カール王国――
先の大戦において勇猛なる姫王の元、世界の中心ともなる活躍を見せた騎士団王国。
その国のはずれに、めったなことでは人の近寄らぬ森があった。
鬱蒼として昼間でも暗く、モンスターすら出会うことはあまり無いその森の奥深くには、冒険者の間で有名な古代遺跡が存在する。
『破邪の洞窟』
幾多の呪文とアイテムが存在すると伝えられてはいるが、それらの全てを確認した人間は存在しない。
古文書と伝承のみでその存在を伝えられるダンジョンを、一人で突き進む男がいた。
「う~ん・・・相変わらずロクなものがありませんね~」
真っ赤な服・奇妙に襟足がカールされた髪・表情の分かりずらい伊達メガネ――およそ怪しさ大爆発の不審人物が、この国の生んだ偉大なる勇者アバンであるなど誰が信じるだろう。
「『お鍋のふた』って・・・せめてお鍋本体があると使えるんですけどねぇ?」
苦労してようやく見つけた宝箱を開けてガックリくるのもすっかり慣れてしまった。
何しろアバンがこの洞窟を潜るのはこれで二回目。
はじめて潜ったのはまだ勇者として旅を始めるずっと前――腕試しと遺跡研究の為に訪れた時だ。
その時は『マホカトール(破邪呪文)』を手にして引き揚げてしまったが、今回はそれよりもずっと深い地下三十階付近をウロついていた。
ここに来た理由はただ一つ、『強くなる為』だ。
アバンは戦士として、すでに円熟期に入ってしまっている。
これ以上鍛錬を重ねても、いたずらに身体を痛めるだけで、レベルアップは望めない。
そんなアバンに出来るのは戦術の幅を広げる事。
このダンジョンを訪れたのは、まだ見ぬ未知の力を求めてのものだ。
「とはいえ・・・こんな調子では前途多難です・・・」
だんだんため息の数も多くなる。
ここまで契約に成功した呪文は『あればそれなりに便利』の域を出るものではなく、唯一高位の魔族にも効きそうな『ミナカトール(極大破邪呪文)』はパーティー呪文の為、一人では使い物にならない。
各階に散らばる宝箱の方は、さらに惨憺たる有様。
つまり、ここまで『成果』と呼べるようなものは何一つ見つかっていないのだ・・・
アバンは悩んでいた――
このまま進んでも何もないのかもしれない・・・いっそすぐにここを出てダイ達に合流した方がいいのかと・・・・
(ダメです!何の為にここに来たのですか!!
大体ポップ達と会った所で、今の私では彼らの力にはなれないんですよ!!)
数日前、宿敵ハドラーに事実上完敗した。
力・速さ・魔法力・・・全てにおいて後塵を拝してしまったアバンがそれでも助かったのは、かつての主君から預かった『カールのお守り』が身代わりアイテムだったおかげだ。
気が付けばデルムリン近くの海に漂っていたのも、本当に偶然だった。
そうして、自力で島に漂着しアバンが最初に目撃したのは、島を旅立つ愛弟子たちの姿。
一見元気そうに見えるその顔は泣きはらした跡がクッキリと残っており、アバンは思わず名乗り出て無事を確認させてあげたい衝動に駆られたものだ。
(ああっ二人とも!あんなに目を赤くして!!
『だっこ』して『すりすり』して慰めてあげたい!!)
親馬鹿全開の妄想を何とか踏みとどまったのは、このままではいけないという使命感。
――もはやポップ達の潜在能力は自分を上回っている。
ならば今の自分が同行しても彼らの成長の足を引っ張るだけだ。
(自身を鍛え直し、自分にしか出来ない新能力を身につけなくては!!)
そうして故郷のカールに戻り、ありったけの食料必需品と薬草をもってこの洞窟に修行に来たのだ。
***
(まっていてくださいね!私は必ず君たちに勝利を掴ませてみせますからっ!!)
『お鍋のふた』を手に、明後日の方向に熱く誓いを立てていると、背後からの視線を感じて振り向いた。
「おお!?」
そこにいたのは――ユーモラスな表情のスライムに触手が生えた、子供の背丈ほどのモンスター・・・
「ホイミスライム?」
一般的にそう呼ばれるモンスターだ。
たいして強いわけではない――せいぜいスライムよりチョット?というくらいのものだ。
ただ厄介なのがその名が示す通り回復呪文を得意としており、他のモンスターと現れると戦闘がなかなか終わらない面倒臭さがある。
・・・アバンからしてみれば雑魚以外の何物でもないが。
(さて、どうしたものか?)
襲ってくるなら対処のしようもあるのだが、どうゆう訳かこのホイミスライム、こちらをジッと見ているだけで敵意がまるでない。
試しに近づいてみても、まるで反応なし。
いくらモンスターでも敵意の無いものを斬って捨てる程の残忍さを、アバンは持ち合わせてはいない。
そうしてしばらくすると、ホイミスライムは触手の一本を伸ばしてアバンの右手を指示した。
「これが欲しいんですか?」
どうやら見つけた『お鍋のふた』が気になるようで、しきりに右腕に触れてくる。
「そんなに欲しいなら、どうぞ?」
モンスター相手でも丁寧なアバンに感じ入ったのか、ホイミスライムも気持ち丁寧にそれを受け取る。
よほど嬉しいのか、『お鍋のふた』を構えてその場をクルクル回りだす。
「それにしても・・・この付近のモンスターはかなり強くなっているのに、君はよく生き延びてますねえ?」
モンスターは野生動物と同じで弱肉強食の掟に生きている。
最弱の部類に入るスライム種は、十五階を過ぎる頃から急に見なくなったのだが。
――よほど上手く隠れていたのだろうか・・・
「まあ、気に入ったのならその『お鍋のふた』は君にあげましょう。
危ない場所ですから、早く隠れた方がいいですよ?」
いつまでここにいても仕方がない。
不思議なホイミスライムに別れを告げ、アバンは再び下層を目指す。
スタスタスタ・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・あの~?」
暫く歩いたところで振り返る。
何故かホイミスライムが付いてくるのだ・・・
「なにか御用ですか?」
「・・・・・・」
にっこり話しかけるも、残念ながらホイミスライムはしゃべることは出来ない。
代わりに『お鍋のふた』を掲げてアバンの周りをウロつく――見様によっては盾を構えている様に見えなくもない。
(もしかして・・・懐かれたんでしょうか?)
獣系のモンスターは、時折餌付けによって飼いならせる事があるが、『お鍋のふた』でホイミスライムが懐くとは知らなかった。
「・・・ついて来たいのですか?」
「・・・!」
言葉が通じているとも思えないが、ホイミスライムは触手の何本かをアバンの腕に巻きつけて隣に並びたがる。
(悪くないかもしれませんね・・・)
この先、魔法力も薬草もできれば節約したい。
回復呪文の使えるホイミスライムは絶好のパートナーだ。
「いいですよ、一緒に行きましょう。
でも、できるだけ私の後ろに隠れているのですよ?」
「・・・♪」
「まあ・・・旅は道連れと言いますからね」
これまでを共にしてきた魔法使いを思えばいささか心許ないが、たまにはこんな相棒も悪くないかもしれない。
「何か名前を考えてあげないといけませんねえ~?」
話しかければ、やはり嬉しそうに触手を揺らめかせる。
話し相手がいるというのはいいものだ。
先程まで気の滅入っていたアバンだが、ユーモラスなホイミスライムの顔を見ているうちに、何やら元気が出てくる。
「それでは心機一転!イザ『破邪の洞窟』攻略!!」
気合を入れなおせば、隣でホイミスライムが『お鍋のふた』を高く掲げている。
たぶん「おーーっ!!」とでも言っているのだろう。
(悩んでたって仕方ありません、行けるところまで突っ走るのみ!!)
全てはもう一度、この手に奇跡を起こすために!!
次第に瘴気が濃くなる洞窟の奥を目指し、アバンは新たな相棒と共にまた一歩足を進み始めた。
先生一人じゃ寂しいだろうから、相棒を付けてみました
このホイミスライムが活躍するかは全く未定