。
距離が空いていれば遠慮なく援護の魔法が、補助・攻撃問わず飛んでくる。
賢者を狙えばアバンの邪魔が入る。
かといって、アバンを倒すことに集中することも難しい。
戦闘開始直後ならばともかく、現状アバンには補助呪文が三つもかかっているので、決定打を決めるのが困難だ。
それにあの賢者の腕ならば、回復呪文くらいお手の物だろう。
となると――このままではどちらかが力尽きるまでの消耗戦になってしまう。
二対一ではハドラーが不利だ。
(どちらか一方でも無力化できれば――よし!)
なにを閃いたのか、ハドラーは真正面からアバンに突っ込む。
「オオオオッッ!!」
(何のつもりだ!?)
アバンが不審に思うのも仕方がない。
それはあまりにも無謀な特攻だ。
全身全霊を込めて、と言えば聞こえはいいが、自棄を起こしたようにも見えるし、何より隙だらけだ。
戦う者の感が危険を訴えているが、チャンスには違いない。
だから――
「終わりだ!ハドラー!!」
ドシュッ・・・!!
カウンターに放たれた突きが、ハドラーの左胸を穿つ!
「ぐおおぉ・・・?!
おのれ・・・アバン・・・!!」
ドスンッ!
ハドラーは動かなくなった。
「・・・倒した・・・んですよ、ね?」
あっけなさを感じたのはポップも同じだ。
いくら不利になったとはいえ、『魔王』がこんなに簡単に玉砕するものだろうか?
アバンの疑念は尽きないが、それをかき消す声が聞こえる。
「ポップ!先生!」
「大丈夫か~!?」
洞窟の外に避難させたダイ達が戻ってきたのだ。
「お前・・・逃げろって言ったろ?」
「凄いやポップ!凄い!!」
「あ、また!?くっつくな!」
「ピ~ピピィ~♪」
・・・ポップの呆れ顔に気にした風もなく、ダイとゴメちゃんはポップを『もみくちゃ』にすることで、喜びを表現する。
「倒しましたな・・・」
「――おそらく。」
倒したはずだ。
如何な魔族でも、心臓を貫かれて生きているはずがない・・・
それなのに、安心できないのは何故なのか?
「先生・・・大丈夫?」
「ええ。大丈夫ですよ。」
心配そうに覗き込むダイに、アバンは微笑む。
(気にしすぎですね・・・)
ハドラーが起き上がる様子は全くない。
きっと突然の登場にまだ動揺しているのかもしれないと、自分を納得させる。
しかし――
「ポップ!何をしてるんです!?」
ハドラーを遠巻きに見つめていた視界にポップが現れて仰天する。
「死んだんなら、墓ぐらい作ってあげた方がいいのかな~・・・なんて?」
魔王だって死んでそのままじゃ可愛そうだと、フラフラよっていく無防備さに呆れたものを感じる。
「いいから戻りなさい・・・墓は後で私が作りましょう。」
「大丈夫ですって!
墓穴くらいイオ(爆烈呪文)でチョチョ~イって・・・」
完全に安心しきっているポップは気付かない――気付いたのは、やはり少し離れて見つめていたアバンだった!
「ポップ!?離れなさい!!
ハドラーは生きています!!」
「――へ!?」
ハドラーの右手が動いた!
それに気付いたアバンが悲鳴のように警告するも――間に合わなかった。
「掛かったな!!」
ザシュッ!
ハドラーのヘルズクローがポップの腹を抉る――防御力の低い呪文使いにこれは効いた!
「かっ・・・はっ!?」
苦悶の声と共に、ポップの口から血が溢れる。
「ポップ!!」
弾き飛ばされたポップが、地面に直撃する寸前で抱き止める。
「くっ・・・!?しっかりなさい、ポップ!!」
「・・・・・・!!」
(まずい!!)
医学の心得のあるアバンには、ポップの状況は相当まずく映る。
とっさに身体を捻ったようで串刺しこそ免れたが、傷は内臓近くに達している。
すぐに命に係わるものではないが、長時間放っておけるものではない。
「ホイミ(初級回復呪文)!」
とにかく傷を塞がなくては――その一心で回復呪文をかける。
だが、今は呑気にポップの回復を待てる状況ではない。
「クククッ・・・覚悟の上とはいえ、さすがに効いたぞ・・・!」
相変わらず嘲りをその顔に張り付けたまま、ハドラーがゆっくりと迫ってくる。
――その左胸には確かに大穴が空いている。
「なぜ生きている・・・!?」
「何・・・俺の心臓は左右に一つずつあってな!
貴様等が油断するのを待っていたのよ!!」
(くっ!?気付くチャンスはあったのに!)
完全に油断だった。
心臓の件はともかく、ハドラーの行動が不自然だったことには気づいていたのに、みすみすポップを危険に晒してしまった。
「気遣ってもらった礼だ…!仲良く一緒の墓に弔ってくれる!!」
ハドラーの右手に再び火球が生まれた。
「いけない!
ブラスさん、ポップを頼みます!!」
放たれる攻撃を見抜き、アバンは剣を構えて走り出す。
「イオラ(中級爆烈呪文)!」
「海波斬!!」
――ドオオォンッ!!
「うわああっ!」
洞窟内に爆風が巻き起こり、ダイ達も吹き飛ばされる。
アバンもまた、完全に魔法を無力化しきれず、全身に決して軽くはないダメージを受けた。
「・・・凄まじい威力だ・・・以前戦った時よりもはるかに強くなっている!
何故・・・!?」
「知りたいか?知れば後悔することになるぞ・・・
貴様は俺が今でも『魔王』だと思っているらしいが、今の俺は『あるお方』の力によって甦っているにすぎん!
――以前より強靭な肉体を与えられてな!!」
「何者だ!それは!!」
思い通りに進む状況が楽しいのか、ハドラーは喜々と『新たな魔王』の名を口にする。
「『大魔王バーン』・・・貴様に敗れ、死の世界を彷徨っていた俺を蘇生させて下さった、偉大な魔界の神だ!!」
ハドラーは両腕を誇らしげに広げる・・・
「今の俺はバーン様の全軍を束ねる総司令官!
『魔軍司令』ハドラーだ!!」
「・・・何という事だ!?」
晴らしたはずの闇は、より深い絶望となって世界に広がっていた・・・
たぶんアバン先生にライデインは出来ないでしょうが、あえてやらせたかった私…
よく考えたら洞窟(室内?)じゃそもそも無理だね
でも先生そろそろ一回退場だから、ハデにしてあげたかったのです