自由な世界の探偵事務所   作:水無月 驟雨

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更新が課題ばかりの生活の中のモチベになりつつある。

※ディルガルドさんのステータスがバカみたいだったので数ヶ所下方修正しました。なんだよSTRが19万って。


鹿樂駆輪と行軍(?)

 □【探偵】 コウ

 

 

 女性にお礼を言って別れ、外に出る。場所は〈ノズ森林〉。当然知らない地だったが、ベテランプレイヤー2人(ウルフとディルガルドさん)によると、いわゆる初心者向けな狩り場だそうだ。

 門を出て真っ直ぐ行けば着くらしいので、キャロルさん達が居ても不思議ではない場所らしい。

 まぁ、いくら初心者向けとはいえ…………()

 

 居場所も分かったし、ならばとにかく急ごうという話になった。

 救出に向かうにあたり、とりあえずパーティというものを組んだ。ウルフが多少なりとも嫌がったりすることが予想された為、先にウルフをパーティに誘った後、しれっとディルガルドさんが加入した。

 パーティに人が加入すると、簡易ステータスが視界に表示される。主にHP、MP、SPと、後は状態異常。戦闘に関係ないものなら、合計レベルも見ることができる。

 

「うわっ、合計レベル800超えってさぁ……」

 

 埒外の数字に俺が溜め息を吐くと、聞こえていたのかなんともなさそうに答えた。

 

「ティアンの野盗とか指名手配の悪党(ヴィラン)とか、よく殺しているからね。どうやらティアンは経験値効率が良いらしい。……あ、流石に無関係な人(犯罪者じゃない人)までは殺さないから安心して」

 

 安心できないんだよなぁ……。

 というか、ウルフに聞いた話から思うにこの人、殺人でも果実1つ盗んだ程度でも等しく八つ裂きにするんじゃなかろうか。

 

 もうダメだ。ディルガルドさん(この人)といると常識が崩れる。「ゲームだから」とか「ティアンだから」とか、色々が。

 ……なんか前にも同じこと思ってたな。

 

 早々に話を切り上げ、俺が〈ノズ森林〉へ向かおうと声を掛けようとすると、寸前でウルフに遮られた。

 

「──ところで、オニーサンAGIいくつにゃ?」

「んっと……、1()9()

「話にならんのにゃ……」

 

 呆れられても困る。そもそも戦闘職じゃないし、レベル4だし。俺の<エンブリオ>のAGI補正もFだ。大して伸びやしない。

 ……分かっていただろうに。

 一抹の不満を覚え、じゃあと口を開く。

 

「っ……。ウルフはどうなんだよ」

「8000弱にゃ。なんせAGI特化だし」

「ボクは25000(その3倍以上)あるね」

「オマエには聞いてないにゃ」

「急ごう!? ほら、ウルフも突っかかんな!」

 

 ウルフがディルガルドさんに絡むから、俺がツッコミになる羽目になったじゃないか……。

 まぁそれは別に良いが、今は急ぐ時だ。ふざけていられない。

 

「急ぐもなにも、キミ(コウ)がいるから平均の速度が下がるって話で。あぁ別に責めてないよ」

「え……じゃあ、どうすればいいんですか?」

 

 流石に、ここにきて待ちぼうけは遠慮したい。

 

「ふむ……、ボクが2人抱えて()()()()?」

「……え、走るんじゃなくて?」

「いけるいける。多分ギリギリ音速くらいじゃないかな」

「なんでこんな人が俺の横に立ってるんだろ……」

 

 移動方法について話し合っていると(取り敢えず走れよと思うが、俺の走る速度と迷う時間で比べれば正直誤差)、妥協案なのか知らないが、渋々といった様子でウルフが溜め息を吐いた。

 

「ウルフはコイツに抱えられるなんて御免にゃ」

「お姫様抱っこが良い?」

「代わりにこれで行くにゃ」

 

 ディルガルドさんを華麗にスルーしたウルフが紋章を光らせる。一瞬目が眩み、目を開ける。──とそこには、一匹の鹿()がいた。

 

「……鹿?」

 

 疑問に思ったのは、その鹿が機械で出来ているからだ。牡鹿(オス)らしく、立派な角や体躯が見えるが、よく見ると瞳の輝きなど、どことなくメタリックな感じがする。

 それに何より、後脚部の一対は大きな車輪になっていたからだ。前足は普通だからか、尚の事違和感がすごい。

 例えるなら、前に馬、後ろに客車のある馬車をこう……ギュッと詰めた感じ。

 ウルフが「《偽装解除》」と呟くと、その体を覆っていた毛皮が消え、予想通りメカメカしい見た目の鹿になった。車輪があって普通の鹿には見えなかったし、何に対しての偽装なのかは知らないが。

 

 と、そこでディルガルドさんが興味深げにウルフに聞く。

 

「機械の鹿……? これ、喩えるなら()()鹿()ってところかい?」

()()にゃ。これがウルフの<エンブリオ>の【鹿樂駆輪(からくり) ケリュネイア】にゃ」

 

 へぇー、これは凄いな。……そういえば、自分から<エンブリオ>は鹿だと言っていた気がする。今度からコイツのことを1人動物園とでも呼ぼうか。

 というか、ファンタジーで機械ってありなのか。──ありだな。機械の国(ドライフ)とかあったし。

 

「つーわけで、オマエ等これに乗るにゃ。本来は2人乗りだけど、ディルガルド(アイツ)の馬鹿ステータスがあるならまー大丈夫だろーにゃ」

 

 よくわからないが、ウルフの手招きに合わせて【ケリュネイア】が寄ってきて体を低くしたので言われた通りに跨る。前からウルフ、俺、ディルガルドさんの順番だ。多少狭いが、喧嘩されるよりはマシ。

 

 ウルフが肩越しに振り返り、ディルガルドさんを見て、

 

「おいナンバー5(ディルガルド)

「なんだい?」

()()()(了承を取る)」

()()()(乗り心地が)」

「よし。《鹿の速さ鳴神の如く(コントローラー・ミラー)AGI(アジリティ)》」

 

 なんか問答をしだした。そして、ウルフがスキル名らしき言葉を言うと、一瞬ピカッと【ケリュネイア】が光る。

 

「ウルフ、何したんだ?」

ケル(ケリュネイア)にウチらのA()G()I()()()()()のにゃ」

 

 指を跨っている【ケリュネイア】に向け、その後で自分(ウルフ)と、俺の後ろのディルガルドさんを指す。

 

 えーと、つまりなんだ?

 

 ウルフが出発の準備をしているのを見ながら困惑していると、ついついとディルガルドさんが肩をつついてくる。そして、俺の目の前に開かれたのはディルガルドさんの……ステータス画面。

 見ていいんですかと目で聞くと頷かれたので覗き込む。

 

 (……にしてもバグった様なステータスだな……ん? さっき25000あると言っていたAGIが、ゼロになっている……?)

 

「──あー、そういうことか」

 

 やっと理解できた。つまり、さっきのスキルで、ウルフとディルガルドさんのAGIを【ケリュネイア】に譲渡したのか。てことは今【ケリュネイア】のAGIは3万超え。なるほどそれなら、3人纏めて音速以上の速度で移動でき──

 俺の感心は、最後まで続かなかった。

 

「じゃ、出発するにゃ。──うわわっ!!」

「──おわっ!?」

「〜♪」

 

 ──出発したその瞬間に、全ての景色が一瞬で後ろに流れた。

 その現象が【()()()()()()()()()()()()()()起きたものなのだと理解するまでに、かなりの時間を要した。

 

 【ケリュネイア】の速度は凄まじく、建物、人、門をくぐり抜け平原を走り、モンスターまでもあらゆるものが、認識した頃には遥か後ろにあるほどだった。

 だいぶ今更ながら、街中で使ったせいで人を()ねたりしてないか心配になったりしたが、飛ばされないのに精一杯でとても背後を見る余裕は無い。ただ、【ケリュネイア】は生き物(機械だが)なので自動操縦らしく、俺達のように速度に怯んだ様子も無いので多分大丈夫そうだ。

 

 ウルフは立派な角を操縦桿の様に掴んでいるが、俺は何も掴むものが無い。後ろのディルガルドさんはびくともしてないので背中を預けることは出来るのだが、それでも横に落馬──落鹿する可能性があって怖い。

 

 〈ノズ森林〉が近いのか、木々が増えてきた。当然俺達もカーブや方向転換が多くなり、そうすればまた当然、圧倒的なスピードに振り回される。

 

「えっ……!? ちょっと待て、曲がんな曲がんな遠心力仕事しなくてだいじょぶ……ばッ──!」

「に゙ゃ゙っ゙!?」

 

 振り回されて体が横に傾く。──いや、穏やかに言い過ぎた。キチンと伝えるなら、吹き飛ぶ一歩手前、だ。

 しかたない(妥協ではなく諦め)ので、すぐさま急いで目の前のウルフの腰を抱える。急いでと言っても既に周囲は知らない地形だったが。

 俺が急に捕まったせいなのかウルフがガタッと震えた気がしたが、そんなことを気にする余裕は俺には無い。そもそも、慣れない速度だからなのか、この<エンブリオ>の持ち主であるはずのウルフすらも落ちない様に必死だ。

 

「──うん、ボクが自分で走るのとはまた違う爽快感があって良いね」

「なんでそんな余裕あるんですか!!」

「ボクが翔ぶ時はこれより数割速いね」

「AGIとは一体何だ! 速度の指標壊れてる!」

 

 さっきまで口笛を吹いていたディルガルドさんが明るい声を出す。

 この<エンブリオ>(ケリュネイア)のAGIはディルガルドさんのプラス、ウルフのAGIのはずで、それなら普段のディルガルドさんより速い。それも、数字にしておよそ8000。ちゃんとは解らないが、そう簡単に覆る数字でも無い筈だ。

 意味がわからない。

 

 あぁ、なるほど。喋ったり考える余裕はあると思えば良いのか。無理だ。死にそう。

 

 そうして、もう少しで〈ノズ森林〉に到着というところで──ディルガルドさんが突然、声を荒げた。

 

「──ッ、すまない! ちょっと降りさせてもらう。あとで必ず合流するから!」

「え──? え!?」

 

 それはいつも余裕そうなディルガルドさんの、初めて聞いた焦燥の声音。文字通り何かへ急いでいるような、鬼気すら感じる声だった。

 ただ風でよく聞こえなかったが、「降りるとか聞こえた様な……」と、振り返ったときには既に遅く。この高速の移動中に()()()()()飛んでいくディルガルドさんが斜め右後ろの方向へ向かっていった。

 頑張って肩越しに見ると、盗賊らしい集団に囲まれた馬車が。

 

 ウルフが悪い奴はすぐ殺すと言ってたのを思い出した。つまりは、善良な市民を害する存在絶対殺すマンといったところか。

 

 

 ……

 …………

 …………………にしたってさ。

 

「でも今降りなくてもいいじゃん!?」

「にゃ!? どしたにゃ!?」

「あの人馬車助けに降りた!」

「にゃぁ!? 降りた!?」

 

 

 俺は後ほど知るのだが、この【ケリュネイア】のスキル、『乗っている人間のステータスを【ケリュネイア】のステータスに変換する』というスキルらしく、つまりディルガルドさんが降りたらどうなるかというと。

 

 ──突然、超、物凄く、急に減速する。

 

 一気に25000近く減った【ケリュネイア】のAGI。速度にして、音速から亜音速未満まで唐突に下がるほど。

 王都からここまで、俺とウルフは体感数秒で〈ノズ森林〉に到着。──そして、急減速した【ケリュネイア】ごと、慣性により吹き飛んで不時着した。

 

 

 ◇

 

 

「──降りる前になんか言えよ! 比喩抜きでリニアが亀になるレベルだったわ!」

「うっ…うっ……。しばらくケルに乗るのトラウマになりそう……にゃ……」

 

 落下ダメージで死にそうになった俺(貰った鎧でENDを上げていなければ死んでいた)と木に衝突し同じく死にかけた【ケリュネイア】、そして地面に座り込み泣いているウルフ。一先ず【ケリュネイア】を紋章に戻し、泣いているウルフをなんとか(なだ)める。

 昔から虹架を宥めていた経験があったからなのか、はたまたウルフのオーバーリアクションだったのか、意外とすんなり泣きやんだ。

 

 なんとか〈ノズ森林〉に着いたは良いが、どこから探したものか。

 

 ──と。

 

「──にゃ? あれは……?」

 

 ふと、森を見たウルフが何かに気付き、声を出した。




ケリュネイアのストーリーはめちゃくちゃ速い(弓矢以上)くらいしか無かった。いやあったけど、落とし込みにくいのは確かでした。

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