PARALLEL QUEST   作:8mn

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気高き者・1

ロモス領・魔の森――

 

ダイは明るく振る舞ってはいるが、内心は怯えまくっていた。

――原因は背後からヒシヒシと迫る怒りの波動のせいだった。

 

「ねえ、ポップ・・・

そろそろ機嫌、直さない?」

 

恐る恐る振り返れば、そこには笑顔のポップがいた。

それはもう、素敵な笑顔だ――額に怒りの青筋さえ見えなければ・・・

 

「何だあ、ダイ君?

君はこの森から抜ける方法でも思いついたのかね!?」

「あはは・・・」

 

怒っている・・・もうこれ以上ないってくらい怒っている。

原因はもう三日もこの森で迷っているせいだ。

以前ロモス城まで行った事のあるダイが案内を買って出たのは、純粋にポップを喜ばせたかったからだ。

 

ポップははじめ森を避ける街道を通って城に行く気だったが、それだと二日は掛かると言われて、ダイは近道を提案したのだ・・・

 

ポップだってまさか『キメラに乗って空から行きました』なんて事情は知らないのだから、つい快諾してしまった。

 

そしてそれが運の尽き・・・

おかしいと思ってダイを問い正せば「だって空から見た時は近かったんだよ~!」と半べそをかきだす始末だ。

 

「あのなぁ!三日だぞ三日!!

あのまま街道沿いに行きゃ二日でついたのが、すでに一日オーバーだぞ!?

これで怒らずにいられるか!?」

「ゴメンってば~~!」

 

怒りついでにダイの頭をコブシでグリグリしてやれば、ダイは抵抗もせずにシュンとしている。

 

実際にはポップはさほど怒ってはいない。

長くアバンと共に旅をしてきたポップは野宿に慣れているし、星や太陽の位置で大体の方角が分かるのだから、何も問題ない。

 

それでも怒ったポーズをとっているのは・・・まあ、ちょっとした気晴らし、余りにも反応が面白いのでからかっているだけだ。

 

そうやってダイをからかいながらも、頭の中で距離と方角を計算していると、

 

「きゃああ!!」

 

――突如それまで静まり返った森を悲鳴が響き渡る。

 

「いくぞ!ダイ!!」

「うん!」

 

二人は目を合わせると、悲鳴の方向へひた走った。

 

 

***

 

 

駆けつけた時、そこには二体のモンスターに襲われる少女の姿があった。

 

「あ・・あぁ・・・」

 

もう逃げる気力もないのだろう・・・今にもへたり込みそうな少女に大熊のリカントがその剛腕を振り上げる!

 

 グワァァァ!!

 

「きゃああ~!助けてぇ~~!!」

「行けぇっ、ダイ!!」

「だああああっ!!!」

 

走る勢いのまま、ダイはリカントの元へと一足飛び――

 

 ドガ!!

 

勢いのままドロップキックをぶちかます。

 

 ギギ・・・ギギィ!!

 

すぐ隣で仲間のモンスターが倒されたのを理解する知性はないらしい、人面樹がこの隙にと少女に近づこうとするも、すぐにダイの剣撃が迫る。

 

 しゅたたたたっ!!

 

 ギギィ~~!?

 

枝を片っ端から切り落とされ、実力の差を悟った人面樹は一目散に森の奥へ駆け去り、そのまま森の一部と消えてしまった。

 

「大丈夫?」

 

今だ怯えて泣きじゃくる少女に駆け寄ると、ダイの背後に不穏な気配が立ちのぼる。

 

「ガアアアッ!!」

 

先程ダイによって倒されたかに見えたリカントが迫っていた。

 

しかし、その復活もほんの一瞬のこと――

 

「ほらよっ!」

 

 ボンッ!!

 

「ウギャ~~!!」

 

ポップが軽く放った『メラ』がリカントを包むと、リカントは泡を食って逃げ出した。

 

「詰めが甘いぞ、ダイ!」

「ポップが容赦ないんだよ・・・」

 

とりあえず先程までと違う表情をみせるポップに安堵し、ダイは少女に向き直る。

 

「君、大丈夫かい?」

「・・・私、森に迷っちゃったの」

 

助かった安心感に一瞬表情を和ませるも、すぐに少女の顔は曇りだす。

 

「お兄ちゃんたち、私を村まで連れてってぇ・・・

お願いよう・・・!」

「え?・・・と・・・」

 

少女にせがまれ、ダイは困った事になったと顔をしかめる。

・・・まさか自分達も迷子ですとは言い辛い。

 

「大丈夫だよ、すぐに村まで行けるから安心しな!」

「本当!!」

「ポップ!?」

 

突然のポップの安請け合いに、少女は喜びに、ダイは驚きに目を丸くする。

 

「ダメだよポップ!俺達だって三日も迷ってるんだよ?

どうやってあの子の村まで行く方法があるのさ!?」

「俺がそんなモン知ってるわけないだろ?

――たぶんアチラさんが案内してくれると思うぜ?

なあ、そうだろ?」

 

誰もいない方へポップが声を掛けると暫くのち、トン・・・と軽いしぐさで一人の少女が木の上から降りてきた。

 

「・・・凄いね、君。

魔法使いみたいに見えるけど、気配が分かるんだ?」

「完全に消されたらアウトだけどな?」

 

徐々に近づいてくるのは少女と言っても、ポップよりは少し上に見える。

桜色の髪も鮮やかな健康的な美少女だ。

 

「マァムお姉ちゃん!」

「ミーナ!」

 

幼い少女――ミーナが、マァムの元まで駆け寄る。

 

「ダメじゃない、一人で森に入っちゃいけないって、あれ程言ってあるでしょ・・・?」

「お母さんが毒のスライムに咬まれちゃったの・・・

だから、毒消し草をとりに行こうと思って・・・」

「バカね、私に言えばいつでも行ってあげたのに・・・

無事でよかったわ。」

 

ミーナをたしなめる声にも瞳にも、慈愛の輝きが見て取れる。

やさしい少女のようだ。

 

マァムはひとしきりミーナの頭を撫でて落ち着かせてやると、ポップ達に視線を移す。

 

「どうもありがとう。私、マァム。

この森の奥にあるネイル村の者よ。」

 

「俺はダイ。」

「ポップだ、よろしくな!」

 

懐こいダイと物怖じしないポップは、初対面でも気安い挨拶を交わす。

マァムは改めて二人の様子を尋ねる。

 

「あなた達、どこに行くつもりだったの?」

「ロモスの王宮だよ。

・・・でも道に迷っちゃって・・・」

 

「王宮ならこの森を抜けたところだけど、もうすぐ日も落ちるし・・・

今日は私達の村に泊って行ったら?

ミーナを助けてくれたお礼がしたいわ。」

 

「本当か?そいつは助かるよ!」

 

思わぬ申し出にポップ達の顔が輝く。

ポップの計算ではこのまま進んでも丸一日程あればロモスへ着くが、やはり野宿より暖かい寝床の方がありがたい。

 

「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな?」

「喜んで!」

 

穏やかに進む会話に、ポップとダイはマァムの案内の元ネイル村へと向かっていった。

 

 

***

 

 

昼間でも光の差し込みにくい魔の森は迷路のように迷いやすく、魔王が復活した現在では数多くのモンスターが住み着くようになった為、地元の人間すらめったに近寄らなくなってた。

 

その魔の森のさらに奥深くに洞窟があった。

雨風に浸食されて自然に出来上がったものだが、ここを数日前から根城として活用している者がいた。

 

人間ではない。

ゆうに二メートルは超える巨体を岩の壁に預け座り込んでいたのは、『リザードマン』と呼ばれる巨大な鰐のモンスターだ。

 

赤黒い鱗に覆われた巨体を鎧に包んだそのモンスターは瞳を深く閉じ眠っているようだった。

 

「――クロコダイン・・・獣王クロコダインよ・・・」

「んん?」

 

静寂が満ちるその洞窟内に男の声が静かに響く。

その声に片目を開けた鰐男――クロコダインは声の元に視線を向ける。

 

そこには天井からぶら下がる偵察用モンスター『悪魔の目玉』があった。

 

「誰だ?何ようだ?」

 

悪魔の目玉に向かい話しかけると、その瞳がカッと見開かれ一人の男が映し出された。

 

「俺だ・・・ハドラーだ。」

「おお!魔軍司令殿か!これは無礼をした・・・」

 

映し出された『上司』の姿に、クロコダインはその巨体をムクリと起きあげる。

 

「どうしたのだ?

お前にはロモス王国攻略を命じておいたはず・・・」

「フ・・・ダメだ、あの国は・・・!」

 

クロコダインは嘲るように鼻を鳴らす。

 

「強い奴など一人もおらんわ!

俺様自ら戦わずとも、我が百獣魔団の怪物どもに任せておけば、すぐ落ちるだろうさ・・・

まあ、数日待っていただきたい・・・」

 

「フフッ、相変わらずだな。

・・・だが今日はその件ではない。

実は我が魔王軍に楯突くものが、今魔の森に迷い込んでいるのだ。

お前の手で始末してくれ!」

 

「なに!どんな奴だ!」

 

驚きに目を開くクロコダインの目の前で、悪魔の目玉の画像が切り替わる。

 

そこには二人の少年・・・ポップとダイが映し出される。

 

「こいつ等だ・・・

名前はダイ・・・そしてポップだ!」

 

憎々しげに語るハドラーをよそに、クロコダインは口をあんぐりと開けて呆けている――その顔は徐々に嘲笑が浮かんでいく。

 

「・・・クククッ・・・ワーハハハッ!!」

「何がおかしい・・・?」

 

「グッフッフ・・・冗談はやめてくれ。

仮にも『獣王』と異名をとるこの俺に、こんなガキの相手をしろと言うのか!?」

 

魔王軍に楯突くというからにはどれ程の猛者かと思えば、どこから見ても貧弱そうな子供が現れたのは拍子抜けもいいところだと、一蹴しようとしたクロコダインの言葉をハドラーが遮る。

 

「ガキだと思って侮ってはいかん!

こいつ等は信じられないような力を秘めておるのだ!」

 

ハドラーの表情に苦いものが走る。

 

「この俺も手傷を負わされたわ!!」

 

「なんと!

ハドラー殿に手傷を!?」

 

その一言がクロコダインの気を引いた。

仮にも魔軍司令を名乗るものに手傷を負わせるなど、かなりの強者でなくては不可能だ。

 

「フフフッ、面白い!

ハドラー殿を傷つける程の小僧ども・・・是非とも戦ってみたくなったわ!!」

 

「頼んだぞ、確実に葬れ。

・・・まだヒヨコのうちに!!」

 

そのまま通信は途絶え、洞窟には久々に全力を振るえる戦いの興奮に、喉を鳴らすクロコダインだけが残された・・・

 

 

***

 

 

殺伐とした魔の森の中にあるとは思えないほど、ネイル村はのどかな場所だった。

 

「ミーナ!」

「お父さ~~ん!!」

 

マァムに手を引かれるミーナを見て、父親と思われる男性が飛び出してくる。

 

「え~~ん、お父さ~ん・・・」

「よかった、本当に・・・マァム、ありがとう!」

「いいのよ・・・はい毒消し草、おばさんに渡して。」

「すまない・・・」

 

差し出された袋を、ミーナの父親は申し訳なさそうに受け取った。

不思議な事に、申し訳なさそうな様子なのは彼一人ではなかった。

 

「マァム・・・お前には申し訳ないと思っとるよ・・・

この村には男手が少ないから、いつもお前に危険な事をさせるはめになる・・・」

 

この村の村長は、すっかりまがった背をさらに折るようにマァムに謝罪の言葉をかける。

 

「仕方ないわ、みんなロモスのお城を守りに行ってるんだもの。」

「ウム・・・国王が倒れてしまっては、この国もお終いじゃからのう・・・」

 

暗く沈む空気を払うかのように、マァムは元気に振る舞う。

 

「大丈夫よ!この村は私が守ってみせるわ!!

・・・それより村長、お客様よ。

ミーナが森で襲われてるのを助けてくれた旅人さん!」

「おや!?これはみっともない所をお見せした・・・!」

 

それまで後ろに控えていたポップとダイにやっと気付いた村長は、二人に向き直る。

 

「ミーナを助けていたたいてありがとうございます!」

「何もない所ですが、ゆっくりと旅の疲れを癒してくだされ・・・すぐに寝床を用意しましょう。」

 

「いや・・・そんなに気を使ってもらわなくても大丈夫ですよ。なあ、ダイ?」

「うん!俺、寝られるならどこでも平気!!」

 

村長とミーナの父親に次々礼を言われて、チョッピリこそばゆくなってる二人を見て、マァムが面白そうに笑っている。

 

「なぁに?遠慮しなくてもいいのに・・・

――あっ、母さん!」

 

集まってくる村人の中に一人の女性を見つけて、ポップ達の元に連れてくる。

 

「紹介するわ。母のレイラよ。」

「初めまして。」

 

マァムの母親だけあってなかなかの美人だが、快活な村娘のマァムと違いずい分淑やかそうな女性だ。

 

「ねぇ母さん、この二人は魔王軍を倒しにお城に行くそうよ!」

「まあ・・・!?」

 

何処から見てもお子様にしか見えない二人組に目を丸く驚くレイラ。

 

「いやあ、大した事じゃないですよ・・・!

ちょっと事情があって・・・」

 

別に照れる事でもないが美人にまじまじと見つめられ、大げさに手を振るポップの胸元を見て、レイラが何かに気付いた。

 

「貴方・・・?

ちょっと失礼、よろしいかしら・・・!?」

 

「へ・・・?」

 

そう言うとレイラはそっとポップに近寄ると羽織っている旅人のマントをめくり、その胸元をそっと覗き込んだ。

 

「あの・・・なんスか・・・??」

 

「貴方・・・アバン様をご存じ?」

 

「「えぇっ・・・!?」」

 

突然のアバンの名に、ポップとダイ、マァムの声が一斉にハモる。

 

「なんで、母さん!?」

「マァム・・・あなた気付かなかったの?

この方の胸にあしらわれた紋章・・・アバン様の、ジュニアール家の紋章よ?」

 

「・・・確かに俺達、アバン先生の弟子です。」

「ぬわぁんですってぇ~~!!」

 

ポップの言葉に目を丸くしたマァムが近づいてくると、ガバッとポップのマントをめくり上げる。

 

「おいこらっ!スケベ!?」

「・・・ホントだわ・・・」

 

レイラとは違うガサツな仕草にクレームをつけるポップに構わず、ジロジロとその胸元を確認したマァムは、そのままガシッと力強く肩を掴む。

 

「ポップ!貴方ホントにアバン先生の弟子なの!?」

「お・・おお!」

 

あまりに強く掴んでくる力と真剣な眼差しに一瞬怯むも、ハッキリと肯定する。

 

「ダイ、貴方もなのね!?」

 

「う、うん。

あ!・・・これ証拠。」

 

そういってダイは胸元にかけている『アバンのしるし』を取り出した。

 

「本物だわ・・・!」

「あらあら・・・」

 

「あの・・・話が見えないんだけど・・・?」

 

ダイのペンダントを見て何故か固まっている母娘に話しかけると、マァムはおもむろにその豊かな胸元に手を差し込み二人の持つペンダントと同じものを取り出した。

 

「私も、アバン先生の弟子なの・・・

母は・・・アバン先生と死んだ父を助けて魔王軍と戦った、元僧侶よ!」

 

「「ええっ!?」」

 

衝撃の事実発覚にポップとダイは驚きを隠せない。

 

「あれは十五年ぐらい前でしょうか・・・主人は戦士として、私は僧侶としてアバン様にお力添えをしましたわ・・・」

 

ゆっくりと語るレイラの言葉からは、かつての旅の懐かしさが滲む。

 

「魔王を倒し世界が平和になった後に、一度この村を訪ねてこられて・・・

その時にマァムを教えていただいたんです・・・もう四~五年前になりますかしら。」

「そっか・・・もうそんなになるのね・・・」

 

「・・・・・・」

 

優しい思い出を語る二人の様子に、ポップとダイは複雑な表情になる。

なにしろ二人はマァム達が決して知りたくない真実を知っているのだから・・・

 

「ところで・・・アバン様はお元気ですか?」

 

 ギクッ!!

 

さっそく確信をつくレイラの質問に、ポップはアタフタとしてしまう。

 

「え、っと・・・」

「元気ですよ!!」

 

どうやって真実を伝えようか戸惑うポップを遮るように、ダイが力いっぱい答える。

 

(ダイ・・・!?)

 

「そりゃあもう、ピンピンしてます!!」

 

「そうですか・・・それは本当に何よりです。」

 

その言葉に安心したかのように息をつくレイラ――マァムもまた嬉しそうに語りかける。

 

「そうだわ!後で貴方たちの部屋に行くわね!!

久しぶりに先生の話を聞きたいわ。」

 

「それがいいわ・・・ぜひ聞かせてください。」

 

「えっ、で・・・でも、悪いよ・・・!!」

「そ・・・そうだな!先も急ぐことだし・・・!!」

 

「なぁに!?さっきは久しぶりにベットで眠れるって喜んでたじゃない・・・?」

 

優しさから出たとっさの嘘にドンドン追い詰められるのを感じながら、ポップはどうしようかと考えあぐねていたその時――

 

 オオオオォォォンッ!!

 

森から響く巨大な雄たけびが、村の静寂を切り裂いた・・・

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