自由な世界の探偵事務所   作:水無月 驟雨

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今回から無事ゲーム内に入りますが、なんか設定違くない?と思ったら遠慮なく教えて頂きたい。


初ダイブ。そしてチュートリアル 1

 □2044年10月1日 二科鏡介

 

 

 大学生というのは、中高校生と違い難儀なもので。

 テスト前休みに夏休みの課題、そしてその後の定期考査(テスト)ですっかり時間を食った俺は、せっかく虹架に誘われたのに、碌にデンドロをプレイできずに気付けばあと3ヶ月で今年も終わりまで来てしまった。

 

 ようやくプレイできる旨を伝えると、あの日買おうと言った時のようにまた顔を煌めかせ、学校から帰ったばかりの俺を急かしに急かした。

 事前に、頭がパンクするほど基本情報を色々教え込まれ、フラフラになりながらベッドに寝転ぶ。

 どうやら、虹架が俺のベッドに寝ていたのは、寝転がってダイブするのが普通だかららしい。まぁ特に疑ってなかったが。

 俺がヘッドギアを着けると、虹架が微笑んで見送った。

 

「じゃね。私がお兄ちゃんと同じゲームをしたいのは確かだけど、好きな国で自由に始めていいよ。──ま、お兄ちゃんが私に会いたいのならどこへでも迎えに行ってあげるしね!」

 

 そんな頼もしいセリフと笑顔を目に焼き付けたまま、俺の視界が暗転した。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 目を開くと、俺は全方位を古そうな本棚に囲まれた空間に居た。

 オケ、一旦落ち着きたい。

 

「スゥー、………なんだこれ」

「はーい、ようこそいらっしゃいましたー」

 

 真横から声が掛かり、反射的に後ろへ跳ぶ。

 もちろん急に襲われることなんてなく、あははーと笑い声が聞こえたのでそちらを向く。

 そこにはこれまた古そうで、だが豪華な作りの揺椅子と、その上に人の様な座り方をした猫が居た。

 

「は、はぁ。い、いらっしゃいましたが」

「あはははー。言葉遣いが変になってるよー」

 

 ケタケタと、だが気の悪い感じがしない笑い方をするその猫は、色々含めて異色だ。当たり前だが、俺の知っている猫は喋らない訳だし。

 あと、語尾などが何故か間延びしている。

 

「ここで初期武器とか職業とか決めるのか?」

「いやいやーそんなんじゃないよー。ただキャラメイクとかプレイ前に重要な設定をするだけー。このゲームじゃあ武器を持つか否かや職業に就くか否かすらも君たちの自由だからねー」

 

 確かに『自由』が売りとして全面に押し出されていたが、そこまで自由なのか。

 

「はぁ……。ま、まぁよろしくお願いします。俺は二科鏡介です」

「おー、いーねー。そーゆー誠意大事だよねー。僕は<Infinite Dendrogram>の管理AI13号のチェシャだよー。こちらこそよろしくー」

 

 管理AIか……。まぁ確かに、ゲームだし、喋る猫もありなんだろうな。他のゲームはよく知らないけれど。

 チェシャから差し出された肉球を握る。……いや握手なんだろうが、肉球の柔らかい質感しか伝わってこず、まるで本物の猫の手を触っているようだ。

 

「よーしー。じゃあまず描画選択ねー。サンプル映像が切り変わるからどの方法が良いか選んでねー」

「……! へぇ、すごいなこれ」

 

 チェシャの声を受け取った空間がその見た目を一変させ、中世ヨーロッパの様な風景になった。人や建物が映り、時として竜なんかも大空を舞うように飛んでいた。

 風景に見惚れること数秒、景色……ではなく、その『見え方』が切り替わった。

 草原が見えるのだが、さっきまでは本物そっくりだったその草原が、まるでCGの様に見える。合成の風景らしさが出ていて、竜などの立体感もより感じられる感じだ。

 次にアニメ風に切り替わった。これは簡単で、いかにもTVアニメの様な風景。

 

「……という訳で。こんな感じで見え方変わるんだけどどれにするー? あ、後でアイテム使えば切り替えることも出来るよー」

 

 正直悩むが、中世の様な見た目から既に景色による目への違和感がハンパないので、せめて脳に負荷をかけすぎないようにしておく。当面は俺も慣れの作業だろうし。

 

「いや。そのまま、リアルな見え方で」

「オッケー」

 

 またも、チェシャが言葉を発すると元の本棚ばかりの部屋に戻った。

 この部屋もなかなかに広く明るいが、突然変わったことで急に狭く暗くなったような気になる。

 

「次はプレイヤーネームを設定してもらうねー。ゲーム中の名前は何にするー?」

「あー……。やっぱ皆カタカナのファンタジーっぽい名前使ってるのか?」

「いやー? 確かにファンタジーな名前の方が圧倒的に多いし中にはファーストネームまで作った人も少なくないけどそれでも和名の名前の人もいるよー。プレイヤーネームは平仮名も漢字も可だからねー」

 

 よく喋る猫だな、と一瞬思ったが、こいつはこいつで、俺がゲームをきちんと始められるよう説明してくれてるんだし失礼だよなと思い自戒した。

 ──まぁ、あまり積極的に関わりたくはない人(猫)種なことには違いない。

 ともあれ、RPGゲームはほぼ初心者だから心配だったが、そんなに気にする必要も無いかなと思い直した。

 俺の昔からのあだ名であるコウにしよう。

 

「じゃあ、コウで」

「ありふれた名前だねー。ちなみに『コウ』も『コウスケ』も『キョウスケ』も最低数人は居た気がするからそこら辺は気をつけてねー」

「あぁ、ありがとう」

 

 軽く礼を述べると、チェシャが満足気に頷いた。

 軽い雰囲気な猫だけど、案外義理堅い性格だったりするのかもしれない。

 

「次、容姿を設定してねー」

 

 もう何度目とも分からないが、チェシャの言葉と共に、俺の目の前にのっぺらぼうのマネキンが出てきた。

 こいつ、この見た目で魔法使いなんだろうか。

 そんな考えが顔に出ていたかのか、チェシャが俺を見て、自慢気に笑った。

 

「魔法なんてもんじゃないよー。あー、ちなみに、こんなこともできるからねー」

 

 チェシャが尻尾を軽く振ると──尻尾? ……ともかく、尻尾を振ると、目の前のマネキンが俺そっくりになった。

 

「うぉっ!?」

「話してた感じあまりゲーム慣れしてないみたいだしー、名前にほぼ本名をつけるんなら容姿もあんまり興味無いかなー? と思ってー」

「そ、そだな。ありがとう」

 

 善意でしてくれたらしいし、実際特に容姿に(こだわ)りはないので、この配慮は素直にありがたい。

 

「君は大分礼儀がなってるみたいだねー」

「礼儀がなってないやつがいたのか?」

 

 自分のマネキンの前に立ち、どこをどう変えればいいものか悩んでいると、チェシャが話しかけてきた。

 

「うんいたねー。何でも猫アレルギーだったらしくて、僕を見た瞬間怯えちゃってさー。全然話が進まなかったよー」

「管理ってのも大変だな」

「まー猫アレルギーの人でも、猫に襲われたトラウマがある人なんかに比べたら数千倍はマシだねー。……あの時はいきなり殴り掛かられてさー。思わず吹き飛ばしちゃったんだよねー」

「お、おぉ……。中々容赦無いな……」

 

 若干怯えの入った俺のセリフに、チェシャは「正当防衛だから僕は無罪を主張するよ」と告げ、揺椅子に深く腰掛けて紅茶を飲み始めた。

 

 話を戻すが、正直、現実の姿でプレイしても良いのではとも思ったが、虹架にそれだけはやめろとはっきり言われていた。また、人以外のアバターにするのもやめろと忠告された。

 結局、髪を白く染めてみた。目も灰色で、全体的に色素の薄いアバターだ。あとは何も変化無し。なんでこうなったか特に意味は無い。容姿変更用のアイテムもあるらしいし、気に入らなければ変えればいいだろう。

 

「……うん。まぁ良いかなこれで」

「あ、出来たー? じゃあ他の一般配布アイテムも渡しちゃうねー」

 

 チェシャが手を振る。

 今度は何が出てくるのかと思っていると、頭より少し上の虚空からカバンが一つ、降ってきた。

 

「これがコウ専用の収納カバン、所謂アイテムボックスねー。中は収納用の異次元空間だからー。ついでにコウの持ち物なら入るけどー、逆に言うとコウの物以外は入らないからー」

 

 簡単に他人の物を盗めないってことか。虹架から聞いてはいたが、やはりゲームの中でも法はあるらしい。

 

「まー、PKしてからランダムドロップしたのを拾ったり、《窃盗》スキル使って盗んだりすればいけるんだけどねー」

 

 危ない人には関わるなってことだな。それも納得。

 

「ちなみにそれは初心者用だけど、他にも色々種類あるからー。盗まれにくいのとか、小さいのとか、容量が大きいのとかー」

「へー」

 

 『盗まれにくいカバン』は是非欲しいところだ。もちろん厄介事にはあまり関わりたくないが、現実の大通りですらスリがいるんだし、武力即ち正義(偏見)のゲーム内なら尚更に。

 

「ま、さっき行った窃盗用のスキルなんかを使われたら一瞬でカバン空っぽだけどねー」

 

 

 

 無理だろ。この世界残酷すぎるわ。

 




やっぱ一人称は苦手だな。
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