『あたしがジュリアでいるうちは』   作:撫音

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 時系列的に属性別お披露目公演に少しだけ触れます。
 導入の元ネタは「ミリシタ運営100日突破サンキューニコ生」です。懐かしんでいただけたら幸いです。


第八話 妖精の情炎(1)

 ジュリアは、ネット活動にはさしたる興味がない。

 ブログの更新頻度に関して、765プロに特別なノルマはなかった。そのため『流星群』の完成や、公演のお知らせ程度しか書いていない。日記のように日々を綴るなんてもってのほかだ。

 調べものにしても、周りが話している流行りのドラマなどのサイトを覗くことはあるが、それ以外は楽器のこと、音楽のことを考えていることが常だ。『生っすか!?』を知らなかったのも、そんな理由。

 動画配信サービスの視聴履歴も、十中八九が国内外を問わないアーティストのミュージックビデオ、あるいは楽器の奏法である。

 

 ある時ジュリアは気づいた。

 そんな自分が朝目覚めた時に始まり、シアターに向かう時も、昼食を食べているときも、日が暮れてからも、何かにつけて彼のことを考えていることに。

 ん、と口の中で呟いて、自分の想いを吟味した。

 ありがちな言葉だが、ジュリアは初め、志吹晶也という存在(ひと)に対して興味を抱いていた。

 その興味が好意に変わっても、あくまでその感情は恋愛対象としてのそれではなかった。

 日を重ねるにつれて、いろんなものが削ぎ落ちていけばいいのに、剥落するどころかジュリアの感情は厚みを増してゆく。

 

 ――あたしは、晶也のことを……本当に愛しているのだろうか。

 いつまで続くか分からない、しかしゆったりと凪いだ日々の果てに生まれ落ちた疑問、それからその『こたえ』から――ジュリアは目を背けることができなかった。

 自分の立場を考える。事務所が。世間体が、体裁が、日本の風習が。許してくれないあたしの過ち。

 晶也と行う罪の共有。まさか、どこに彼の責任が入り込む余地があっただろうか。あたしが見ている景色と彼が見ているそれには、齟齬がある。ありすぎる。彼の世界を汚してしまった。

 

 変な話、彼から向けられている好意にはいつからか気が付いていた。なんていうか、女だけが持っている勘のようなものがあって。

 不快感はなかった。……のは当然だとしても。

 分かってた。頭では分かってたんだけどなあ……。

 

 ――そうなることはあたしが決めた。あたしが望んだんだ。

 

 ジュリアは彼の名前を好んでいる。

 どんな漢字なのか尋ねて、一層好きになった。彼の名前を呼ぶ。彼の祖父が付けた、星をあらわすその名前を。

 ジュリアはベッドに片手をついて、もう一方で彼の手首をつかむ。手を伸ばす必要のないほど彼との距離は近かった。今は、こんなにも近くにいる。どきんどきんと心臓の鼓動が大きくなるのが分かった。

 

 初めて味わう彼の体温は、ジュリアの好きな種類のものだった。

 お腹の内側に残る鈍い痛みに違和を感じて目覚める朝。顔のすぐそばで規則正しい彼の寝息は、どんな楽器よりも心地が良いもので。つい、幸せというものについて考えてしまった。センチメンタルなのは、あたしか。

 

 運命に潰されなかったあたしは今日も劇場へ向かう。

 

 

「ところでお前、やっぱりぬいぐるみ(晶也二号)抱きしめながら寝てるだろ」

「なんでっ!?」

 

 

        ☆☆ ☆☆

 

 

 

 十月になった。

 相も変わらず寝不足な目をこすりながら楽屋に入ると、今日は恵美がいた。忙しなく指先がスマートフォンの画面を這っているところを見るに、今まさにブログを書いているのか、誰かとやり取りしているのだろう。

「よっ、おはよう恵美」

「あはっ、おはようジュリア♪」

 少し話したいことがあったが、挨拶だけに留めるジュリア。その後視線を送られていることに気づき、「なんだよ、人のことジロジロ見て」と身構えた。

「ん~、気のせいかなあ」

「……何がさ」

「なんか今日のジュリア、可愛くない?」

 ――んなっ……! 

 女は恋をすると綺麗になる――なんて何処かしらで謳われている文言が咄嗟に脳内を掠める。下手な心当たりがあるだけに、頬の筋肉がぎこちなく強張った。

 ま、まさか……ね。

「あたしは別に、いつも通り、普通だろ?」

「そうかな?」

 努めて変わらぬ声を出したつもりが、あまり成功しなかったかもしれない。どうもしどろもどろになった。対して、馴れた調子に頬を膨らませる恵美。もっとも、からかわれているわけではないようだ。

 

 可愛い、ねえ。

 アイドルである以上そうあるべきだとは思うし、言われて嫌な気はしない。最近は比較的アイドルらしい言動が身についてきたと、手応えも感じてきている。ただ、自分とそれはあまり結びつかないというか、ちょっぴり複雑だ。

 やや戸惑った表情を見せながら椅子に座ったジュリアに、

「でもなんか、楽しそうにしてるから」

「ナイナイ」

「最近のジュリア、なんかご機嫌だよね」

「……ないっつーの」

「そ? 鼻の下なんかびろーんと伸ばしちゃって」

 恵美が自身の上唇を、ターコイズブルーのネイルの乗った指先で引き下げながら言った。ちょっとニヤニヤしている。ウソだあ。

 彼女と話すと高頻度で話のペースを持っていかれる気がするのは、気のせいじゃないと思う。

 

「だから、あたしのことはいいんだよ」と、ジュリアはたまらず強引に話の方向を変えた。「そんなことより、聞いたか? あのウワサ」

 おもむろに声を潜めたジュリアに、恵美は興味を持った様子だ。「なになにっ」と、調子よく身を乗り出してくれる。

 ついさっき、一度事務室へ立ち寄っていたジュリア。スケジュールチェックのためだ。そこでプロデューサーと美咲の会話を耳に挟んだのだ。

 それは、ミリオンスターズに係わる、大事なウワサ。実はこの765プロライブ劇場は――……。

 

「ウワサ……ウワサ……。ああ~、ジュリアが()()()()()()()()()()()()のコト?」

「なっ!? ななな、なに言ってるんだよっ!」

 唐突な恵美の発言に驚きのあまり、今度こそ声が(ほとばし)り出てしまった。

 ――なんで、恵美が知ってるんだ?

 パスケースの写真。イコール、プリクラ。それはあの日晶也と一緒に撮ったものだ。

 しかし、いくらなんでもおかしい。そう容易くバレるものじゃない。噂の出処はどこだろう。誰の仕業だ?

 ほどなく平常心を取り戻した振りをするジュリア。眉根を寄せる。

 されども人の感情に敏感かつ、情に厚いのが所恵美という少女だ。「どうしたのさ、そんなに慌てちゃってえ」にゃははと小気味よく笑った。

「大丈夫! 真美から聞いたけど、誰にも言わないからっ」

「ああ、いや、あのなあ……」

 

 同時に、犯人の名はあっさりと明かされた。そちらの方の口止めはされなかったのだろうか。ジュリアは恵美の顔をじっと見つめる。「アタシ、秘密は守る」と、弛んだ口元は何とも心許ない。

 双海(ふたみ)真美(まみ)。彼女は『生っすか!?』特番のロケに同行した双海亜美の双子の姉だ。性格は姉妹揃って天真爛漫。かつては『恐るべき双子』の異名を担いでいた二人だが、小鳥に言わせるとこれでも落ち着いてきたとのことらしい。

 されども悪戯好きな部分は健在か。ジュリアは苦く笑った。

 ――よりによって、真美かあ。

 ジュリアには彼女ら姉妹に強く出られない理由がある。それは彼女らがジュリアの弱みを握っているためだ。

 弱み。それは本名。無論、事務所とのマネジメント契約の際には『ジュリア』を名乗れないために社長及び事務員の面々にだけは伝えているが、それは他のアイドルはおろか晶也にさえ教えていないものだった。

 挙句の果てには『ぷぅちゃん』と呼ばれる始末。

 考えてみれば、教えずとも携帯している保険証などからそれを見つけることは可能ではある。つまり今回のパスケースの中の写真しかり、かの双子は相当目敏いのだろう。いつの間に背後に居たりするし、辻褄は合う。

 

 まあ、恵美に言ったくらいならいいか。ジュリアは深呼吸をひとつ。低く咎めるように言う。

「……というか、あたしが言いたいのは全然違う話だからな」

「そうなの? じゃあ、ジュリアの言ってたウワサって、何のコト?」

「ああ。実はこの、765プロライブ劇場(シアター)は――――」

「あ~~っ! なになに! 私にも聴かせてくださいジュリアさ~ん!」

 言いかけたところで、頭上に声が落ちてきた。「おっと」声の主は春日未来だ。

 ジュリアが楽屋に来た時から、未来は恵美とは異なるテーブルで教科書と睨めっこをしていた。隣には静香の姿。夏休み期間中の、特に終盤になってから幾度なく見かけた光景である。ああ、今度は中間試験の時期か。ジュリアはひとりごちていた。

「ん。勉強は平気なのか? シズが睨んでるけど」

「大丈夫です! それより、面白い話ですか?」

 席に座ったままの静香の表情が見えている限り、ジュリアには「大丈夫」の意味が汲み取れないだろう。首を捻った。

 

「面白いかどうかはわからないけど……」

 つまらない前置きをしたのがいけなかったのだろうか。ほとんど同時に、あっ、と未来の目が輝いた。大きな瞳が嬉しいような、得意気なような、色を浮かべている。

「どうかした?」

「ひょっとして、パスケースの写真のコトですか!?」

「はあっ!? 真美――っ! どういうコトだ――っ!」

 恵美にだけじゃないのかよ! ジュリアは思わず上半身を伸び上がらせた。行き場のなくした憤りと困惑を、視線と共に天井に向ける。と、すかさず立ち上がったのが静香だ。

「ちょ、ちょっと未来!」タイミング、口調共に急いた様子で、

「すみませんジュリアさん。プライベートなことなのに未来がずけずけと――」

「いやいやいやいや。気を使わないでくれ」

 ジュリアは、自分の顔が一層強張るのを感じた。プライベートなこと。シズも知っているのか……。

 もっとも未来が教えただけなのかもしれない。きっとそうだ。そう思いたい。「ホントにもう勘弁してくれ……」

 

「ちょうどいいから未来も静香もこっちおいで。一緒にお喋りしよ?」

 そんな彼女らにも当然、恵美は声をかけるのだ。彼女は誰も蚊帳の外にしたりしない。

 すると、未来はパッと顔いっぱいに笑みを広げた。まさに恵美の誘いは勉強から逃れる免罪符といったところか。「だってさ、静香ちゃん」と得意げな表情さえ浮かべる彼女に、静香がため息をつく。

「仕方ないんだから……。十分経ったらまた勉強に戻るわよ」

「も~。静香ちゃんのいじわる~」

「あなたのためを思って言ってるんだから。一学期の期末試験のこと、忘れたとは言わせないわよ」

「うう……」

 思い返せばデビュー当時からすでに静香は未来の面倒を見ていたような気もする。

 

 そんな二人のやり取りを、まるで母親のような温かい目つきで眺めていた恵美だが、やがて再び「あれ?」と声を上げていた。

「あっちに(つむぎ)もいるじゃん。も~、なにそんなトコで遠慮してるのさあ」

 手招きするために腰を浮かせたら、ちょうど視界に入ったのだろう。ジュリアも振り返ると、その少女の姿を捉えることとなる。白石(しらいし)紬。透き通った髪を持つ、和風な立ち振る舞いが特徴の少女が反応して振り返った。

「あっ、いえ……私はただこの棚に金魚の置物を――」

「いーから、いーから。なんか、ジュリアから大事な話があるんだって」

 痺れを切らしたように恵美が言う。

 やりとりはある程度背中で聴いていたのだろうか、強引に言葉を遮られた銀髪の少女は少し迷うような表情をしてから、「なんなん」と小さく呻いていた。

 

 そんな紬までもが連れてこられると、再び続きを促された。彼女も災難だろうと思いつつも、共有できる同期は多ければ多い方がいい。

 これはそういうウワサなのだ。ジュリアは脚を組み替える。

「あたしも、さっき事務室でプロデューサーたちが話してるのを立ち聞きしちゃっただけなんだけどな。……めでたい話なんだ」

「おめでたい話……ですか?」と紬がちょっと考え込み、やがて、

「それは……もしかしてパスケースの――」

「パスケースの話じゃない!」

 合点したように控えめに言うので、またもジュリアは声を荒げる羽目になった。いい加減疲れてきそうだ。

 ――ってかプロデューサーたちがあたしのプリクラで盛り上がってるはずがないだろ!

 どんな光景だ。薄気味悪いわ。想像するだけで背筋が凍る。

「やっぱり」と、恵美と未来が声を揃える。笑みを浮かべた顔を見合わせていた。ひょっとして、真美は765プロの全員に言い触らしたのではないか。嫌な予感がし始めて、なんだか更にげんなりした。

 

 突っ込んでいてはキリがないか。

「そうじゃなくて」

 勝手に広がる会話に無理くり句点を落とすように、声を励ました。「このシアターのことなんだよ」

「シアターのこと?」

 流れるように視線が向けられる。「聞いて驚くなよ?」と返事をした。そしてようやく、感嘆を込めた口調で言うことができたのである。

 

「このシアターなんだけど実は、オープンしてからなんと一〇〇日が経ったらしいんだよ……!」

「「「「ええええええっ!」」」」

 一同、驚いてジュリアを見た。

 十数分前、ジュリアも当然に驚いたことだった。そんなこと信じられない、とさえ思った。

「そ、そんなに経ったんですか……?」

「だよね~。アタシはまだ、二か月くらいの気分かも」

 して、彼女らが驚いた理由もまた、ジュリアと同様だったのである。嬉しくなって「そうそう、そっちなんだよ!」と、声を弾ませた。

 ――いつの間にか、一〇〇日もアイドルやってたんだな……。

 短く感じるということはつまり、シアターでの生活がとても充実している証拠に他ならない。最初は馴染めるのか不安だったはずのシアターは、いつの間にか自分の大切な居場所になっているようだ。自覚は薄いが、「不思議なもんだな」と、声色をそのままに噛みしめた。

 

 ジュリアは記念日というものを特別意識する性格ではなかった。先月の誕生日もしかり、365回寝ればやってくる日にそんなに騒ぐことはないと思っているほどである。だからそんなジュリアが心躍らせた理由はその続きにあるのだ。

「あたしがさっき事務所に寄ったのは、スケジュール確認のためなんだけど……ほら、ウチら全員金曜日にプロデューサーに呼ばれてるだろ? あれ何時からだっけ、って思ってさ」

「……そうですね。39人が全員呼ばれるなんてただ事ではないと思っていましたが、それでは一〇〇日記念の祝賀会でもするのでしょうか……」

「もしかして、お説教かなぁ」

 紬の返事を半分肯定しつつ、未来の言葉を完全否定しつつ続ける。

「あたしが聞いたのは、新しい企画。それも、ミリオンスターズ全員に関係するものだってことさ……!」

 一〇〇日を記念した大型ライブとか。ありそうじゃない?

 これは期待が持てると笑顔を見せたら、なるほど! と、未来が満面に興奮の色を浮かべて立ちあがった。「翼にも教えてあげなきゃ!」

「あっ……待ちなさい未来! あの、ジュリアさん。そんな大事なことを言っちゃっても大丈夫だったんでしょうか……?」

「あはは。それを聞いたら居ても立っても居られなくってさ」

 静香の声色に滲む不安を拭うように明るい声を出した。金曜日になればわかることだろ? 肩を竦めて言い足すと静香が「まあ、そうですね」と、ようやく納得したような顔になった。

 

 

 ほどなくして金曜日。

 すでに両方のウワサはシアター中に伝わっており、時折意味深な視線を向けられるのが悩ましい。誤解ではないだけに否定もできず……。

 そんなジュリアを含めたミリオンスターズ一同は、ダンススタジオの一室でプロデューサーから新企画についての説明を受けることになる。まばらに座っていると、ぼんやりと小学生時代を思い出した。体育の授業で競技説明を受けているような気分だ。

「プロデューサーさん。点呼とりましょうか?」

「誰も仕事を入れていないから平気だとは思いますが、一応お願いできますか?」

 各々の仕事の都合もあり39人が一堂に会することは滅多にないので、改めて同期の多さを思い知る。今はまだ微々たるものだが、いずれは実力の差が浮き彫りになってしまうのだろうか。

 自分は大丈夫だろうか。悪くはないと思うけど、時に皆のたぐいまれなる才能とやらを見せつけられてぞくりとすることが多くなった。

 

「ミリオンスターズには、もう一つ上のステップに進んでもらおうと思う!」

 まず初めに、プロデューサーはそんなことを言った。溌溂とした彼の表情。どうやら相応に気合が入っているらしい。

「上のステップ?」

「ああ。新企画の目標だ」

 それはシアター組を三つのチームに分け、それぞれのチーム別の公演を行うというものだった。各チームの魅力を最大限に引き出せるような新曲もそれぞれ用意されているという。

 新しい歌。一気に興味をひかれた。

「ただし、それぞれのお披露目公演に出るのは選抜メンバー……各チームから五人ずつになる」

「……えっ?」

 ミリオンスターズ全員に係する新企画。されども、そのチーム全員でステージに立つのは、全てのお披露目公演が済んでから……とのことだった。

 十三人中、五人。頭の中で繰り返す。

 

「どうして選抜メンバーだけで歌うんですか?」

 未来がいきなり、ずばりと訊いた。

 やはり、こういう時に声を上げるのが未来だ。隣で静香が注意をしているが、ここぞという時に発言できる能力は非常に大切だとジュリアは思う。

「こけら落とし公演の時は、39人全員でも上手くいったのにですか?」と、重ねてやや頬を膨らませる未来。そんな彼女を宥めるように、プロデューサーは静かに名前を呼んだ。

「未来」

「は、はい!」

「……あの時は、個性と個性がぶつかり合った、言わば化学反応の賜物……まさに奇跡的な成功だったんだ」

「奇跡、的……?」

「そうだ。決して悪い意味じゃない。が、あれはお前たちがなまじ可能性を秘めているだけに、それだけで到達した世界だ」

 

 ――ん。

 一〇〇日という記念日に浮かれているかと思いきや、プロデューサーは至って冷静だった。彼に言われると、何でも一定の説得力を帯びる。いや、的外れな考えでもなかった。

 ()()()よりも()()()。初めて765プロに来た日に言われたこと。今まではまだ、新しいものを覚え、それを披露するだけでも十分だったきらいがある。質ではなく、新鮮さが勝負の鍵を握っていた。

 もちろん皆、クオリティを上げるために最大限の努力はしている。その時点での最高を届けられるように日々奔走している。

 それでも、まだまだ課題が多い。それは各々が自覚していることだろう。ジュリアもそうだ。一〇〇日が経ったことに驚いたのは、自分がしっかり一〇〇日分の成長をできているのかどうかの不安にも由来してるのだから。

 

「動きや歌の調和がとれていなくて、バラバラでも、見ている人たちを笑顔にできる……。それはアイドルとしての、一つの()()だと思う」

 そのために先ほどは『成功』という言葉を用いたというプロデューサーの言葉に、部屋はしんとした。皆の視線が彼に集中する。ここからが本題なのだと、誰もが分かっていた。

「ただし。トップアイドルを目指すからには、また一つ。新たなステージに進んでもらわなければならない」 

 ここからは継続力の世界。

 平然とした声が、不意に熱を帯びていた。

 そしてもう一つ。

「その個々の輝きを、結び合わせることを意識してほしい。そのためのチームでもあるんだ」

 

 ――難しいこと言ってくれるぜ。

 誰にも聞こえないくらいの声でジュリアは呟くこととなる。夏にはあれだけ個性を出すことを強いていたのに、次は合わせろときたもんだ。

 しかし、プロデューサーの言うことは実に理にかなっているのだ。

 自分の武器や持ち味を自覚すること。各々の個性を前面に出させ、また互いに認めさせる。無意識下にも進められていたあれが……今までの活動が第一段階だったとすれば。近頃味わう同期の面々からの刺激は成長の証か。

 そしてこれから進むのは、間違いなく更なるステップ。

 あくまでお披露目公演のみ選抜メンバー、ということは選ばれた五人を中心に組み立てて欲しい――ということなのだろう。

 

「それは必ず爆発的な効果を生む。ミリオンスターズは一〇倍にも二〇倍にも……それこそ一〇〇万倍にも輝ける」

 ――それが()()()()()()()。ジュリアは急に肌寒さを感じた。

「社長の言葉を借りるが、765プロのアイドルは互いに仲間でもあり、ライバルでもあるからな」

 相乗効果。あるいはシナジー。彼の言う化学反応を、意識的に引き起こす。

 時には力を合わせ、時には競い合うことで皆が最高の輝きを手にすることができる。成長するためにも、切磋琢磨は欠かせない――。

「……お前たちなら、絶対に()()()を見せてくれると信じてる。やってくれるか!」

「「「はいっ!」」」

 相変わらず、アイドルのやる気を引き出すのに長けている男だ。部屋は一瞬にして熱気に包まれた。

 

 

 その中で、その高揚が長く続かなかったのは。

 否。気掛かりがあって、集中しきれていなかったのは――

 

 ――あたしのロックは、()()でも出してもいいものなのか……?

 ――トップを……一番を目指すのに、みんなで合わせる……?

 

「……ん? どうしたの? ジュリアーノ」

「……翼こそ。それから……あたしはジュリアだ」

 

 

 ジュリアと、伊吹翼の、ただ二人――――。

 




 今回のミリシタのメインコミュ(63話)、なかなか謎で笑いました。懐かしいですね黎明スターライン。あと、ぷぅちゃんって言うなっ!

 改行はそれなりに挟んでいるのですが、まだ読みづらいようでしたら遠慮なくご指摘ください。

2020/5/1 撫音
6/2 誤字の修正を行いました。
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