自由な世界の探偵事務所   作:水無月 驟雨

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センスあれなんでタイトルはオーズ風に行きます


救出と答え合わせと脱出

 

 □【探偵】 コウ

 

 

「──なんか今更なんだけどさ」

「──コイツ、半端じゃないか?」

 

 そう、俺は言った。

 

「にゃー、んにゃ?」

 

 ……イマイチ伝わっていなさそうだったので、質問を変えて再度問うてみる。

 

「んーと……お前にとって、〈UBM〉ってなんだ?」

「『運営のペット』、『〈超級〉の肥やし』、『一家に一台特典武具』、『どんな能力でも結局迅羽には勝てないヤツ』、『災禍の化身ク○ム・ディザs…」

「分かった分かったなんか分かんないけどヤバイのは分かった」

 

 『災禍』で回答として十分ではある。強さを表す単語後半にしか出なかったけど。

 つか迅羽は誰。

 

 ……とりあえず、俺から見てすごいウルフにとっても強い、というのは分かった。

 

「でさ、聞いた話によると街すら壊滅させうるレベルの強さの〈UBM〉が、こんな弱いことある?」

 

 そう聞いて、ウルフは首を捻った。何を言っているんだとでも言うように。

 

「弱い? 十分強くて…………あー」

「なんかさ、確かにレベルひと桁の俺からしたら強いけど、ある程度の強さ持ったプレイ……〈マスター〉なら、『()()()()()()()()()()()()()()()()なんだよな」

 

 たまたま聞いたヤツが全部強い能力だっただけなのかもしれないが、『村を数個潰したヤツ』や『首都にクレーター作ったヤツ』というのが居たらしいので、それに比べると【イルミラージュ】は弱すぎる。

 現に、今のウルフは完全に攻撃を察知していなしているし、もう対処出来ている段階だ。倒せてこそいないが、苦戦はしてない。

 

「……確かに」

 

 ウルフが合点したように賛同する。勢い良く頷くウルフ。それを見つつ続ける。

 

「見えないし当たんないけど、コイツの戦法がカウンターだとしたら弱すぎる。なんせ、【竜鱗】があったとはいえ、俺1人殺せないんだしな。さっきウルフに会いに行く前、推定レベル10とかの野良オオカミに襲われたんだけど、クリーンヒットしない引っかき傷で1割持ってかれたぞ」

「それに比べて【イルミラージュ】は?」

「軽減抜きで腹にクリーンヒットして60割」

 

 「めんどーな言い回しすんにゃ」という目で見られたが、とかく素人目に見ても【イルミラージュ】がおかしいのは変わりない。

 

「〈UBM〉って俗に災害級モンスターらしいし、オニーサンが言ってる通りなら、確かにちょっと攻撃力低すぎんにゃあねぇ……」

 

 「低すぎんにゃあねぇ」こそどんな言い回しだよとは思うがそこではない。

 

「な? コイツ、隠蔽特化にしてはヘボいし、カウンター戦法とるモンスターにしては攻撃力低すぎんだよ」

「そんで、各種能力が低い割に戦闘技術もそこそこでしかない、と」

「そりゃ俺には分かんないけど、そゆこと」

 

 当然現代日本人&学生の俺には戦闘の技術など分かりやしないが。いや、カンスト<マスター>のウルフなら、仮に母国が平和でもこのゲームだけで研鑽を積んできたかもしれないのか。

 

「むむむ…………。──ところでこの話する前、このモンスターは霧そのものが本体とか言ってたかにゃ?」

「お? おう」

 

 唐突な話題の転換に一瞬驚いたが、ただ、唐突であっても突飛でないことは分かる。なにせ、そもそも俺が振った話題だ。

 

 ウルフは大仰にため息をつく。思い出してやれやれといった具合に、

 

「結局さぁ、たとえコイツ(【イルミラージュ】)の攻撃力低くてオニーサンが耐えれる威力でも、ウルフたちが決定打持ってない時点で勝ち目無いんよにゃあ……」

「そ ん な 気 は し て た」

 

 ……というかそれ以前に、霧が本体だと仮定し、合っていたところで、ならばどういう対処法を採れば良いのかがまず分からない。

 

「対処法は、あるにはあるにゃ」

 

 そこはさすが先輩、キチンと記憶しているらしい。

 

「ほほう、聞かせてくれ」

「にゃ、まず魔法」

「もう【ジェム】無いぞ」

「耐性無視攻撃」

「攻撃系のスキル無い」

「通じるなら窒息死とか圧殺狙い」

「それできるのもう魔法なんだよな」

「…………」

「あとは?」

 

 一拍。

 

「思いつかにゃいッ!」

「だと思った!! 詰みだなうわーほんと嫌だ!」

 

 時折襲いかかる透明な攻撃を、どういう訳か察知しているウルフに守ってもらいつつ作戦会議を続ける。ただ、偶然かもしれないが、さっきも推理を話した途端攻撃されたし、もしかしたら人の言葉が解る可能性がある。その場合作戦も何も全て筒抜けだが……。

 

(──まぁ、実のある話はしてないので今は良しとしようか。癪だけど)

 

「やっぱりこれ、救出だけしてさっさと逃げようぜ。いくら負けなくても勝ち目が無い」

「そうだにゃ」

 

 というか、この作戦自体さっきも出たんだが、俺が目の前のウルフを優先したせいでおシャカにしてしまったのだったか。まぁ、普通に考えてもこれが最良だろうし。

 

 よし、これからの方針はきまったが、ところで俺には、【イルミラージュ】の正体や撃退方法の他に気になることがもう一つある。

 

「おいウルフ、さっきから攻撃捌きまくってるけど、見えないまでも相手の行動が把握できてるって見ていいのか?」

 

 見た感じウルフは一撃も被弾していないし、そういうスキルでも持っているのだろう。

 と、思っていたのだが────

 

「──いや、勘」

「…………じゃあ俺がキャロルさん見つけてくるから、頼むわ」

「なに今の間は! 思ったことがあるなら素直に言ってくれにゃ!」

「気持ち悪」

「にゃあああああああああ」

 

 手に負えない<UBM>と仲間に背を向け、進みかけだった道をもう一度前進する。

 

 ちなみに、残念なことに、俺は戦闘では無力でウルフみたいにちょこまか動いていないため、キチンと進む方角は覚えていた。

 

 

 ◇

 

 

「──よし、そろそろ大丈夫だろ」

 

 それから数分、あまりウルフたちに近いところで声を出すと作戦がバレるかもと思い、離れるまでしばらく走ったのだが。

 両手をメガホンの形にして思いっきり深呼吸する。

 

「はぁぁぁ……俺たちはあなたを助けに来ました! 【イルミ……モンスターは今は遠くに居ます! 聴こえたなら返事を!」

 

 息を吸い、あちらこちらを向きながら呼びかける。大声なんて、久々に出したかもしれない。

 返事を、と言い終え数秒の沈黙の後。

 

「さ、さっきの人か!? 助けてくれ!」

「お」

 

 すると、右手側頭上から声が聴こえた。当然ここは木しか無い森林なので、必然木の上にでも登っているのだろう。

 

 声がしたらしき木の足下に移動する。

 

「んじゃあ降りて……いや、俺が行くから待っててくれ!」

 

 さすがに酷かと思い、木の凹凸に軽く足を掛ける。木に登るなんて何年ぶりだろう。とりあえず小学生低学年以来だ。10年くらいか。

 

(ほっ……と)

 

 木の上に辿り着く。生い茂る、なんのものかよく分からない葉をそっと除けると、視界に、枝に腰掛ける誰かの下半身が映った。

 

(──お、)

 

 顔を上げるとそこには、恐怖や絶望を綯い交ぜに宿した表情の、()()()()()が。膝を抱え、歯を鳴らしている。

 

「あの……、大丈夫ですか?」

「…………」

「怪我、とか。してませんか?」

 

 目は開いているし呼気も聞こえる。間違いなく生きているのだが、それはそれとして返事がない。

 とりあえず埒が開かないのでここは物理で……と肩へ手を伸ばす、と。

 

「──すまない。いや、無視して悪かった」

「お、喋った。大丈夫ですか? 怪我とか」

「生活に支障はない。……助かると思ったら、なんか力が抜けてしまって」

「気にしないですよ。多分俺だってなります」

「あぁ、ありがとう」

 

 大丈夫だ、とでも言うように顔を上げた。強がりだなと思ったが、事実身体上は不調が無いようだし。それにさっき、助けを求めるこの人の声はとても切羽詰まっていた。

 もちろん、ティアンの命は一度きりなんだから、それを臆病などと言うつもりも毛頭ない。なので最低限のフォローだけ入れて、俺は彼と同じ枝に乗る。

 

 肩を貸し、「さぁ、降りましょう」と言うと、無言でついてきた。

 

「それにしても、よくアイツを撒けましたね」

 

 【イルミラージュ】は獣らしく、かなり感覚が鋭敏だったようだし。戦闘技術の方は文字通り動物並みだった──とはいえウルフと比べたらであり、俺の方が遥かに酷いが──が、恐らくは聴覚がとても優れているようだ。ずっとウルフを攻撃していたクセに、俺が推理を話した途端襲ってきた。そもそも人語を解すのかはともかく、偶然にしてはタイミングが良すぎる。

 

 そう思っていると、タイムリーに話しかけられる。

 

「あぁ。そうだ、もう気付いているか分からないが教えてあげよう、少年の〈マスター〉さん。──アイツは、霧の中のモノしか感知できないんだ。恐らくは、どんなに近くでも」

「…………なるほど」

 

 確かに、それなら辻褄は合う。さっきの経験から付け加えるなら、霧の中なら人の、他種族の言語すら理解できるが、逆に霧の外では何も感じない、といったところかな。

 人語を解し急にターゲットを変更した理由にも、逆に動けないウルフをメリットも無いままひたすらに攻撃し続けた理由にもなる。

 

 そして、木の上に逃げた人間を追えない理由にも。

 

「なるほど、ありがとう。この先で仲間がそのモンスターを抑えてる。そういうことなら、早くこの森から……この霧から逃げるぞ」

「も、もちろんだ。俺だってこんなところで野垂れ死にたくはない!」

 

 威勢よく返った返事に満足し、木を飛び降りて霧に入る。木の上を駆ける方法もあるにはあったが、【騎士】である彼はともかく【探偵】の俺ではキツかった……。これに関しては助けに来た俺が悪い。まぁ、俺じゃ【イルミラージュ】を抑えられないし。諦めるしか。

 

「……ところでなんですけど、AGIっていくつですか?」

「ん? えっと……最後に見たときには350すこしだったな」

「20倍……」

「?」

 

 こっそり項垂れる。というのも、今俺は全力疾走だが、並走してもらっている。つまり100%の速力が出せていないということ。霧の中を通らないといけなかったこと含め、効率はダダ下がり。

 

(足引っ張ってしかいないなぁ、これ)

 

 ただ、なら1人で逃した方が最善かと言えばそうでもない。彼は確かに俺より強く速いはずだが、あくまで彼の精神上、1人で走ることなど到底不可能に思える。こう言っちゃなんだが、俺が居るから安心とはいかずとも表面上は冷静にいられるんだろう。そう考えれば悪い気はしない。

 

 それはともかく、気づいていない様なので──俺が遅いこと自体はとっくにバレているだろうけど──わざわざ口に出したりはしないが、暇になったらすぐレベル上げしようと心に決めた俺だった。

 

 

 ◇

 

 

「そろそろかな」

「大分走りましたからね」

 

 それから、特に何もなく走ること数分。そろそろ森を抜けてもいい頃だ。抜けたらウルフに連絡してとっとと撤退を──と、その前に。

 

「なんで敬語なんですか?」

 

 そう、何故か敬語。見たところ、というか金髪碧眼の外国人なのでアテにならないがまぁ、見た目だけなら20代後半くらいだろうし絶対俺の方が年下なんだが。

 同じく金髪碧眼のロズレアさんもそんくらいに見えた。

 

 そんなことを考えていると、不意に質問される。

 

「もしかして、知らないんです?」

「なにが? このゲーム歴3時間の俺に知ってることはそうないよ?」

「ゲーム……? とにかく、ウチの騎士団は、何かと〈()()()()()()()()()()()()()()なんです」

 

 それに、と切って、

 

「これは裏話なんですが……確かに王家と近衛騎士団の連中は〈マスター〉の介入を良しとしない。でも、それはあくまで王家やらの見栄とかであって、そんなのを気にしなくていい俺たちは純粋に〈マスター〉を信頼してるんです」

「へぇ、そもそも王家とかが〈マスター〉をよく思ってないのも初耳だったけど」

「ウチの〈王国第三騎士団〉に限れば、何でも副団長が死にかけのところを〈マスター〉に救ってもらったらしく、また、その相手が<UBM>らしく」

「……はぁ、はぁ、…………なるほど」

 

 なんと、<UBM>とは。

 

 要は、下手したら国家の危機レベルだったかもしれないと言うわけだ。前に虹架の話を聞いた限りじゃティアンと〈マスター〉の戦力差は凄まじいらしいし。その分、その国で生まれ育った純粋な国民とは言えない為に、騎士団など公的機関には信用されにくい……といったところか。

 

 人命や国家を救った上に──その〈マスター〉は助けるつもりがなかっただろうことは省いても──その実力や信用、有用性を示した、という具合だと思う。

 

「ですから、俺が〈マスター〉に敬語なのは、敬意を示すのは当然なんです。──それに、俺個人で言えば、あなたはこの霧の森から助けてくれる救世主にもなるわけですし」

「ちょ、やめてくださいよ救世主なんて。……それに、俺だって仲間がいなきゃ霧に入った途端お陀仏でしたし」

 

 色々と押し付けあっていた会話が一段落し、そういえばウルフは大丈夫だろうか、そう考えながらひたすらに駆けていると、突然に視界が開けた。

 

「うわぁ……」

「これって……」

 

 辺り一面の霧は無くなり、見晴らしの良い草原が姿を見せる。そこには不穏なモンスターの影はひとつも無く、いかにも初心者向けなフィールドで。

 

 ────間違いなく、【イルミラージュ】の霧及び<ノズ森林>からの脱出だった。

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