自由な世界の探偵事務所   作:水無月 驟雨

13 / 20
意外と一週間かからなかったよ


ウルフの気遣い

 □【探偵】 コウ

 

 

 ディルガルドさんと喋っていると、奥で人から話を聞いていたウルフが戻ってきた。

 収穫無し、という訳ではなかったらしく、ウルフのその足取りは決して重くない。()()()()()()()()

 

「どうだった?」

 

 ちなみに、聞く内容を特に指定してはいなかった(というかその前に勝手にウルフが走っていった)が、その辺はキチンとしていたらしい。

 

「確信とまではいかにゃかったけど、幾つか使えそうな情報はあったから貰ってきたにゃ……」

「──へぇ、すごいな」

 

 そう言って、ウルフは紙を数枚実体化させ、おずおずとこちらに渡してくる。……ん? なんか元気無いようだが、なんかあったのか?

 

 まぁウルフはさておき、一先ずそれら(紙束)にざっと目を通す。内容によってはもう一回俺が聞き直してこようかと思っていたが、これなら大丈夫。捜査が進むかは調べてみないと分からないが、決して無駄ではない。

 

 ──と、ウルフが上目でこちらを(うかが)っていることに気付いた。

 声をかけるとすぐ目を逸らし、伏し目がちに、そして勿体ぶって「ん〜」と繰り返す。

 

 次第にまどろっこしくなってきたので、軽く肩を叩いて先を促す。

 

「おい、どうした?」

「……いやー、あのさ──」

 

 言い終えるより早く、先程ウルフが戻って来た方向から女の人──<マスター>だ──が出てきた。

 その人は俺の前で立ち止まると、こちらに向き直り、「よろしくお願いします」と言う。

 

 

 ────────ん?

 

 

 よろしくってどういうことだ? 協力するのか? てか誰?──と俺が脳内で目を回していると、この人に関係あるらしいウルフが先程より深く俯きながら、こう言った。

 

「さっき探し人だって言ったら、『名前とメインジョブが分かると()()()()()()()()()()()()()()>』()()()()()んだにゃあ………」

「……あー、それは……そうだな」

 

 その能力があればどうなるか。──キャロルさんが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは確かに……なんと言うか、心に来る。なぜってつまり、ロズレアさんに依頼されたのは俺なのに、結局他人を頼って解決するからだ。

 ……いや、解決するのは良いことだが、俺の推理(とも呼べない考察)や襲撃されたことが完全な無駄になってしまうから、というエゴもある。

 

「あー、そうか。千差万別の<エンブリオ>なんだから、そりゃ人探し用に使える能力持ったやつもあるよなぁ……」

 

 この世界に来たばかりで無知だった、というのは言い訳にならない。そもそも、人の役に立つのが目的なんだから、功績は誰が持っていこうと良いではないか。

 

 女の人は話が既に通っているものだと思っていたのか、話についていけていないようだ。「私はどうすれば……?」という風。

 女の人には視線だけで謝っておき、ウルフに向き直る。

 ウルフはいかにもすまんと言った感じで未だ俯いている。俯きが深すぎて、もはや謝罪などのお辞儀のレベルだ。

 

 俺はなんと言えば言いのか迷ったが、この場はとりあえず、ウルフに最低限のことは伝えなくてはなるまい、そう思い口を開く。

 

「まぁウルフ、顔上げろよ」

「……ごめんにゃ。オニーサンの努力無駄にしてしまったにゃ……」

「あー、なんつーか……。やたら気に病んでるみたいだけど、俺は別に、解決までの経緯なんて気にしてないからな? キャロルさんさえ助かれば良いんだ。だから、最善手である人探し向きの<マスター>を連れてきてくれたお前は正しい」

 

 多少誇張強がりが入ったしなんか上から目線の言い方になったが、まぁ嘘ではないし、そんなことを気にするウルフでもない。

 ウルフが俯いていた頭を上げ、なおも遠慮がちに俺を見るので、目だけで大丈夫ともう一度伝える。

 

「──ま、まぁ……? ウルフ便利な子だし? オニーサンなんか要らないのにゃあ!」

「調子良いよなぁ……」

 

 先程までの遠慮はどこへやら。まるで有り余ったエネルギーを放出する幼稚園児の如く腕を突き上げる。

 復活した途端この元気っぷり。いささかげんなりもする。しかし、何度も言うが、ウルフはこうなので良しだ。むしろ、絶好調でとても喜ばしい。

 

 さっきと同じく、ディルガルドさんが俺の横にそっと寄り、囁く。

 

「──やっぱり、懐かれてるというか、もう兄妹(きょうだい)みたいだね」

「それは無い」

 

 自分でも驚くほど、無意識無感情で即答した。まぁよく考えた上でも、コレが妹はお断りなんだが。

 

 元気な妹は一人(虹架)で十分なのだ。

 

「ちなみに、キミ達なら姉弟の可能性も少しあるかな」

「それも無いでしょうよ」

 

 またも即答で答える俺だった。

 

 

 ◇

 

 

 ほとんど空気だった女性の<マスター>に話の矛先が向いたのは、それから5分後。

 決して(ないがし)ろにしているわけではないのだが、関係を拗らせる訳にもいかないので、ひとしきりご機嫌なウルフをそこはかとなく褒めながら沈んだ空気を直そうとしていたのだ。そのせいで時間がかかった。

 

 ただ、それが何かの琴線に触れたらしく、女性は分かりやすい仏頂面で、俺達の茶番を呆れつつ見ていた──らしい。

 

 『らしい』というのも、結局は俺も空気な彼女を忘れていたからだ。ディルガルドさんに催促されてようやく思い出した。

 

 (ディルガルドさんとは違う意味で)感情の見えないその女性は、ようやく話が再開すると見るや否や、淡々と自身の<エンブリオ>の説明を始めた。俺には余程話を早く終わらせたい様に見える。

 空気と言えば、ディルガルドさんもなかなか空気なのだが、もとから絡みづらく、その上放置してもずっとニコニコしているような人なので特に問題は無いと判断した。謝りはしたが。

 

「──じゃあ、結局最初の説明通り、名前とメインジョブが分かれば場所が分かるんですね?」

「はい。そうです。範囲はこの隣国がギリギリ入る程度程度ですが」

「十分です。……多分、そこまで遠くには行ってないと思いますし」

 

 言い方はあれだが、ただの衛兵なのだ。馬や飛竜なんかに騎乗していたわけでもないし、いくら他者の介入があったとしても、そう遠くには行っていないだろう。少なくとも王国は出てない。

 

「では、準備しましょう」

「あ、あの!」

「……なんですか?」

 

 俺が呼び止めると、女性が振り返る。その顔は依然仏頂面。やはり怒り心頭なのか。

 能面の様な顔が怖いが、もう一度キチンと謝るべきだろう。

 

「先程は……せっかく来て頂いてるのに放置して、その……すみませんでした。──ほら、ウルフも」

「あ、わわ。……ごめんなさい……にゃ」

 

 絶対ネコ語尾は外さないのかよ! 誠意無いだろ!

 そんなことを思ったが、デンドロ歴1年以上のネコ語尾ロールは堅いらしく、こんな時ですらウルフはブレない。メンタルは弱いらしいが。

 そのことで怒られるかもとか思ったが、幸いにもそんなことは無かった。けれど、すんなり許して即和解という風でも無く。

 

「……これで許さないと、私が悪者みたいじゃないですか」

「い、いえ! 決してそーゆーつもりは」

「──別にぃ? 目の前でイチャつかれて? 昨日フラレた彼氏を思い出して嫉妬したわけじゃないですしぃ?」

「「え、あ、はい(にゃ)」」

 

 2人揃って平身低頭、さっくりと謝罪したのだった。

 別にイチャついてないですよとか、何かあったんですかだとか、そんな応答をしている場合ではない。

 ただただ、ステータス差とか関係無く、謝らなければ死ぬ。そう本能が指示し、一瞬の内に腰から上体を90度折るキレイな謝罪。

 

 何か言いたげな女性だったが、結局穏便に済み、今度こそ手伝ってくれることになった。

 

 その後<DIN>の拠点の、使っていない部屋を借りて女性の<エンブリオ>のスキルを発動してもらう。

 

「名前は【キャロル・バーグ】で、メインジョブは【騎士】です」

「了解しました…………『僕たちはここだよ(ヘンゼル・グレーテル)』」

 

 ヘンゼルとグレーテル。聞いたことあるタイトルだし、恐らくそれが、必殺スキルというものなのだろう。その<エンブリオ>の名を冠した、最強最大のチカラ(スキル)

 俺なら『スティクロー』か。……なんか、ピンとこない。

 

 

 ◇

 

 

 さっき現実へ戻った際、俺の<エンブリオ>の銘について少し調べておいた。

 スティクローというのは、ロシア語で硝子を意味する単語。ただし、『硝子』は別に偉人でも神話でもなんでもない。ではなんなのか。

 

 更に深く検索すると、なんと日本の作品、あの『明智小五郎』が海外へと渡ったされた際、こう訳されたのだとか。──すなわち、『スティクロウ(メガネ)』と。

 まだ眼鏡というモノに共通の単語が無く、そして硝子が貴重だったが為の呼び方。

 日本語に訳せば『硝子探偵』といったところか。不自然だが、訳とはそういうものだ。

 

 ──そしてもう一つ。それは『怪人二十面相』。

 鍵の解錠などに重宝された片眼鏡(モノクル)。盗みに入る際にそれを着用していたと言われていた怪人。以降、数々の作品にて怪盗の代名詞となったそれ(片眼鏡)は、確かに怪人二十面相にこそ相応しい、とネットにはあった。

 とにかく、眼鏡や硝子ではなく『スティクロー』としてなら、ヒットしたモチーフはこの2つだった。

 

 この<エンブリオ>のモチーフがどちらかは分からないが、片眼鏡ではなく、普通のよくある両眼鏡なので明智小五郎が有力だろう。その場合、なぜ<エンブリオ>の名前が『アケチ』にならなかったのか。

 

 

 ◇

 

 

「──いや、それだったら明智光秀(ミツヒデ・アケチ)と被るか」

「? どしたにゃ?」

「いや、別に。考え事だ」

 

 気にはなるが、少なくとも今考えることではない。本当に下らないことだったので、考えを一時中断し、女性の<エンブリオ>に目線を戻す。

 すると、下らないことを考えていた間に、俺達の目の前に凄いもの(光景)が広がっていた。

 

 体の前に集まった無数のお菓子が次々と重なり、絡み合い、この国の形を象って行く。初ログインから数時間なので当たり前だが、行ってない場所がたくさん見える。

 王城もロクに見た記憶が無いし、フィールドも先程まで居た所しか知らない。……まぁ、それらは全てお菓子で組まれているのだが。とにかく王国のマップらしきものが、大量のお菓子で再現されていた。それらを俺に見せつけるように、王都を中心にどんどんと地面が広がる。

 すると、ある瞬間、マップの拡大が止まった。そして、その端の一箇所に、某チョコのかかった棒菓子が積み上がった塔が生まれた。

 話の流れ的に、そこにキャロルさんがいるのだろう。

 

 ふとその光景を見て、「俺が推理して、見つけて……なんてご都合主義な展開は無いんだな……」と少し思った。まぁ、何度も言うが、見つかるのなら何でもいい。ただ、自分()が受けた依頼を他人に任せるのは少し……嫌だ。ルルちゃんを助けると誓ったのは俺なのだから。

 

 ともあれ、それはわがままというものだ。現実は厳しいと、それだけ覚えておこう。

 それにさっき、ウルフに解決の経緯は気にしないと大見栄張ったところだ。どのみち、うじうじ考えるのは俺に合わない。

 

 ──と、女性は出来上がったそのお菓子の塔を指差し、ふぅと息を吐く。

 

 

 

 

 

「王都の北の〈ノズ森林〉。そこにあなた達の探し人は居るわ」

 

 




考えていたシナリオを壊してまで主人公に活躍させないなんて、作者の鑑ですね。
嘘です最低ですね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【■■■■ ヘンゼル・グレーテル】
TYPE:キャッスル・テリトリー
モチーフ:お察し
能力特性:位置特定(人探し)、情報開示

今回使用された必殺スキルには下位互換のスキルが存在する。
キャッスルはお菓子の家。そんなに大きくない。火に弱いが物理に強く、一定のSTRがあれば美味しく頂ける。味は普通に美味い。
テリトリーでは周囲の人間の探知。名前とメインジョブを知っている必要があるが、サブジョブでも探せる。ただし、屋根の下に入られると見つけられない程に精度が下がる。居場所の特定、また対象の簡易ステータスの開示など、見えない場所等遠距離からの看破を可能にする。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。