詳しくは次回伝えますが、一応ご連絡しときます。
□【探偵】 コウ
「──よし、意外となんとかなったな」
そう、油断していた時。
『GYAOOOOOOOO!』
「! くそっ、外だってこと忘れてた!」
振り返ったときにはもう遅く、俺の背後から忍び寄っていた狼のモンスターが飛び掛かってきていた。
咄嗟に右へ飛ぶが、如何せん反応が遅すぎる。その鋭利な爪に左腕を裂かれた。
腕をまるまる失うなんてことにはならなかったが、肩から肘までをボロボロにされた。HPバーが減少し、残り9割。そして、【出血】の状態異常。HPがじわじわと減り始める。
危ない。痛覚設定がONにになっていたら大事だっただろう。
急いで起き上がり、バックステップで避難。腰の後ろのナイフを即座に抜き、構える。
──が、これまで平和な世界で生きてきて、かつゲームと言えばコントローラーを使うタイプしかしたことの無い俺がそもそもナイフを十全に扱えるはずもなく。
逃げようにも、門は狼を挟んだ向かい側。更に、かなり離れている為、走って逃げるには追いつかれるだろう。
「あーくそ、あと最低8回は喰らえるけど、こんなナイフでなんとかなる相手じゃないだろうな……。俺戦闘職就いてないし。レベルゼロだし」
よし。とりあえず、負けた時の言い訳には事欠かないだろうな。
ただし、現実はそうは行かず、俺が死ぬとキャロルさんや、その他行方不明になった人達が本当に死んでしまうかもしれない。
「というか俺さ……うわっ! ……<エンブリオ>すら戦闘型じゃないのによ……ぉらぁっ!」
意外にも独り言を呟く余裕はあり、ちょこまかと避けながら、ときたま側面を斬りつける、いわゆるヒットアンドアウェイ。
交戦開始から数十分、ようやく狼のHPが半分になる。
「終わる気がしねぇ」
本当に。手応えはあるのだが、それとこれとは別らしい。
これまた意外にも回避はできていて、最初の一撃以降喰らっていない。
……まぁ、この調子なら、時間をかければいつか勝てるだろ。
そんなことを思った、それが間違いだった。
『『GYARUUUUUUU…………』』
「うっ、嘘だろ……」
更に2匹。そして、血の匂いに釣られたのか、その向こうには5匹の群れも見える。十数分もあれば当然か。
そして当然、こんな数は俺一人では手に負えない。
威嚇の鳴き声を響かせる狼は、当然待ってくれるはずもなく。3匹が一斉に、別々の方向から襲い掛かってくる。
「待て待て待て待てちょっとストーップ!」
「──
「…………え?」
俺の苦し紛れの声に、誰かが応えた。と思ったら、俺に向かい跳んだ狼3匹、全部が縦に
──瞬殺だ。
「……へ?」
「やぁやあコウくん。キミの声が聞こえたから、不遜な狼をぶった斬ってあげたよ」
そう言って俺の前に降り立ったのは、最低限の武器すら、つまり
◇
「獣風情が。──近寄るな。《
何か、恐らくはスキル名を発すると、ディルガルドさんを中心に風が吹き荒れる。その風に吹かれた狼たちは、恐怖に染まった鳴き声を上げながら逃げていった。
「……ディルガルドさん」
「なんだい?」
「今の、別に通常攻撃で倒せましたよね」
「……それを言うかい? ま、普通に倒すより、言葉1つで追っ払った方が格好いいだろう?」
「………はぁ」
そんな理由らしい。感謝はしているが、イマイチ芝居くささが拭えないのは気のせいか。
感情豊かなウルフと虹架、ルルちゃんを見たあとだからだろうか。
「ところでキミ、何をしていたんだい? ……あぁ、【探偵】をとったのか」
「だから、さらっと個人情報覗くのおかしくないですか」
やりとりは変わらず、敬いを残した軽いふざけ。
「やー助かりました。……で、ディルガルドさんがなんでここに?」
「キミの、助けを求める声が聞こえたから……嘘だって。冗談だからそんな目で見ないでおくれよ。──本当にたまたま通りすがっただけだよ」
ところで、と声をかけられる。
「死にそうだけど、とりあえず、これ飲みなさい」
「え? うわっ、HP赤っ!」
狼の攻撃は初撃以降喰らっていなかったが、【出血】によりじわじわと減らされていた。非戦闘職のレベルゼロではすぐに無くなるHP量だったのか。
貰ったポーションを使うと、HPが比喩抜きに一瞬で全快する。
「ありがとうございます。また助けて頂いて」
「いやいや。それじゃ──」
そう言って、ディルガルドさんは姿を消した。
俺が困っていると助けてくれる。どうやら、ディルガルドさんは一種の救済イベント(固定)らしい。
その後。
俺は自分の血と紛れそうになっていた血痕をなんとか見つけてはフラフラと辿り、また狼に囲まれ、襲われ、そしてまたディルガルドさんに助けられる、という流れを
「──いやぁたまたまだねぇ。じゃ!」
「『じゃ!』、じゃないんですよ」
爽やかに立ち去ろうとしたディルガルドさんの腕を掴む。
「あのすみません、毎回ピッタリなタイミングで助けて、何かアイテムを一つ恵んで、帰るのを装ってまた監視するのやめてくれません?」
「いや、ボクは別にそんなことしてな──」
「『嘘』、ですね」
「普通フレンドに《真偽判定》使うかい!?」
今の俺の装備は、《50以下ダメージ無効》の付いた革鎧、《獣特攻》の付いた短剣、そして、今貰ったのは【ジェム】と呼ばれる、魔法職以外が魔法を使う為の使い切りのアイテムが数個。中身は火属性上級魔法の《ヒート・ジャベリン》。威力はもちろん、狼の群れ程度オーバーキル。
ちなみに、鎧にさえ当たればノーダメージ、短剣で斬りつけると消滅するように一撃死。【ジェム】に至っては、威力を見た瞬間、物騒過ぎて捨てようかと思った。
「過保護にも程があるでしょ!」
「そう言いながら、ちゃっかり鎧も剣も装備してるじゃん」
「うっさいわ!」
からかわれるのも癪なので、装備を外してきっちり返す。なお、【ジェム】だけは消耗品だしあげるよと言われたので渋々貰っておく。
「──で、なんでこんなにストーキングしてるんですか?」
「傷つくなぁ。ボクはただ、君が追ってるのが血痕だったから気になっただけだよ」
二十歳前後(外見から)だと思われるディルガルドさんは、年甲斐も無く『事件の調査』に興味津々らしい。
「──で、その血痕、どこに繋がっているんだい?」
「え? あぁ、その先です」
指差す先には…………。
「あれって…………要塞?」
その先には、紛れも無い要塞があった。血痕はその手前で途切れているが、これまでの方向的に、そのまま進めばあそこに辿り着くことに間違いは無い。
その要塞は一軒家以上の大きさがあるが、森の手前に建てられており、苔むした見た目からして風景に溶け込んでいるのもあって、側を通りかかるだけでは見つけ難いだろう。
「なんだろ……。要塞っていうか、砦みたいな見た目だな」
「砦ってことは、傭兵の根城だったりするんじゃないかな」
「入り口が何処か分からないけど、ちょっと声掛けて入ってみましょうよ」
ザシュッ。ガラガラガシャーン。分かりやすく岩が崩れる様な音。
「頼もー」
「ばっ、ディルガルドさん! 人が居たらどうするんですか!」
開口一番、手を振るったディルガルドさんの延長線上の要塞の壁が切断される。
言うが早いか、といった感じで。近づいたと思ったら歩みを止めることなく中に侵入していった。
「大丈夫かよ……」
と、要塞の中に足を踏み入れたディルガルドさんの足に、その体を覆うほどの蔦が絡みついた。
「蔦!? だ、大丈夫ですか!?」
「? 蔦がどうかしたかい?」
足に絡まった極太の蔦、それが一切合切、スパスパと切り刻まれた。
まるで布か紙切れの如く。いや、始めから蔦なんて無かったかの如く。
そしてやはり、切り刻んだ本人と思われるディルガルドさんの両手に刃物らしき物は見られない。
もしや……手刀?
そんな阿呆なことを考えていると、真面目な声がかかった。
「コウくん」
「はい?」
ディルガルドさんの声音が少し低くなっている。
まるで警戒しろと言わんばかりだ。
「<エンブリオ>だ。TYPE︰フォートレスか、ラビリンス。中に複数人の気配もする」
「<エンブリオ>? それに、ラビリンス……」
「なんにせよ、こんな怪しい建物がフィールドにある時は、迂闊に近寄らない方が良い。大抵は入るか触れないと効果は無いが、
言った傍から、俺に向かって先程と同じ蔦が伸びてきた。さっきは分からなかったがかなりの速度で、先の狼より遥かに速く、
「ほっ……っと」
「えぇ……。これが戦力差かぁ……」
「? 何か言ったかい?」
何はともあれ、血痕の先にこの要塞があった以上、ただの行方不明事件ではないらしい。いや、ただの行方不明事件なら良い訳ではないが、ただ、モンスターに襲われた程度ならマシ、というだけ。
<エンブリオ>に囚われたティアン。──つまり、プレイヤーの悪意。
悪寒がして、心臓が早鐘をつく。
けれど当然、人間は人間を食べない。ならば襲う理由は無く、ならばその行いは悪意故である。
俺を案じてくれたのか、さっさと中へ突入したいのかは分からないが、ディルガルドさんの顔は涼しげだ。軽く嗤ってから、俺の肩に手を置く。
「まぁまぁ。確かにこの要塞の中ではMP効率が究極に悪いし、蔦に捕まれば徐々にHPを吸われる。けど、あえてボクはキミに問う。──『だからどうした?』と」
伸びる蔦。四方八方から迫る植物の壁は、しかし目の前で、捕まる寸前で八つ裂きに。命を持たない傀儡の植物は、学習もせず何度も挑んでくる。そしてそれを、やはり見向きもせずに食い止めて……いや、押し返している。
この蔦がHPを吸うものなのなら、中の人たちも無事かは分からないだろう。
急がねば。
「ディルガルドさん、捕まった人はどこに?」
「おかしいな……。中に居る人影、てっきりティアンかと思ったけど、武装してるようだね」
首を傾げる。突如フィールドに現れた怪しい<エンブリオ>の要塞、中には捕らえることに特化しているだろう蔦。これで何か疑うことが?
「え? そりゃキャロルさんは衛兵だって言ってたし、鎧の一つくらい着てるんじゃないですか?」
「いや……これは……」
直後。
「おうおう。なぁーに
奥の階段から、人が降りてくる。
そいつは、山賊の様な格好と髪形で、ひと目で毒とわかる紫色に光る刀を持ち、俺達を上から見下ろして──
「「──え?」」
男と俺の声が重なる。
なぜなら、階段を降りてきた男の、その全貌が露わになった瞬間に、腰を両断されて伏せたからだ。
「うるさい下郎。ボクの前で口を開くんじゃない」
「斬った? え斬った?? 今ディルガルドさんが斬ったんですか!?」
どうやら、ディルガルドさんが顔を見た瞬間にぶった斬ったらしい。
それにしても、狼に襲われているときから見ていたが、ディルガルドさんがどうやって物を斬っているのかが分からない。もしくは、俺のAGIが引くすぎて抜刀が見えないのだろうか。
男の、下半身と泣き別れした上半身が崩れ落ちる。
男は最後まで何が起きたのか解っていないようだったが、やがて光の塵となって消えた。
というか下郎って……。狼の時のセリフと今のセリフ。もしかすると、ロールやカッコつけではないのかも──?
「……で! 何早速喧嘩売ってるんですか!」
「口上がいかにも悪者だったから。つい」
「いやまぁそうなんですけど……」
確かに、明らかに悪者だったから良かったものの、相手が誰だろうと突然ぶった斬られたら驚くので心臓に悪い。
そして、その<マスター>はこの<エンブリオ>の持ち主だったらしく、要塞全体が光になって消えていく。
「おぉ……。終わった、のか? ──うわ……」
「……ホラ。だから、ボクはおかしいって言っただろう?」
二階建て以上の要塞が消える。つまり、上の階にあるモノが落ちてくる。
「野郎どもっ! かかれぇ!」
降ってきたのは、15人以上の男たちだった。
……切る場所に困った。
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《恐扇挑発》(デッド・オア・バーサーク)
■■■系統のジョブスキル。
怒気を込めた風で相手を煽り、一定以下のレベルのモンスターに状態異常【恐怖】を付与。一定以上のレベルのモンスターは【恐慌】を付与する。【恐慌】は、モンスター版の『フィジカルバーサーク』で、攻撃以外の一切の行動(逃走、様子見、フェイントなど)が出来なくなる。あの狼は初心者向けの雑魚なので、尻尾を巻いて逃げていった。